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育児時短就業給付(仮称)とは? 創設の背景や内容、メリットやデメリットを解説

監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP

育児時短就業給付(仮称)とは? 創設の背景や内容、メリットやデメリットを解説

2025年から、国は時短勤務者を対象に給付金制度を創設すると発表しました。育児時短就業給付(仮称)の概要やメリット・デメリットを解説します。

少子化が進むなか、子育てがしづらい社会環境や両立がしにくい職場環境の改善は喫緊の課題です。

本記事では、育児時短就業給付(仮称)創設の背景メリットデメリットなど、どのような効果をもたらし得るかを紹介します。

同じく子育てに関する内容として、「「子ども3歳までテレワーク」が企業の努力義務へ!検討される背景や問題点とは?」もご覧ください。

目次

育児時短就業給付(仮称)とは

育児時短就業給付(仮称)とは、2歳未満の子どもがいる労働者を対象とした手取り額の減少を防ぐために支給される給付制度です。

柔軟な働き方として一定以上の短時間勤務をした場合に適用されます。

国は今後3年間で集中的に取り組む子育て対策として、2023年6月13日に「こども未来戦略方針」を閣議決定しました。

育児時短就業給付(仮称)は「こども未来戦略方針」で決定された少子化対策のひとつです。子育て世代が短時間勤務制度を利用しやすい環境の整備を目的に創設されています。

出典:厚生労働省「こども未来戦略方針」

育児時短就業給付(仮称)創設の背景

育児時短就業給付(仮称)創設の背景にあるのは「深刻な少子化」です。1949年には約270万人の子どもが出生していました。しかし、2022年に生まれた子どもは77万747人にまで減少しています。この出生数は、統計を開始した1899年以来最低の数字です。

近年は、2016年の出生数が100万人を下回って以降、2019年には90万人、2022年には80万人を下回りました。

少子化が進めば労働人口が減少し、日本の経済・社会システムや持続的な経済成長の維持は容易ではありません。

このような危機感から、国は「こども未来戦略方針」で、次元の異なる少子化対策として、以下の3つの基本理念を設定しています。

次元の異なる少子化対策の3つの基本理念

● 構造的賃上げなどを含む経済的支援を充実し、若い世代の所得を増やす
● 社会全体の構造や意識を変える
● 子ども・子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援する
出典:内閣官房「「こども未来戦略方針」案 」

育児時短就業給付(仮称)は、上記の理念を達成するための具体的な施策のひとつです。

「こども未来戦略方針」では育児時短就業給付(仮称)のほか、以下のような施策が検討されています。

こども未来戦略方針の施策

● 教育訓練給付の補助率を含めた拡充
● 訓練期間中の生活をサポートするための新たな給付や融資制度の創設
● 男性育休の取得促進
● 所定労働時間が20時間未満の者にも給付可能な雇用保険の適用拡大
出典:内閣官房「「こども未来戦略方針」案 」

育児時短就業給付(仮称)の内容

育児時短就業給付(仮称)の創設は決定していますが、内容の多くは今後具体的な検討を進めるとされています。以下では、2023年11月時点の情報をもとに内容を紹介します。

育児時短就業給付(仮称)の対象

育児時短就業給付(仮称)の対象は以下の通りです。

育児時短就業給付(仮称)の対象者

● 子どもが2歳未満の方
● 上記の子どもの養育を目的に時短勤務を選択した方
● 男性と女性どちらも対象
また、雇用保険加入者を対象とする方向で検討が進められています。

育児時短就業給付(仮称)はいつから?

育児時短就業給付(仮称)は2025年度からの実施を予定しています。2023年6月の閣議決定を踏まえ、2024年度にかけて内容の検討・調整、国会での関連法案の決議を行い、制度を整備する予定です。

育児時短就業給付(仮称)で給付金はどれくらいもらえる?

給付水準や給付期間などの具体的な制度設計は現在検討中です。時短勤務を活用した育児とキャリア形成を両立する考え方に基づき、男女ともに適正な給付水準とするよう検討が進められています。

一部報道では、時短勤務で短縮した時間を問わず、育児時短就業給付(仮称)の対象となるよう厚生労働省が調整していると報道されました。これは、労働者の多様な働き方に対するニーズに対応できる制度とするためです。

育児時短就業給付(仮称)を取得するメリット

育児時短就業給付(仮称)を取得する主なメリットは以下の通りです。

育児時短就業給付(仮称)を取得するメリット

● 時短勤務を利用しやすくなる
● 育児と仕事の両立につながる
● 男性の育児参加に役立つ
各メリットの詳細を解説します。

時短勤務を利用しやすくなる

育児時短就業給付(仮称)を取得する大きなメリットは、時短勤務(短時間勤務制度)を利用しやすくなる点です。

国は子どもの育児をする労働者への配慮から、育児・介護休業法に基づきさまざまな制度を実施しています。

支援制度の名称内容
育児休業制度・原則1歳未満の子どもを養育するため、育児・介護休業法で定められた制度
・育児休業を申し出ると、会社側は原則として休業を認めなければならない
時短勤務(短時間勤務制度)・3歳未満の子どもの養育のため、短時間勤務を認める制度
・会社は1日6時間勤務とする措置を設けなければならない
(6時間勤務を定めたうえで、ほかの時間との選択制にすることは可能)
・テレワークの努力義務も追加されている
所定外労働の制限・原則3歳未満の子を養育する従業員が申し出た場合に所定外労働の制限(残業免除)をする制度
子の看護休暇・小学校就学前までの子どもの看護休暇を認める制度
・子どもが1人いる場合は年に5日までの看護休暇を取得できる
時間外労働の制限(残業制限)小学校就学前までの子を養育する従業員が申し出た場合に24時間/月、150時間/年を超える時間外労働を制限する制度
深夜業の制限小学校就学前までの子を養育する従業員が申し出た場合に深夜(午後10時から午前5時まで)業を制限する制度

上記の中で、「時短勤務(短時間勤務制度)」は3歳未満の子どもの養育と仕事の両立を支援する制度です。

子どもは1~3歳にかけて、運動機能や言語機能が発達するなど目覚ましいスピードで成長します。同時に育児にかかる手間も多く、育児をする方にとって負担の多い時期です。

時短勤務を利用すれば仕事と育児にかかる負担を軽減できます。一方で、労働時間が短縮されてしまうと得られる収入も減ってしまいます。

育児時短就業給付(仮称)が創設されれば、時短勤務で減ってしまう収入を補えるでしょう。育児をする労働者がより時短勤務を利用しやすくなる側面があります。

育児と仕事の両立につながる

育児時短就業給付(仮称)は、労働者の育児と仕事の両立に役立ちます。

育児はその大変さから仕事との両立に課題を抱えており、特に女性の働き方に与える影響は大きいです。

育児と仕事の両立につながる

出典:内閣府男女共同参画局「社会全体の女性の活躍状況」

女性の「正規の職員・従業員」は25~29歳の59.7%がピークで、年齢が進むほどに右肩下がりに減少しています(L字カーブ)。

一方で、全体の就業率は25~29歳をピークに一度減少傾向になったあと、35~39歳の77.0%を底に上昇傾向へ移行します。

この現象の一因には、女性が育児や結婚などを理由に一度退職し、育児が一段落してから再び働くケースが挙げられるでしょう。

育児時短就業給付(仮称)の取得で短時間勤務制度が利用しやすくなれば、育児と仕事の両立で生じる負担の軽減が可能です。

そのため、女性が育児負担を原因に退職するケースを防げるのではと期待されています。

実際、「利用することができれば仕事を続けられたと思う支援・サービス」に関するアンケートでは、離職前に正社員であった女性の45.2%が「短時間勤務制度」の存在を挙げており、制度の有効性が伺えます。

男性の育児参加に役立つ

育児時短就業給付(仮称)の取得は男性の育児参加にも有用です。

日本男性の家事・育児関連時間は国際的にみても低水準にある状況です。男性が育児に参加しづらい要因のひとつに、時短勤務に伴う収入の減少が挙げられます。

特に、世帯の主な収入源が男性である場合、収入の減少は避けたいところでしょう。

育児時短就業給付(仮称)を取得すれば、男性の時短勤務にかかる収入の減少を軽減できます。

女性の時短勤務による収入の減少を補うために男性がフルタイムで働き、結果として育児に参加できない状況も回避しやすいです。

育児時短就業給付(仮称)を取得するデメリット

育児時短就業給付(仮称)は育児期の柔軟な働き方を後押しする一方、いくつかのデメリットも想定されています。主なデメリットは以下の通りです。

育児時短就業給付(仮称)を取得するデメリット

● 従業員間に不平等が生じる恐れがある
● 時短勤務の長期化が懸念される
各デメリットの内容を紹介します。

従業員間に不平等が生じる恐れがある

仕事との両立に負担のかかる事柄は育児だけではありません。介護や病気などでも時短勤務が必要な状況は起こり得ます。

育児による時短給付による賃金補填は、「時短勤務を行う従業員との間で不公平が生じる恐れがある」との指摘があります。

育児時短就業給付(仮称)は労働者の働きやすさを支援する制度であり、給付を受けることで不利益があっては元も子もありません。

そのため、ほかの従業員との間で不平等がないような制度設計が求められています。

時短勤務の長期化が懸念される

育児時短就業給付(仮称)で懸念されるそのほかのデメリットは、時短勤務の長期化です。

時短勤務が長期化すると、その期間中に重要な仕事ができず、キャリア形成に影響が出るケース(マミートラック)も想定されます。

時短勤務の取得は女性が多く長期化する傾向にあり、育児時短就業給付(仮称)でその傾向が助長されるのではと懸念されています。

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まとめ

人口が減少し超高齢化社会を迎えている日本にとって、少子化対策は国を支える大切な事業です。

育児時短就業給付(仮称)は、「こども未来戦略方針」の理念を実現する具体的な施策のひとつとして注目されています。

育児時短就業給付(仮称)が創設されれば、夫と妻が時短勤務を上手に組みあわせて育児を行う方法も可能です。

仕事と育児の両立を夫婦で行う「共働き・共育て」の推進にも役立ちます。

育児時短就業給付(仮称)は2025年度に施行される予定です。実施に向けて今後法制化されていくため、内容を注視していきましょう。

よくある質問

育児時短就業給付(仮称)とは?

育児時短就業給付(仮称)とは、子どもが2歳未満の期間に時短勤務をした方を対象とする給付制度です。

育児時短就業給付(仮称)を詳しく知りたい方は「育児時短就業給付(仮称)とは」をご覧ください。

育児時短就業給付(仮称)の内容は?

育児時短就業給付(仮称)の給付水準や給付期間などの詳細は未定であり(2023年11月時点)、2025年度の実施へ向け検討している段階にあります。

内容を詳しく知りたい方は「育児時短就業給付(仮称)の内容」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史