公開日:2023/08/29
監修 松浦 絢子 弁護士
資金決済法は、資金決済に関するサービスの促進による利便性の向上や、利用者保護のために2010年から施行された法律です。
マネロン対策の強化などを目的に、ステーブルコインやコード決済などについて2023年6月から改正資金決済法が施行されました。
本記事では、資金決済法の概要と改正内容を説明します。改正内容を正しく理解し、必要な手続き・体制を整えましょう。
目次
資金決済法とは
資金決済法(資金決済に関する法律)とは、資金決済に関するサービスの促進による、利便性向上や利用者保護のため法律です。2010年4月1日に施行されました。同法律では、電子マネーや商品券、アプリ決済サービスなどについて規定されています。
現行の資金決済法の規制内容
● 暗号資産● 前払式支払手段
● 資金移動(為替取引)
(※)改正資金決済法の正式名称は、安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律です。
資金決済法改正の背景
社会全体が急速にデジタル化するなかで、金融のデジタル化も進んでいます。イノベーションを促進しつつ、適切な利用者保護やマネーローンダリング対策を行うために、これまでも制度整備が進められてきました。(※1)
2023年6月に施行された改正資金決済法は、金融のデジタル化に対応し、安定的・効率的な制度を構築することを目的としています。(※2)改正の主な背景は、以下の3つです。
資金決済法改正の背景
1. 海外での電子的支払手段(ステーブルコイン)の発行・流通が増加している2. 銀行などの取引モニタリングの実効性向上の必要性が高まっている
3. 高額で価値の電子的な移転が可能な前払式支払手段が広がっている
(※1)マネーローンダリングとは、犯罪によって得た収益の出所や所有者が分からないようにし、検挙などを逃れようとする行為です。
(※2)改正資金決済法の正式名称は、安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律です。
【2023年】資金決済法の改正内容・ポイント
2023年6月に施行された資金決済法の改正内容は、大きく3つです。
資金決済法の改正内容
1. 電子決済手段等(ステーブルコイン)の規制2. マネロン共同監視システムに許可制の導入
3. 高額のチャージや移転が可能な電子マネーのマネロン対策
電子決済手段等(ステーブルコイン)の規制
今回の改正では、デジタルマネー類似型のステーブルコインに関して規制が設けられました。
ステーブルコインとは、価格が安定するように設計された暗号資産の一種で、大きく2つに分けられます。
デジタルマネー類似型 | 法定通貨の価値と連動した価格で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの |
暗号資産型 | デジタルマネー類似型以外(アルゴリズムで価値の安定を試みるものなど) |
海外でのステーブルコインの利用が急速に広まっているなかで、詐欺やマネーローンダリングのリスクが高まり、規制の必要性が議論されてきました。
そこで、デジタルマネー類似型のステーブルコインを「電子決済手段等」とし、適正な業務運営を確保するため発行者と仲介者が明確に定義されました。
ステーブルコインの規制内容
● 発行者を銀行、資金移動業者、信託会社に限定する● 仲介者は「電子決済手段等取引業者」と定義して登録制を導入し、業務・検査・監督
● 規定を設ける
マネロン共同監視システムに許可制導入
金融機関から委託を受け、為替取引分析業者には取引モニタリング・取引フィルタリングを行う業務に対し、許可制が導入されました。
取引モニタリング | 取引に疑わしい点があるかどうかを分析し、その結果を金融機関に通知する |
取引フィルタリング | 顧客が経済制裁対象者に該当するかどうかを分析し、その結果を金融機関に通知する |
一般的に、マネーローンダリングなどの犯罪は対策が不十分な金融機関が狙われやすいとされています。こうした背景から業界全体でのより高い水準での対策を行うため、「AML/CFT」の共同化に向けた動きが進められてきました。(※)
今回の改正は、金融庁による検査・監督の実施によって、適正な業務運営を確保することを目的としています。
(※)マネーローンダリング及びテロ資金供与対策(AML/CFT)
高額のチャージや移転が可能な電子マネーのマネロン対策
高額のチャージや移転が可能な前払式支払手段の発行者に対して、犯収法の本人確認などが義務付けられました。
前払式支払手段は、発行者があらかじめお金を受け取り、利用者が商品やサービスの支払いに使用するために発行される支払手段です。具体的には商品券や電子マネーなどが該当します。
通常の前払式支払手段は払戻しが原則禁止され、マネーロンダリングのリスクが限定されています。そのため犯収法上の本人確認も義務付けられていません。 しかし近年、電子マネーの急速な普及で、マネーローンダリングに悪用される事例が増えています。
以上の背景から、特にリスクが高い「高額電子移転可能型前払式支払手段」の発行者に対して2つのルールが設けられました。
高額電子移転可能型前払式支払手段の規制内容
1. 業務実施計画の届出を求める2. 犯収法(犯罪収益移転防止法)にもとづく本人確認等の規律を適用する(※1)
第三者型前払式支払手段である | 発行者以外の商品・サービス提供者(加盟店)でも使用できる |
アカウントで残高管理できる | 繰り返しチャージが行えるアカウントで管理される |
価値を電子的に移転できる | ①残高譲渡型 ②番号通知型 ③②に準ずるもの(国際ブランドのプリペイドカードなど) |
譲渡額が高額である | ● 1回あたりの譲渡額・チャージ額が10万円超 ● 1ヶ月あたりの譲渡額・チャージ額が30万円超 |
「残高譲渡型」にはPayPayなどのコード決済、「番号通知型」にはAmazonギフト券などが該当します。
交通系ICカードやアカウント残高を譲渡できないものは、電子移転可能型には該当しません。
(※1)犯罪収益移転防止法では、犯罪による収益の移転を防止するため、特定の取引を行う際に本人確認の実施が義務付けられています。
資金決済法の改正により企業が対応するべきこと
各企業には、資金決済法の改正にあわせた適切な事業運営が求められるようになりました。今回の改正に対して企業が対応すべきことを解説します。
資金決済法の改正に対して企業が対応すべきこと
● 資金決済法の改正内容を正しく把握する● 必要な手続きを行う
● コンプライアンスの体制を整える
資金決済法の改正内容を正しく把握する
改正資金決済法では、ステーブルコイン・高額電子移転可能型前払式支払手段・為替取引分析業について、新たなルールが設けられました。法令違反とならないよう、改正内容を正しく理解しましょう。
一般社団法人日本資金決済業協会では、改正資金決済法のセミナーや実務担当者向け研修会が実施されています。
必要な手続きを行う
各企業は、資金決済法の改正にあわせて必要な手続きをしなくてはなりません。
たとえば、ステーブルコインの仲介者は、「電子決済手段等取引業者」として登録を受ける必要があります。登録申請書に必要事項を記入し、内閣総理大臣に提出しましょう。
登録申請書の主な記載事項
● 商号・住所● 資本金の額
● 営業所の名称・所在地
● 取締役・監査役の氏名・会計参与の氏名または名称
● 業務の種別
● 取り扱う電子決済手段の名称
● 電子決済手段等取引業の内容・方法
また、前払式支払手段発行者が高額電子移転可能型前払式支払手段を発行する際は、あらかじめ業務実施計画の提出が必要です。
コンプライアンスの体制を整える
改正にあわせて、社内規程・マニュアルの改定や業務フローの変更も行いましょう。コンプライアンス研修などによる従業員への周知も必要です。
たとえば内閣総理大臣の登録を受けずに第三者型前払式支払手段の発行業務を行うと、法令違反となります。また、規定を遵守するために必要な体制の整備が行われていない法人は登録ができません。
資金決済法に違反してしまうと、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられます。
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まとめ
デジタル化のなかで適切な利用者保護やマネロン対策を行うため、2023年6月1日から改正資金決済法が施行されています。
改正によって、ステーブルコインが電子決済手段等として規制の対象になりました。また、マネロン対策強化のため、高額のチャージや移転が可能な電子マネーについて本人確認が義務化されています。
資金決済法を正しく理解し、法令違反とならないよう適切な手続きや社内整備を行いましょう。
よくある質問
資金決済法とは?
資金決済法は、資金決済に関するサービスの促進による利便性向上や利用者保護のため、2010年4月1日に施行された法律です。
資金決済法の概要を詳しく知りたい方は「資金決済法とは」をご覧ください。
資金決済法の改正内容は?
資金決済法の改正点は、大きく以下の3つです。
資金決済法の改正内容
1. 電子決済手段等(ステーブルコイン)の規制2. マネロン共同監視システムに許可制の導入
3. 高額のチャージや移転が可能な電子マネーのマネロン対策
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。