個人事業主が会社を設立し、自身の事業を法人に引き継ぐことを「法人化」と呼びます。
法人化することによって、免税期間の延長や信用度向上など、多くのメリットがありますが、設立費用や継続的な運営費用などのデメリットも存在します。
本記事では、個人事業主が法人化することのメリットやデメリット、法人化に適したタイミングについて解説します。また、2023年10月1日から導入されるインボイス制度に対する対策についてもまとめました。
目次
- 法人化(法人成り)とは
- 法人化にする最適なタイミング
- インボイス制度導入前(2023年9月30日まで)
- 個人事業の所得が800万円を超えたとき
- 売上高が1,000万円を超えたとき
- 事業の拡大を考えているとき
- 法人化をするメリット
- 税制上有利となる
- 賠償範囲を制限することができる
- 赤字(欠損金)を10年間繰り越すことができる
- 決算月を任意で決めることができる
- 法人化をするデメリット
- 赤字でも税金の支払いがある
- 社会保険への加入する必要がある
- 会計や事務手続きなどが増える
- 交際費が全額損金にできない場合がある
- 法人化してからインボイス制度開始までに行うべき準備
- 適格請求書発行事業者になるかを検討する
- 納税する消費税額を事前に把握する
- まとめ
- freee会社設立なら、法人化の手続きをかんたん・あんしんに!
- よくある質問
法人化(法人成り)とは
法人化とは、個人事業主として事業を行う人が会社を設立し、その事業を引き継ぐことを指します。
法人化は別名で「法人成り」とも呼ばれており、それは個人事業主が形を変えて法人へ「成る」ことからきています。
2023年10月1日から導入されるインボイス制度は、個人事業主への影響が大きく、法人化を検討する個人事業主も増えている傾向があります。
法人化の手続きについて詳しく知りたい方は、別記事「個人事業主から法人化するには?手続きと必要な準備・費用について解説」をあわせてご確認ください。
法人化にする最適なタイミング
ここでは、個人事業主が法人化を行うべきタイミングについて解説します。個人事業主から法人化する最適なタイミングは、主に下記のとおりです。
法人化に最適なタイミング
- インボイス制度導入前(2023年9月30日まで)
- 個人事業の所得が800万円を超えたとき
- 売上高が1,000万円を超えたとき
- 事業の拡大を考えているとき
インボイス制度導入前(2023年9月30日まで)
インボイス制度導入前までに法人化することで、最大2年間の消費税免税期間が適用されます。
しかし、インボイス制度が開始されると免税事業者は適格請求書を交付できません。そのため、事業者によってはこの消費税の免税期間がメリットにならない場合があります。
したがってインボイス制度が、開始される2023年10月1日までに法人化を行い、免税期間を活用することがおすすめです。
また、インボイス制度が開始されると消費税の申告方法や納付方法が変わります。法人化する予定がある事業者は、事前に法人としての準備にもなるため、早めに法人化することがおすすめです。
【関連記事】
2023年10月から始まるインボイス制度とは?図解でわかりやすく解説!
個人事業の所得が800万円を超えたとき
以下の表のように、個人事業主は累進課税率、法人は比例税率でそれぞれ所得税・法人税が計算されます。
所得が800万円の場合、個人事業主にかかる税率は23%ですが、法人税にかかる税率は15%となります。
控除分を差し引いたとしても個人事業主の納税金額の方が高くなるため、一般的に個人事業の所得が800万円を超えたタイミングで法人化するのがおすすめです。
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
税金の種類 | 所得税 | 法人税 |
制度 | 累進課税率 | 比例税率 |
税率 |
・195万円以下:5%
・195万円超330万円以下:10% ・330万円超695万円以下:20% ・695万円超900万円以下:23% ・900万円超1,800万円以下:33% ・1,800万円超4,000万円以下:40% ・4,000万円超:45% |
所得額
・800万円以下:15% (適用除外事業者は19%) ・800万円超:23.20% ※資本金1億円以下の普通法人の場合 |
ただし、所得控除や事業以外の所得の有無、法人化した際の報酬額など、税率の条件が大きく変わる可能性はあります。
そのため、事業所得が700万円を超えたタイミングで専門家に相談してみるとよいでしょう。
売上高が1,000万円を超えたとき
事業所得としての売上が、1,000万円を超えた場合は法人に切り替えるのがよいでしょう。
個人事業主は以下の条件に該当する場合、消費税の課税事業者となり消費税を納付する必要があります。
このタイミングで法人化すると、最大2年間の消費税免除が適用されるため、法人化を検討するには最適なタイミングです。
これは「簡易課税制度」と呼ばれる制度で、小規模な事業者に対して簡単な申告手続きで消費税の納付を免除することで、起業家や個人事業主の事業創出を促進することを目的としています。
さらに、翌年度においても2年前の売上高が存在せず、初年度の前半6ヶ月の売上高が1,000万円以下であれば、免税事業者として消費税の納付が不要となります。
ただしこれは資本金1,000万円未満かつ、以下の条件を満たした場合ので法人化した場合に限ります。
法人設立1年目:
・資本金が1,000万円未満であること
法人設立2年目:
・資本金が1,000万円未満であること
・以下の1.2のいずれかの条件を満たしていること
(1)事業開始後1期目の前半6ヶ月における課税売上高が1,000万円以下であること
(2)事業開始後1期目の前半6ヶ月における給与等の支払総額が1,000万円以下であること
事業の拡大を考えているとき
事業を拡大し規模を大きくするには、法人化することが必要不可欠です。特に以下のような状況の際は、法人化をする絶好のタイミングだといえます。
- 法人でなければ契約ができない案件などがある
- 株式の発行などによって資金調達を考えている
また、法人化すると法人でしか活用できない補助金や助成金を利用することもできます。個人事業では事業の規模にも限界があるので、さらに事業拡大を目指す場合は法人化することがおすすめです。
法人化するメリット
個人事業主が法人化をするメリットは主に以下のとおりです。法人化するメリットを知ることで、適切な事業運営をおこなうことができるので、事前に理解を深めておくことが重要です。
法人化のメリット
- 税制上有利となる
- 賠償範囲を制限することができる
- 赤字(欠損金)を10年間繰り越すことができる
- 決算月を任意で決めることができる
税制上有利となる
個人事業から起業し法人化することで、税制上有利となり以下のようなメリットが得られます。
役員報酬を損金として扱える
個人事業主は、売上から必要経費を引いた額が所得となり、そこに所得税が課せられます。一方、法人では自分の給与(役員報酬)が経費として認められます。役員報酬は給与所得控除の対象となり、控除額によって全体の所得を減らすため、節税が可能になります。
役員報酬は税法において給与所得として扱われるため、受け取る個人に所得税が課されます。しかし、役員報酬を経費として計上できる法人では、課税所得を減らすことができます。課税所得が0円になれば、法人税が発生することはありません。
さらに、住民税の法人税割は適用されず、均等割による住民税のみが課せられるというメリットもあります。
役員への退職金が損金として認められる
個人事業の場合でも、一定の要件を満たせば従業員に対する給与や賞与を必要経費として計上できますが、個人事業主本人に対する退職金は必要経費にできません。
しかし法人化することで、役員への退職金も原則として損金算入が認められるため、法人所得を減らせるというメリットがあります。
賠償範囲を制限することができる
個人事業主は、経営が悪化した際の仕入先への未払い・金融機関からの借金・滞納した税金などが個人の債務となります。
しかし、法人(株式会社や合同会社)になると、個人保証が付与された借入を除いて、責任は出資額に限定されます。このように賠償範囲を制限できるのは、法人化だからこそのメリットといえます。
赤字(欠損金)を10年間繰り越すことができる
個人事業主も法人も共通して、欠損金を繰越できる制度があります。
青色申告を行っている個人事業主は、赤字を翌年以降に持ち越して翌年以降の事業所得と相殺でき、繰越期間は3年間です。
それに対して、法人の場合は欠損金の繰越控除期間が10年間(一部の事業年度では9年間)認められています。もし大きな赤字が発生してしまった場合、繰越控除の期間が短いと十分に活用できない可能性があるので、節税の面において法人化のメリットは大きいといえます。
決算月を任意で決めることができる
個人事業主は、法律によって事業年度が1月〜12月と決められており、決算月を12月から変更させることはできません。
しかし、法人は事業年度の決算月を自由に設定できるメリットがあります。決算月が繁忙期と重なると忙しくなってしまうため、出来るだけ落ち着いた時期に決算月を設定することがおすすめです。
法人化をするデメリット
個人事業主が法人化をすることで考えられるデメリットは以下のとおりです。
法人化のデメリット
- 赤字でも税金の支払いがある
- 社会保険への加入する必要がある
- 会計や事務手続きなどが増える
- 交際費が全額損金にできない場合がある
赤字でも税金の支払いがある
個人事業主は事業が赤字になってしまった場合、所得税や住民税の負担がありません。
しかし、法人に課される法人住民税は均等割と法人税割で構成されており、均等割は法人の規模によって納める税額が決定されます。そのため、たとえ事業利益が赤字であっても法人住民税は納税しなければなりません。
納める法人住民税は事業所のある自治体によって税率が異なりますが、東京の場合ですと、資本金1,000万円以下で従業員50人以下の小規模法人であれば7万円の法人住民税が課税されます。
【関連記事】
法人住民税|均等割と法人税割とは?
社会保険の加入が必要になる
個人事業主の場合は、国の保険(国保)加入でも問題ありませんでしたが、法人化すると、社会保険への加入が必須となります。
これは従業員数にかかわらず必須となり、原則として健康保険や厚生年金に加入しなければいけません。また、社長一人の場合でも社会保険への加入は必須です。
ただし、国民健康保険や国民年金よりも手厚い補償が受けられるので、費用はかかりますがその分メリットもあります。
会計や事務手続きが増える
個人事業主は、税務処理を税理士に任せる場合もありますが、自分自身で確定申告や経理を行う場合が多いです。
しかし経理や決算が、個人事業より法人になると複雑化し、社会保険手続きや事務作業への手間がかかります。これらの業務を1人でこなすのは困難になるため、税理士や公認会計士への依頼や事務スタッフの採用を検討する必要があります。
交際費が全額損金にできない場合がある
個人事業主の場合、事業に関わる交際費はすべて経費として計上可能です。
しかし、法人の場合は飲食費に限ってのみ50%を経費として認められ、年間800万円までが上限となります(資本金1億円以下の企業の場合)。
したがって、多額の交際費を使っている個人事業主が法人化する際や、資本金が1億円を超える場合の法人化は、経費として計上できる交際費が減ることへの注意が必要です。
法人化してからインボイス制度開始までに行うべき準備
事業を法人化した後は、インボイス制度の導入に向けて以下の準備と対応が必要となります。
法人化してからインボイス制度開始までに行うべき準備
- 適格請求書発行事業者になるかを検討する
- 納税すべき消費税額を把握する
適格請求書発行事業者になるかを検討する
インボイス制度導入後は、一定の要件を満たした適格請求書(インボイス)の発行・保存をしなければ、仕入税額控除を受けることができません。
また、この適格請求書を発行できるのは適格請求書発行事業者として認められた課税事業者に限るため、インボイス制度導入後も仕入税額控除額を受ける場合は適格請求書発行事業者になるか検討する必要があります。
すでに課税事業者である場合は、所轄の税務署で適格請求書発行事業者への登録をすれば問題ありませんが、免税事業者の場合は、まず課税事業者にならなければいけません。
課税事業者になるためには「消費税課税事業者選択届出書」を所轄の税務署に提出する必要があります。ただし、課税事業者への変更や適格請求書発行事業者への登録はあくまでも任意です。
適格請求書発行事業者にならない場合の影響などについて把握したうえで、免税事業者のままでいるか、課税事業者に変更し適格請求書発行事業者になるかは検討しましょう。
【関連記事】
インボイス制度導入で個人事業主はどうなる?売上1,000万円以下の免税事業者が押さえておきたいポイントについて解説
納税する消費税額を事前に把握する
インボイス制度の導入に際して課税事業者となった場合は、年間で納税すべき消費税がいくらになるのかを事前に把握するようにしましょう。
法人の課税事業者は税務期間終了の翌日から2ヶ月以内に、国税と地方消費税を合算した消費税額を管轄税務署へ納付する必要があります。
免税事業者のときには発生しなかった消費税の納税が発生するため、事前に支払うべき消費税の額を正しく把握し、資金不足にならないよう納税用の資金を用意しておくことが重要です
自分で納税額の管理や把握を行うのが難しい場合は、会計ソフトの活用や税理士に依頼することも検討しましょう。
まとめ
法人化には節税効果や責任の限定などのメリットがあります。しかしその一方で、経理や税務手続きの複雑さが増すなどのデメリットもあります。
そのため、法人化は適切なタイミングで行い、ピーク時期に対応できるような準備を行うことが重要です。
また、法人化後には消費税の経理処理や、インボイス制度への対応が求められるため、自分で対応できない範囲は専門家に依頼することも検討しましょう。
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