会社設立の基礎知識

合同会社と個人事業主の違いとは?それぞれのメリット・デメリットを解説

監修 松浦 絢子(弁護士)

合同会社と個人事業主の違いとは?それぞれのメリット・デメリットを解説

合同会社と個人事業主では、開業時の初期費用や税金の種類、社会保険の扱い、経費計上のルールなどが異なります。

どちらを選ぶべきかは、事業内容や現在の所得水準、将来的な事業規模によって変わります。個人事業主は低コストかつ比較的スムーズに開業しやすい一方、合同会社は社会的信用を得やすく、所得水準によっては税負担を抑えられる場合がある点が特徴です。

本記事では、合同会社と個人事業主の違いや個人事業主と比べた合同会社のメリット・デメリット、それぞれの形態に向いている人の特徴などを解説します。

目次

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合同会社と個人事業主の基本情報

合同会社と個人事業主はそれぞれ異なる経営形態であり、設立方法や責任範囲、税制などに違いがあります。以下では、合同会社と個人事業主の基本的な情報を紹介します。

合同会社とは

合同会社は、法人格をもつ会社形態のひとつです。

株式会社では出資者と経営者が分かれているケースが多い一方、合同会社では出資者が経営にも直接関与する点が特徴であり、定款の内容に応じて柔軟な運営を行いやすい特徴があります。

また、合同会社の社員(出資者)は、原則として有限責任を負います。有限責任では、社員(出資者)は出資額の範囲内で責任を負うため、会社の債務に対して無制限の責任を負うことはありません。

合同会社は、個人事業主と比べると設立手続きや初期費用はかかりますが、株式会社よりは設立コストを抑えやすい特徴があります。

個人事業主とは

個人事業主とは、法人を設立せずに個人で事業を営む経営形態のことです。法人ではないため、法人の設立登記などの手続きは不要です。事業を開始した場合は、所定の期限までに税務署へ開業届を提出します。

法人設立に比べると、開業時の手続きや費用の負担が少なく、比較的始めやすい経営形態です。

合同会社と個人事業主の主な違い

合同会社と個人事業主のどちらが自分に向いているかを判断するには、それぞれの違いを理解することが重要です。合同会社と個人事業主の主な違いとしては、以下の7つが挙げられます。

合同会社と個人事業主の主な違い

  • 開業時にかかる初期費用
  • 課される税金の種類
  • 責任を負う範囲
  • 経費にできる費用
  • 資金の扱い方
  • 社会保険の加入義務の有無
  • 赤字の繰越期間

開業時にかかる初期費用

合同会社を設立する際は、登録免許税として最低6万円、定款の収入印紙代として4万円(電子定款の場合は不要)などが必要です。

一方、個人事業主は原則として税務署に開業届を提出することで開業できるため、開業手続きに大きな費用はかかりません。開業届の提出に手数料はかからず、収入印紙代も不要です。

課される税金の種類

合同会社と個人事業主では、事業で得た所得に課される税金の種類がそれぞれ異なります。

合同会社では、法人所得に対して法人税が課されるほか、法人住民税や法人事業税なども課されます。原則的な法人税率は23.2%です。

資本金1億円以下の中小法人などでは、所得金額のうち年800万円以下の部分に15%の軽減税率が適用され、超過部分の税率が23.2%となります。

一方、個人事業主には所得税のほか、個人住民税や個人事業税などが課されます。課税される所得金額に応じて5〜45%の所得税率が適用されます。

所得税率の区分は、以下のとおりです。

所得金額税率
1,000円〜194万9,000円5%
195万円〜329万9,000円10%
330万円〜694万9,000円20%
695万円〜899万9,000円23%
900万円〜1,799万9,000円33%
1,800万円〜3,999万9,000円40%
4,000万円以上45%
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」 出典:国税庁「No.5759 法人税の税率」

責任を負う範囲

合同会社と個人事業主は、事業に失敗して負債を抱えた場合に負う責任の範囲が異なります。

合同会社では、原則として社員(出資者)は出資額の範囲内で責任を負う有限責任となっており、会社の負債に対して個人が無制限の責任を負うことはありません。ただし、金融機関からの借り入れなどで代表者が連帯保証人となる場合は、個人として返済義務を負う可能性があります。

一方、個人事業主は無限責任となるため、事業上の負債について個人資産を含めて返済義務を負います。

経費にできる費用

合同会社と個人事業主はいずれも、事業に必要な支出を経費として計上できます。なお、法人では税務上「損金」という用語が用いられます。

経費・損金として計上できる費用には、事務所の家賃・交通費・備品費・通信費・広告宣伝費・従業員に支払う給与・会社負担分の社会保険料などが挙げられます。

ただし、個人事業主と合同会社では、経費や損金として扱える項目やルールが一部異なります。

たとえば、合同会社では定期同額給与など一定の条件を満たした役員報酬を損金として計上可能です。一方、個人事業主は、自身に支払う報酬を必要経費として計上することはできません。

個人事業主と合同会社では経費計上のルールに違いがあるため、支出の内容によっては合同会社のほうが税務上有利になる場合があります。

資金の扱い方

合同会社が事業で得た収入は、個人の資産とは分けて、会社の資金として管理されます。

そのため、たとえ経営者本人であっても、会社の資金を私的に使用することはできません。事業で得た収入をそのまま受け取るのではなく、役員報酬として定めた金額が個人の収入となります。

一方、個人事業主は事業で得た資金を生活費に充てることもできます。ただし、確定申告や帳簿付けのため、事業用支出と私的支出は区分して管理する必要があります。

社会保険の加入義務の有無

合同会社などの法人は、社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入が法律で義務付けられています。社会保険の加入義務は従業員数にかかわらず適用され、代表者1人のみの法人であっても加入が必要です。

一方、個人事業主本人は、従業員の人数にかかわらず、健康保険・厚生年金保険の被保険者にはなりません。そのため、原則として国民年金と国民健康保険に加入します。

また、従業員を雇用している個人事業所では、適用業種に該当して常時5人以上の従業員を雇用している場合などに、従業員を健康保険・厚生年金保険へ加入させる義務があります。

出典:日本年金機構「事業所が健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき」 出典:厚生労働省「個人事業主の皆さま 社会保険への任意加入を考えてみませんか(ご案内)」

赤字の繰越期間

事業で赤字が生じた場合は、その赤字を翌年以降に繰り越し、将来の黒字と相殺することが可能です。この制度は「欠損金の繰越控除(法人)」や「純損失の繰越控除(個人事業主)」と呼ばれ、過去の赤字を将来の所得と相殺することで税負担を軽減できます。

赤字を繰り越せる期間は合同会社と個人事業主で異なり、合同会社では一定の条件を満たすことで、赤字を最長10年間繰り越せます。一方、個人事業主は、青色申告を行っている場合に限り、赤字を3年間繰り越せます。

出典:国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」

個人事業主と比べた合同会社のメリット

合同会社には、個人事業主にはないさまざまなメリットがあります。

個人事業主と比べた合同会社のメリット

  • 所得水準によっては税負担を抑えられる可能性がある
  • 社会的な信用を得やすい

所得水準によっては税負担を抑えられる可能性がある

個人事業主には、所得金額に応じて5〜45%の所得税率が適用されます。一方で、合同会社では原則として23.2%の法人税率が適用されます。所得金額によっては、合同会社のほうが税負担を抑えられる場合があります。

また、合同会社では、役員報酬に応じて給与所得控除を受けられます。控除額は給与額に応じて変動し、最大195万円です。個人事業主も青色申告によって青色申告特別控除を受けられますが、控除額は最大65万円であり、給与所得控除と比べると小さい傾向があります。

社会的な信用を得やすい

合同会社や株式会社などの法人は、「会社法」に基づいて運営されています。

個人事業主と比較すると、会社法に基づいて運営される法人は社会的信用を得やすい傾向があり、融資審査や企業との新規取引などで有利に働く場合があります。

個人事業主と比べた合同会社のデメリット

メリットがある一方、合同会社の設立には以下のようなデメリットもあります。

個人事業主と比べた合同会社のデメリット

  • 会社設立や運営のコストがかかる
  • 会社設立までの手続きに手間がかかる

会社設立や運営のコストがかかる

個人事業主は比較的少ない費用で開業できますが、合同会社を設立する場合は登録免許税などの初期費用がかかります。

また、合同会社では、赤字であっても法人住民税の均等割として最低約7万円を負担する必要があり、設立後の維持コストも個人事業主より高くなる傾向があります。

会社設立までの手続きに手間がかかる

合同会社を設立するには、さまざまな手続きや書類の準備が必要です。合同会社を設立するまでの大まかな流れは以下のとおりです。

合同会社を設立する流れ

  • ①本店所在地や資本金など会社の基本情報を決める
  • ②法人用の実印を作成する
  • ③定款を作成する
  • ④資本金を払い込む
  • ⑤法人登記に必要な書類を準備する
  • ⑥本店所在地を管轄している法務局に必要書類を提出する

個人事業主は原則として開業届の提出で事業を始められるのに対し、合同会社の設立には複数の手続きや書類準備が必要です。

起業初心者は合同会社と個人事業主のどちらを選ぶべき?

独立時の経営形態として個人事業主と合同会社のどちらを選ぶべきかは、事業規模や許容できるコストなどによって異なります。以下では、各経営形態に向いている人の特徴を紹介します。

合同会社が向いている人の特徴

合同会社が向いている人の特徴は以下のとおりです。

合同会社が向いている人の特徴

  • 所得金額が高額になることが予想されるため節税したい人
  • 社会的な信用を重視したい人
  • 最大10年間の赤字繰越制度を活用し、長期的な視点で経営したい人

合同会社では、所得税のような累進課税ではなく、一定税率の法人税が適用されるため、所得金額によっては税負担を抑えられる場合があります。

また、赤字繰越期間が比較的長いため、黒字化までに時間がかかる事業を行いたい人にも向いています。

個人事業主が向いている人の特徴

個人事業主が向いている人の特徴は以下のとおりです。

個人事業主が向いている人の特徴

  • 手間をかけずスムーズに独立したい人
  • 初期費用などのコストをできるだけ抑えたい人
  • 事業で得た収入を生活費などに柔軟に使いたい人

個人事業主は開業に必要な手続きが比較的少ないうえに、初期費用も抑えやすいです。手続きに手間をかけたくない人や、できるだけコストを抑えて小さな事業から始めたい人は、個人事業主のほうが向いています。

個人事業主が合同会社化するタイミング

個人事業主として事業を開始した場合でも、将来的に法人化することは可能です。事業規模や売上の拡大によって、税制面や信用面で合同会社のメリットが大きくなる場合は、途中で法人成りを検討する選択肢もあります。

以下では、個人事業主が合同会社への法人成りを検討するタイミングの例を紹介します。

従業員を雇用したい場合

求職者にとって、健康保険や厚生年金保険などの社会保険の有無は、就職先を選ぶうえで重要な要素です。

魅力的な仕事内容であっても、健康保険や厚生年金保険に加入できないことに不安を感じ、求職先の候補から外れてしまうケースも考えられます。一方、合同会社を設立すると、原則として社会保険への加入義務が発生し、従業員が健康保険や厚生年金保険に加入できる環境を整えることが可能です。

社会保険が整っている環境は求職者に安心感を与え、人材採用で有利に働く可能性があります。合同会社へ法人成りし、社会保険などの制度を整えることで優秀な人材を確保できれば、事業成長も期待できるでしょう。

事業を拡大したい場合

合同会社は個人事業主に比べて社会的な信用を得やすい傾向があります。

合同会社へ法人成りすることで社会的信用が高まれば、大企業との取引や新規取引先の開拓につながる可能性があります。取引先を増やして事業拡大を目指す場合は、合同会社への法人成りを検討しましょう。

所得や事業規模が大きくなってきた場合

合同会社では、原則として23.2%の法人税率が適用され、資本金1億円以下の中小法人などでは、所得800万円以下の部分に15%の軽減税率が適用されます。一方、個人事業主には、所得に応じて5〜45%の所得税率が適用されます。

法人税の税率は原則として一律ですが、個人事業主に課される所得税率は、所得金額に応じて上がる仕組みです。課税所得が695万円を超えると、23%以上の税率が適用されます。

課税所得が695万円を超えると所得税率と法人税率の差は小さくなるため、所得水準や経費の内容によっては、合同会社のほうが税負担を抑えられる場合があります。そのため、課税所得が695万円を超えたときは、法人成りを検討するひとつの目安となるでしょう。

ただし、法人化の有利不利は所得税率だけで決まるわけではありません。役員報酬の設定や社会保険料、法人住民税なども含めて、総合的に判断することが重要です。

個人事業主は合同会社を兼任することも可能

個人事業主と合同会社はどちらか一方を選ぶのではなく、個人事業と法人を並行して運営することも可能です。個人事業主と合同会社を並行して運営することで、法人としての社会的信用を活かしながら、事業内容によっては税務面でメリットを得られる場合があります。

ただし、個人事業と合同会社を並行して運営する場合は、事業内容・契約主体・口座・帳簿を明確に分けて管理することが重要です。

特に、同じ事業を並行して行うと、税務署から売上や経費の付け替えを疑われるおそれがあります。個人事業と合同会社を並行して運営する場合は、税務上のトラブルを避けるためにも、実態に応じて適切に区分管理しましょう。

まとめ

個人事業主と合同会社には、開業時にかかる費用・税金の種類・社会保険・資金管理の方法など、さまざまな違いがあります。

個人事業主は低コストかつ比較的スムーズに事業を始めやすい一方、合同会社は社会的信用を得やすく、所得水準によっては税負担を抑えられる可能性がある点が特徴です。また、事業規模の拡大や従業員の雇用、所得増加などをきっかけに、個人事業主から合同会社へ法人成りするケースもあります。

現在の事業状況に適した形で事業を運営するためにも、個人事業主と合同会社それぞれの特徴を理解し、自身に合う経営形態を選びましょう。

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監修 松浦 絢子弁護士

松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

松浦 絢子弁護士

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