監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所

生命保険料控除は、2025年度税制改正で23歳未満の扶養親族がいる世帯を対象に、所得税の一般生命保険料控除が4万円から6万円に拡充されます。
これは子育て世帯のリスクへの備えを支援する目的で導入されるもので、2026年分の所得税にのみ適用される1年間の時限措置です。ただし、所得税控除の合計適用限度額(現行12万円)は据え置かれます。
生命保険料控除が拡充された場合、税負担も変更されるため、具体的な改正内容や自身の家計への影響を確認しましょう。
本記事では、2024年度税制改正要望の背景や要望の内容、2025年度税制改正で決定された生命保険料控除の拡充内容を解説します。
目次
そもそも生命保険料控除とは
生命保険料控除は、生命保険や個人年金保険、介護医療保険の保険料を支払った際に、所得税や住民税の負担を軽減するための制度です。
生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料を支払うと、税率をかける前の金額から一定額を差し引けます。
差し引く金額の分、税率をかける金額が安くなるので「控除額 × 税率」で計算した金額だけ、所得税と住民税が安くなる仕組みです。
控除額は、新契約(2012年1月1日以降に結んだ保険契約)と旧契約(2011年12月31日以前に結んだ保険契約)で異なります。
生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の控除額は、下記の式で計算します。
所得税の生命保険料控除額(旧契約) | |
---|---|
年間の支払保険料など | 控除額 |
2万5,000円以下 | 支払保険料などの全額 |
2万5,000円超5万円以下 | 支払保険料など × 1/2 + 1万2,500円 |
5万円超10万円以下 | 支払保険料など × 1/4 + 2万5,000円 |
10万円超 | 一律5万円 |
所得税の生命保険料控除額(新契約) | |
---|---|
年間の支払保険料など | 控除額 |
2万円以下 | 支払保険料などの全額 |
2万円超4万円以下 | 支払保険料など × 1/2 + 1万円 |
4万円超8万円以下 | 支払保険料など × 1/4 + 2万0円 |
8万円超 | 一律4万円 |
住民税の生命保険料控除額(旧契約) | |
---|---|
年間の支払保険料など | 控除額 |
1万5,000円以下 | 支払保険料などの全額 |
1万5,000円超4万円以下 | 支払保険料など × 1/2 + 7,500円 |
4万円超7万円以下 | 支払保険料など × 1/4 + 1万7,500円 |
7万円超 | 一律3万5,000円 |
住民税の生命保険料控除額(新契約) | |
---|---|
年間の支払保険料など | 控除額 |
1万2,000円以下 | 支払保険料などの全額 |
1万2,000円超3万2,000円以下 | 支払保険料など × 1/2 + 6,000円 |
3万2,000円超5万6,000円以下 | 支払保険料など × 1/4 + 1万4,000円 |
5万6,000円超 | 一律2万8,000円 |
生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の控除額合計は、所得税の場合、旧契約で最大10万円、新契約で最大12万円です。住民税の場合、旧契約・新契約いずれも最大7万円の控除を受けられます。
たとえば、個人年金保険料(新契約)を月1万5,000円・年18万円支払っている場合、控除額は所得税4万円、住民税2万8,000円です。年収400万円で所得税率5%・住民税率10%の人の場合、所得税は2,000円( 4万円 × 5% )、住民税は2,800円( 2万8,000円 × 10% )安くなります。
生命保険料控除の拡充の要望が出されている理由
各省庁が提出した税制改正要望(2024年度)のうち、金融庁が提出した要望の中で生命保険料控除の拡充が扱われています。
生命保険料控除の拡充が要望として出されている理由は、生命保険は、子育て世帯において万が一のことがあった際のリスクへの備えとしてニーズが高いためです。
経済の先行きを巡る不透明感が高まる中でも、生命保険をうまく活用すれば、将来に向けた保障や資産形成への備えとして役立ちます。
2024年度「税制改正要望」の生命保険料控除の改正内容
2024年度「税制改正要望」の中で、生命保険料控除に関して出された主な要望内容は下記の2つです。
生命保険料控除に関する改正の要望
- 控除額の引き上げ
- 扶養する子どもがいる世帯の税負担の軽減
生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の各控除額および合計の控除額の上限に関して、下記の要望が出されました。
生命保険料 | 介護医療保険料 | 個人年金保険料 | 合計控除額 | ||
---|---|---|---|---|---|
扶養する子どもがいる場合 | 所得税 | 6万円 | 5万円 | 5万円 | 16万円 |
住民税 | 4万2,000円 | 3万5,000円 | 3万5,000円 | 7万円 | |
扶養する子どもがいない場合 | 所得税 | 4万円 | 5万円 | 5万円 | 14万円 |
住民税 | 2万8,000円 | 3万5,000円 | 3万5,000円 | 7万円 |
要望の中では、扶養する子どもがいる世帯で控除額の上限をより緩和する制度が提案されました。
2012年1月1日以降に保険契約を結んだ新契約の場合、現行の制度の控除額の上限は、所得税は各保険料でそれぞれ4万円、合計で12万円です。住民税はそれぞれ2万8,000円、合計で7万円です。
もしこの要望通りに改正された場合、所得税の控除額上限は、扶養する子どもがいない場合は現行の12万円から14万円へ、いる場合は16万円へと引き上げられる計算でした。
住民税は、生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の合計控除額の上限は7万円に据え置かれる予定です。各保険料の控除額の上限額は、一部を除いて現行制度の2万8,000円から引き上げられます。
扶養の子どもの有無によって控除額を変える理由
扶養する子どもがいる世帯では、親が亡くなった場合の生活や教育資金の確保が必要です。十分な備えができていないと、残された子どもが生活に困ったり教育を受ける機会を失ったりする可能性があります。
控除額の上限を引き上げることで、扶養する子どもがいる世帯の税負担を軽減し、生命保険などで万が一の場合に備えやすくすることが期待されます。
現在、所得税や住民税は、配偶者控除や扶養控除を通じて、扶養する家族がいる世帯への税負担の配慮がなされています。
今回の生命保険料控除額の拡充を求める改正要望も、納税者の個々の状況に応じた適切な支援を目的とした制度設計の一環といえるでしょう。
2025年度税制改正の生命保険料控除の改正内容
2024年度の税制改正では、生命保険料控除の拡充は子育て支援に関する政策税制として基本的な考え方が示されました。ただし、2024年中の実施は見送られ、最終的な検討を踏まえた結論は、2025年度税制改正に持ち越されました。
2025年度税制で決定された生命保険料控除の拡充内容は下記の通りです。
区分 | 改正後の控除額 | |
---|---|---|
一般生命保険料控除 | 所得税(23歳未満の扶養親族あり) | 6万円 |
所得税(23未満の扶養親族なし) | 4万円 | |
住民税 | 2万8,000円 | |
介護医療保険料控除 | 所得税 | 4万円 |
住民税 | 2万8,000円 | |
個人年金保険料控除 | 所得税 | 4万円 |
住民税 | 2万8,000円 | |
合計 | 所得税 | 12万円 |
住民税 | 7万円 |
2025年度税制改正では、23歳未満の扶養親族がいる世帯の所得税の一般生命保険料控除が引き上げられます。適用条件を満たすと、現行の4万円から6万円に控除額が拡充します。
なお、2025年度税制改正の生命保険料控除の拡充は、2026年分のみに適用される時限措置です。
また、所得税の生命保険料控除の合計適用限度額は現行の12万円に据え置かれ、控除額の拡充は見送られます。
生命保険料控除の拡充が成立したら保険の見直しをすべきか
2025年度税制改正では、23歳未満の扶養親族がいる世帯の一般生命保険料控除(所得税)が拡充されました。ただし、合計適用限度額は拡充されなかったため、すでに生命保険料控除を限度額いっぱいまで活用している人は、今回の改正の影響を受けません。
税負担が変わらないにも関わらず、保険の見直しにより保険料が大きく上がった場合、生活が苦しくなる可能性があります。保険の見直しは補償内容と保険料負担のバランスを考えて決めることが重要です。
所得税の控除対象になる金額の範囲内に年間の保険料を抑えている場合は、控除対象の上限額の引き上げにあわせて保険の見直しを行ってもよいでしょう。
また、扶養する子どもがいる場合といない場合で控除額が異なります。ご自身の世帯の状況では税負担がどのように変わるのか計算し、必要に応じて保険の見直しを検討しましょう。
まとめ
2024年度の税制改正要望では、生命保険料控除の控除額の引き上げと、扶養する子どもがいる世帯の税負担軽減が要望として出されました。
生命保険料控除の拡充が要望として出されている理由は、生命保険は、子育て世帯において万が一のことがあった際のリスクへの備えとしてニーズが高いためです。
2025年度の税制改正では、23歳未満の扶養親族がいる世帯を対象に、所得税の一般生命保険料控除が4万円から6万円に拡充されました。所得税を計算する際、税率をかけあわせる前の金額から差し引ける控除額が引き上げられます。
控除額が増えると生命保険料を支払っている人の税負担が軽減されます。家計にも影響があるため、ご自身の場合にいくら税金が変わるのか、確認しておきましょう。
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よくある質問
生命保険料控除の拡充で期待できることは?
控除額が引き上げられることで所得税・住民税が安くなる可能性があります。
詳しく知りたい方は、記事内「2025年度税制改正の生命保険料控除の改正内容」をご覧ください。
生命保険料控除額を扶養の子どもの有無で変えるのはなぜ?
子どもがいる世帯では、万が一、親が亡くなって子どもが残された場合への備えが重要であるため、生命保険料控除額の拡充による負担軽減などの配慮が必要です。
詳しく知りたい方は、記事内「扶養の子どもの有無によって控除額を変える理由」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。
