公開日:2023/08/29
監修 川上 洋平 医師・医学博士・整形外科専門医
電子処方箋は、電子化した処方箋です。クラウド上で患者のデータを管理できるようになり、薬情報などを医師や薬剤師で共有することができます。
2023年1月から、医療分野でもデジタル化の流れが進み、電子処方箋が導入されました。さまざまな業界でのデジタル化やペーパーレス化と同様に、医療でもこれから進展が期待されています。
本記事では電子処方箋の概要を紹介し、仕組みや利用するメリットなどもわかりやすく解説します。
目次
- 電子処方箋とは?
- 電子処方箋の仕組み
- 電子処方箋を利用するメリット
- より安心・安全な医療を受けられる
- 自身が処方された薬の一元管理ができる
- オンライン診療や在宅診療が利用しやすくなる
- 電子処方箋を利用するデメリット・注意点
- すべての医療機関・薬局が対応しているわけではない
- 電子機器の扱いが必要
- 個人情報の流出リスクがある
- 電子処方箋の利用方法・手順
- ① 医療機関で電子処方箋を希望する
- ② 薬局で電子処方箋を提出する
- 電子処方箋の利用にはマイナ保険証の活用が便利【厚生労働省推奨】
- 電子処方箋の今後の課題
- 電子処方箋を利用できる医療機関・薬局の拡大
- マイナンバーカードの普及
- スモールビジネスを、世界の主役に。
- まとめ
- よくある質問
- 電子処方箋とは?
- 電子処方箋のメリットは?
電子処方箋とは?
電子処方箋とは、従来の紙の処方箋ではなく、電子化した処方箋のことです。2023年1月26日からスタートしており、準備の整った医療機関・薬局では、患者側が紙の処方箋と電子処方箋を選択できるようになりました。
電子処方箋を活用すれば以下のようなことが可能になります。
電子処方箋でできること
● 複数の医療機関または薬局をまたがる過去の薬情報にもとづいた医療を受けられる● 直近での処方・調剤結果を医師・歯科医師・薬剤師と共有できる
電子処方箋のメリットを最大限に生かすためにはマイナ保険証が必要になるので、この機会にマイナ保険証の利用を検討してみてもよいでしょう。
なお、マイナ保険証を詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
※関連記事
「マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)とは?制度の概要やメリット・デメリット、登録方法をわかりやすく解説」
電子処方箋の仕組み
電子処方箋はデータヘルスの基盤である、オンライン資格確認の仕組みを活用しています。今まで紙でやりとりしていたデータを電子化し、クラウド上に構築する「電子処方箋管理サービス」を介して情報連携を行う仕組みです。
電子処方箋の大まかな流れは以下の通りです。
電子処方箋の仕組み
1. 患者が医療機関で本人確認と同意を行う2. 医師や歯科医師が処方・調剤された情報や重複投薬チェック結果の参照
3. 医師・歯科医師が電子処方箋管理サービスに処方箋を送信
4. 患者が薬局で本人確認と同意を行う
5. 薬剤師が処方箋の取得と処方・調剤された情報や重複投薬チェック結果の参照
6. 薬剤師が調剤結果を電子処方箋管理サービスに送信
医療機関や薬局が蓄積されたデータを参照できることで、重複投薬などを防止し、より質の高い医療サービスが期待できるでしょう。
電子処方箋を利用するメリット
電子処方箋の利用によって、患者は以下のようなメリットが得られます。
電子処方箋のメリット
● より安心・安全な医療を受けられる● 自身が処方された薬の一元管理ができる
● オンライン診療や在宅診療が利用しやすくなる
より安心・安全な医療を受けられる
電子処方箋を利用すれば、医療機関や薬局が患者の薬情報を確認できます。そのため、今まで以上に重複投薬や誤った薬の飲みあわせを防止できます。
また、電子処方箋は3年間の保管が必要な紙の処方箋と比べ、保管スペースや印刷代の削減が可能です。長期の保管も簡便であり、患者の経過把握や質の高い医療提供に役立ちます。
また、医療機関による適切な薬学的管理が可能になるため、健康促進にもつながるでしょう。
自身が処方された薬の一元管理ができる
電子処方箋を利用すれば、患者自身が薬剤情報を一元的に管理することができます。
自身が受けた医療や処方された薬の情報がクラウド上に蓄積され、過去3年分を参照できるため、自己管理に役立つでしょう。たとえば事故や災害などの緊急時、医師に自身の医療情報を伝えることも可能です。
オンライン診療や在宅診療が利用しやすくなる
電子処方箋には、患者がオンライン診療や在宅診療を利用しやすくなることも期待されています。
電子処方箋の活用によって、医療機関や薬局では電子処方箋管理サービスから、患者の過去の処方内容を取得できるようになります。
医療機関と薬局間で患者の薬剤情報をやりとりできるため、薬局は処方箋がなくても薬の調合が可能です。
また患者が薬局にわざわざ処方箋を持っていく必要がなくなるため、医師が患者宅を訪問する際に、服薬指導や薬の受け渡しができるようになります。
電子処方箋を利用するデメリット・注意点
電子処方箋を活用すれば、医療がより安心・安全かつ、便利に利用できるようになる反面、デメリットや注意点もあります。
電子処方箋のデメリット・注意点
● すべての医療機関・薬局が対応しているわけではない● 電子機器の扱いが必要
● 個人情報の流出リスクがある
すべての医療機関・薬局が対応しているわけではない
電子処方箋は2023年の1月よりスタートしていますが、すべての医療機関・薬局が対応しているわけではありません。地域によっては電子処方箋を選択できる医療機関や薬局がない場合もあります。
また、院内に電子処方箋のシステムを構築するためには、専用ソフトのインストールやパソコンの設定、定期的なメンテナンスが必要なため、すぐには導入に踏み切れないクリニックも多いかもしれません。
2023年4月23日時点で電子処方箋の運用を開始している施設の数は以下の通りです。
施設 | 運用開始している数 |
病院 | 9施設 |
医科診療所 | 250施設 |
歯科診療所 | 11施設 |
薬局 | 3,082施設 |
合計 | 3,352施設 |
ただし、事前の利用申請を行っている施設数はトータルで50,412施設となっており、運用を始める施設は今後徐々に増えていくでしょう。
電子機器の扱いが必要
電子処方箋は、紙の処方箋ではなく電子化された処方箋のため、利用するためには電子機器の操作が必要です。
パソコンやスマホが普及しているとはいえ、高齢の方など電子機器に慣れていない方も一定数いると考えられます。
患者が自身の情報を一元的に確認できる点は電子処方箋のメリットです。しかし、電子機器の扱いに慣れていない方にとっては、電子処方箋を上手く活用できず、メリットを得られない可能性があるでしょう。
個人情報の流出リスクがある
電子処方箋はクラウド上でデータの管理が行われています。そのため、パソコンのウイルス感染や第三者による不正アクセスなどで、個人情報が流出してしまうリスクがある点に注意が必要です。
電子処方箋を導入する際は、個人情報管理について理解したうえで検討しましょう。
電子処方箋の利用方法・手順
実際に電子処方箋を利用するためには、医療機関と薬局のそれぞれで患者が手続きを行います。
以下では、電子処方箋の利用方法・手順を紹介するので、参考にしてください。
① 医療機関で電子処方箋を希望する
まずは、医療機関を受診する際に電子処方箋を希望する旨を伝えます。電子処方箋は、健康保険証とマイナ保険証のどちらを利用するかで手続き方法が異なるので、覚えておきましょう。
健康保険証とマイナ保険証のどちらを利用するかで手続きの方法が異なる
● 健康保険証:従来通り窓口に保険証の提出● マイナ保険証:顔認証付きカードリーダーで受付
一方、マイナ保険証を利用する場合は、窓口に設置してある顔認証付きカードリーダーで受付を行います。大まかな流れは以下です。
マイナ保険証を利用する流れ
1. マイナンバーカードを置く2. 本人確認(顔認証または暗証番号の入力)をする
3. 薬情報の提供の「同意しない」「同意する」を選択
4. 処方箋の形式で「電子処方箋」を選択
5. 診察を受ける
6. 引換番号が記載された処方内容(控え)を受け取る
② 薬局で電子処方箋を提出する
医療機関で診察を受けたあとは、処方された薬を薬局で受け取ります。薬局でも医療機関と基本的な流れは同じです。
健康保険証の場合は、処方内容(控え)に記載のある引換番号を窓口に提示します。マイナ保険証の場合は、窓口に設置された顔認証付きカードリーダーで受付をしましょう。
受付完了後は、薬剤師が処方箋をもとに薬を準備してくれるので、受け取って完了です。
電子処方箋の利用にはマイナ保険証の活用が便利【厚生労働省推奨】
前述しているように、電子処方箋は健康保険証またはマイナ保険証があれば利用できます。マイナ保険証であれば「薬情報の提供の同意」ができるため、電子処方箋のより便利な活用が可能です。
また、マイナ保険証を利用すると、以下のようなメリットも得られます。
マイナ保険証のメリット
● 就職・転職・引越しでも健康保険証として使える● マイナポータルで特定診察情報や薬剤情報・医療費が確認できる
● マイナポータルで確定申告の医療費控除が受けられる
● 窓口への書類の持参が不要になる
マイナ保険証やマイナポータルについては、下記関連記事で詳しく解説しています。
※関連記事
マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)とは?制度の概要やメリット・デメリット、登録方法をわかりやすく解説
マイナポータルとは?利用方法やメリットやデメリットをわかりやすく解説
電子処方箋の今後の課題
2023年1月より運用が開始された電子処方箋ですが、課題もあります。ここでは電子処方箋の現状と今後の課題を紹介します。
電子処方箋を利用できる医療機関・薬局の拡大
現状では、電子処方箋のシステムを導入している医療機関・薬局が少ない点が大きな課題です。
事前の利用申請を行っている施設は多いものの、電子処方箋のシステムを導入するためには費用がかかります。また、HPKI(Healthcare Public Key Infrastructure)カードが不足しているため、導入が遅れているケースも見られます。
HPKIカード
HPKIカードとは、所持する方が医師・歯科医師、薬剤師の資格を有する者であることを証明する電子認証機能を備えたカードです。医療機関と薬局間で電子データをやりとりする際の電子署名に必要となります。マイナンバーカードの普及
電子処方箋は健康保険証でも利用できますが、マイナ保険証に比べて制約があります。
電子処方箋のメリットを最大限活用するためには、マイナ保険証が必要です。しかし、2023年4月末時点のマイナンバーカードの普及率は70%程度です。
そのため、電子処方箋に移行するためには、マイナンバーカードの普及も大きな課題として挙げられます。
なお、政府は2024年の秋に健康保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化する方針を発表しています。実際に健康保険証が廃止になるかはまだわかりませんが、今後の動きを確認しておくとよいでしょう。
「マイナンバーカードは作るべき?メリットとデメリットについて解説」を読み、マイナンバーカードの必要性を事前に知っておくのがおすすめです。
スモールビジネスを、世界の主役に。
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まとめ
電子処方箋は、電子化された処方箋のことで、2023年1月に運用が開始されました。
電子処方箋を利用すれば、クラウド上で患者の薬情報をやりとりができるようになります。そのため、より安心・安全に医療を受けられるようになる点が大きなメリットです。
ただし、導入している医療機関・薬局がまだ少ない点やマイナ保険証の普及が進んでいない点など、課題もあります。電子処方箋は国として進めている事業のため、今後の動向を確認しておくとよいでしょう。
よくある質問
電子処方箋とは?
従来の紙の処方箋ではなく、電子化した処方箋のことです。
電子処方箋を詳しく知りたい方は、「電子処方箋とは?」をご覧ください。
電子処方箋のメリットは?
電子処方箋には、「より安心・安全な医療を受けられる」「処方された薬の一元管理ができる」「オンライン診療や在宅診療が利用しやすくなる」などのメリットがあります。
電子処方箋のメリットを詳しく知りたい方は、「電子処方箋を利用するメリット」をご覧ください。
監修 川上洋平(かわかみ・ようへい) 医師・医学博士・整形外科専門医
神戸大学医学部卒業。米国ピッツバーグ大学留学、膝スポーツ疾患や再生医療を学び、北播磨総合医療センター、神戸大学病院、新須磨病院勤務を経て、患者さんにやさしく分かりやすい医療を提供することを目的に、かわかみ整形外科クリニックを開業。日本整形外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会認定医、再生医療学会認定医。英文論文執筆多数。専門は膝関節外科、スポーツ障害、再生医療。かわかみ整形外科クリニック