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勤労者皆保険とは?企業規模要件の撤廃など企業が今後求められる対応を解説

監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級

勤労者皆保険とは?企業規模要件の撤廃など企業が今後求められる��対応を解説

勤労者皆保険とは、雇用形態や勤務時間に関わらず、働く人全員が健康保険と厚生年金に加入する制度です。今後、制度の加入要件緩和が続く予定です。

会社員すべての健康保険、厚生年金への加入を目指す勤労者皆保険の実現に向けて、現在、法改正が進められています。本記事では、勤労者皆保険の実現に向けた流れや企業として対応すべき事項を解説します。

目次

勤労者皆保険とは

勤労者皆保険とは、企業規模や働く時間、雇用形態を問わず、すべての従業員に対して被用者保険(健康保険や厚生年金)の適用を拡大する制度です。

従来の被用者保険は、同じ勤め先で働く従業員であっても、勤務時間や雇用形態など一定の条件を満たさなければ被保険者とはみなされませんでした。

2022年、政府主導で行われた「全世代型社会保障構築会議」では勤労者皆保険の実現が課題のひとつとされています。4月の中間報告後、6月策定の経済財政運営の指針「骨太の方針」に内容が反映されました。

「骨太の方針」では、勤労者皆保険を実現するために、厚生年金の適用拡大を着実に推進できる意向を固められています。

企業規模要件の撤廃や非適用業種の見直し、第4号被保険者制度の創設を見据えたフリーランスや単発で働くギグワーカーの扱いを検討すべきとしています。

【関連記事】社会保険とはこんな仕組み!国民健康保険との違いや、切替方法を解説

これまでの適用拡大の流れ

勤労者皆保険の議論は、働き方の多様化が進んだ2000年頃より、短時間労働者の被用者保険適用から始まり、段階的な年金法改正によって適用拡大への動きが進んでいます。

勤労者皆保険のこれまでの流れ

● 2004年改正:週労働時間20時間以上への拡大を検討
● 2007年改正:従業員数300人超の企業で働く一定の要件を満たす短時間労働者への適用を盛り込んだ正案が廃案
● 2012年改正:従業員500人超の企業で働く一定の要件を満たす短時間労働者への適用(2016年10月施行)
● 2016年改正:労使が合意した場合、500人以下の企業で短時間労働者への適用を拡大。さらに国や地方公共団体では規模によらず適用(いずれも2017年4月施行)
2017年に施行された改正法では、企業の規模に関わらず、労使の合意によって被用者保険の適用が拡大できる柔軟な仕組みが作られました。より多くの労働者に被用者保険へ加入するチャンスが広がっています。

勤労者皆保険に向けた適用対象拡大のポイント

2020年に成立した改正法では、被用者保険の適用拡大に向けてさまざまな改正が盛り込まれています。もっとも大きな改正内容が企業規模要件の緩和です。

2022年10月から100人超に要件を緩和し、さらに2024年10月からは50人超にまで引き下げ、被用者保険の適用範囲の拡大を実現しました。

そもそも企業規模要件は、2012年の法改正時点で要件そのものの撤廃を目指していた背景があります。しかし、負担が大きいとされる中小企業への配慮から、2020年法改正では50人超規模の企業までにとどまっています。

2020年法改正では、次の2点も重要なポイントです。

短時間労働者の要件緩和

2020年改正では、短時間労働者の要件緩和も大きな柱になっています。短時間労働者に対する要件緩和は、これまでなかなか実現に至らず、2012年改正で初めて一定の要件のもと適用拡大が決定された経緯がありました。

2020年改正により勤務期間1年以上見込みの要件が撤廃されており、2022年10月からは短時間労働者もフルタイム労働者と同様の扱いを受けられます。

また、継続雇用が見込まれる場合には、雇用期間が2ヶ月以内であっても働き始めた時点から被用者保険の適用が可能です。

この要件緩和により、年収130万円未満の被扶養者も被用者保険の加入対象となり、新たに約110万人が被用者保険に適用されると予測されています。

2020年法改正の要点

<2020年法改正の要点>
● 短時間労働者もフルタイム労働者と同様の扱い
● 継続雇用が見込まれるなら雇用期間が2ヶ月以内でも被用者保険が適用可能
● 年収130万円未満の被扶養者も被用者保険の加入対象

適用業種の拡大

短時間労働者とともに、2020年改正では個人事業所の適用業種の見直しが行われています。

これまでも、法人であれば従業員が1名であっても強制適用事業所でした。しかし個人事業所は、法定16業種で常時5人以上の従業員を雇用する事業所だけが強制適用の対象とされてきました。

しかし、2022年10月からは常時5人以上を雇用する個人事務所のうち個人事業所の割合が高い弁護士や税理士、社会保険労務士などの士業が被用者保険の適用業種に追加されています。結果、法定17業種になりました。

この改正により約5万人が新たに被保険者となったと推計されています。

項目2020年改正前2020年改正後
法人事業所の適用1名の従業員でも強制適用変更なし
個人事業所の適用
(強制適用対象)
法定16業種で常時5人以上雇用法定17業種に拡大(弁護士・税理士・社会保険労務士等の士業追加)


この改正後も非適用となっている農林水産業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービスなどへの拡大は、現在も検討が進められています。

勤労者皆保険の実現で企業側に必要な対応

2022年10月からの短時間労働者の要件緩和、個人事業所の適用業種拡大に該当する企業は早急な対応が求められます。

被用者保険適用拡大の対象で、国民健康保険や国民年金に加入する従業員がいれば、すみやかに社会保険への加入手続きを行わなければなりません。

年金法では、加入逃れによる違反について、ほとんど罰金が適用されてきませんでした。しかし今後、勤労者皆保険の実現に向けて、非加入事業者に対して厳しい姿勢をみせる可能性があります。そのため、法に定められたルールを守ることが大切です。

被用者保険は、本人が保険料の全額を負担する国民健康保険と国民年金とは異なり、企業と本人とが折半して保険料を負担しあいます。

新たな被保険者が増えると企業の負担はそれだけ増しますが、従業員が社会保険で不公平な扱いを受けないように、適切な対応を心がけましょう。

企業規模要件の従業員数の考え方

2020年法改正の目玉となる企業規模要件の緩和で、新たに被用者保険の適用事業所となるかどうかは、企業の対応に大きく影響します。そのため、従業員数を正しく把握しなくてはなりません。

企業規模を計る「従業員数」は厚生年金の被保険者の総数です。この際、短時間労働者は含まない点に注意しましょう。

また、同一の法人番号を持つ場合には、事業所ごとではなく、全事業所をひとつの適用事業所としてカウントします。個人事業所の場合は、個々の適用事業所ごとになります。

従業員数は入退社により増減するため月ごとに集計し、直近12ヶ月のうち6ヶ月で企業規模要件の定める従業員数、2022年10月以降は100人超、2024年10月以降は50人超、となれば適用対象です。

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まとめ

勤労者皆保険は、すべての労働者への平等な社会保険加入を可能とする制度です。議論が始まって20年を超え、いよいよ実現に向けた動きが加速しています。

適用事業者となれば、企業は対象となる従業員を社会保険へ加入させる必要があります。法改正の動きに注目し、適切な対応を取るようにしましょう。

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よくある質問

勤労者皆保険とは?

企業規模や働く時間や雇用形態に関わらず、すべての従業員に被用者保険(健康保険や厚生年金)の適用を拡大する制度です。

勤労者皆保険を詳しく知りたい方は「勤労者皆保険とは」をご覧ください。

勤労者皆保険のポイントは?

短時間労働者の要件緩和、適用業種の拡大です。

勤労者皆保険のポイントを詳しく知りたい方は「勤労者皆保険に向けた適用対象拡大のポイント」をご覧ください。

監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級

現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。

監修者 羽場康高