監修 北田 悠策 公認会計士・税理士
零細企業とは、一般に、従業員の数や資本、設備などの事業規模が比較的小さい企業を指す言葉です。経営規模は小さいものの、従業員として働く場合は幅広い業務を経験しやすい、経営者と近い距離で働きやすいなどのメリットがあります。
また、意思決定の速さを生かして経営環境の変化に柔軟に対応できるなど、小規模な企業ならではの強みもあります。
本記事では、零細企業の定義や中小企業との違い、零細企業で働くメリット・デメリット、強み・弱みなどを解説します。
目次
- 零細企業の定義とは
- 零細企業と中小企業の違い
- 零細企業と大企業の違い
- 零細企業とベンチャー企業の違い
- 零細企業の従業員として働くメリット
- 幅広い業務を経験できる可能性がある
- 経営者と近い距離で働ける
- 昇進のチャンスが生まれやすい
- 零細企業の従業員として働くデメリット
- 仕事が忙しいと感じる可能性がある
- 教育環境や福利厚生が整っていない可能性がある
- 給与が低い場合がある
- 零細企業で働く場合の注意点
- 零細企業で働くことに向いている人・向いていない人の特徴
- 零細企業で働くことに向いている人
- 零細企業で働くことに向いていない人
- 経営者目線での零細企業の強みと弱み
- 零細企業の強み
- 零細企業の弱み
- まとめ
- 自分でかんたん・あんしんに会社設立する方法
- よくある質問
零細企業の定義とは
中小企業基本法では、従業員の数や資本金などに基づき、「中小企業者」や「小規模企業者」の範囲が定められています。たとえば、業種ごとに定められた従業員の数が一定以下の事業者は「小規模企業者」に、資本金または従業員の数が一定以下の企業・個人は「中小企業者」に分類されます。
しかし、「零細企業」は規模の小さい企業を指す一般的な呼称であり、法律上で零細企業の定義が定められているわけではありません。
一般的には、中小企業基本法における小規模企業者に近い規模の企業や、限られた人員・資本で運営されている企業を指して「零細企業」と呼ぶことがあります。
零細企業と中小企業の違い
中小企業基本法における中小企業者とは、業種ごとに定められた「資本金の額や出資の総額」または「常時使用する従業員の数」のいずれかを満たす企業・個人を指します。
中小企業者の具体的な定義は、以下のとおりです。
| 業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
|---|---|
| 製造業その他 | ・資本金の額や出資の総額が3億円以下の企業 ・または、常時使用する従業員の数が300人以下の企業・個人 |
| 卸売業 | ・資本金の額や出資の総額が1億円以下の企業 ・または、常時使用する従業員の数が100人以下の企業・個人 |
| 小売業 | ・資本金の額や出資の総額が5、000万円以下の企業 ・または、常時使用する従業員の数が50人以下の企業・個人 |
| サービス業 | ・資本金の額や出資の総額が5、000万円以下の企業 ・または、常時使用する従業員の数が100人以下の企業・個人 |
零細企業と大企業の違い
大企業とは、資本金や従業員の数が多く、中小企業者に該当しない企業を指すのが一般的です。
ただし、零細企業と同様に、大企業も中小企業基本法で定義されている用語ではありません。大企業は、規模の大きな企業を指す言葉として使われている一般的な呼称です。
なお、会社法では、資本金や負債額が一定以上の株式会社を「大会社」と定義しており、大企業の規模感を説明する際に、その基準が参考にされることがあります。大企業と会社法上の大会社は同一の概念ではないため、混同しないようにしましょう。
零細企業とベンチャー企業の違い
ベンチャー企業に明確な定義はありません。一般的には、革新的な技術やサービス、新しいビジネスモデルによって成長を目指す企業を指して「ベンチャー企業」という呼称が使われます。
なお、設立から短期間で大規模な成長を遂げたベンチャー企業は、「メガベンチャー」と表現される場合もあります。
零細企業の従業員として働くメリット
零細企業の従業員として働く場合、大企業にはないさまざまなメリットに期待できます。零細企業の従業員として働く主なメリットは、以下のとおりです。
零細企業の従業員として働くメリット
幅広い業務を経験できる可能性がある
零細企業は従業員の数が少ない傾向にあります。従業員の数が少ない分、個々の従業員がカバーする業務範囲が広いため、入社後早い段階からさまざまな業務を経験できる可能性があります。
たとえば、営業を兼ねながら広報業務を行うなどのように、特定の業務にとらわれない働き方を求められる場合もあるでしょう。
担当領域以外の業務にも取り組むことで、業務全体への理解が深まり、自身のスキルアップにもつながります。
経営者と近い距離で働ける
組織規模の大きい企業では、経営者の近くで働く機会は限られてしまいます。
一方、零細企業は経営者との距離が近く、仕事の進め方や経営に対する考え方を直接学べる機会が多いです。また、自分の意見やアイデアを経営者に直接伝えることもでき、経営に貢献している実感を得やすいでしょう。
昇進のチャンスが生まれやすい
零細企業は従業員の数が少ない分、一人ひとりの役割が大きくなりやすく、責任ある業務を任される機会が生まれやすいです。日頃の働きぶりや実績が評価されていれば、入社後早い段階で重要な役割を任される可能性もあります。
また、事業が発展して企業の規模が大きくなっても、創業期や小規模な時期から貢献してきた実績が評価され、昇進に有利になる可能性もあるでしょう。
零細企業の従業員として働くデメリット
零細企業の従業員として働くメリットはさまざまある一方で、いくつかデメリットもあります。主なデメリットは、以下の3つです。
零細企業の従業員として働くデメリット
実際に零細企業で働くかどうかは、これらのデメリットも考慮したうえで決めましょう。
仕事が忙しいと感じる可能性がある
零細企業は一人ひとりが担当する業務範囲が広くなりやすいため、業務負担が大きいと感じる場合があります。
たとえば、役割分担が明確でない場合、営業や事務など複数の業務を1人で行わなければならないケースもあるでしょう。また、1人で多くのタスクを抱えることで、業務が終わりにくくなったり、負担を感じたりする可能性もあります。
教育環境や福利厚生が整っていない可能性がある
零細企業は従業員の数が少ないため、教育担当者を配置したり、十分な教育体制を整えたりすることが難しい場合があります。新人向けの研修は最低限とし、実務を通じて仕事を覚える方針の職場では、仕事に慣れるまで戸惑うことがあるかもしれません。
また、人員や資金に余裕がない場合、福利厚生の整備まで手が回らず、大企業に比べて制度が充実していないと感じる可能性があります。
給与が低い場合がある
事業所規模別の平均給与を見ると、事業所の従事員数が少ないほど、平均給与は低い傾向にあります。
たとえば、国税庁が公開している「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、従事員数10人未満の事業所の平均給与は392万円であるのに対し、従事員数5,000人以上の事業所の平均給与は539万円とされています。
なお、上記は零細企業そのものを対象にした給与データではないため、この平均給与が零細企業の給与水準であるとは一概にいえません。また、零細企業で働く場合は、給与額だけでなく、昇給制度・賞与の有無・福利厚生・社会保険の加入状況なども事前に確認しておきましょう。
出典:国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
零細企業で働く場合の注意点
零細企業には法人だけでなく個人事業所も含まれており、個人事業所で働く場合は、事業所の規模や業種によって社会保険に加入できないことがあります。
現行の社会保険制度では、法人の事業所や、常時5人以上の者を使用する法定17業種の個人事業所は適用事業所とされており、そこで働く人は働き方などの一定の要件を満たすと社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入します。
一方、常時使用する従業員が5人未満の個人事業所や、法定17業種以外の個人事業所は、原則として社会保険の適用対象ではありません。
一定の条件を満たしていれば、事業主が任意適用の申請を行うことで従業員が社会保険に加入できる場合もあります。ただし、任意適用の要件を満たしていない場合は、社会保険に加入できません。
なお、2029年10月からは法定17業種の要件が撤廃され、常時5人以上の従業員を雇用している個人事業所は、業種を問わず原則として社会保険の適用対象となる予定です。
ただし、2029年10月の施行時点ですでに存在している事業所は、経過措置として当分の間、社会保険の適用対象外とされています。
出典:厚生労働省「個人事業主の皆さま 社会保険への任意加入を考えてみませんか(ご案内)」
零細企業で働くことに向いている人・向いていない人の特徴
零細企業で働くことにはメリットだけでなくデメリットもあるため、全ての人に向いているわけではありません。零細企業の求人に応募するか悩む場合は、零細企業ならではの環境や働き方が自分に合っているかどうかも考慮しましょう。
以下では、零細企業で働くことに向いている人と向いていない人の特徴を紹介します。
零細企業で働くことに向いている人
零細企業で働くことに向いている人の特徴は、以下のとおりです。
零細企業で働くことに向いている人の特徴
- さまざまな業務の経験を積みたい人
- 実践しながら経験を積むことに抵抗がない人
- 主体的に行動できる人
従業員の数が少ない零細企業では、それぞれの従業員が幅広い業務を担当することを求められる場合があります。あらゆる分野の業務を任せられることを前向きに捉えられる人は、零細企業に向いているといえます。
また、少人数で事業を運営している零細企業では、主体的に仕事に取り組める従業員が評価されやすいです。
零細企業で働くことに向いていない人
零細企業で働くことに向いていない人の主な特徴は、以下のとおりです。
零細企業で働くことに向いていない人の特徴
- 常に忙しく働くことに苦手意識がある人
- 安定した雇用条件や福利厚生を求める人
- 教育体制が整った環境で働きたい人
零細企業はさまざまな業務を経験できる一方で、複数の業務を1人で行わなければならない場合があります。業務量が多い環境に苦手意識がある人は、負担の大きさがストレスにつながる場合があります。
また、零細企業は、給与や福利厚生などの条件が十分に整っていなかったり、教育体制が十分でなかったりする可能性もあります。こうした点が気になる人は、規模が大きい企業を就職・転職先として検討しましょう。
経営者目線での零細企業の強みと弱み
従業員ではなく経営者として零細企業を経営する場合は、零細企業の強みと弱みを把握しておきましょう。零細企業の強みを活かし、弱みを補う経営を意識することで、安定した事業運営につながります。
以下では、経営者目線での零細企業の強みと弱みを紹介します。
零細企業の強み
零細企業は、経営環境の変化に柔軟に対応できる点が強みです。小規模であるため意思決定が速く、市場の動向や顧客の意見を経営に取り入れやすい傾向があります。
また、市場規模が限られるニッチな分野では、大企業が参入しにくい場合があり、零細企業の強みを発揮しやすいことがあります。ニッチな市場は競合が少ないため、サービスや商品の差別化もしやすいでしょう。
その結果、価格競争に巻き込まれにくくなり、サービスや商品を適正な価格で提供できます。
零細企業の弱み
零細企業の弱みとしては、規模が小さい分、資金調達や人材の確保が難しくなる点が挙げられます。十分な資金や優秀な人材を確保できず、事業拡大が課題となる可能性もあるでしょう。
また、零細企業は規模が小さいため、資金繰りの悪化や主要取引先の離脱、従業員の退職などのトラブルが発生した場合、事業継続に大きな影響を及ぼすことがあります。
まとめ
零細企業は、一般に従業員の数や資本、設備などの事業規模が比較的小さい企業を指す言葉です。法律上の明確な定義はありませんが、小規模な事業者を表す際によく使われています。
零細企業で働く場合は、幅広い業務経験を積めることや経営者と近い距離で働けることなどがメリットです。一方で、業務負担の大きさや教育体制、福利厚生などの面で課題が生じやすいです。
また、経営者目線では意思決定の速さや柔軟性が強みとなる一方で、資金調達や人材確保が課題となる場合があります。
零細企業の特徴や中小企業との違いを理解し、自社や応募先がどのような規模の企業なのかを判断する際の参考にしてください。
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よくある質問
零細企業の従業員の年収はいくらが目安?
零細企業で働く従業員の年収目安は一概にいえませんが、参考として国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、事業所の従事員数が10人未満の事業所の平均給与は392万円とされています。
詳しくは、記事内「給与が低い場合がある」をご覧ください。
出典:国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
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零細企業に該当する企業について詳しくは、記事内「零細企業の定義とは」をご覧ください。
監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。
