監修 北田 悠策 公認会計士・税理士
監修 鶏冠井 悠二
エンジェル投資家とは、起業準備期や創業直後のスタートアップに自己資金で出資する個人投資家を指します。
エンジェル投資家をはじめ第三者から受ける出資は、融資と異なり返済の義務がない点が特徴で、創業期の資金調達手段として有力な選択肢のひとつです。また、経営アドバイスや取引先・仕入先の紹介を受けられるケースもあり、事業成長を後押しする可能性があります。
一方、ベンチャーキャピタル(VC)との違いや、出資を受ける際の注意点について理解しておくことも重要です。
本記事では、エンジェル投資家の探し方から出資を受ける流れ、メリット・デメリットまで詳しく解説します。
目次
- エンジェル投資家とは?
- エンジェル投資とベンチャーキャピタルの違い
- エンジェル投資家の探し方
- 知人から紹介してもらう
- 起業家交流会で出会う
- エンジェル投資家とのマッチングサイトを利用する
- ビジネスコンテストに参加する
- エンジェル投資家に出資してもらうメリット
- 返済する必要がない
- 経営アドバイスをもらえることがある
- 人脈が広がる可能性がある
- エンジェル投資家から出資を受けるデメリット
- 自由に経営できない場合がある
- 多額の出資を受けられないことがある
- エンジェル投資家にとってのメリット・デメリット
- エンジェル投資家のメリット
- エンジェル投資家のデメリット
- エンジェル投資家から出資を受けるときの流れ
- ①事業計画とプレゼン資料の作成
- ②投資家へのアプローチ
- ③投資条件の交渉
- ④契約の締結・出資の受け入れ
- エンジェル投資家から出資を受けるためのポイント
- エンジェル投資家が重視するポイントを理解する
- プレゼンテーションの準備を丁寧に行う
- エンジェル投資を促進する「エンジェル税制」とは
- まとめ
- 自分でかんたん・あんしんに会社設立する方法
- よくある質問
エンジェル投資家とは?
エンジェル投資家とは、主に起業前後や創業初期の企業へ出資する個人投資家のことです。起業準備期の段階で出資することもあります。
エンジェル投資家ごとに出資基準は異なりますが、事業の将来性やビジネスモデルなどをもとに出資可否を判断するケースが一般的です。ただし、なかにはエンジェル投資家を装い、出資の前提として手数料や保証金などの名目で金銭を要求する悪質なケースもあります。
エンジェル投資とベンチャーキャピタルの違い
エンジェル投資家とベンチャーキャピタル(VC)はどちらもスタートアップなどに出資する点は共通していますが、出資主体・投資規模・意思決定プロセスなどに違いがあります。
エンジェル投資家は、自身の資産を元手に個人で出資し、数百万円から1,000万円規模の比較的小規模な投資を行うケースが一般的です。ただし、投資額は投資家や事業内容・ラウンドによって異なり、数百万円から数千万円規模まで幅広く存在します。
一方、VCは外部から募った資金でファンドを組成する組織として出資を行います。「2024年度ベンチャーキャピタル等投資動向速報」によると、VCなどによるベンチャー企業への国内向け投資は、次のとおりです。
投資金額と投資件数から単純計算すると、1件あたりの平均投資額は約1.49億円となります。
また、判断プロセスにも違いがあります。エンジェル投資家は個人で意思決定できるため、起業家への共感や事業への熱意を重視しながら、比較的スピーディーに投資判断を行いやすい点が特徴です。
一方、VCは出資者に対する説明責任を負っているため、組織内での検討や投資委員会での決議などを経て、投資判断を行います。
エンジェル投資家の探し方
エンジェル投資家から出資を受けるには、まずはエンジェル投資家との接点をつくることが必要です。エンジェル投資家の主な探し方は以下のとおりです。
エンジェル投資家の主な探し方
- 知人から紹介してもらう
- 起業家交流会で出会う
- エンジェル投資家とのマッチングサイトを利用する
- ビジネスコンテストに参加する
知人から紹介してもらう
まずは、周囲にエンジェル投資家本人や、エンジェル投資家とつながりのある人がいないか尋ねてみましょう。起業家仲間のなかに、エンジェル投資家から出資を受けた人がいるかもしれません。出資を受けた経験がなくても、エンジェル投資家とつながりのある知人がいる可能性もあります。
また、起業家仲間に相談することで、エンジェル投資家とつながりのある人を紹介してもらえる場合もあるでしょう。
起業家交流会で出会う
起業家交流会に集まるのは起業家だけではありません。出資先を探すエンジェル投資家が参加することもあり、投資家と接点をもてる場合があります。
起業家交流会に参加する際は、エンジェル投資家と接点をもった際にスムーズに事業内容を説明できるよう、事業概要やプレゼン内容を事前に整理しておきましょう。
エンジェル投資家とのマッチングサイトを利用する
エンジェル投資家と起業家をつなぐマッチングサイトを利用するのもひとつの方法です。事業内容やプロフィールを登録すると、興味をもったエンジェル投資家から連絡を受けられる可能性があります。
ただし、なかには不正な目的で運営されているサイトや、悪質な利用者が登録していることもあります。トラブルを避けるためにも、本人確認が行われている実名制のマッチングサイトを利用しましょう。
ただし、実名制であっても安全性が各サイトの運営者から保証されるわけではありません。エンジェル投資家とマッチングしたときは、相手の実績・経歴・提案内容などを確認したうえで慎重に判断することが重要です。
ビジネスコンテストに参加する
ピッチコンテストやビジネスコンテストに登壇することも、エンジェル投資家と接点をつくる手段のひとつです。出資先を探す投資家が審査員や来場者として参加することもあり、直接の連絡や相談につながる可能性があります。
コンテストによっては、上位入賞や優勝によって出資や賞金を得られるケースもあり、資金調達につなげることが可能です。また、コンテストでの実績は知名度向上やメディア掲載にもつながり、投資家から注目を集めるきっかけとなることもあります。
応募できるコンテストは、自治体主催のものから民間主催のものまで幅広く存在するため、自社の事業領域に合った場を選ぶことが重要です。
エンジェル投資家に出資してもらうメリット
エンジェル投資家から出資を受けることには、資金面だけでなく事業成長の面でも多くのメリットがあります。エンジェル投資家に出資してもらう主なメリットは、以下のとおりです。
エンジェル投資家に出資してもらう主なメリット
- 返済する必要がない
- 経営アドバイスをもらえることがある
- 人脈が広がる可能性がある
返済する必要がない
資金調達の方法には、出資のほかに融資の選択肢もあります。融資は返済義務があるため、多額の融資を受けると毎月の返済負担が大きくなり、資金繰りが厳しくなる可能性があります。
一方、出資には返済義務がないため、融資のように毎月の返済が資金繰りを圧迫することはありません。
経営アドバイスをもらえることがある
出資を依頼するエンジェル投資家のなかには、経営経験や企業成長支援の実績をもつ人もいます。
そのようなエンジェル投資家から出資を受けると、事業運営や経営戦略に関するアドバイスを受けられる場合があります。アドバイスを有効に活用できれば、事業が大きく飛躍する可能性もあるでしょう。
人脈が広がる可能性がある
さまざまな企業成長に関わってきたエンジェル投資家は、幅広い人脈をもっていることがあります。取引先や仕入先などを紹介してもらえるケースもあり、事業拡大につながる可能性があります。
エンジェル投資家から出資を受けるデメリット
エンジェル投資家から出資を受けることには多くのメリットがありますが、いくつか注意すべき点もあります。エンジェル投資家から出資を受ける主なデメリットは以下のとおりです。
エンジェル投資家から出資を受ける主なデメリット
- 自由に経営できない場合がある
- 多額の出資を受けられないことがある
また、なかにはエンジェル投資家を装い、不正に金銭を要求する悪質なケースもあります。エンジェル投資家から出資を受ける決断をする前に、実績や経歴などを確認し、信用できる相手か慎重に見極めましょう。
自由に経営できない場合がある
エンジェル投資家のなかには、経営判断や事業運営に積極的に関与する人も存在し、関与の程度によっては、経営方針の決定に制約が生じる可能性があります。
また、IPO(株式上場)を前提に出資を行うエンジェル投資家もいます。投資家の意向が経営方針に影響を与え、自社が想定していた方向性との相違が生じる可能性もあるでしょう。
多額の出資を受けられないことがある
エンジェル投資家は個人資産をもとに出資を行うため、ファンドを通じて投資するベンチャーキャピタルと比べると、出資額は小規模になる傾向があります。
必要な資金を十分に調達できない場合は、融資やほかの投資家からの出資など、別の資金調達手段を検討する必要があります。
エンジェル投資家にとってのメリット・デメリット
資金調達が必要な企業にとって、出資という形で資金提供を行うエンジェル投資家は、有力な資金調達先のひとつといえます。一方で、エンジェル投資家側にも、投資リターンや事業支援の実績の蓄積などのメリットがあり、企業だけが利益を得ているわけではありません。
良好な関係を築きながら出資を受けるには、エンジェル投資家側のメリット・デメリットも把握しておきましょう。
エンジェル投資家のメリット
エンジェル投資家は、エンジェル税制を利用することで、投資額に応じた税制優遇を受けられる場合があります。エンジェル税制とは、ベンチャー企業に投資した個人投資家に対して、税制上の優遇措置を設けている制度です。
ただし、エンジェル税制は手続きが煩雑で、利用のハードルが高いといわれています。そのため、企業に投資する個人投資家の全てがエンジェル税制を利用しているわけではありません。なお、エンジェル税制の詳細は、記事内の「エンジェル投資を促進する「エンジェル税制」とは」で解説しています。
もうひとつのメリットは、出資の対価として企業の株式を取得できる点です。出資先の事業が成長すれば株式価値が上昇し、投資額を上回る利益を得られる可能性があります。
また、出資先がIPO(株式上場)やM&Aによる買収に至った場合には、大きな投資リターンを得られる可能性があります。
エンジェル投資家のデメリット
一方で、出資先の企業が必ず成長するとは限りません。出資の対価として株式を取得しても、企業価値が伸びなければ、期待していた利益を得られない可能性があります。
また、出資先が倒産した場合は、出資金が全額失われるリスクもあります。配当を目的に株式を保有しても、企業業績が伸びなければ配当金を受け取れない可能性があるでしょう。
エンジェル投資家から出資を受けるときの流れ
次に、エンジェル投資家から出資を受けるときの流れを確認します。契約締結から出資実行までは、一般的に以下のような流れで行います。
エンジェル投資家から出資を受けるときの流れ
- ①事業計画とプレゼン資料の作成
- ②投資家へのアプローチ
- ③投資条件の交渉
- ④契約の締結・出資の受け入れ
①事業計画とプレゼン資料の作成
まずは、事業計画を整理して、エンジェル投資家向けのプレゼン資料を作成します。事業コンセプト・解決したい課題・市場規模・競合との差別化・収益モデルなどを明確にし、可能な限り具体的な数値を用いて説明することが重要です。
また、以下のような資料を投資家から求められることがあり、必要な場合はあわせて準備します。
エンジェル投資家から出資を受けるときに必要に応じて提出を求められる資料
- 会社謄本
- 役員名簿
- 事業計画書
- 株主名簿
- 資本政策案
- 決算書
②投資家へのアプローチ
資料が揃ったら、エンジェル投資家へアプローチを行います。起業家交流会・マッチングサイト・ビジネスコンテストへの参加など、投資家とつながる方法はさまざまです。
また、知人や先輩起業家から紹介を受けられると、面談につながりやすくなる傾向があります。投資家とつながることができたら、事業概要を簡潔に伝えて関心をもってもらい、個別面談へと進めていきましょう。
③投資条件の交渉
事業に関心をもってもらえたら、出資額・出資方法・企業価値の評価(バリュエーション)などの具体的な条件を交渉します。
エンジェル投資では、普通株式による出資だけでなく、優先株式や新株予約権(将来的に株式を取得できる権利)が用いられることもあります。出資方法や契約条件によって、創業者の持株比率や将来の資金調達に影響するため、契約内容を十分に理解したうえで判断することが重要です。
④契約の締結・出資の受け入れ
条件交渉がまとまったら、投資契約書を作成して契約を締結します。契約書には、出資額・株式の種類・発行株式数・払込金額・払込期日などの条件が記載されるため、弁護士や税理士などの専門家に内容を確認してもらうことが望ましいでしょう。
契約の締結が完了すると、出資金が指定された口座へ入金されます。第三者割当増資により株式を新規発行する場合は、効力発生日から2週間以内に資本金の変更登記を法務局へ申請し、登録免許税の納付が必要です。
エンジェル投資家から出資を受けるためのポイント
エンジェル投資家と出会えても、出資を受けられるとは限りません。限られた面談機会を有効に活用するためにも、出資を受ける際の重要なポイントを理解しておきましょう。
エンジェル投資家から出資を受けるためのポイント
- エンジェル投資家が重視するポイントを理解する
- プレゼンテーションの準備を丁寧に行う
エンジェル投資家が重視するポイントを理解する
エンジェル投資家によって、出資先に求める条件や重視するポイントが異なります。
たとえば、IPO(株式上場)による投資回収を重視するエンジェル投資家は、上場の実現可能性を重視して出資判断を行う傾向があります。そのため、エンジェル投資家からの出資を求める場合は、IPOを見据えた事業計画や成長戦略を具体的に検討しておくことが重要です。
なお、エンジェル投資家の重視するポイントは、直接尋ねることで把握しやすくなります。さらに、エンジェル投資家の過去の投資実績を調べることで、傾向を分析できるかもしれません。
プレゼンテーションの準備を丁寧に行う
ビジネスモデルや商品・サービスを、エンジェル投資家にわかりやすく説明することは基本です。商品やサービスを魅力的に伝えるために、プレゼンテーションのスキルを磨く必要があります。
また、現在の事業状況だけでなく、将来の成長見通しを質問されることもあります。IPO・M&Aなどの出口戦略(投資回収の方法)や将来の事業展望も具体的に整理し、投資家に説明する準備をしておきましょう。
エンジェル投資を促進する「エンジェル税制」とは
個人によるスタートアップ投資を後押しする制度として、「エンジェル税制」があります。エンジェル税制とは、スタートアップに投資する個人投資家に対して、税制上の優遇措置を設ける制度です。
所得税の優遇措置としては、主に「優遇措置A」「優遇措置B」「プレシード・シード特例」があります。優遇措置Aおよびプレシード・シード特例は設立5年未満、優遇措置Bは設立10年未満のスタートアップ企業が対象です。
なお、一定要件を満たす場合の「優遇措置A-2」や、自己資金による起業を対象とする「起業特例」もあります。
| 主な優遇措置の種類 | 控除対象 | 控除先 措置内容 | 控除上限 |
|---|---|---|---|
| 優遇措置A | 投資額 - 2,000円 | 取得した年の総所得金額等から控除 課税繰延(取得時に控除があり売却時は取得価額の控除なし) | 800万円または総所得金額等 × 40%いずれか低いほう |
| 優遇措置B | 対象企業への投資額全額 | 投資額全額を取得した年の株式譲渡所得金額から控除 課税繰延(取得時に控除があり売却時は取得価額の控除なし) | 上限なし |
| プレシード・シード特例 | 対象企業への投資額全額 | 投資額全額を取得した年の株式譲渡益から控除 非課税(取得時に控除があり売却時も取得価額の控除あり) | 上限なし(ただし非課税となる投資額は年間20億円まで) |
エンジェル税制を活用することで、投資家は税負担を軽減できる可能性があります。また、企業側も制度対象となることで、投資家に対する訴求力が高まり、資金調達を進めやすくなる可能性があります。
まとめ
エンジェル投資家は、創業前後や創業初期のスタートアップに出資する個人投資家です。出資には返済義務がないため、融資と比較して資金繰りへの負担を抑えながら事業を成長させられる可能性があります。また、経営アドバイスや人脈の紹介など、資金以外の支援を受けられる場合もあります。
一方で、投資家の意向が経営方針に影響することや、多額の資金調達には向かない場合がある点はデメリットです。エンジェル投資家を探す際は、紹介・交流会・マッチングサイト・ビジネスコンテストなどを活用し、自社に合った投資家との接点をつくりましょう。
また、出資を受けるには、事業計画やプレゼン資料を十分に準備し、投資家が重視するポイントを理解したうえで交渉を進めることが重要です。エンジェル投資の特徴を理解し、自社に適した資金調達方法を検討しましょう。
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監修 鶏冠井 悠二(かいで ゆうじ)
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