監修 北田 悠策 公認会計士・税理士
資本剰余金とは、株主から払い込まれた資金のうち「資本金」として組み入れられなかった部分や、自己株式の処分などの資本取引によって生じた剰余金のことです。「資本準備金」と「その他資本剰余金」の2つで構成されます。
資本剰余金のうち「その他資本剰余金」は、分配可能額などの条件を満たす場合、配当原資として利用できる点が特徴です。資本金や資本準備金との違いを理解しておくことで、配当・振替・仕訳の場面で判断しやすくなります。
本記事では、資本剰余金の意味・主な発生要因・資本金や資本準備金との違い・振替手続き・仕訳方法を解説します。
目次
資本剰余金とは
資本剰余金とは、株主から払い込まれた資金のうち「資本金」として組み入れられなかった部分や、自己株式の処分などの資本取引によって生じた剰余金を指します。貸借対照表上では「資本準備金」と「その他資本剰余金」に分けられます。
資本剰余金の主な特徴は以下のとおりです。
資本剰余金の特徴
- 資本取引を通じて発生する
- その他資本剰余金を原資とする配当が行える
資本取引を通じて発生する
資本剰余金は、株主との資本取引から生じる剰余金です。主な発生要因は以下のとおりです。
資本剰余金の主な発生要因
- 設立時・増資時の払込額の一部を資本金に組み入れなかった
- 資本準備金を取り崩してその他資本剰余金に振り替えた
- 自己株式の処分で差益が生じた
- 合併・会社分割などの組織再編に伴い、資本剰余金が生じた
このように、売上や営業活動から生じる利益剰余金とは性質が異なります。
その他資本剰余金を原資とする配当が行える
資本剰余金のうち「その他資本剰余金」は、分配可能額などの条件を満たす場合、配当原資として利用できます。なお、資本準備金を配当原資にするには、所定の手続きを経てその他資本剰余金へ振り替えることが必要です。
通常、株主への配当は利益剰余金を原資として行われます。一方、その他資本剰余金を原資とした配当は、利益剰余金を原資とする配当が難しい場合でも、分配可能額などの条件を満たせば株主に資金を還元することが可能です。
また、利益剰余金からの配当とは異なり、出資の一部を払い戻す性質があります。
資本金・資本剰余金・利益剰余金の違い
資本金・資本剰余金・利益剰余金は、いずれも貸借対照表の「純資産の部」に表示される項目です。いずれも企業の自己資本に関わる項目ですが、発生源や性質が異なります。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 資本金 | 株主が払い込んだ出資金のうち「資本金」として組み入れた部分の金額 |
| 資本剰余金 | 株主からの払い込みや自己株式の処分など、資本取引によって生じた剰余金のうち、資本金として計上されない部分の総額 |
| 利益剰余金 | 企業活動から生じた利益のうち、配当などで社外に流出せず企業内部に留保されている金額 |
なお、資本金・資本剰余金・利益剰余金の合計から自己株式を差し引いた金額を「株主資本」(純資産のうち株主に帰属する部分)といいます。株主資本は、返済義務のない資金で構成されるため、株主資本が大きいほど財務基盤が安定していると判断されやすくなります。
資本準備金と資本剰余金の違い
「資本準備金」は、資本剰余金の一種です。資本剰余金は、以下のように「資本準備金」と「その他資本剰余金」で構成されます。
資本剰余金の計算式
資本剰余金 = 資本準備金 + その他資本剰余金
資本準備金は、株主が払い込んだ出資金のうち「資本金」に組み入れなかった部分であり、会社法で積み立てることが義務付けられている法定準備金です。出資金のうち2分の1を超えない額までは「資本金」に組み入れず、「資本準備金」に計上することが認められています。
資本準備金は、主に将来の資本金への組み入れや欠損填補などに活用されます。一方、その他資本剰余金は、資本取引から生じた剰余金のうち、資本準備金以外のものです。
資本剰余金と資本準備金の違いは以下のとおりです。
| 項目 | 資本剰余金 | 資本準備金 |
|---|---|---|
| 意味 | 資本取引によって発生する剰余金の総称 | 資本剰余金のうち会社法に基づき積み立てられる法定準備金 |
| 関係性 | 資本準備金を含む | 資本剰余金に含まれる |
| 主な発生要因 | 設立・増資時の払い込み、自己株式の処分差額など | 設立・増資時の払込額のうち、資本金に組み入れなかった部分 |
| 配当・取り崩し | その他資本剰余金は配当原資にできる場合がある | 資本準備金は、直接は配当原資にはできず、取り崩しや振替に一定の手続きが必要 |
資本剰余金が多い・少ない企業の特徴
資本剰余金は、企業の資本取引の状況を把握する手がかりになります。増資・自己株式の処分・組織再編などの影響が反映されるため、資金調達の方針や資本政策を確認する際にも役立ちます。
| 区分 | 主な特徴 |
|---|---|
| 資本剰余金が多い企業 | ・増資・自己株式の処分・組織再編など、資本取引の影響が大きい ・その他資本剰余金を活用した配当や資本政策の選択肢がある |
| 資本剰余金が少ない企業 | ・資本取引による影響が比較的小さく、利益剰余金などほかの純資産項目の比重が大きい傾向がある |
資本剰余金は、多ければよいとは限りません。その他資本剰余金を活用した配当や資本政策の選択肢がある一方で、増資による株式の希薄化などが生じている場合もあります。
そのため、金額だけで判断せず、増減の理由やほかの純資産項目との関係もあわせて確認することが重要です。
その他資本剰余金を原資とする配当手続き
剰余金の配当を行う際は、原則として株主総会の普通決議が必要です。決議事項は以下のとおりです。
剰余金の配当を行う際の決議事項
①配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く)および帳簿価額の総額
②株主に対する配当財産の割当てに関する事項
③当該剰余金の配当がその効力を生ずる日
ただし、一定の条件を満たす会計監査人設置会社が定款で定めている場合は、取締役会の決議によって配当を行えます。
なお、剰余金の配当は分配可能額※の範囲内で行う必要があります。また、効力発生日における株式会社の純資産額が300万円を下回る場合は、剰余金の配当を行えません。
※分配可能額とは、債権者保護のために定められた剰余金による分配の上限額のことで、剰余金の額に一定の金額を増額・減額することで算出されます。
資本金・資本準備金・資本剰余金の振替手続き
資本金・資本準備金・資本剰余金を振り替える際は、会社法に基づく決議や債権者保護手続きが必要になる場合があります。
主な振替手続きは以下のとおりです。
資本金・資本準備金・資本剰余金の振替手続き
- 資本準備金を増やす
- その他資本剰余金を増やす
- 資本準備金を取り崩す
- その他資本剰余金を取り崩す
決議方法や債権者保護手続きの要否は、振替の内容によって異なります。手続きに不備があると、効力発生や登記に影響する可能性があるため、各ケースの要件を確認しておくことが重要です。
資本準備金を増やす場合
資本準備金は、資本金またはその他資本剰余金から振り替えることで増加させることが可能です。必要な決議や手続きは、振替もとによって異なります。
その他資本剰余金から振り替える場合は、株主総会の普通決議によって行います。
一方、資本金から振り替える場合は、原則として株主総会の特別決議に加え、債権者保護手続きが必要です。債権者保護手続きでは、資本金等の額を減少させる内容や、債権者が一定期間内に異議を述べられる旨などを官報で公告します。
また、会社が把握している債権者には個別に通知し、1ヶ月以上の異議申述期間を設けます。債権者が異議を述べた場合は、当該債権者を害する恐れがある場合に限り、弁済・担保提供・財産の信託などの対応が必要です。
加えて、資本金の額は登記事項にあたるため、資本金を減少させた場合は、効力発生日から2週間以内に法務局で変更登記を行う必要があります。
その他資本剰余金を増やす場合
その他資本剰余金は、資本金や資本準備金からの振替によって増加させることが可能です。資本金から振り替える場合は株主総会の特別決議、資本準備金から振り替える場合は普通決議によって行います。
また、資本金または資本準備金を減少させるため、原則として債権者保護手続きが必要です。資本金を減少させた場合は、効力発生日から2週間以内に法務局で変更登記を行う必要があります。
資本準備金を取り崩す場合
資本準備金を取り崩すには、原則として株主総会の普通決議に加え、債権者保護手続きが必要です。
株主総会では、減少する準備金の額、準備金の額の減少の効力発生日などを決議します。減少する準備金の全部または一部を資本金とする場合は、その旨と資本金に組み入れる額も決議事項です。
ただし、一定の条件を満たす場合は、取締役会の決議によって資本準備金を取り崩せるケースもあります。
その他資本剰余金を取り崩す場合
その他資本剰余金を資本金や資本準備金に振り替える際には、株主総会の普通決議が必要です。具体的には以下の事項を決議します。
その他資本剰余金を取り崩す場合の決議事項
- 減少するその他資本剰余金の額
- 資本金または資本準備金の額の増加がその効力を生ずる日
また、損失の処理を目的として、一定の範囲でその他資本剰余金からその他利益剰余金へ振り替えられる場合があります。
資本剰余金の仕訳方法
資本剰余金が増減する場合は、「資本準備金」や「その他資本剰余金」の勘定科目を用いて仕訳を行います。
例:その他資本剰余金のうち50万円を配当金の原資とした
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| その他資本剰余金 | 500,000円 | 未払配当金 | 500,000円 |
例:会社設立にあたって1,000万円の払い込みがあり、そのうち500万円を資本金に組み入れないこととした
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 10,000,000円 | 資本金 | 5,000,000円 |
| 資本準備金 | 5,000,000円 | ||
例:自己株式150万円を100万円で売却し、現金で受け取った
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 現金 | 1,000,000円 | 自己株式 | 1,500,000円 |
| その他資本剰余金 | 500,000円 | ||
まとめ
資本剰余金とは、株主から払い込まれた資金のうち「資本金」として組み入れられなかった部分や、自己株式の処分などの資本取引によって生じた剰余金です。資本準備金とその他資本剰余金の2つで構成されます。
資本金や資本準備金をそのまま配当原資にすることはできないものの、その他資本剰余金は分配可能額などの条件を満たす場合に配当原資として利用できます。
資本剰余金は、配当・振替・仕訳などの場面で扱いが異なるため、資本金・資本準備金・利益剰余金との違いを押さえることが重要です。
配当・振替・仕訳を行う際は、資本剰余金の種類・必要な手続き・会計処理の方法を確認したうえで対応しましょう。
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よくある質問
資本剰余金とは何?
資本剰余金とは、株主から払い込まれた資金のうち「資本金」として組み入れられなかった部分や、自己株式の処分などの資本取引によって生じた剰余金を指します。
詳しくは、記事内「資本剰余金とは」をご覧ください。
資本剰余金はいつ発生する?
資本剰余金は、設立時や増資(新株発行)時のほか、資本準備金の取り崩しや自己株式の処分などの資本取引時にも発生します。
詳しくは、記事内「資本取引を通じて発生する」をご覧ください。
参考文献
監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。
