監修 松浦 絢子(弁護士)
監修 北田 悠策 公認会計士・税理士
個人でアパート経営を行うなかで所得額が増えたり、経営の規模が大きくなったりした場合は、法人化を検討するのも選択肢のひとつです。
アパート経営を法人化すると、所得状況によっては税負担の軽減が期待できるほか、資金調達や相続対策の面でメリットを得られる場合があります。一方で、会社設立費用や社会保険料の負担、会計・税務手続きの増加などのデメリットもあるため、慎重な判断が必要です。
本記事では、アパート経営の法人化を検討するタイミングやメリット・デメリット、手続きの流れなどを解説します。
目次
- アパート経営の法人化とは
- アパートの経営者が法人化を検討するタイミングの目安
- 所得額が高額になったタイミング
- 課税売上高が1,000万円を超えたタイミング
- 所有するアパートの数が増えたタイミング
- アパート経営を法人化するメリット
- 課税所得を調整しやすい
- 資金調達がしやすい
- 相続税対策になる
- 責任を負う範囲が限定される
- アパート経営を法人化するデメリット
- 会社設立や運営にコストがかかる
- 赤字でも税金の支払いが必要になる
- 社会保険の加入義務が生じる
- アパート経営を法人化する場合の会社形態の選び方
- アパート経営を法人化する流れ
- 会社員のアパート経営者も法人化はできる?
- まとめ
- 自分でかんたん・あんしんに会社設立する方法
- よくある質問
アパート経営の法人化とは
アパート経営の法人化とは、法人名義でアパートを所有・経営することです。
法人化の方法には、新たに法人を設立して法人名義で物件を取得する方法や、個人名義で所有しているアパートを法人へ移転し、法人名義で運営する方法などがあります。
アパート経営を法人化すると、所得状況によっては税負担を抑えられる可能性があり、相続対策や所得分散などのメリットが得られる場合があります。一方で、会社設立費用や、会計処理・税務申告などの管理業務が増える点はデメリットです。
なお、個人名義の不動産を法人へ移転する場合は、登録免許税や不動産取得税、譲渡所得税などの税負担が発生する可能性があります。また、既存の不動産ローンがある場合は、契約条件や担保設定に影響し、金融機関の承諾・借換え・債務引受などの対応が必要になることもあります。
移転方法や契約内容によって、税務上の扱いや金融機関で求められる対応は異なるため、税務面は税理士などの専門家へ相談し、ローン契約への影響は金融機関へ確認しましょう。
また、アパート経営の事業を開始するまでの手続きや費用なども個人事業主と法人でそれぞれ異なります。個人事業主と法人の主な違いは以下のとおりです。
アパートの経営者が法人化を検討するタイミングの目安
アパート経営の法人化を検討するタイミングは、以下のいずれかに当てはまるときが目安です。
アパート経営の法人化を検討するタイミング
- 所得額が高額になったタイミング
- 課税売上高が1,000万円を超えたタイミング
- 所有するアパートの数が増えたタイミング
上記のケースに当てはまる場合は、税負担の軽減や資産管理面で大きなメリットを得られる可能性があるため、法人化を検討するには適したタイミングといえます。
所得額が高額になったタイミング
個人事業主としての所得額が高額になった場合は、法人化を検討するタイミングのひとつです。
個人事業主と法人では、利益に対して課される主な税金の種類が異なります。個人事業主には主に所得税が課される一方、法人には法人税が課されます。
所得税は、課税される所得額が高くなるほど税率も高くなる累進課税です。所得税の税率は5〜45%で、課税される所得額に応じて以下のように区分されています。
| 所得額 | 税率 |
|---|---|
| 1,000円〜194万9,000円 | 5% |
| 195万円〜329万9,000円 | 10% |
| 330万円〜694万9,000円 | 20% |
| 695万円〜899万9,000円 | 23% |
| 900万円〜1,799万9,000円 | 33% |
| 1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% |
| 4,000万円以上 | 45% |
※復興特別所得税は除いています。
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」
一方、法人税率は法人の規模や所得額によって異なります。たとえば、資本金1億円以下の普通法人では、年800万円以下の所得部分に15%、年800万円を超える部分などには23.2%の税率が適用されます。
個人事業主の場合、課税所得が900万円を超えると、超過部分には33%の所得税率が適用されます。そのため、所得額が大きくなった場合は、法人化によって税率を抑えられる可能性があるのです。
出典:国税庁「No.5759 法人税の税率」
課税売上高が1,000万円を超えたタイミング
アパート経営で課税売上高が1,000万円を超えた場合は、法人化を検討するタイミングのひとつです。
消費税では、基準期間(原則として2年前)における課税売上高が1,000万円を超えると、原則として課税事業者となり、消費税の納税義務が生じます。
ただし、居住用アパートの家賃収入は、消費税の非課税売上に該当するため、課税売上高の計算には含まれません。そのため、居住用アパートの家賃収入だけで1,000万円を超えていても、それだけで消費税の課税事業者にはなりません。
一方、駐車場収入や事務所・店舗向けの賃料など、消費税の課税対象となる収入がある場合は、その課税売上高が1,000万円を超えるかどうかを確認する必要があります。
課税事業者かどうかは、個人事業主と法人で別々に判断されます。個人事業主が法人化した場合、原則として個人事業主のときの課税売上高は新設法人の判定には引き継がれません。
そのため、新設法人では、一定の条件を満たす場合、設立後最大2期は消費税の免税事業者となるケースがあります。ただし、資本金1,000万円以上で設立した法人や、インボイス発行事業者として登録した法人などは、設立1期目から課税事業者となります。
出典:国税庁「消費税のしくみ」
出典:国税庁「個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定」
出典:国税庁「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」
所有するアパートの数が増えたタイミング
アパート経営は、所有するアパートの数が増えるほど管理も難しくなることが一般的です。アパートの数が多ければ、入居者対応・修繕計画・清掃・設備の管理などの手間も増え、経営が複雑になります。
法人化すると、人員配置や業務分担などの管理体制を整えやすくなるため、運営負担の軽減につながる場合があります。
アパート経営を法人化するメリット
アパート経営を法人化すると、税務面や資金調達面などでメリットを得られる場合があります。アパート経営を法人化する場合の主なメリットは、以下のとおりです。
アパート経営を法人化するメリット
課税所得を調整しやすい
法人化すると、役員報酬や福利厚生制度などを活用しやすくなり、費用として計上できる支出の選択肢が広がる場合があります。
たとえば、一定の要件を満たした役員報酬・出張旅費・法人契約の社宅費用・業務利用する社用車の関連費用などは、法人の費用として計上できる場合があります。
これらの経費は、法人の所得額を計算する際に売上から差し引くことが可能です。そのため、所得状況によっては税負担を抑えやすくなります。
資金調達がしやすい
法人化すると、財務状況や事業実態を明確にしやすくなるため、金融機関や取引先から一定の信用を得やすい傾向があります。
財務管理体制が整っていれば、事業内容や収益状況を説明しやすくなり、金融機関から融資を受けやすくなる場合があります。また、制度によっては法人のみを対象とした助成金・補助金もあるため、資金調達手段の選択肢が広がる点もメリットです。
相続税対策になる
アパート経営を法人化すると、所得分散や株式承継を活用できるため、相続対策につながる場合があります。
個人事業主としてアパートを経営する場合、家賃収入によって形成された預貯金などは、個人財産として相続税の課税対象です。相続する財産が多い場合は、相続税が大きな負担となる可能性があります。
法人化した場合、家賃収入は法人に入ります。将来の相続人を役員に就任させ、業務実態に応じた役員報酬を支給すれば、所得を分散でき、個人に財産が集中することを抑えやすくなります。
また、アパートは物理的に分割しにくいため、相続人が複数いると財産分配が難しい点が課題です。法人化して不動産を法人で保有しておけば、相続時には法人株式として承継できるため、不動産そのものを分ける場合よりも分配しやすくなるケースがあります。
ただし、法人化すれば必ず相続税対策になるわけではありません。非上場株式は評価が複雑で、株式の評価額が高くなる可能性もあります。また、少数株主となった相続人は経営への関与が制限されたり、株式を換金しにくかったりする点もデメリットです。
分割方法によっては相続人間のトラブルにつながる可能性もあるため、法人化による相続対策を検討する際は、税理士などの専門家に相談しましょう。
責任を負う範囲が限定される
株式会社や合同会社では、事業に失敗した場合でも、原則として出資者個人は出資額を超えて会社の債務責任を負わない「有限責任」となります。
たとえば、会社設立時に出資者が400万円を出資したものの、事業に失敗して会社が1,000万円の負債を抱えて倒産したとします。この場合、出資した400万円は回収できませんが、原則として出資者個人が残りの負債を支払う義務はありません。
一方、個人事業主は「無限責任」を負います。
無限責任とは、事業で発生した負債について、個人財産を含めて返済義務を負うことを指します。たとえば、個人事業主が事業失敗によって1,000万円の負債を抱えた場合、個人財産を含めて返済義務を負うことになります。
アパート経営を法人化するデメリット
アパート経営の法人化には、メリットだけでなくデメリットもあります。主なデメリットは以下の3つです。
アパート経営を法人化するデメリット
会社設立や運営にコストがかかる
会社設立には、登記費用や定款認証費用(株式会社の場合)などがかかるほか、事業開始のための資本金も必要です。会社設立に必要な書類の作成や各種申請などを司法書士に代行依頼する場合は、別途報酬費用も発生します。
また、法人の会計処理や税務申告は個人事業主より複雑になる傾向があり、対応には専門知識が必要です。会計処理や税務申告を税理士へ依頼することもできますが、その場合は顧問料や申告報酬などの費用が発生します。
赤字でも税金の支払いが必要になる
個人事業主は、所得がない場合には所得割の住民税負担が発生しないケースがあります。一方、法人では、赤字であっても法人住民税の均等割が課されます。
法人住民税は、「法人税割」と「均等割」で構成されている税金です。このうち、均割は法人の所得の有無にかかわらず定額で課されます。
均等割の金額は資本金や従業員数、自治体などによって異なりますが、一般的には最低でも年間7万円程度の負担が発生します。
出典:総務省「法人住民税・法人事業税」
社会保険の加入義務が生じる
法人は、原則として健康保険や厚生年金保険の適用事業所となり、役員報酬を受け取る役員などは社会保険への加入対象となります。
社会保険料は、役員報酬額をもとにした標準報酬月額に基づいて決まります。役員報酬が高くなるほど社会保険料負担も増えるため、経済的な負担となる可能性があるでしょう。
ただし、社会保険に加入することで健康保険や厚生年金の保障を受けられるなどのメリットも得られます。
アパート経営を法人化する場合の会社形態の選び方
個人事業主が法人化する際は、主に株式会社や合同会社などの会社形態を選択します。会社形態ごとの特徴や設立にかかるコストの目安は、以下のとおりです。
| 会社形態 | 特徴 |
|---|---|
| 株式会社 | ・社会的信用度が高く、資金調達がしやすい ・出資者の責任は有限責任 ・設立コストは25万円〜が目安 |
| 合同会社 | ・出資者が経営に直接関与できる ・出資者の責任は有限責任 ・設立コストは10万円〜が目安 |
| 合名会社 | ・出資者が無限責任を負う ・設立コストは6万円〜が目安 |
| 合資会社 | ・無限責任社員と有限責任社員で構成される ・設立コストは6万円〜が目安 |
会社形態を選ぶ際は、事業上の責任をどこまで負うかが重要なポイントです。
株式会社や合同会社では、出資者は原則として出資額の範囲で責任を負います。そのため、事業上のリスクを抑えたい場合は、株式会社や合同会社が選択肢になります。
一方、合名会社・合資会社では、全社員または一部の社員が無限責任を負うため、事業が失敗した場合、会社の財産だけで負債を返済できなければ、個人財産で返済しなければなりません。このようなリスクがあるため、アパート経営の法人化では、株式会社または合同会社を選ぶのが一般的です。
株式会社と合同会社を比較すると、設立コストは合同会社のほうが低く抑えやすい傾向があります。一方で、金融機関や取引先からの信用面では、株式会社のほうが有利とされるケースもあります。
アパート経営を法人化する流れ
アパート経営を行う個人事業主が法人化する際の主な流れは、以下のとおりです。
アパート経営を法人化する流れ
- 会社形態を決める
- 会社名や資本金額など会社の基本事項を決める
- 必要に応じて会社用の印鑑を購入する
- 定款を作成する
- 資本金払込を行う
- 登記申請を行う
法人設立後は、必要に応じて個人事業の廃業手続きや、不動産の名義変更・管理契約変更などの手続きを行います。また、入居者との賃貸借契約や各種保険契約など、これまで個人名義で締結していた契約も、法人名義への変更や契約更新を行います。
会社員のアパート経営者も法人化はできる?
普段は会社員として働いているアパート経営者も、会社設立の手続きを行えば法人化することが可能です。
勤務先で副業が制限されている場合でも、不動産投資や相続不動産の運用は、就業規則上「副業」ではなく「資産運用」として扱われるケースがあります。ただし、扱いは企業によって異なるため、勤務先の就業規則を確認することが重要です。
なお、保有物件数や収益規模が大きくなり、勤務先から実質的な事業運営と判断される場合は、勤務先の副業規定に抵触する可能性があります。事業規模を拡大する場合や法人化を検討する場合は、就業規則上の扱いを勤務先に事前確認しておきましょう。
まとめ
法人化してアパート経営を行うことで、資金調達面で有利になったり、相続税対策につながったりする場合があります。
法人化を検討するタイミングの目安としては、所得が増えて税負担が重くなった場合や、事業用賃貸などで課税売上高が1,000万円を超えた場合などです。
ただし、法人化すると、会社設立費用や税務・会計管理などの維持コストが個人事業主より増える傾向があります。アパート経営を法人化するかどうかは、メリット・デメリットを踏まえて慎重に判断しましょう。
自分でかんたん・あんしんに会社設立する方法
会社設立の準備から事業開始までには、多くの書類や手続きが必要になります。書類の転記をするだけでもかなりの時間がかかってしまいます。
freee会社設立は株式会社だけでなく、合同会社の設立にも対応しています。設立件数50,000社以上の実績をもつfreee会社設立なら、初めての方もあんしんしてご利用いただけます。
起業ダンドリコーディネーターが完了までサポートしてくれるからあんしん!
なんとなく会社設立の流れはわかったけど、自分の場合いつまでに何をすればよい?
そんな時は設立サポートのプロ、「起業ダンドリコーディネーター」の活用がおすすめです。専任担当が、あなたのご状況をヒアリングしたうえで、今後のスケジュールをご提案。設立準備から登記後に必要な手続きまでを伴走支援します。
設立手続きに疑問や不安がある方、とにかく早く手続きを進めたい方はもちろん、起業を考え始めた方もご相談可能です。
まずはお気軽に全国対応の無料オンライン面談(初回最大60分)をご予約ください。
入力項目・次にやること、すべて画面上で把握できる
freee会社設立では、必要項目を記入していくだけで会社設立に必要な書類を作成することができます。また、登記の際に必要となる会社印も同時に購入が可能です。
freee会社設立は株式会社だけでなく、合同会社の設立にも対応しています。
会社名や資本金額など必要項目を入力すると、定款(ていかん)をはじめとする会社設立に必要な約10種類の書類を自動で作成します。
<freee会社設立で出力できる書類の一例>
- 定款
- 登記申請書
- 印鑑届出書 など
設立にかかるコストを削減できる
設立費用を削減したい方には電子定款がおすすめです。紙の定款では、収入印紙代40,000円がかかりますが、電子定款ではこれが不要となります。
freee会社設立は電子定款にも対応しており、電子定款作成に必要な機器やソフトの準備なども必要がないため、自分で作成するよりもコストを抑えることができます。
<設立にかかる費用の比較例>
(1)freee会計を年間契約すると、無料になります。
(2)紙定款の印紙代(40,000円)
会社設立の準備を進めながら、バーチャルオフィスの申し込みが可能!
会社設立するためにオフィスの住所が必要になります。
自宅をオフィス代わりにしている場合は、自宅の住所でも問題ありませんが、公開情報となってしまうので注意が必要です。
自宅兼オフィスのように実際の住所を公開したくない場合や、管理者や所有者に物件の法人登記が認められていない場合は、バーチャルオフィスを利用するのがおすすめです。
freee会社設立では、会社設立に必要な書類を無料で作りながら、バーチャルオフィスの申し込みもできます!
まずはこちらからfreee会社設立に無料で登録してみてください!
自分で手続きする時間のない方には「登記おまかせプラン」がおすすめ!
「初めての会社設立で不安」、「自分で手続きする時間がない」という方には、司法書士が手続きまで代行してくれる登記おまかせプランがおすすめです。
設立代行の費用相場は10万円前後ですが、freeeの登記おまかせプランは一律5万円で利用できます。※海外在留者が出資者・役員の場合等の特殊ケースを除く
登記おまかせプランの利用方法等の詳細は、freee会社設立の無料登録が完了後にメールにてご案内します。
会社設立の準備をお考えの方は、ぜひ登録無料のfreee会社設立をお試しください。
よくある質問
法人化はアパートの家賃収入がいくらから検討するべき?
不動産所得などを含めた課税所得が900万円を超える場合は、法人化を検討する目安のひとつです。
詳しくは、記事内「所得額が高額になったタイミング」をご覧ください。
アパート経営を法人化する場合にかかる費用は?
アパート経営を法人化する場合にかかる費用は、会社形態によって異なります。詳しくは、記事内「アパート経営を法人化する場合の会社形態の選び方」をご覧ください。
監修 松浦 絢子弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。
監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。
