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多様な正社員制度とは? 事例や導入するメリット、正社員との違いを解説

公開日:2023/10/26

監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP

多様な正社員制度とは? 事例や導入するメリット、正社員との違いを解説

多様な正社員制度とは、勤務地や勤務時間、職務内容を限定した正社員に関する制度です。多様な正社員制度の概要事例メリットなどを解説します。

近年、労働人口の減少から、人材確保は喫緊の課題です。多様な正社員制度は多元的な働き方に対応する雇用のあり方のひとつで、人材の確保や定着につながります。

多様な正社員制度の事例やメリットを知り、採用活動や人事労務管理に役立てましょう。

目次

多様な正社員制度とは

多様な正社員制度とは、従来の「いわゆる正社員」と比較し、勤務地や労働時間、職務内容などが限定された正社員に関する制度です。

「いわゆる正社員」とは、勤務地・職務・勤務時間のいずれも限定されていない正社員のことです。

多様な正社員の例には、以下3つの正社員が挙げられます。

名称内容
勤務地限定正社員転居を伴う転勤がない、転勤するエリアが限定されている、転勤がない正社員
職務限定正社員職務や職種、業務の範囲がほかの業務と区別され、一定の職務内で仕事をする正社員
勤務時間限定正社員(短時間正社員)フルタイムの正社員より所定労働時間や所定労働日数が少ない、または残業がない正社員
出典:厚生労働省「「多様な正社員」制度に係る調査研究・導入支援等事業」

限定の仕方は、法的に定められているわけではありません。業種や業態により、さまざまな限定の仕方が認められています。

なお、「いわゆる正社員」と「多様な正社員」は「労働契約の期間の定めがない」「企業の直接雇用である」点は共通です。

つまり「正社員」であることには変わりなく、一定の範囲で限定がある正社員が「多様な正社員」と呼ばれます。

近年、パートタイマーやアルバイト、派遣社員など非正社員で働く人は日本の雇用者全体の約4割です。

多様な正社員は、正社員と非正社員の間をうめる働き方として注目されています。

多様な正社員制度の事例

多様な正社員制度は、すでに多くの企業で導入されています。以下、事例をもとに多様な正社員制度の実態を見ていきましょう。

育児や介護の就労支援で活用している事例

ある大手百貨店では、育児や介護、副業の就労支援を目的として短時間正社員制度を導入しました。

この企業の短時間正社員は、1日あたり勤務時間が5~6時間45分、1週間の勤務日数は4~5日程度に限定されています。

また、育児の場合は生後1ヶ月から小学校4年生になるまで、回数の上限なく制度の利用が可能です。介護の場合は介護をする家族1人につき通算3年までと設定し、多様な働き方推進のために導入されています。

この企業では、1986年の早い段階から育児休職制度や女性再雇用制度の整備を行い、その一環で短時間正社員制度を導入しました。

導入の結果、人材の採用活動・離職率ともに良好な成績が得られています。

地域密着型の店舗づくりに活用している事例

ある飲食チェーン企業では、勤務地限定正社員制度を導入しました。

全国異動ありの正社員と、勤務地限定の正社員の2つの正社員ルートを用意しています。

地域の情報をもち、店舗での経験豊富なパートタイマーやアルバイトを勤務地限定社員とし、店舗の運営などを任せました。そうすることで、地域密着型の店舗づくりを行っています。

技術職の人材確保に活用している事例

ある広域森林組合では、技術職に職務限定正社員制度を導入しています。

従来、この森林組合では、木材の製材業務や丸太の保管・管理業務などの技術職は、非正規雇用が主流でした。

しかし、非正規雇用の社員は1~2年の有期雇用契約であることから、将来の雇用に不安を感じて離職率が高い実態がありました。

そこで契約社員も6ヶ月以上の雇用が見込まれる場合、本人の希望で職務限定正社員に転換できる制度を導入しています。

多様な正社員の組み合わせを実践している事例

ある飲食チェーン企業では、「エリア限定社員」「店舗限定社員」「日時限定社員」の3つの多様な正社員制度を導入しています。

この企業の正社員は全国規模の異動とフルタイム勤務が前提で、主婦層や非正規雇用からの正社員登用が難しい背景がありました。

勤務地や勤務時間を限定する多様な正社員制度により、正社員の間口を広げた結果、幅広い層の人材の確保が期待されています。

多様な正社員制度を導入するメリット

事例で紹介したように、多様な正社員制度には複数のメリットが挙げられます。主なメリットは以下の3つです。

多様な正社員制度のメリット

● 人材の確保や定着に役立つ
● 多様な人材へ対応できる
● 地域密着の事業展開やスキル・ノウハウの蓄積に役立つ
各メリットの詳細を解説します。

人材の確保や定着に役立つ

多様な正社員制度を導入すると人材の確保や定着に役立ちます。

多様な正社員制度のもとでは、「全国転勤のない正社員」や「短時間就業の正社員」が可能です。

採用活動の際に、勤務地限定や地元志向、短時間勤務などさまざまなニーズをもつ求職者へアプローチできます。

また、経験をもつ非正規雇用の従業員が雇用の安定を求めて離職してしまう場合も、多様な正社員制度はその受け皿となり得ます。

近年は労働市場が売り手市場となっており、非正規雇用の人材の確保も簡単ではありません。

多様な正社員制度の導入は、業務上で必要な人材の獲得や補充に貢献します。

多様な人材へ対応できる

近年、働く人材は多様化しています。ワーク・ライフ・バランスを重視する人や育児・介護・高齢・持病などとの両立を図る人、転勤の難しいキャリア志向の人などです。

多様な正社員制度を導入すると、勤務地や勤務時間、職務などを柔軟に設定できます。多様化した人材へも対応しやすくなる点は、大きなメリットです。

地域密着の事業展開やスキル・ノウハウの蓄積に役立つ

勤務地限定正社員制度の活用などにより、店舗のベテランの非正規雇用従業員を正社員へ転換しやすくなります。

各地域の風土や環境に慣れ親しんだ正社員を登用できるため、地域密着型の事業展開に有効です。

また、非正規雇用の従業員が多い場合、技能の蓄積が進まないケースが想定されます。多様な正社員制度は長期雇用が可能なため、スキルやノウハウの蓄積や承継にも有用です。

多様な正社員制度を導入するデメリット

多様な正社員制度は人材の確保や多様な人材の対応などでメリットのある制度です。

一方、導入にはいくつかのデメリットが挙げられます。

多様な正社員制度を導入するデメリット

● 人事労務管理が複雑になる
● 業務内容や処遇のバランスが難しい
以下では、2つの視点から導入のデメリットを解説します。

人事労務管理が複雑になる

多様な正社員は、従業員ごとに「勤務時間」や「勤務地」「職務」などを限定します。

そのため、丁寧な制度設計が必要となり、人事制度設計に負担がかかる場合のある点に注意が必要です。

また、通常の正社員雇用と比較すると、勤怠や給与計算、社会保険などの労務管理も複雑化する可能性も想定されます。

業務内容や処遇のバランスが難しい

「転勤しない」「残業しない」多様な正社員と、いわゆる正社員では業務内容や勤務体系に違いが生じます。

負担に差があるにもかかわらず、賃金や労働条件が変わらない場合、いわゆる正社員から不満が出るケースもあるでしょう。

逆に、「転勤しない」いわゆる正社員がいる場合に、勤務地限定正社員に処遇格差を設けてしまうと、不公平感が出てしまいます。

多様な正社員といわゆる正社員の業務内容や処遇に差をつけるのか、つける場合はどのように行うのかは、慎重な対応が必要です。

多様な正社員制度を導入するポイント

多様な正社員制度を導入する際の主なポイントとしていくつか項目があります。

多様な正社員制度導入のポイント

● 限定する内容を明示する
● 多様な正社員への転換制度をつくる
● 賃金や昇進・昇格、解雇などの制度設計をする
● 多様な正社員の人材育成・キャリア形成制度を検討する
多様な正社員制度を導入する際は、勤務地・職務・勤務時間など限定する内容を具体的に定め、就業規則や辞令などで明示しましょう。

具体的には、雇用区分や詳細な条件(職務や勤務地の制約など)を就業規則に明記し、労働契約書などで従業員に明確に伝える方法があります。

そのほか、「非正規雇用から多様な正社員」「多様な正社員からいわゆる正社員」への転換制度の整備も大切です。

組織内の賃金体系や昇進・昇格のルールを公平に構築し、従業員のモチベーションを維持する必要があります。

また、多様な正社員の成長とキャリア形成をサポートするための教育・研修や、キャリアパスの設計も求められるでしょう。

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まとめ

多様な正社員制度は、職務内容や勤務地、労働時間などを限定して選択できる制度で、近年さまざまな企業に導入されています。

多様な正社員制度は人材の確保や定着、多様な人材への対応などに役立ちます。一方で、人事労務管理が複雑になることなどがデメリットです。

人事労務管理の複雑化を避けるには、人事労務管理をサポートするツールが有効です。

便利な機能をもつツールを上手に活用しつつ、多様な正社員制度の導入を検討してみましょう。

よくある質問

多様な正社員制度とは?

多様な正社員制度とは、勤務地や勤務時間、職務内容などを限定的に選択できる正社員制度です。

多様な正社員制度を詳しく知りたい方は「多様な正社員制度とは」をご覧ください。

多様な正社員制度を導入するメリットは?

多様な正社員制度の導入には、以下のメリットが挙げられます。

多様な正社員制度のメリット

● 人材の確保や定着に役立つ
● 多様な人材へ対応できる
● 地域密着の事業展開やスキル・ノウハウの蓄積に役立つ
メリットを詳しく知りたい方は「多様な正社員制度を導入するメリット」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史