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定年制廃止とは?高年齢者雇用安定法との関係・メリットや注意点を解説

監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP

定年制廃止とは? 高年齢者雇用安定法との関係・メリットや注意点を解説

少子高齢化による労働人口の減少を背景に、定年制の廃止が注目を集めています。定年制廃止の概要国の施策との関係メリット注意点を解説します。

高年齢者の従業員がもつノウハウや技術は、企業の大切な資源のひとつです。特に長い時間のかかる技能継承で、高年齢者が果たす役割は少なくありません。

定年制廃止を含め、高年齢者の雇用に関する基本的な知識を理解しましょう。

目次

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定年制廃止とは

定年制廃止とは、これまで日本の慣行であった定年制度を廃止することです。

そもそも定年制は、労働者が60歳や65歳など一定の年齢に達した場合に、労働者と使用者のどちらも特段に意思表示をすることなく、労働契約が終了する制度です。定年制は法律で定められたものではなく、企業が就業規則などで任意に定めています。

一般的に、使用者が申し出て労働契約を終了する場合、解雇の手続きを行います。解雇は労働者の生活環境に大きな影響を与えるため、使用者が自由に行えるわけではありません。

就業規則で事前に周知する「定年制」は、通常、解雇には該当しません。就業規則で定めた年齢に達した場合、その属する年度などを区切りに労働契約が終了します。

定年制廃止が議論されている背景には、少子高齢化が加速的に進行するなかで、経済活動に必要な労働力確保の問題が挙げられます。国は高年齢者雇用安定法を随時改正し、働く意欲のある高齢者が活躍できる環境整備を進めています。

高年齢者雇用安定法と定年制廃止

高年齢者雇用安定法では、事業主に労働者が65歳まで働ける雇用確保を義務付けています。定年制廃止は、雇用確保措置で選択できる措置のひとつです。

以下では、高年齢者雇用安定法と定年制廃止の関係を解説します。2021年4月1日施行の改正内容、2025年4月1日からの変更点もあわせて紹介します。

高年齢者雇用安定法で事業主に課される義務

高年齢者雇用安定法では、高齢者が年齢に関わらず活躍できる環境づくりのため、事業主に次の措置が義務付けられていました。

事業主の義務

  1. 60歳未満の定年廃止
  2. 65歳までの雇用確保措置
1項目の義務は、60歳未満の定年の廃止です。高年齢者雇用安定法の制定により、就業規則で60歳未満の定年を定める行為は禁じられています。

2項目の義務は、65歳までの雇用確保措置(高年齢者雇用確保措置)です。65歳以上を定年としている場合は問題ありません。

ただし、65歳未満を定年とする企業では、次の3つのうちいずれかの選択が求められます。

65歳までの雇用確保措置

  • 定年を65歳まで引き上げる
  • 定年制を廃止する
  • 65歳までの継続雇用を制度化する
定年制の廃止は、上記の65歳までの雇用確保措置のひとつに位置付けられます。定年制を廃止すれば、高年齢者に働く意欲と能力があっても年齢を理由に労働契約が終了するケースを少なくできます。

ただし、必ずしも定年制を廃止しなければならないわけではありません。65歳までの雇用確保措置は、再雇用制度や勤務延長制度などの継続雇用制度の選択も可能です。

再雇用制度は、定年で一度退職し、新たに従業員と労働契約を結ぶ制度です。勤務延長制度では、定年時に退職とせず、従業員の雇用を延長させます。継続雇用制度は希望者全員への適用が必要です。

出典:厚生労働省「高年齢者の雇用」

2021年施行の高年齢者雇用安定法の改正内容

高年齢者雇用安定法は2020年3月31日に一部が改正され、2021年4月1日からは、70歳までの就業機会の確保が加わりました。

改正高年齢者雇用安定法では、事業主に次の5つの措置(高年齢者就業確保措置)のうち、いずれかひとつの措置を講ずる努力義務を定めています。

高年齢者就業確保措置

  1. 定年を70歳まで引き上げる
  2. 定年制を廃止する
  3. 70歳までの継続雇用を制度化する
  4. 70歳までの継続的な業務委託契約の締結する制度を導入する
  5. 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度を導入する
高年齢者就業確保措置は努力義務であるため、基準を設けて対象者を限定する措置が可能です。対象者を限定する場合は、次の点に注意しましょう。

対象者基準の注意事項

  • 対象者基準の内容は、過半数労働組合の同意を得るプロセスが望ましい
  • 恣意的な一部の高年齢者の排除、労働法令や公序良欲に反する内容は認められない
具体的には、基準に「上司の推薦の有無」を加えると、企業側が恣意的に一部の高年齢者を排除できてしまいます。

また、男性に限定する基準は男女差別です。基準は、高年齢者雇用安定法の趣旨に沿った内容で取り決めましょう。

出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」

2025年4月からの高年齢者雇用安定法の変更内容

65歳までの高年齢者雇用確保措置のうち、継続雇用制度の適用者は原則希望者全員となっていたものの、経過措置が設けられていました。

2018年3月31日までに、労使協定で継続雇用制度の対象者を限定する基準を設定した場合、適用年齢を以下のように段階的に引き上げられます。

継続雇用制度の対象者を限定する基準の経過措置・2016年3月31日までは61歳以上
・2019年3月31日までは62歳以上
・2022年3月31日までは63歳以上
・2025年3月31日までは64歳以上


継続雇用制度の経過措置は、2025年3月31日で終了します。2025年4月1日からは、継続雇用を希望する従業員をすべて雇用しなければならない点に注意しましょう。

出典:「65歳までの「高年齢者雇用確保措置」」

企業の雇用確保措置の導入状況

厚生労働省の令和5年「高年齢者雇用状況等報告」によると、雇用確保措置を実施済みの236,815社が選択した措置の内訳は次のように示されています。

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出典:厚生労働省「令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します」

全企業で見ると、雇用確保措置で定年制廃止を採用している企業は3.9%と少なく、多くの企業が継続雇用制度を導入している状況です。

企業人数別で見ると、301人以上で定年制を廃止した企業は0.7%である一方、21~300人の企業は4.2%の結果が報告されました。この結果から、定年制廃止は比較的従業員数の少ない企業で採用される傾向が伺えます。

定年制廃止のメリット

定年制廃止の導入は、企業と従業員の双方にいくつかのメリットをもたらします。主なメリットは次の通りです。

定年制廃止のメリット

  • 経験豊富な従業員のノウハウを活かせる
  • 人材採用や育成にかかる費用と時間を削減できる
  • 国の助成金を活用できる
各メリットの詳細を解説します。

経験豊富な従業員のノウハウを活かせる

定年制を廃止すると、自社でさまざまな経験を積んだ従業員を継続して雇用できます。経験豊富な従業員のもつノウハウ・知識・技術・取引先との関係などを、引き続き活かせる点は大きなメリットです。

従業員にとっても、定年制が廃止されると自分が希望する年齢まで働けます。近年、老後資金の確保が問題とされていますが、年齢制限なく働ける環境は経済的な不安の軽減に役立ちます。

人材採用や育成にかかる費用と時間を削減できる

定年制の廃止は、新規採用および育成にかかるコストを削減できる点がメリットです。

定年で従業員が退職すれば、なくなった労働力を埋めるための新規採用が必要です。採用後は、自社の仕事を覚えてもらうために、育成する手間と時間がかかります。

少子高齢化で労働力不足が注目を集める中、人材の新規採用と育成にかかるコストは企業にとって大きな負担です。

定年制を廃止して、高年齢者が就業できる年数を増やせば、新たに人材を採用・育成する負担を軽減できます。ノウハウや技術をもつ高年齢者に育成の役割を担ってもらい、新規人材の育成コストを抑える活用の仕方も有用です。

国の助成金を活用できる

国は、高年齢者が年齢に関わりなく働けるように、さまざまな助成金制度を設けています。具体的には、次の助成金です(2024年4月時点)。

助成金の名称内容
65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)定年制の廃止、65歳以上への定年の引き上げなどを実施した事業主に対する助成金
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)高年齢者または障がい者を、ハローワークなどの紹介で継続雇用した事業主に対する助成金
高年齢労働者処遇改善促進助成金60~64歳までの高年齢労働者に対する賃金規程の増額改定をした事業主に対する助成金

出典:厚生労働省「65歳超雇用推進助成金」

たとえば、定年制を廃止して65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)を活用した場合、60歳以上被保険者数が1~3人の場合は40万円、10人以上の場合は160万円の助成が受けられます。

この助成金は、高齢者が働きやすい取り組みを、経費をかけて実施した事業主に支給されます。

ただし、高齢者が働きやすい取り組みについて、制度として規程化し、その取り組みの過程において、実際に経費を要した場合に限られます。

定年制廃止の注意点

定年制廃止はメリットがある一方で、注意点があることも事実です。主な注意点には次が挙げられます。

定年制廃止の注意点

  • 就業規則の変更が必要になる
  • 世代交代を円滑に行えない場合がある
どのような注意点があるのか、事前に把握しましょう。

就業規則の変更が必要になる

定年制は通常、就業規則で定めているので、廃止する場合は就業規則の変更が必要です。そのほか、定年制の廃止に伴い、賃金規程や退職金規程を変更する場合があります。

就業規則や賃金規程などを変更する際は、労働者の不利益とならないように注意しましょう。労働契約法第9条では、労働者の不利益となる労働条件の変更を認めていません。

ただし、労働契約法第10条で例外が定められているのですが、賃金や退職金規程の変更は不利益な変更とみなされる場合も多いので、慎重な取り扱いが必要です。

世代交代を円滑に行えない場合がある

定年制が廃止されて高年齢の従業員が増えると、新しい人材の採用が減少するケースが考えられます。

職場での高年齢者の割合が増えると、新しい世代の採用や技術の継承が遅れ、世代交代が円滑に進まない場合もあるので注意しましょう。

また、高年齢者に適材適所で働いてもらうには、健康面や体力面に配慮した人事配置が求められます。高年齢者一人一人と働き方に対してコミュニケーションを深め、適切な処遇を行う必要があります。

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まとめ

定年制は年功序列制や終身雇用制などとともに、日本の雇用慣行として広く採用されてきました。近年は少子高齢化による社会的要請もあり、定年制廃止を含めた変化が求められています。

健康寿命が延びている昨今、働く意欲と能力のある高年齢者は多数存在します。国が助成金制度でパックアップしている点もメリットです。定年の引き上げや継続雇用制度の導入を含め、自社に適した雇用確保措置・就業確保措置を進めましょう。

よくある質問

定年制は廃止しなければならない?

定年制の廃止は、高年齢者雇用安定法で義務付けられた65歳までの雇用確保措置のひとつです。必ず廃止しなければならないわけではありません。

高年齢者雇用安定法での事業主の義務を詳しく知りたい方は「高年齢者雇用安定法と定年制廃止」をご覧ください。

定年制廃止のメリットは?

経験豊富な従業員のノウハウの活用や国の助成金を利用できるメリットが挙げられます。

メリットを詳しく知りたい方は「定年制廃止のメリット」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史