起業して法人登記をする場合、登記住所が必要です。そこで、取引上必要になる住所や電話番号だけを格安な費用で借りられるバーチャルオフィスを使うのもひとつの手段です。本記事ではバーチャルオフィスの詳細と、メリットや注意点について、起業支援を行っている中小企業診断士が解説します。

目次
バーチャルオフィスとは?
作業スペースを提供するレンタルオフィスや、コワーキングと異なり、住所や電話番号などの情報のみをレンタルできるサービスです。また付随して、多くのバーチャルオフィス事業者が以下のような機能を無料、もしくは有料のオプションで提供しています。
- ・私書箱
- ・郵便転送
- ・表札
- ・電話転送
- ・電話受付
- ・来客応対
その住所で仕事をしていなくても、日々のビジネスでは困らない体制が整っているといえます。



バーチャルオフィスの使いどころ〜登記や手続きで利用できる
起業をするとなにかと住所が必要になります。たとえば以下のような場面で求められます。
法人登記
法人を設立したら必要になる手続きです。この届け出事項のひとつに、「所在地」が定められています。
名刺・パンフレット・ホームページ
住所や電話番号の掲載がないと、「トラブルの際にどこに連絡するのか」「実態がないのではないか」と取引先や顧客の不安を煽ることにつながります。取引実績が少なく信用も十分でない起業時だからこそ、住所・電話番号の記載が重要です。
特定商取引法
インターネット販売は、特定商取引法の規制を受けます。特定商取引法とは、消費者の利益を守るための法律で、氏名・住所・電話番号の表記が求められています。
銀行口座開設
個人と事業でお金の出入りを分けると、お金の流れが把握しやすくなるため、起業した方には銀行口座を分けることをおすすめしています。バーチャルオフィスを法人口座の開設に利用する場合、審査は厳格ですが、信用に値する健全なビジネスの実態が確認できれば口座開設に至るケースは少なくありません。
許認可・届出
業種によっては許認可や届出がないと事業をできないケースがあり、手続きで住所が必要になります。気をつけたいのは、実態のある住所や、独立した住所が求められる業種ではバーチャルオフィスの住所が利用できないことです。具体的には、
- ・古物商
- ・税理士、弁護士、司法書士
- ・職業紹介業
- ・人材派遣業
- ・建設業
- ・不動産業
- ・探偵業
などがあります。また事務所面積が定められている許認可制度もあります。ご自身の業種でバーチャルオフィスの住所が使えるかどうか、問い合わせた上で契約すると安心です。
バーチャルオフィスの活用例
バーチャルオフィスがどのように活用されているか詳しくみていきましょう。
法人を設立したい

法人を設立すると、法人登記をすることが法律で定められています。これは、法人の信用を維持し、取引先が安心して取引することを目的に、取引に重要な情報を届け出て公開する制度です。
しかし、住居用の賃貸物件では、大家さんが法人登記を認めていない場合があります。また、働き方が多様になった現代では、カフェや旅行先、出張サービスなど一定の場所で仕事をしない方も増えています。
これらの方は、バーチャルオフィスを利用することで、登記の要件を満たすことができます。
自宅でネットショップを開業したい

ショップのページ内に、通常は、個人なら自宅、法人なら登記上の住所を表示するよう特定商取引法で定められています。なお、住所は部屋番号の省略もできません。
これまで、住所貸しの住所記載はNGとの見解が大方を占めており、プライバシーを守りたい方には悩みのタネでした。しかしながら、平成30年6月公表の「特定商取引に関する法律の解説」で「バーチャルオフィスであっても、現に活動している住所といえる限り、法の要請を満たすと考えられる。」と法解釈が明文化されました。
経済産業省が2019年に公表したデータによると、2018年の電子商取引市場は、前年比で法人向け8.1%、個人向け9.0%と堅調な成長を見せています。また、出品手数料無料のショッピングモールや、スマートフォンで手軽に開設できるECサイトも出てきました。
起業支援の現場でも「ネットで物を売りたい」とのご相談が非常に増えています。手軽にショップを開店できる反面、法定事項を守らないと違法になりますので気をつけましょう。
イメージをよくしたい

起業して間もない場合、知名度は低く、取引先や顧客に「XX社といったら、○○」とイメージを想起させるブランディングができていません。住所はビジネスをイメージする上での数少ない情報のひとつであるため、一等地や業態にあった住所のバーチャルオフィスを利用するケースがあります。
想起するイメージは人によりますが、実際に「IT系の同業が多い○○区に変えたら、ホームページからの問い合わせが0から月2〜3件に増えた」というベンチャー企業の事例がありました。ご自身のビジネスのターゲットやお取引先の層を検討した上で、ブランドを構成する要素として積極的に活用するのもよいでしょう。
バーチャルオフィス登記のメリットと注意点〜違法な業者に注意
バーチャルオフィスを利用して登記をすることには、メリットと同時に注意点もあります。それぞれ詳しく解説します。
バーチャルオフィス登記のメリット
登記の際にバーチャルオフィスを利用する主なメリットとして、以下の4点が挙げられます。
プライバシー保護
法人登記の情報は一般公開されるため、自宅の住所や電話番号を登記した場合、自宅に法人向け商材のDMや営業電話がくるようになります。バーチャルオフィスを利用するとプライバシーを守りながら、法人登記ができます。
信用やイメージの向上
取引実績も少なく知名度もないなかで、住所はイメージを左右します。また、新規に取引をする場合や、口座開設や融資審査などでは、Googleストリートビューを確認したり、担当者が現地を視察するケースもあります。立地・外観を含めて、ご自身の業態や事業規模にふさわしい住所を借りられるのは大きなメリットです。
早い
事務所を借りる場合、選定、内見、申し込み、審査、契約と、少なくとも2ヶ月は期間を要します。一方、バーチャルオフィスであれば最短1週間程度で住所を借りることができ、迅速に手続きを進められます。
起業したての頃は、ビジネスを軌道に乗せるまで1人、もしくは少ないスタッフで、本業に注力することが求められます。設立手続きやバックオフィス業務の時間が取れないなかで、法人登記を考える場合は現実的な選択肢といえます。
安い
費用が格安であることも魅力です。レンタルオフィスは月10,000円〜、事務所の賃貸は月数万円〜が相場ですが、バーチャルオフィスは月500円〜と支出が抑えられます。特に起業したてのときは、売上が安定しないことが多く、住所を得るためだけに事務所を借りると、固定費がかかり利益を圧迫します。
固定費を減らす上で、住所貸しサービスに絞り、作業や打ち合わせは自宅にしたり、カフェ、コワーキングのドロップイン、貸し会議室を利用するなど変動費にする工夫も、資金繰りに有効です。
バーチャルオフィスを利用する際の注意点
一方で注意点もあります。法令遵守をせず、違法に運営されているバーチャルオフィスは利用しないようにしましょう。
個人情報保護法
家族になりすました訪問者に、本人の承諾を得ず、無断で自宅住所を教えてしまったという事例がありました。
犯罪による収益の移転防止に関する法律
2008年から契約時に身分証明書の提示が必要になりました。しかし審査が甘く、ほかの契約者により犯罪に使われれば、住所の信用が低下します。
また、違法な運営によりバーチャルオフィスが廃業した場合、住所変更の登記申請が必要です。手間と手数料3万円がかかります。契約前に、ホームページやパンフレット、担当者にヒアリングするなどし、これらの法律の遵守状況を確認しましょう。
バーチャルオフィスの選び方
バーチャルオフィスを選定する場合は、目的や用途によって、以下のポイントを確認します。
レンタルする住所や電話番号が目的に沿っているか
たとえば、融資を受ける目的なのに、住所は人のいない繁華街の雑居ビルで、電話番号は050から始まる場合などは金融機関の信用を得にくいかもしれません。目的を達成できる住所・電話番号であるか確認しましょう。
付随するサービスとプラン
郵便・電話転送や、会議室など付随するサービスを利用することでビジネスが円滑に進む場合があります。たとえば、「郵便物がよく届く」「電話のやりとりが多い」「打ち合わせが必要」な業態は受けられるサービスメニューを確認しましょう。
同じ名前、似た名前の会社がないか
郵便物がバーチャルオフィスに届いた場合、バーチャルオフィス事業者が正しく郵便物を仕分けられない可能性があります。別のバーチャルオフィスを選ぶのが無難です。
マイナスになるような検索結果がないか
過去に犯罪や公序良俗に反するビジネスで利用されていないかを確認します。審査があいまいだと感じたら、特に慎重に検索結果や、審査の考え方・方法を確認しましょう。
アクセスの利便性
バーチャルとはいえ、郵便物の受け取りや、会議室の利用などで実際に足を運ぶこともあります。最寄り駅からの距離や、わかりやすい立地であるかなどを確認しましょう。
外観は問題がないか
会議室を利用したり、不意に取引先が挨拶に来ることも考えられます。汚かったり、散らかっているなど、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)ができていない印象を受ける外観では、信用に関わります。必ず現地を確認しましょう。
格安に利用できるバーチャルオフィスの費用
バーチャルオフィスはいくらぐらいから利用できるのでしょうか。基本的なサービスと費用例は以下の通りです。
住所貸し
例)初期費用0円〜、月額500円〜
基本となるのが、住所のみをレンタルするサービスです。単に「住所を公開したくない」という用途であれば、この機能に絞ることで、格安で利用することができます。
郵便転送
例)従量課金例 1回 実費(82円〜)
実費で対応しているところが多い印象です。月1,500円〜数千円程度で郵便転送と電話転送をパックにしたメニューでは、「月に4回まで」など上限を決めて費用内で提供しているバーチャルオフィス事業者もあります。
電話転送
例)従量課金例 1分あたり42円 / 定額課金例 月3,000円
転送している時間に応じ、課金されるケースがほとんどです。
パック料金
例)月1,500円〜
住所貸し、郵便転送、電話転送を定額パックで提供する事業者もあります。費用は月数千円や10,000円を超えるところもあります。費用を左右する要素は、パックに含まれるメニュー、貸す住所のエリア、電話番号が03か050か、オフィス設備の充実度などです。パックは固定費になる反面、予算は立てやすくなります。売上が安定している業態やステージではパックも検討できるでしょう。
バーチャルオフィスで登記する方法
バーチャルオフィスで法人登記をする場合は、まずバーチャルオフィスを契約した後に、法務局で法人登記を行います。おおまかな流れは以下の通りです。
- バーチャルオフィスの選定
- 申込み
- 審査
- 決済
- 契約手続き完了・住所の連絡
- 法人登記
- バーチャルオフィスへの届け出
住所が利用できるようになるまで、申込みから数日〜1週間程度の期間を要します。審査にあたっては、提出書類をもれなく記載し揃える、マナーをわきまえる、ビジネスの実績を示すなど、信用できる社会人としての振る舞いが重要です。
なお、「法人登記の手続き」は、こちらを参照してください。
まとめ
パソコン1台で仕事ができる時代になり、事務所を借りずに仕事をする方が増えています。信用を得たり、必要な手続きを行う上で、バーチャルオフィスは有効な選択肢のひとつです。ビジネスの戦略に合わせ、積極的に検討しましょう。
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【執筆者】中小企業診断士 渡邉 奈月
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