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賞与を年4回支給するときの社会保険の手続きは?年3回の場合との違いも解説

公開日:2023/11/09

監修 大柴 良史 社会保険労務士・CFP

賞与を年4回支給するときの社会保険の手続きは?年3回の場合との違いも解説

賞与にかかる社会保険料は「標準賞与額」をもとに算出する決まりがあります。しかし、賞与を年4回支給する場合は、標準報酬月額をもとに算出します。

従業員の社会保険に関する手続きで誤った対応をしないためには、賞与の支給回数が年3回・年4回の場合で、保険料の決まり方がどう変わるのかを正しく理解しておかなければなりません。

本記事では企業担当者向けに、賞与を年4回支給する場合の社会保険の手続きや、支給のポイント、注意点を解説します。

目次

賞与とは

賞与(ボーナス)とは、定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給される金銭のことです。賞与には、大きく以下の3種類があります。

賞与の種類概要
基本給連動型賞与業績にかかわらず、基本給に連動して支給額が決まる賞与
業績賞与組織や個人の業績に応じて支給額が変動する賞与
決算賞与決算月の前後に業績に応じて支給される賞与


ただし、社会保険上の賞与は、「被保険者が労働の対償として受けるもののうち支給回数が年3回以下のもの」と定義されています。
出典:全国健康保険協会「賞与の範囲」

賞与に関しては「賞与(ボーナス)とは?保険料と所得税の計算方法についても解説」でより詳しく解説しています。

賞与の支給が年4回になると社会保険の手続きが変わる

賞与を年に3回支給する場合と4回支給する場合とでは、社会保険の手続きが異なります。社会保険で「賞与」とみなされるのは、支給回数が3回以下のものに限られるためです。

前提として、健康保険や厚生年金保険の保険料は、「標準報酬月額」をもとに決まります。標準報酬月額とは、被保険者が受け取る報酬(毎月の給与など)の月額を区切りのよい幅で区分したものです。厚生年金の場合は8.8万円が下限、65万円が上限と決まっています。健康保険の場合は5.8万円が下限、139万円が上限です。

一方、賞与は、標準報酬月額から計算する保険料と分けて「標準賞与額」をもとに計算する決まりです。

賞与の支給回数が年4回以上の場合、社会保険上では「賞与に係る報酬」として扱われます。賞与ではなく報酬とみなされるため、標準賞与額ではなく標準報酬月額の対象として保険料を計算します。

なお、賞与に係る報酬に該当するのは、下記の条件を満たす賞与です。

「賞与に係る報酬」に該当する条件

1 就業規則や給与規定などで年4回以上支給すると定められている
2 賞与の支給が7月1日前の1年間で4回以上行われている
出典:厚生労働省「健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」p.2

以下で、賞与の支給回数が年3回以下・年4回以上のケースに分けて、社会保険の手続きを解説します。

賞与が年3回以下の場合の手続き

賞与の支給回数が年3回以下の場合、賞与の支給日から5日以内に年金事務所へ「被保険者賞与支払届」を提出しなければなりません。届出内容によって決まる標準賞与額をもとに、賞与の保険料額が決定します。

算出方法は以下の通りです。

賞与の保険料額=標準賞与額×健康保険・厚生年金保険の保険料率
なお「標準賞与額」とは、支給した賞与額(税引き前の総支給額)から1,000円未満を切り捨てた額です。健康保険、厚生年金保険でそれぞれ上限が決まっています。

区分上限
健康保険年間573万円(4月1日~3月31日までの累計額)
厚生年金保険1ヶ月150万円
出典:全国健康保険協会「賞与の範囲」

賞与を年4回以上支給する場合の手続き

賞与を年4回以上支給する場合、「被保険者賞与支払届」を提出する必要はありません。年4回以上の賞与は「賞与に係る報酬」とみなされ、標準賞与額ではなく標準報酬月額の対象となるためです。

「賞与に係る報酬」は、毎月7月の定時決定の際に提出する「算定基礎届」に含めて算出します。(※)
(※)定時決定(算定基礎届)とは、毎年1回標準報酬月額を決定し直す手続きです。実際の報酬と標準報酬月額に大きな乖離が生まれないようにするために行われます。会社が7月1日時点で使用している従業員の3ヶ月間(4~6月)の報酬月額を算定基礎届によって届け出し、内容によって標準報酬月額が決まります。

具体的には、1年間(7~6月)の賞与合計額を12で除した額を、月々の報酬月額に加算して標準報酬月額を決定する仕組みです。

年4回以上賞与を支給するポイント

賞与を年4回以上支給する主なポイントは、以下の4点です。

賞与を年4回以上支給するポイント

● 給与が一定以上なら保険料も一定となる
● 社会保険の給付が増える
● 標準報酬月額によっては年金額に反映されない
● 給与が一定以下なら保険料の負担が増える

給与が一定以上なら保険料も一定となる

標準報酬月額が65万円以上(報酬月額が635,000円以上)の従業員が賞与を4回以上受け取る場合、支給額が増えても厚生年金保険料は変わりません。(※)
(※)報酬月額とは、基本給に各種手当(役付手当・通勤手当・残業手当など)を加えた1ヶ月の総支給額です。

厚生年金保険の標準報酬月額は1~32等級まで区分されており、65万円が上限と決まっているからです。なお、健康保険料は、報酬月額が1,355,000円まで段階的に上がるため、留意しておきましょう。
出典:日本年金機構「令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和5年度版)」

一定以上の収入がある従業員は、年3回以下の賞与を受け取った場合、そのつど保険料を支払う必要があります。

社会保険の給付が増える

賞与を年4回支給すると、従業員の社会保険給付が増える可能性があります。傷病手当金や出産手当金の支給額は、標準報酬月額をもとに決まる仕組みであるためです。

賞与の支給回数が年4回になると、「標準賞与額」ではなく「標準報酬月額」の対象となります。その結果、従業員が受ける傷病手当金や出産手当金の支給額が多くなります。

なお、傷病手当金・出産手当金は、病気やケガ、出産で会社を休んだときに支給される手当です。

傷病手当金健康保険の被保険者が病気やケガで仕事に就けない場合に支給される手当金
出産手当金健康保険の被保険者が出産のために会社を休んだときに支給される手当金
出典:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
出典:全国健康保険協会「出産で会社を休んだとき」

また、賞与を年4回支給して標準報酬月額が上がると、従業員が将来受け取る厚生年金の受給額も増えます。

標準報酬月額によっては年金額に反映されない

従業員の給与が一定以上の場合、賞与を年4回以上支給しても将来の年金額は増えません。

標準報酬月額が上限の65万円を超える場合、保険料の負担は抑えられますが、65万円超える部分が年金額に反映されない点には注意しましょう。

給与が一定以下なら保険料の負担が増える

給与が一定以下(標準報酬月額が65万円以下)の場合、賞与を年4回支給すると標準報酬月額が上がるため、保険料が改定されます。

社会保険の給付が手厚くなる一方で、支払う保険料も大きくなる点を理解しておきましょう。

賞与を年4回支給する場合の注意点

賞与を年4回支給した場合に「賞与に係る報酬」とみなされるには、以下の注意点をおさえておく必要があります。

賞与を年4回支給する場合の注意点

● 同じ性質の賞与を年4回支給している場合は報酬とみなされる
● 就業規則や給与規定で定めている場合は報酬とみなされる
● 賞与を年4回支給した場合は随時改定にも反映させる

同じ性質の賞与を年4回支給している場合は報酬とみなされる

「賞与に係る報酬」とみなされるのは、性質が同じ賞与を4回以上支給した場合に限ります。

たとえば、「通常の賞与3回+決算賞与1回」を支給した場合は、性質が異なるため年4回支給した際の報酬とはみなされません。

反対に、名称は異なっていても性質が同じと認められるものは、年4回のカウントに含まれます。

就業規則や給与規定で定めている場合は報酬とみなされる

賞与に係る報酬とみなされるのは、就業規則や給与規定などで客観的に定めている場合のみです。規約などで定めていない場合は、報酬ではなく賞与として扱います。

したがって、今年に限って支給されたことが明らかな賞与は、年4回のカウントには含めません。

賞与を年4回支給した場合は随時改定にも反映させる

賞与を年4回支給した場合は、その年の定時決定後の7月以降の随時改定にも含めて手続きを行います。

随時改定(月額変更届)とは、報酬が賃金の変動で大きく変わったときに、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定する手続きです。
出典:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

昇給などで固定的賃金に変動があり、変動月からの3ヶ月間の標準報酬月額に2等級以上の差が生じた場合に、4ヶ月目の標準報酬月額から改定されます。

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まとめ

社会保険上の「賞与」とは、労働の対償として支払う金銭のうち、支給回数が年3回以下のものです。年4回以上支給する場合は、「賞与」ではなく「賞与に係る報酬」とみなされます。

「賞与に係る報酬」は、標準賞与額ではなく「標準報酬月額」の対象となるため、各月の報酬に含めて標準報酬月額を決定します。

社会保険の手続きを適切に行うため、「賞与」と「賞与に係る報酬」の区分、支給回数によって社会保険手続きや給付が変わる仕組みを正しく理解しましょう。

よくある質問

賞与を年4回支給する場合に「賞与支払届」は必要?

賞与を年4回支給する場合、社会保険上は賞与ではなく「賞与に係る報酬」とみなされるため、賞与支払届の提出は不要です。

賞与を年4回支給する場合に必要な手続きを詳しく知りたい方は「賞与を年4回支給する場合の手続き」をご覧ください。

賞与の回数が4回以上だと保険料はどうなる?

厚生年金保険の標準報酬月額が上限の65万円を超える場合、賞与を年4回以上支給すれば厚生年金保険料は定額になります。

標準報酬月額が上限を超えない場合は、標準報酬月額が上がり保険料が改定されます。

賞与を年4回以上支給するメリットを詳しく知りたい方は「年4回以上賞与を支給するポイント」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史