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障害者総合支援法の改正で何が変わる?6つのポイントと注意点を解説

公開日:2023/10/26

監修 松浦絢子 弁護士

障害者総合支援法の改正で何が変わる?6つのポイントと注意点を解説

2022年に改正された障害者総合支援法は、2024年から施行されます。本記事では、障害者総合支援法の6つの改正ポイント注意点を解説します。

障害者総合支援法は、障害者向けサービスを提供する事業者や、障害者を雇用する企業に関わる事柄も存在するため、改正内容の把握が必要です。改正に伴う企業側の注意点もあるため、担当者は内容を理解しておきましょう。

目次

障害者総合支援法とは

障害者総合支援法は、障害をもつ人の生活を総合的に支援する法律です。

障害をもっていても個人の尊厳が守られ、希望に添った生活を可能にするため整備されてきました。必要なサービスや支援を受けられる福祉の増進を図るため、さまざまなルールが定められています。

また、同法は障害の有無にかかわらず、人格と個性を尊重し合える地域社会の実現も目的です。

障害者総合支援法は、2012年に成立し、2013年4月に施行されました。従来の「障害者自立支援法」を「障害者総合支援法」へあらため、障害者の定義に難病などを追加しました。

2014年4月からは重度訪問介護の対象者が拡大しています。ケアホームをグループホームへ一元化するなどが実施されました。

そして2024年4月より、2022年に改正された障害者総合支援法が施行されます。

障害者総合支援法の支援対象者とは

障害者総合支援法で支援対象に挙げられるのは、障害者と障害児です。

同法が定義する障害者は、以下のいずれかに該当する人を指します。

支援対象者となる障害者の定義

● 身体障害者福祉法第4条が定める身体障害者
● 知的障害者福祉法の知的障害者で18歳以上の者
● 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条第1項に規定する精神障害者で18歳以上の者
● 難病や特殊疾病を持ち、政令で定める障害の程度は主務大臣が定める程度で18歳以上の者
また、同法が定義する障害児は、児童福祉法第4条第2項が定める障害児です。

障害者総合支援法の改正日・改正目的

障害者総合支援法は、障害者の生活や就労への支援ニーズを踏まえて2016年に改正、2018年4月に施行されました。2018年4月施行の改正点は、新サービスや制度の設立、体制の整備などです。

2024年4月から施行される改正内容は、2022年12月10日成立・同月16日に公布されました。障害や難病を抱えていても安心して暮らせる、地域共生社会の構築が改正の目的です。改正内容には、地域生活や就労の支援強化が盛り込まれています。

なお2024年4月1日からの施行の内、一部は施行期日が異なります。

2022年に改正された障害者総合支援法のポイントは6つ

2022年の改正内容には、さまざまな事柄が盛り込まれました。大きく分けて以下の6つのポイントがあります。

障害者総合支援法 の2022年改正ポイント

1 希望する生活を安心して送れる支援体制の充実
2 障害者雇用を向上させる支援サービスの設立・体制強化
3 精神障害者が必要な治療・サービスを受けられる支援体制の整備
4 難病・小慢患者への医療充実と療養生活支援
5 関連サービスや病気のデータベースに関する規定を整備
6 その他(必要な仕組み作りや対象施設の追加など)
それぞれ順番に解説します。

①希望する生活を安心して送れる支援体制の充実

①希望する生活を安心して送れる支援体制の充実


出典:厚生労働省「厚生労働」

希望する生活を安心して送れる支援体制を充実させるための改正には、次の2点が挙げられます。

支援体制を充実させるための改正内容

● グループホームで支援を受けている利用者が希望する生活の継続・実現を推進
● 障害や精神などの課題を抱える人への支援体制を整備
グループホームは生活に必要な支援を受けながら、共同生活を送る施設です。グループホームを利用する障害者数は増えていますが、中には一人暮らしを希望している人や一人暮らしが可能な人もいます。

そのため、一人暮らしを希望する人に向けて、希望の生活を叶えるため支援内容が見直されました。

改正後はグループホームでの生活支援だけでなく、一人暮らしに関する支援が追加されます。グループホームから一人暮らしへの移行支援、居住後一定期間の相談支援を行います。

また、障害や精神などに課題を抱える人への支援体制が十分に整っていない課題に対し、今回の改正で支援体制が強化されました。

支援拠点の整備を市町村の努力義務とし、さらに地域の協議会で守秘義務を守りつつ、個々の事例を情報共有することも努力義務とされました。

そして、精神保健に関する課題に対しては、相談支援の対象を拡大し、適切な支援の包括的確保を改正で明確化しています。精神保健福祉士の業務に、精神保健に課題を抱える人への、精神保健に関する相談支援が追加されます。

②障害者雇用を向上させる支援サービスの設立・体制強化

②障害者雇用を向上させる支援サービスの設立・体制強化


出典:厚生労働省「厚生労働」

2024年4月から施行される障害者総合支援法では、障害者雇用の向上も盛り込まれています。主な内容は次の3点です。

障害者雇用を向上させる改正内容

● 働きたい障害者の適切な職場選択を支援
● 短時間労働でも働けるなら雇用機会を拡大
● 障害者雇用調整金などの見直しと助成措置の強化
障害者本人がより良い就労先や働き方を選択するため、今回の改正で就労選択支援の創設が盛り込まれました。現状の課題として、適切な職場選択の実現が担保されていない側面があったためです。

そのほかに就労中の就労系障害福祉サービスの一時利用、雇用と福祉の連携強化などの支援も制度化されます。

また、現在障害者雇用促進法で事業主に雇用義務を課しているのは、週20時間以上の労働者です。障害者の短時間労働のニーズに応えるため、改正によって短時間労働者の特例的な取り扱いとして規定しました。

対象範囲の予定は、週10時間以上20時間未満で働く精神障害者や重度身体障害者、重度知的障害者です。1人を0.5人として、雇用率に算定します。

さらに今回の改正は企業側への対応変更もあります。障害者を雇用する場合、企業側の経済的負担の調整と障害者雇用を助成するため、納付金制度が整備されています。

しかし、障害者雇用の数で評価する調整金や報奨金の支出がほとんどを占め、雇用の質的向上に資する支出は限定的です。

調整金・報奨金の支給額調整や、取り組みを支援する助成金を新設するなど、納付金制度の見直しが盛り込まれています。

③精神障害者が必要な治療・サービスを受けられる支援体制の整備

精神障害者への支援体制も整備するため、以下の3点が実施されます。

精神障害者への支援体制の整備内容

● 医療保護入院の見直し
● 入院者訪問支援事業の創設
● 精神病院での虐待を阻止する取り組みをさらに強化
精神疾患のなかには、判断能力を低下させる特性も存在します。医療保護入院は、本人の同意を得られない状態でも、必要に応じて入院治療が可能な仕組みです。

現在の医療保護入院制度を見直し、家族などの意思表示がなくても、市町村長の同意で医療保護入院を可能にしました。また、入院期間を定め、一定期間ごとに入院の要件確認も実施し、退院に向けた支援も取り組む予定です。

加えて、精神科患者の外部交流の機会を確保するため、入院者訪問支援事業を創設しました。入院者訪問支援員は、患者本人の希望に応じて以下の役割を担います。

入院者訪問支援員の役割

● 精神科病院を訪問して、患者本人の話を丁寧に聴く
● 入院中の生活相談にのる
● 患者に必要な情報提供などを行う
さらに精神科病院での虐待防止対策の推進のため、精神科病院の管理者や業務従事者へ虐待防止措置の実施を義務化しました。あわせて虐待通報での不利益な扱いを受けないとしています。

都道府県などは毎年度、虐待状況を公表し、国は調査・研究を行います。

④難病・小慢患者への医療充実と療養生活支援

障害者雇用促進法の支援対象者には、指定された難病を抱える人や小児慢性特定疾病児童(小慢)なども含まれます。病気を抱えて生活する彼らの医療充実と、療養生活支援も今回の改正ポイントです。

難病および小慢患者のために改正されたポイントには、以下の3点が挙げられます。

難病および小慢患者のための改正内容

● 症状が重症化した場合、医療費支給を円滑に受けられる仕組みの整備
● 療養生活の支援強化
● 小児慢性特定疾病児童などへの自立支援強化
今回の改正で、医療費助成の開始時期が重症度分類を満たしていると診断した日(重症化時点)に変更されました。

これまで医療費助成の開始時期は申請日でしたが、申請に必要な診断書の作成に時間を要する実態があり、医療費支給が円滑でなかったためです。

また、指定難病患者の各種障害福祉サービス利用を促し、円滑に利用できる体制を整えるため、登録者証を発行する事業を創設しました。

登録者証の発行は、マイナンバー連携での照会を原則とし、民間アプリを活用したデジタル化も検討中です。データベースへのデータ登録の促進も期待されています。

さらに、難病相談支援センターが連携すべき主体に、福祉関係者や就労支援関係者が明記されました。

小慢の地域協議会を法定化し、難病と小慢の地域協議会間の連携努力義務が新設されます。難病・小慢患者のニーズに適切に対応するのが目的です。

そして今回の改正では、小慢患者に対する自立支援も強化されます。

都道府県などが行う小慢自立支援事業の任意事業は、現状実施率が低い状況です。実施率が低いと、小慢患者などが自立するために必要な支援を十分に受けられません。

そこで任意事業の実態を把握し、課題の分析などで任意事業の実施・利用を促進する「実態把握事業」を努力義務に加えます。現行の任意事業の実施も努力義務化し、支援体制を拡充する方針です。

⑤関連サービスや病気のデータベースに関する規定を整備

医療保険(NDB)や介護保険(介護DB)など、データベースの法的根拠の施行・整備が進んでいます。データベースの規定の整備は、障害福祉・難病対策の分野でも必要です。

以下の点を見直し、規定の整備を進めます。

規定の整備内容

● 障害者・障害児・難病・小慢DBの法的根拠を新設し、国の情報収集や都道府県などが国へ情報提供する義務を規定
● 安全管理措置や第三者提供ルールなどの諸規定を新設し、ほかの公的DBと連結解析できる体制を構築
● 難病DBの登録対象者を拡大し、軽症の指定難病患者もデータ登録可能にする
また、データベースは調査・研究へ活用するほか、医療費助成に至らない軽症者などのデータも収集して分析に役立てる予定です。

⑥その他(必要な仕組み作りや対象施設の追加など)

その他今回の改正では、ニーズを踏まえた仕組み作りや対象施設の追加などが盛り込まれています。

地域ニーズを踏まえた障害福祉サービス事業者を指定する仕組みを導入し、都道府県の各種サービスの事業者指定に、市町村が意見できる体制が整備されます。一方、都道府県は意見を受けて事業者指定の条件を付与でき、違反する事業者への勧告や指定取り消しが可能です。

障害者支援施設などへ入所する場合、障害者福祉サービスの支給決定は、入居前に住んでいた市町村が行います。住所地特例といい、支援施設が集中する地域の財政負担を軽減するための制度です。

しかし、介護保険施設では特例が適用されません。介護保険施設に入所する人が障害者福祉サービスを利用するときは、施設所在市町村が支給決定します。結果、施設所在市町村の負担が集中するとの指摘がありました。

今回の改正で、介護保険施設も特例対象に追加し、障害者総合支援法の規定を整備します。

障害者総合支援法の改正で事業主が注意すべきポイント

障害者総合支援法の改正で事業主が注意すべきポイントは、次の3点です。

改正された障害者総合支援法の注意点

● 雇用率算定と特例給付金が変わる
● 障害者雇用調整金などが見直される
● 障害者雇用促進法の見直しも実施される
順番に解説します。

雇用率算定と特例給付金が変わる

障害者雇用促進法で、事業主には所定割合の障害者雇用が義務づけられています。

雇用率の算定は現在、週20時間以上の労働者が対象です。しかし、週20時間未満の労働者も対象に追加され、算定方法が変化します。週20時間未満の労働者は、1人あたり0.5人とカウントする措置が取られる予定です。

また、週20時間以上の労働が困難な人も就労機会が増えるため、従来の特例給付金は廃止されます。

雇用率算定と特例給付金が従来から変わるため、事業主は障害者雇用の見直しが必要です。

障害者雇用調整金などが見直される

障害者を雇用する際の経済的な負担を調整するため、事業主で共同拠出する納付金制度が存在します。定められた雇用率に満たない事業主が納付金を支払い、達成した事業主に超過人数分の調整金や報奨金が支給される制度です。

今回の改正で内容が見直され、障害者雇用が一定数を超える場合の調整金や報奨金の支給額に調整が入ります。超過人数分の単価が引き下げられ、支給額が変わるため、従来通りの金額は受け取れません。

また、障害者の雇用拡大や継続を図る取り組みを支援する助成金が新設されます。事業主は、新しい制度を活用した障害者雇用も検討しましょう。

障害者雇用促進法の見直しも実施される

障害者雇用の質的向上に向け、障害者雇用促進法も見直し、職業能力の開発・向上に関する事業主の責務が明確化されます。ただ障害者を雇用するだけでなく、職場での能力開発への取り組みも必要です。

加えて、在宅就業障害者支援制度の登録要件を緩和し、複数の中小企業の実雇用率を通算できる特例対象が追加されます。

複数の中小企業の実雇用率通算ができる特例対象は、事業協同組合・水産加工業協同組合・商工組合・商店街振興組合でした。これらの特例対象に、有限責任事業組合が追加されます。

有限責任事業組合は特定の組合・事業主のみが認定対象でした。しかし、2023年度から対象が拡大し、全国で特例制度の認定対象になっています。

要件緩和や対象の拡大で、自社や取引先が制度対象になる可能性もあるでしょう。自社にできる取り組みがないか、事業主は今一度確認が必要です。

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まとめ

障害者総合支援法は、障害をもつ人の生活を総合的に支援するための法律です。2022年の改正内容は、2024年4月より施行されます。

改正ポイントは障害者の生活や雇用、治療推進、支援強化などの6つです。

また、改正に伴い、障害者を雇用する際の雇用率算定や調整金制度なども内容が見直されます。企業の担当者は、改正ポイントや注意点を把握し、対処しましょう。

よくある質問

障害者総合支援法とはどのような法律?

障害者雇用促進法は、障害をもつ人の生活を総合的に支えるための法律です。

障害者総合支援法を詳しく知りたい方は、「障害者総合支援法とは」をご覧ください。

障害者総合支援法の改正ポイントは?

障害者総合支援法の改正ポイントは、対象者が必要な支援を受け、雇用機会を拡大させるなど6つのポイントが挙げられます。

障害者総合支援法の改正ポイントを詳しく知りたい方は、「2022年に改正された障害者総合支援法のポイントは6つ」をご覧ください。

監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士

松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

監修者 松浦絢子