令和8年4月28日に厚生労働省告示第202号・第203号が公布され、同一労働同一賃金ガイドラインの見直しが令和8年10月1日に施行されます。改正は雇い入れ時の労働条件明示事項の追加・同一労働同一賃金ガイドラインの改正・雇用管理改善措置内容の改正の3本柱です。
本記事では、告示の中身・家族手当・住宅手当の判断基準・待遇差の説明責任・10月までのロードマップ・freee人事労務での実務対応までを扱います。
目次
- 改正の3本柱|2026年10月1日施行の告示202号・203号の中身
- ①雇い入れ時の労働条件明示事項の追加
- ②同一労働同一賃金ガイドラインの改正
- ③雇用管理改善措置内容の改正
- 家族手当・住宅手当の判断基準が明確化される
- 改正前の判断あいまいポイント
- 改正後の整理:支給目的に応じた判断
- 自社の支給基準を見直すチェックリスト
- 待遇差の説明責任|雇い入れ時に明示する事項
- 「待遇差の説明を求めることができる」旨の明示義務(見込み)
- 労働条件通知書の改訂ポイント
- 説明を求められた時の実態に基づく対応
- 10月施行までのロードマップ
- 5月〜6月:自社の待遇差を洗い出す
- 7月〜8月:就業規則・賃金規程の改訂
- 9月〜10月:労働条件通知書の改訂と従業員周知
- freee人事労務での従業員情報・賃金体系の整備
- 雇用形態・職務内容・配置変更範囲のデータ整備
- 賃金台帳・給与明細・賞与明細の出力
- 労働条件通知書の改訂・電子交付
- よくある質問
改正の3本柱|2026年10月1日施行の告示202号・203号の中身
令和8年4月28日公布・令和8年10月1日施行の改正は、3つの告示・指針見直しから構成されています。すべての事業所が対象で、直接的な罰則は規定されていませんが、対応不十分の場合は労使トラブル・訴訟・企業評価低下のリスクがあります。
①雇い入れ時の労働条件明示事項の追加
雇い入れ時に明示すべき労働条件の項目が追加される見込みです。「正社員との待遇差について説明を求めることができる」旨を労働条件通知書に記載する方向で整備が進んでいます。
改正後は、新たに雇い入れるパート・有期雇用労働者に対して、待遇差説明請求権の存在を事前に明示することが求められる構図です。
②同一労働同一賃金ガイドラインの改正
告示第203号は「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針の一部を改正する件」です。同一労働同一賃金ガイドライン本体の改正で、家族手当・住宅手当について待遇差を設ける際の考え方がより明確化されます。
パート・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇差の禁止)・第9条(差別的取扱いの禁止)の枠組み自体は維持され、その運用指針が補強される設計です。労使トラブル防止の観点では、改正労働安全衛生法対応と同様に、就業規則・労働条件通知書の整備が中心となります。
③雇用管理改善措置内容の改正
告示第202号は「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針の一部を改正する件」です。短時間労働者・有期雇用労働者の雇用管理改善等について、事業主が講ずべき措置の内容が見直されます。
3本柱を整理すると、明示事項の追加・ガイドラインの改正・雇用管理改善措置の改正が並行して施行される構図です。
家族手当・住宅手当の判断基準が明確化される
ガイドラインの中で特に実務影響が大きいのが、家族手当・住宅手当の判断基準の明確化です。これまであいまいだった判断軸が整理され、企業の対応が求められます。
改正前の判断あいまいポイント
改正前のガイドラインでは、家族手当・住宅手当について「支給目的に応じて判断する」とされていましたが、判断基準があいまいで人事担当者が対応に迷う場面が多くありました。
過去の判例でも判断が分かれたケースがあり、企業側に明確な指針が求められていた経緯があります。
改正後の整理:支給目的に応じた判断
改正後は、家族手当・住宅手当について「生活保障」目的か「業務遂行への補填」目的かを整理し、支給目的に応じた判断基準が示されます。単に「正社員だから」「非正規だから」という理由で差を設けることは不合理として扱われる可能性が高くなる方向です。
家族手当を生活保障目的で支給している場合、扶養家族の有無や扶養人数で差を設けることは合理的ですが、雇用形態だけで差を設けることは合理性を欠くという整理になります。
自社の支給基準を見直すチェックリスト
自社の家族手当・住宅手当を見直す際は、支給目的の明文化から始めます。
家族手当・住宅手当の見直しチェック
- 各手当の支給目的を明文化(生活保障/業務遂行補填)
- 正社員・非正規での目的の同一性/差異の整理
- 待遇差がある場合の合理的理由の整理(職務内容・配置変更範囲・その他事情)
- 支給基準を就業規則・賃金規程に明記
- 過去の判例との整合性確認
差を設ける場合は、職務内容(業務の内容・責任の程度)、配置変更範囲(転勤・部署異動の有無)、その他事情の3要素のうちどれが根拠となるかを整理する必要があります。
待遇差の説明責任|雇い入れ時に明示する事項
パート有期法第14条で既に存在する待遇差説明義務に加えて、雇い入れ時の事前明示が義務化される方向です。労働条件通知書の改訂が必要になります。
「待遇差の説明を求めることができる」旨の明示義務(見込み)
労働条件通知書に「正社員との待遇差について説明を求めることができる」旨を記載することが求められる見込みです。厚労省のモデル労働条件通知書も改訂対象に含まれており、企業はこれを参考に自社の通知書を整える流れになります。
明示の具体的な細則は厚労省の運用通達等で確定する部分があるため、施行直前の最新情報確認が必要です。
労働条件通知書の改訂ポイント
既存の労働条件通知書との差分を整理し、新明示事項を追記します。記載例として「待遇差の内容や理由について、いつでも事業主に説明を求めることができます」といった表現が想定されます。
既に雇用している労働者への対応については、雇い入れ時のみが対象か、改正後の最初の労働条件変更時か、全員に再交付するかの運用方針を社内で決める必要があります。
説明を求められた時の実態に基づく対応
実際に従業員から待遇差の説明を求められた場合は、「なぜ差があるのか」を実態に基づいて説明できる体制が必要です。職務内容・配置変更範囲・その他事情の3要素を整理した説明資料を準備しておく形が望ましい運用です。
労使トラブル時の判断は過去の判例(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件、メトロコマース事件等)が参考になります。
10月施行までのロードマップ
施行日から逆算すると、5-6月は待遇差洗い出し、7-8月は規程改訂、9-10月は通知書改訂と従業員周知という3段階で進めるのが現実的です。
5月〜6月:自社の待遇差を洗い出す
最初のステップは、正社員と非正規(パート・有期雇用労働者・派遣労働者)の雇用形態・職務内容・配置変更範囲を棚卸しすることです。賃金体系・諸手当の支給基準を一覧化し、各手当の支給目的を明文化します。
家族手当・住宅手当・通勤手当・役職手当・退職金・賞与など、待遇差が存在する項目をすべて洗い出すのがこの段階のゴールです。
7月〜8月:就業規則・賃金規程の改訂
待遇差の洗い出し結果を踏まえて、就業規則・賃金規程の改訂条文を特定します。労使協議が必要な場合は協議の進め方を整理し、改訂手続き(労使代表者からの意見聴取・労基署への届出)を計画します。
10人以上の事業所では、改訂版の就業規則を労基署へ届け出る義務があります。労働者代表の意見書も合わせて準備する必要があります。
9月〜10月:労働条件通知書の改訂と従業員周知
厚労省モデル労働条件通知書(公式PDF)を参考に、自社の労働条件通知書を改訂します。既雇用者への新通知書再交付が必要な場合は、配布記録を残します。
従業員向けの説明会・FAQ整備も合わせて行うと、施行後の問い合わせ対応がスムーズになります。
freee人事労務での従業員情報・賃金体系の整備
freee人事労務では、従業員の雇用形態、雇用契約情報、業務内容、職種、等級、基本給・手当、給与明細、賞与明細などを管理できます。
待遇差の説明や労働条件通知書の改訂に備えるには、これらの情報を整理し、必要に応じて配置変更範囲や転勤・異動範囲の情報も補完しておくことが重要です。
雇用形態・職務内容・配置変更範囲のデータ整備
従業員情報では、雇用形態、職種、等級、基本給、勤務・賃金設定などを確認します。職務内容は、雇用契約情報の「業務内容」に登録でき、freeeサインと連携して雇用契約書を作成する場合は、登録した雇用契約情報を文書作成時に反映できます。
一方で、配置変更範囲や転勤・部署異動の有無は、freee人事労務の標準項目として一律に管理できるとは限りません。必要に応じて、従業員カスタム項目や雇用契約書テンプレート上の記載項目として管理します。
職務内容は、業務の内容と責任の程度が分かるよう具体的に整理します。配置変更範囲は、「全事業所への転勤あり」「特定エリア内で異動あり」「職種変更なし」「就業場所・業務の変更なし」など、実態に合わせて区分しておくと、待遇差の説明や労働条件明示に活用しやすくなります。
賃金台帳・給与明細・賞与明細の出力
freee人事労務では、賃金台帳・給与明細一覧表・賞与明細一覧表などを出力できます。これらのデータを使えば、各従業員の月次賃金、諸手当、賞与支給額を確認できます。
家族手当、住宅手当、役職手当、賞与などは、雇用形態別・職務内容別に整理しておくと、待遇差の内容を説明する際の基礎資料になります。たとえば、正社員と短時間・有期雇用労働者で手当の支給有無や金額に差がある場合、その差が職務内容、責任の程度、配置変更範囲などに基づくものかを確認しやすくなります。
ただし、freee人事労務が待遇差の理由まで自動で説明資料化するわけではありません。出力した賃金データをもとに、会社側で待遇差の内容と理由を整理する必要があります。
労働条件通知書の改訂・電子交付
2024年4月から、労働条件明示のルールが改正され、すべての労働者に対して、就業場所・業務の変更範囲の明示が必要になりました。有期契約労働者については、更新上限の有無と内容、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件などの明示も必要です。
そのため、労働条件通知書や雇用契約書のテンプレートには、雇入れ直後の就業場所・業務だけでなく、将来的な変更の範囲も記載できるようにしておきます。freee人事労務とfreeeサインを連携すれば、freee上の従業員情報や雇用契約情報をもとに、雇用契約書などの文書を作成できます。
なお、労働条件通知書を電子メール等で交付する場合は、労働者本人が電子交付を希望していることを確認する必要があります。電子交付を行う場合は、本人の希望確認、送付状況、合意状況を後から確認できるように管理しておきます。
施行日前後で雇い入れる労働者や、契約更新を行う有期雇用労働者については、改訂後の労働条件通知書・雇用契約書テンプレートを使う運用に切り替えます。
よくある質問
パート・有期社員が複数の事業所で勤務する場合の待遇差判断は?
待遇差の判断は事業主単位で行います。同じ事業主の中で雇用形態の異なる労働者間で比較する設計のため、別事業主に雇用されている労働者との比較は対象外です。
詳しくは「家族手当・住宅手当の判断基準が明確化される」で解説しています。
派遣労働者の待遇差は派遣元・派遣先どちらの責任?
派遣労働者の待遇差については、派遣元事業主が労使協定方式または派遣先均等・均衡方式のいずれかを選択して対応する仕組みです。派遣先には、自社の比較対象労働者の待遇情報を派遣元に提供する義務があります。
詳しくは「改正の3本柱|2026年10月1日施行の告示202号・203号の中身」で解説しています。
業務委託契約者は同一労働同一賃金の対象になるか?
業務委託契約者は労働者性が否定される場合、同一労働同一賃金の対象外です。ただし、実態が労働者と変わらない場合は労働者性が肯定され、対象となる可能性があります。
詳しくは「改正の3本柱|2026年10月1日施行の告示202号・203号の中身」で解説しています。
