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障害者雇用とは? 2023年度以降の障害者雇用促進法の変更点について解説

監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級

障害者雇用とは? 2023年度以降の障害者雇用促進法の変更点について解説

障害者雇用とは、企業などが障害者雇用枠で障害のある方を雇用する制度です。制度の基礎知識と2023年度以降の障害者雇用促進法の変更点を解説します。

誰もが適性を活かし自立して生きる社会を目指すうえで、「障害者雇用」は欠かせません。

一定の規模以上の企業には、障害者を雇用する義務があります。障害者雇用についての理解を深め、適切な取り組みが必要です。

目次

障害者雇用とは

障害者雇用とは、身体障害や知的障害などをもつ人の状況に配慮した雇用を促進する制度です。

障害者の方が能力を最大限発揮し継続的に働ける社会を目指す制度であり、障害者雇用の促進と安定のために、さまざまなルールがあります。

障害者雇用率制度で「障害者」の対象となるのは、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の所有者です。

一般雇用では、企業が独自に決めた条件を満たせば、基本的に誰でも応募できます。一方で、障害者雇用は、障害者本人の適性と企業側との調整、雇用と福祉の連携などが重要になります。

障害者雇用促進法はどんな制度?

障害者雇用促進法とは、厚生労働省が実施する障害者雇用対策のひとつであり、障害者が能力を活かし社会で活躍できるような環境をつくるための法律です。

障害者雇用促進法の具体的な制度内容を紹介します。

障害者雇用率が定められている

障害者雇用促進法では、「障害者雇用率制度」によって、従業員に占める障害者の割合が定められています。

従業員が一定数以上の規模の事業主は、身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を法定雇用率以上にする義務が生じます。

民間企業の法定雇用率は2.3%と定められており、従業員を43.5人以上雇用している場合は、障害者を1人以上雇わなければなりません。

雇用率の対象となる障害者は下記のような人です。

雇用率の対象となる障害者

● 身体障害者手帳1?6級に該当する人
● 児童相談所などで知的障害者と診断された人
● 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人
令和3年の障害者雇用状況の集計結果によると、法定雇用率を達成した企業の割合は47.0%、実雇用率(常用雇用労働者に占める障害をもつ労働者の数)は2.20%です。
※出典:厚生労働省「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」

18年連続で過去最高を更新しており、社会全体で障害者雇用が着実に進んでいることがわかります。

障害者雇用納付金制度がある

「障害者雇用納付金制度」は、障害者雇用を多く実施する事業主の経済的負担を減らすために設けられた制度です。

障害者を雇用するにあたり、作業施設や設備の改善・職場環境の整備、特別な雇用管理などが必要になるため、事業主間の負担の公平を図りながら、障害者雇用の水準を高める目的です。

法定雇用率を達成し多くの障害者を雇用する事業主で、要件の満たした場合は以下のような助成が受けられます。受けられる助成は常用雇用労働者の人数などによって異なります。

対象となる事業者超過1人あたりの金額助成の種類
常用雇用労働者100人を超える事業主月額27,000円調整金
常用雇用労働者100人以下の事業主月額21,000円報奨金
その他要件を満たした場合助成金によって異なる各種助成金


一方、法定雇用率を満たしていない事業主(常用雇用労働者100人を超える事業主に限る)は、不足1人あたり月額5万円の納付金を徴収されます。

障害者の差別禁止及び合理的配慮の提供が義務づけられている

障害者雇用促進法の改正に伴い、2016年4月1日より、障害者への差別禁止や合理的配慮の提供が義務付けられました。

事業主は募集・採用において、障害者でない者と同じように障害者にも均等な機会を与えなければなりません。

また賃金・教育訓練・福利厚生などの待遇に関して、障害者に対する不当な差別的取り扱いを禁止しています。

さらに事業主は障害者の特性に配慮し、施設の整備や援助者の配置などの措置が必要です。

なお事業主は障害者に対する差別や合理的配慮の提供に関して、障害者である労働者から苦情の申し出を受けた場合は、自主的な解決を図るよう努めなければなりません。

解決しない場合は、行政が必要な助言、指導または勧告できるように調停制度も設けられています。

2023年度以降の障害者雇用促進法では何が変わる?

2023年度以降の障害者雇用促進法について、押さえておくべき変更点を解説します。

法定雇用率の引き上げ

2023年度から障害者の法定雇用率は、2.3%から2.7%に引き上げられます。

ただし障害者を雇うために環境を整える準備期間を考慮し、計画的な対応が可能となるよう実際には2023年度の雇用率は2.3%のまま据え置かれます。

その後2024年度から、障害者の法定雇用率は以下のように段階的に上がっていく予定です。



年度法定雇用率
2023年度2.3%
2024年度2.5%
2026年度2.7%

短時間労働者の算定方法の変更

障害者雇用促進法で雇用が義務付けられているのは、週の所定労働時間が20時間以上の労働者です。これは、障害者雇用促進法が、障害者の職業的自立を促すという趣旨であるためです。

しかし、障害の特性によって長時間勤務が難しい労働者が一定数いることを踏まえ、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の労働者について、1人を「0.5人」として雇用率に算定できるようになります。

新たに短時間労働者として対象になるのは、精神障害者、重度身体障害者および重度知的障害者に該当する人です。

なお、改正により短時間労働者の就労機会の拡大を図れるようになるため、現行の特例給付金は廃止されます。特例給付金とは、障害をもつ短時間労働者を雇用する事業主に対して、雇用障害者数に応じて1人7,000円/月(100人以下の場合は1人5,000円/月)を支給するものです。

障害者雇用に関する助成金制度

障害者雇用により受け取れる助成金制度を3つ紹介します。

トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース)

トライアル雇用助成金は、障害者トライアル雇用制度を利用してハローワークや民間の職業紹介事業者等の紹介で障害者を雇用した事業主に支給される助成金です。

障害者トライアル雇用制度には、障害者トライアルコースと障害者短時間トライヤルコースがあります。

障害者トライアルコースとは、雇用者が障害者の適性や業務遂行可能性を見極め、障害者の早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的とし、就職が困難な障害者を一定期間雇用する制度です。

支給対象者1人につき、月額最大4万円(最長3ヶ月間)が支給されます。対象者が精神障害者の場合は、月額最大8万円を3ヶ月、その後月額最大4万円を3ヶ月(最長6ヶ月間)受け取れます。

また、障害者短時間トライアルコースとは、週20時間以上の勤務が難しい精神障害者・発達障害者を試行的に雇用し、障害者の職場適応状況や体調等に応じて、トライアル雇用期間中に労働時間が20時間以上になることを目指す制度です。

障害者短時間トライアルコースでは、支給対象者1人につき月額最大4万円を最長12ヶ月間、受給できます。

制度名支給条件金額支給期間
障害者トライアルコース一般の障害者月額最大4万円最長3ヶ月間
精神障害者月額最大8万円3ヶ月間
8万円給付後、月額最大4万円3ヶ月間
障害者短時間トライアルコース精神障害者・発達障害者(週20時間以上の勤務が難しい場合)月額最大4万円最長12ヶ月間

障害者雇用納付金制度に基づく助成金

障害者雇用納付金制度に基づく助成金は、障害者を雇用するため、必要と認められた職場の作業施設や福祉施設などの設置・整備などを実施した場合、その費用の一部が助成されます。

障害者雇用納付金制度に基づく助成金には、下記の6種類の助成金があります。

6種類の助成金

● 障害者作業施設設置等助成金
● 障害者福祉施設設置等助成金
● 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
● 障害者介助等助成金
● 職場適応援助者助成金
● 重度障害者等通勤対策助成金(※3)
たとえば、障害者作業施設設置等助成金では、障害者がより働きやすい環境で就労できるように、トイレ・スロープ・作業設備などの設置や整備を行う場合に、費用の一部が支給されます。

各助成金によって、対象となる障害者の要件や限度額、支給期間はさまざまです。

人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)

人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)は、障害者の職業に必要な能力・スキルを向上させる目的で、一定の教育訓練を継続的に行う施設の設置・運営をする事業主(事業主団体)に対して、その費用の一部を助成する制度です。

訓練対象となる障害者は下記のとおりです。

訓練対象となる障害者

● 身体障害者
● 知的障害者
● 精神障害者
● 発達障害者
● 高次脳機能障害のある者
● 難治性疾患を有する者
施設や設備の設置・整備・更新を行う事業者に対して、要した費用に3/4を乗じた額が助成されます。

初めて助成金対象となる施設や設備の設置・整備であれば、上限は5,000万円、施設や設備の更新を行う場合は、1,000万円が上限です。

まとめ

障害者雇用では、障害の有無に関係なく、希望や能力に応じて誰もが職業を通じた社会参加のできる共生社会、つまり均等に働ける社会を目指すために、さまざまな制度が実施されています。

2023年度以降の障害者雇用促進法の変更点で、注目すべきは「障害者雇用率の引き上げ」と、「短時間労働者の算定方法の見直し」です。

障害者雇用に関する助成金制度も多く、企業側・労働者側の双方にとってメリットが大きいため、さらなる企業の発展や共生社会の実現などが期待できます。

よくある質問

障害者雇用とは?

身体障害や知的障害などをもつ人のための雇用枠です。

障害者雇用を詳しく知りたい方は「障害者雇用とは」をご覧ください。

障害者雇用促進法はどんな制度?

障害者が能力を活かし社会で活躍できるような環境をつくるための法律です。

障害者雇用促進法を詳しく知りたい方は「障害者雇用促進法はどんな制度?」をご覧ください。

監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級

現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。

監修者 羽場康高