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【2026年最新】中小企業向けの賃上げ促進税制とは?適用要件や計算例、手続きをわかりやすく解説

監修 北 光太郎 きた社労士事務所

【2026年最新】中小企業向けの賃上げ促進税制とは?適用要件や計算例、手続きをわかりやすく解説

賃上げ促進税制とは、賃上げや人材育成への投資に積極的な企業が所定の税額控除を受けられる制度です。

2024年度に税制改正が施行され、中小企業向け賃上げ促進税制で要件を満たす中小企業は最大45%の税額控除を受けられるため、税負担を軽減しながらの賃上げが可能となりました。

本記事では、中小企業向け賃上げ促進税制について詳しく解説します。

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中小企業向け賃上げ促進税制とは?賃上げ額に応じて税金が控除される制度

賃上げ促進税制とは、従業員の賃上げや人材育成への投資に積極的な企業や従業員を使用する個人事業主が、所定の税額控除を受けられる制度です。以前に設けられていた「所得拡大促進税制」から改正され、要件の簡素化や控除率の引き上げなど内容が拡充したことで、さらに利用しやすい制度になりました。

大企業向け・中小企業向けで内容が分かれており、中小企業向けの制度では給与などの増加額の一部を法人税(個人事業主の場合は所得税)から税額控除できるなど、中小企業向けの制度は、大企業向けよりも手厚い支援内容となっています。

2022年4月1日からスタートしており、適用期間は2024年4月1日から2027年3月31日までに開始する各事業年度でした。しかし、2026年度(令和8年度)税制改正大綱では、大企業向け賃上げ促進税制は、その予定期限を待たず2026年3月31日に前倒しで廃止される予定です。

改正により、要件を達成した場合の最大税額控除率は中小企業向けで45%、全企業・中堅企業向けで35%になっています。改正前は、増加額の最大30%を税額控除可能とし、教育訓練費の増加で上乗せできる要件を適用した場合は、最大40%の控除ができました。

賃上げ促進制度を活用すれば、負担を抑えながら給与アップや教育訓練の拡充が可能となります。それにより、従業員のモチベーション・能力アップにつながり、人材定着や生産性・企業イメージの向上も期待できるでしょう。

また、賃上げを行った企業が赤字の場合、最大5年間は控除枠を繰り越しできる措置も新設されました。

賃上げ促進税制の3つの区分

2024年度(令和6年度)の税制改正により、従来の「大企業」枠が「全企業」枠へと名称が変更され、新たに「中堅企業」枠が新設されるなど、より企業の成長フェーズに合わせた支援が行われるようになりました。

賃上げ促進税制は、企業の規模(資本金や従業員数)に応じて「全企業向け」「中堅企業向け」「中小企業向け」の3つの枠組みに分かれています。自社がどの区分に該当し、どのような要件を満たす必要があるのか把握しましょう。

なお、適用期間は2024年(令和6年)4月1日から2027年度(令和9年)3月31日までの間に開始する各事業年度となりますが、「全企業向け」区分については2026年(令和8年)3月31日で賃上げ促進税制が廃止になる予定です。

全企業向け賃上げ促進税制

「全企業向け」区分は、後述する中堅企業や中小企業の要件に該当しない大企業などが対象となります。

大企業については給与総額を前年度より3%以上増加させることで増加率に応じて15%〜25%の税額控除が受けれましたが、2026年(令和8年度)税制改正大綱により、2026年度(令和8年)3月31日で賃上げ促進税制が廃止になる予定です。

給与等の増加割合控除率(2026年(令和8年)3月31日まで)除率(2026年(令和8年)4月1日~)
3%以上10%廃止
4%以上15%
5%以上20%
6%以上25%

中堅企業向け賃上げ促進税制

中堅企業とは、常時雇用する従業員数が2,000人以下の企業を指します。中堅企業についても2026年度(令和8年度)税制改正大綱によって、2026年(令和8年)4月1日以降、給与等の増加割合と控除率が以下のとおり改正される予定です。

給与等の増加割合控除率(2026年(令和8年)3月31日まで)控除率(2026年(令和8年)4月1日~2027年(令和9年)3月31日)
3%以上10%
4%以上25%10%
5%以上15%
6%以上25%

なお、中堅企業については2027年(令和9年)3月31日をもって賃上げ促進税制の廃止が予定されています。

中小企業向け賃上げ促進税制

中小企業とは、資本金が1億円以下の法人や、従業員数が1,000人以下の個人事業主などを指します。

給与等の増加割合控除率
1.5%15%
2.5%30%

中小企業は2026年度(令和8年度)税制改正大綱では変更の予定はありません。ただし、教育訓練費の上乗せ措置が廃止になる予定です(施行時期は法案成立後に確定)。

そのため、従来は最大控除率が45%だったものが、教育訓練費の上乗せ措置廃止により、35%に引き下がります。

なお、中小企業には特例として「繰越税額控除」が認められています。赤字などで当期の法人税額から控除しきれなかった場合、その金額を最大5年間繰り越せるため、将来の黒字化を見越した先行投資としての賃上げも可能になっています。

教育訓練費の上乗せ要件については、後述の「中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件」をご確認ください。

中小企業向け賃上げ促進税制の対象者とは

中小企業向け賃上げ促進税制の対象となるのは、青色申告書を提出している中小企業者等です。

また、青色申告書の提出以外に、以下のいずれかに該当する法人または個人事業主が対象となります。

法人の場合資本金の額または出資金の額が1億円以下であること
常時使用する従業員数が1,000人以下であること
個人事業主の場合常時使用する従業員数が1,000人以下であること
協同組合等の場合中小企業等協同組合、出資組合である商工組合など

資本金が1億円以下でも、以下のいずれかに該当する法人は「みなし大企業」として扱われ、本制度の対象外となります。

  • 同一の大規模法人(資本金1億円超など)から2分の1以上の出資を受けている
  • 複数の大規模法人から合計で3分の2以上の出資を受けている

中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件

中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件は、必ず満たすべき「通常要件」と、満たすことで控除率が上乗せされる「上乗せ要件」という2つの要件で構成されています。

上乗せ要件には1段階目と2段階目が存在するため、実質「通常要件」「上乗せ要件1」「上乗せ要件2」の3段階の要件が存在することになります。

これらの3つの要件をすべて満たすことで、最大の控除率45%が適用されます。ただし、2026年度(令和8年度)税制改正大綱により、教育訓練費の控除率10%上乗せ措置(上乗せ要件1)は廃止され、最大控除率は35%になる予定です。

区分要件内容控除率(所得税/法人税からの控除)備考
通常要件雇用者給与等支給額が前年度と比べて ①1.5%以上増加していること
又は
②2.5%以上増加していること
①15%
➁30%
基本となる控除率。青色申告をしている中小企業者等が対象
上乗せ要件1通常要件+以下のいずれかを満たす場合:
① 教育訓練費の額が前年度と比べて5%以上増加していること
②適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であるこ
25%または40%教育訓練への投資を行っている企業を優遇
上乗せ要件2適用事業年度中にくるみん認定、くるみんプラス認定若しくはえるぼし認定(2段階目以上)を取得したこと、または適用事業年度終了の時において、プラチナくるみん認定、プラチナくるみんプラス認定もしくはプラチナえるぼし認定を取得していること45%人材投資や働きやすい職場環境づくりに積極的な企業を優遇
出典:中小企業庁「賃上げ促進税制を強化!」

通常要件:給与などの支給額が前年度比で1.5%または2.5%以上増加

従業員へ支払う給与などが、前事業年度と比較して1.5%以上増加していると増加額の15%を、2.5%以上増加していると増加額の30%を税額控除できます。

増加率は以下の計算式で求められます。

増加率 =(適用年度の雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額) ÷ 比較雇用者給与等支給額

比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度に従業員へ支払った給与などの金額です。

また、この計算における「雇用者給与等支給額」には、国から受け取る助成金の一部(キャリアアップ助成金など)は含めません。

増加率を求める際は、雇用安定助成金以外の「給与等に充てるため他のものから支払を受ける金額」を除いて計算します。

たとえば、業務改善助成金や労働移動支援助成金、キャリアアップ助成金などを受け取っていた場合は、その金額分を差し引いて増加率を計算します。

「給与等に充てるため他のものから支払を受ける金額」に該当する助成金等は、経済産業省の「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」に記載されているので、事前に確認しましょう。

上乗せ要件1:教育訓練費の増加(廃止予定)

従業員の教育訓練に使う費用が前事業年度より5%以上増加し、適用事業年度の教育訓練費の額も適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上増加していると、税額控除率をさらに10%上乗せできます。

増加率は以下の計算式で求めます。

増加率 =(適用年度の教育訓練費 - 比較教育訓練費の額) ÷ 比較教育訓練費の額

ただし、教育訓練の対象者や、教育訓練費の範囲に条件があります。教育訓練の対象者は、法人または個人の国内雇用者です。法人役員や個人事業主自身、入社予定の人物などは対象者に含みません。

また、教育訓練費に含まれる費用の範囲も決まっています。基本的には外部講師への報酬や外部施設の利用にかかった費用、教育に必要なコンテンツの利用料などが教育訓練費の範囲です。

社内研修で講師役を務めた社員へ対価を支払っていた場合は、教育訓練費に含みません。自社の研修施設にかかる光熱費や維持費、研修施設を取得する際の費用も対象外です。

教育訓練費の明細書を作成し、保存をしなければならない点にも注意しましょう。

上乗せ要件2:女性活躍・子育て支援の認定取得

適用事業年度中または適用事業年度終了までに、以下の認定を取得すると税額控除率を5%上乗せできます。

【適用事業年度中に取得する認定】


  • くるみん認定
  • くるみんプラス認定
  • えるぼし認定 (2段階目以上)


【適用事業年度終了までに取得する認定】


  • プラチナくるみん認定
  • プラチナくるみんプラス認定
  • プラチナえるぼし認定

上記の認定は、女性の活躍や子育て、不妊治療において一定の基準に達した企業が取得できる認定です。

各認定について、詳しくは下表を参考にしてください。

認定区分根拠法令・制度認定の主な対象・目的認定の段階/種類主な認定要件(概要)認定機関
くるみん認定次世代育成支援対策推進法子育てサポート企業として、仕事と育児の両立支援に積極的に取り組む企業を認定1段階・「一般事業主行動計画」を策定・届出・男性の育児休業取得促進などの具体的取組
・計画期間中に目標達成
厚生労働大臣
プラチナくるみん認定同上くるみん認定を受けた企業のうち、より高水準の取組を実施している企業を認定上位区分(2段階目)・くるみん認定の実績
・働き方改革(短時間勤務、在宅勤務等)、男性育児休業率の高水準確保など
厚生労働大臣
えるぼし認定女性活躍推進法女性の活躍推進に関する取組状況が優良な企業を認定3段階(★~★★★)・「一般事業主行動計画」を策定・届出
・以下5項目のうち達成数に応じて段階認定
①採用
②継続就業
③労働時間等
④管理職比率
⑤多様なキャリアコース
厚生労働大臣
プラチナえるぼし認定同上えるぼし認定企業のうち、女性活躍推進の取組が特に優れている企業を認定上位区分(最高段階)・えるぼし(★★★)認定取得済
・さらに独自の高水準基準を満たす(例:女性管理職比率の大幅向上、働き方改革の先進的取組など)
厚生労働大臣

上記のように、中小企業向け賃上げ促進税制では、給与の増加率や教育訓練費、各種認定の取得など、複数の要件を満たすことで税額控除を受けられます。一方で、実際に賃上げを実行するには、企業側のコスト負担や制度設計の検討も欠かせません。

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2024年度税制改正による所得拡大促進税制からの変更点

現在の賃上げ促進税制は、2022年4月に改正された制度です。以前は2021年4月~2022年3月までに開始する事業年度を対象にした制度があり、「所得拡大促進税制」と呼ばれていました。

旧制度にあたる所得拡大促進税制からの変更点は、以下のとおりです。

所得拡大促進税制からの変更点

  • 最大控除率の引き上げ
  • 赤字企業向けの繰越控除措置の新設
  • 教育訓練費の要件緩和

各変更点を詳しく解説します。

1. 最大控除率の引き上げ

旧制度の所得拡大促進税制では、上乗せ要件で加算される税額控除率は10%、最大25%の税額控除率でした。賃上げ促進税制では、最大45%の税額控除率になっています(教育訓練費の上乗せ措置廃止後は最大35%になる予定)。

また上乗せ要件の内容も簡素化し、適用しやすくなりました。旧制度の上乗せ要件では、給与等支給額2.5%以上増加と、教育訓練費の増加または経営力向上の証明が必要でした。

賃上げ促進税制では、給与等支給額が2.5%以上増加するだけで控除率が15%上乗せされます。教育訓練費の5%以上増加等で控除率が10%加算される上乗せ要件も加わり、併用も可能です。

2. 赤字企業向けの繰越控除措置の新設

赤字企業向けの繰越控除措置

2024年度税制改正により、赤字などの理由で当期の法人税額がゼロ(または低額)であっても、実施した賃上げに対する税額控除の権利を翌年度以降に繰り越せる仕組みが創設されました。

これにより、賃上げを実施した年度が赤字(欠損)で税額控除を使いきれなかった場合は、最大5年間の控除額繰り越しが可能です。とくに、設立間もない企業や、業績が一時的に悪化している企業は、将来の黒字化を見据えて積極的に賃上げを行いやすくなっています。

上記の図は中小企業が賃上げを行った場合で、かつ赤字により繰り越しが発生した例です。

1.赤字年度での控除額の発生(2024年度)

図の例では、賃上げによって450万円の控除額が発生しています。しかし、その年度が赤字であれば法人税額は0円になるため、本来はこの450万円を差し引くことができず、これまでは切り捨てられていました。繰越控除措置では、この450万円を「未控除額」として翌年以降に繰り越しできます。

2.黒字化を待つ期間(2025~2026年度)

引き続き赤字が続き、法人税額が0円である間は控除を実行できませんが、2024年度に発生した450万円の控除権は消滅せずに次年度へ引き継がれます。

3.黒字年度での控除の実行(2027年度)

利益が出て法人税が発生した段階で、繰り越した控除額を使用します。 図の例では、法人税額1,500万円の20%にあたる300万円が控除上限となります。ここで、繰り越した450万円の中から上限の300万円を差し引くことで、実際の納税額を減らすことが可能です。

4.残った控除額の再繰越(2028年度以降)

2027年度に使い切れなかった残りの額(450万円 - 300万円 = 150万円)は、さらに翌年度へと繰り越されます。これにより、2028年度以降の法人税では150万円を差し引くことが可能となります。

3. 教育訓練費の要件緩和

教育訓練費の要件緩和は、上乗せ要件である教育訓練費の増加率が、前年度比10%以上から5%以上に緩和され適用しやすくなっています。

教育訓練費の増加で上乗せ要件を適用する場合、旧制度では明細書の添付義務がありました。賃上げ促進税制では、添付義務から保存義務に変更され、税務申告時に明細書を添付する必要はありません。

ただし、実施時期・実施内容・受講者・支払証明を明記した明細書の作成・保存が必要です。

賃上げ促進税制の計算シミュレーション

実際に、賃上げ促進税制の対象となった場合、どのくらい税額控除が受けられるのか、モデルケースを例にシミュレーションしていきます。

ここで挙げるモデルケースは以下のとおりです。

  • 前年度の給与総額:1億円
  • 当年度の給与総額:1億300万円(3%増)
  • 前年度の教育訓練費:50万円
  • 当年度の教育訓練費:55万円(10%増)
  • 「くるみん認定」を取得済み
  • 当年度の法人税額:200万円

※シミュレーションは教育訓練費の上乗せ措置がある場合の例です

Step1. 要件の判定

まずは、要件ごとに控除率を確認していきます。

  • 通常要件:給与総額が3%増加しているため、2.5%以上増加の要件を達成(控除率30%)
  • 上乗せ要件①:教育訓練費が10%増加しているため、5%以上増加の要件を達成(控除率+10%)
  • 上乗せ要件②:「くるみん認定」を取得しているため、要件を達成(控除率+5%)

合計控除率:30% + 10% + 5% = 45%

Step2. 税額控除額の計算

Step1で求めた控除率をもとに、税額控除額を計算してみます。

  • 給与増加額:1億300万円 - 1億円 = 300万円
  • 税額控除額(上限適用前):300万円 × 45% = 135万円
  • 控除上限額:当年度の法人税額200万円 × 20% = 40万円

Step3. 最終的な税額控除額の決定

Step2で税額控除額を計算しましたが、ここでの税額控除額(135万円)は控除上限額(40万円)を上回っています。そのため、実際に控除できる金額は「40万円」です。

この場合でも、本来200万円だった法人税額が160万円に軽減されるため、税額控除の効果は高いと言えます。

賃上げ促進税制の手続きと必要書類

賃上げ促進税制を利用するにあたって事前の届け出などは不要ですが、確定申告の際に計算書類を添付しなければなりません。適切に税額控除を受けるためには、日々の給与支払データの正確な集計と最新の法改正に基づいた判定が必要になります。

ここでは、実際に賃上げ促進税制を申請する際の流れや、確定申告に添付すべき書類について解説します。

申請の流れ

賃上げ促進税制の手続きは、給与や教育訓練費の集計から始まり、要件判定、控除額の算出、申告書類の提出という流れになります。

賃上げ促進税制の手続きの流れ
1.給与・教育訓練費の集計
2.適用要件の判定
3.税額控除額の計算
4.申告書類の作成・提出

まず「給与・教育訓練費の集計」では、前年度と当年度の支給額を算出する必要があります。その際、役員やその親族などに支払う給与は除外して集計しなければならない点に注意が必要です。

次に集計した金額をもとに、通常要件や上乗せ要件を満たしているかを確認します。要件を満たしていることが確認できれば税額控除額の計算へ進みます。税額控除額の計算は、給与増加額に所定の控除率を乗じて算出しますが、もし赤字などで全額を控除しきれない場合は翌年以降への繰越額もあわせて計算します。

最後に申告書類の作成・提出として、確定申告書に税額控除の明細を記載した別表(別表6(24):給与等の支払額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書)を添付して税務署へ提出します。

賃金台帳や教育訓練費の領収書などの根拠資料は提出不要ですが、税務調査に備えて適切に保管しておくことが義務付けられています。

申請時の必要書類

賃上げ促進税制を適用する場合は、法人税の申告時、確定申告書に税額控除の対象となる事項や計算の明細を記載した以下の書類を添付することで申請を行います。

確定申告書等に添付が必要な書類
・税額控除の対象となる控除対象雇用者給与等支給増加額
・控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類
・適用額明細書(法人のみ)

【繰越控除措置を利用する場合】
・繰越税額控除限度超過額の明細書
・繰越控除を受ける金額の計算に関する明細書

【教育訓練費要件の上乗せ措置を利用する場合】
・教育訓練等の実施時期、教育訓練等の実施内容及び実施期間、教育訓練等の受講者、教育訓練費の支払証明を記載した書類の作成・保存(提出は不要)

確定申告書等に添付が必要な書類としては、税額控除の対象となる「控除対象雇用者給与等支給増加額」や控除を受ける金額と計算に関する明細を記載した書類、法人の場合は「適用額明細書」の提出も必須となります。

また「繰越控除措置」を利用する場合には、追加で「繰越税額控除限度超過額の明細書」や繰越控除を受ける金額の計算に関する明細書を添付する必要があります。

なお、教育訓練費要件の上乗せ措置を利用する場合については、教育訓練等の実施時期や内容、受講者、支払証明などを記載した書類を自社で作成して保存しなければなりません。書類は申告時に提出する必要はありませんが、後日、内容の確認を求められた際に提示できるよう大切に保管しておきましょう。

賃上げ促進税制の適用による企業側のメリット

賃上げ促進税制の活用は、税負担の軽減だけでなく、企業の経営基盤を強化するための戦略的な投資としても意味を持ちます。

ここでは、賃上げ促進税制の適用による企業側のメリットを紹介します。

法人税・所得税の控除が受けられる

賃上げ促進税制の適用の直接的なメリットは、賃上げに充てた費用の一定割合を法人税や所得税から直接差し引けることです。とくに、中小企業においては、最大45%(教育訓練費の上乗せ措置廃止後は35%)という控除率が設定されており、大幅な節税効果が期待できます。

さらに、中小企業は繰越控除措置を適用できるため、赤字があった年でも控除を翌年以降に繰り越せるようになりました。そのため、利益が不安定な時期であっても将来的な税負担の軽減を見越して先行投資としての賃上げに踏み切りやすくなっています。

人材確保につながりやすい

深刻な人手不足が続く現在の労働市場において、賃上げは他社との差別化を図る武器となります。税制優遇を活用して給与水準を向上させることで、優秀な人材の獲得競争を有利に進められるだけでなく、既存の従業員の流出を防ぐ効果も期待できます。

また、「賃上げに取り組む企業」としての姿勢を対外的に示すことができ、企業イメージの向上にもプラスに働きます。

賃上げ促進税制の適用による従業員側のメリット

企業が賃上げ促進税制を活用して賃上げを実施することは、従業員にもメリットをもたらします。経済的な恩恵だけでなく、会社からの評価が目に見える形で示されることで、長期的なキャリア形成における安心感にもつながります。

ここでは、賃上げ促進税制の適用による従業員側のメリットを紹介します。

給与水準の引き上げによる生活の安定

物価上昇が続く経済状況の中で、基本給のベースアップや賞与の増額は、従業員の家計を直接的に支え、生活の質を向上させます。将来への経済的な不安が解消されることで、従業員は自身のスキルアップやライフイベントへの投資にも前向きに取り組めるようになり、生活の安定へとつながるでしょう。

モチベーションやエンゲージメントの向上

賃金は労働の対価であり、その賃金が上がることで仕事への意欲向上も期待できます。

積極的に従業員へ還元しようとする姿勢は、企業と従業員の信頼関係を深め、組織に対するエンゲージメントを向上させます。その結果、職場全体の活気が高まり、生産性の向上といった相乗効果も見込めるでしょう。

賃上げ促進税制を適用する際の注意点

賃上げ促進税制を適用する際の主な注意点は、以下のとおりです。

賃上げ促進税制を適用する際の注意点

  • 一時的な海外勤務をしていても国内雇用者に含まれる
  • 教育訓練費の増加には対象者・範囲が決まっている
  • 適用年度と前事業年度の月数が異なる場合は調整する

一時的な海外勤務をしていても国内雇用者に含まれる

賃上げ促進税制の適用は、国内雇用者へ支払った給与や教育訓練費の増加が要件です。国内雇用者とは、国内にある事業所で作成された賃金台帳に記載された人を指します。

国内の事業所で作成された賃金台帳に名前があり、給与を支給していたなら、海外出張していた従業員も対象者です。

教育訓練費の増加には対象者・範囲が決まっている

教育訓練費の増加で適用できる上乗せ要件では、教育訓練費の対象者と範囲が決まっています。教育訓練を目的に使った費用でも、対象外であれば教育訓練費に含みません。

教育訓練の対象者は、法人または個人の国内雇用者です。以下に該当する人物は、教育訓練の対象者に含みません。

教育訓練の対象に含まない人物

  1. 当該法人の役員または個人事業主自身
  2. 役員を兼務する使用人
  3. 該当法人の役員や個人事業主の特殊関係者*
  4. 内定者などの入社予定者

※役員や個人事業主の特殊関係者に該当する人物
・個人事業主の親族
・個人事業主と事実上婚姻関係と同様の事情にある人物
・役員・個人事業主から生計の支援を受けている人物
・「2」または「3」と同一生計の親族

また、教育訓練費の範囲は、次に該当する費用です。教育訓練が目的でも、対象外となる費用もあるため、あわせて覚えておきましょう。

教育訓練費の範囲

  • 教育訓練などを法人・個人事業主自身が実施する場合の費用
  • 他者に委託して教育訓練などを実施する場合の費用
  • 他者が実施する教育訓練などへ参加させる場合の費用

教育訓練費に含まない費用

  • 社員や役員へ支払う教育訓練中の人件費や報奨金
  • 教育訓練に関する旅費・交通費・食費・宿泊費・居住費
  • 福利厚生など、教育訓練以外を目的に実施する研修などの費用
  • 法人・個人事業主自身が所有する施設などにかかる光熱費や維持管理費などの費用
  • 法人・個人事業主自身が施設や設備を取得する際の費用
  • 教材などの購入・製作にかかる費用

教育訓練の直接費用でない大学などへの寄附金や保険料などの支払い、外部講師や外部施設を利用した際の費用は教育訓練費に含みますが、自社施設の利用や講習時の交通費・旅費などは含みません。

適用年度と前事業年度の月数が異なる場合は調整する

決算期の変更や前事業年度が設立初年度だと、適用年度と前事業年度の月数が異なる場合もあるでしょう。

適用年度と前事業年度の月数が異なる場合、同じ期間で比較できないため制度の適用や税額控除の算定時に調整が必要です。

月数に応じた調整をするため、比較雇用者給与等支給額を調整して計算します。具体的な計算式は以下のとおりです。

前事業年度の国内雇用者の給与等支給額 × 適用年度の月数 ÷ 前事業年度の月数

前事業年度の月数が適用年度の月数に満たない場合、前事業年度の月数が6月以上なら同じ計算式です。

前事業年度の月数が6月未満の場合、以下のA・Bを使って調整します。

【前事業年度の月数が6月未満の場合の調整方法】


  • A:適用年度の開始の日の前日~過去1年以内に終了した各事業年度の国内雇用者の給与等支給額の合計額
  • B:適用年度の月数÷適用年度の開始日の前日~過去1年以内に終了した各事業年度の月数

AとBをかけて、比較雇用者給与等支給額を調整します。

まとめ

賃上げ促進税制は、賃上げや人材育成に投資した費用が前年度より一定以上増加していると、所定の税額控除が受けられる制度です。

中小企業向けの制度内容は、要件を満たせば最大45%(教育訓練費の上乗せ措置廃止後は35%)の税額控除が受けられます。制度を活用すれば、人件費の負担を抑えながら従業員の賃上げや教育機会拡大も可能です。

従業員の賃上げや教育機会拡大は人材定着や企業の生産性向上にもつながります。賃上げ促進税制を活用し、自社の成長機会に活かしましょう。

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  • ペーパーレスでの従業員情報の収集
  • 入社時の被保険者資格取得届の作成
  • 社会保険料の計算含む、給与計算事務
従業員・労務担当者双方の対応を簡略化し、効率化とペーパーレス化を同時に実現できるサービスです。

上記のほかにも年末調整・労働保険の年度更新・算定基礎届の作成・住民税の更新など、人事労務関連のさまざまな業務をサポートします。

企業の労務担当者のみなさん、freee人事労務をぜひお試しください。

よくある質問

中小企業向け賃上げ促進税制とは?

中小企業向け賃上げ促進税制は、要件を満たすと最大45%(教育訓練費の上乗せ措置廃止後は35%)の税額控除が受けられる制度です。

中小企業向け賃上げ促進税制を詳しく知りたい方は、記事内の「中小企業向け賃上げ促進税制とは?賃上げ額に応じて税金が控除される制度」をご覧ください。

中小企業向け賃上げ促進税制の対象者は?

中小企業向け賃上げ促進税制の対象者は、青色申告書を提出する一定規模以下の法人・個人事業主、または協同組合などです。

中小企業向け賃上げ促進税制の対象者を詳しく知りたい方は、記事内の「賃上げ促進税制の対象となる中小企業者とは?」をご覧ください。

賃上げ促進税制は赤字の場合でも利用できる?

賃上げを実施した年度が赤字(欠損)で税額控除を使いきれなかった場合でも、最大5年間は、控除額を繰り越せます。そのため、当期が赤字になった場合に控除する税額がなくても、翌期以降に反映させることが可能です。

詳しくは、記事内「2. 赤字企業向けの繰越控除措置の新設」をご覧ください。

参考文献

監修 北 光太郎

きた社労士事務所 代表
中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。計10年の労務経験を経て独立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人・個人問わず多くの記事執筆・監修をしながら、自身でも労務専門サイトを運営している。

北 光太郎
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