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メンタルヘルス対策とは?企業が行うべき3段階の予防と具体的な取り組み方法

公開日:2023/10/26

監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP

メンタルヘルス対策とは?企業が行うべき3段階の予防と具体的な取り組み方法

2015年12月から、企業が取り組むべきメンタルヘルス対策として、原則すべての労働者に対してストレスチェックの実施が義務化されました。

仕事に強い不安やストレスを感じている労働者は半数以上にのぼります。メンタルヘルス不調が社会問題とされる現在、企業によるメンタルヘルス対策の重要性が増しているといえるでしょう。

本記事では、メンタルヘルスの概要を説明したうえで、企業が行うべきメンタルヘルス対策具体的な取り組みを解説します。

目次

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メンタルヘルスとは

メンタルヘルスとは、「こころの健康状態」を指す言葉です。

近年、精神障害での通院者や自殺者数が高い数値で推移しており、職場でのメンタルヘルス不調は深刻な社会問題として認識されています。

厚生労働省の「過労死等の労災補償状況」(令和4年)によると、精神障害による労災請求件数は2,683件、支給件数は710件でした。推移を見ると、増加傾向にあることがわかります。

年度請求件数(件)支給件数(件)
平成30年度1,820465
令和元年度2,060509
令和2年度2,051608
令和3年度2,346629
令和4年度2,683710
出典:厚生労働省「令和4年度 過労死等の労災補償状況」

職場での労働者の精神障害には、主に対人関係やハラスメント、仕事の量・質などが影響しています。

職場における労働者の精神障害の主な原因

● 上司とのトラブル
● 上司などからパワーハラスメントを受けた
● 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせるできごとがあった
● 同僚などから暴行や(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた
企業は現状を理解し、メンタルヘルス不調の予防や早期発見と適切な対処に努めなくてはなりません。

企業がメンタルヘルス対策を行う重要性

厚生労働省の「職場におけるメンタルヘルス対策の状況」によると、仕事に対して強い不安や悩み、ストレスを抱えている労働者の割合は、53.3%(令和3年)にのぼります。
出典:厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の状況」

労働者の半数以上が仕事へのストレスを感じているなかで、企業によるメンタルヘルス対策は、従業員のこころや体の健康を守るための重要な課題といえます。

企業によるメンタルヘルス対策が重要な理由は、大きく以下の3つです。

企業がメンタルヘルス対策を行う意義

● 生産性の低下を防ぐ
● 離職率の上昇を抑える
● リスクマネジメントにつながる

生産性の低下を防ぐ

企業のメンタルヘルス対策は、生産性の低下を防ぐのに役立ちます。

メンタルヘルス不調になると、従業員が本来のパフォーマンスを十分に発揮できなくなり、生産性が低下します。集中力や判断力が低下し、業務にかかる時間が長くなるなどの変化がみられるでしょう。

遅刻・早退・欠勤が増えるだけでなく、長期の休業が必要になる場合もあり、より悪化するケースも考えられます。

さらに、チーム内でメンタル不調者がいる場合、チーム内メンバーにも悪影響を与える可能性があります。生産性の低下を防ぐためにも、個人の問題だと捉えるのではなく、社内全体に関する問題だと広く捉える必要があるでしょう。

離職率の上昇を抑える

メンタルヘルス不調の従業員が増えると、離職率が上昇する可能性が高まります。

職場環境改善などのメンタルヘルス対策は、従業員の働きやすさにつながり、モチベーション向上や離職率の低下が期待できます。

リスクマネジメントにつながる

メンタルヘルス対策は、リスクマネジメントにも有効です。

メンタルヘルス不調になると、集中力や注意力が低下するため、事故やトラブルが生じやすくなります。業務内容によっては、本人だけでなく、ほかの従業員や顧客の安全・健康にも影響を与えかねません。

また、メンタルヘルス不調に対して適切な対応ができなかった場合、訴訟につながる可能性もあります。

企業によるメンタルヘルス対策は、さまざまなリスクを防止する意味でも重要です。

メンタルヘルス対策は法律で義務化されている

メンタルヘルス対策は法律で義務化されている
出典:厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」

「労働安全衛生法」の改正によって、「ストレスチェック制度」が始まりました。

常時50人以上の労働者を使用する企業は、2015年12月から毎年1回、原則すべての労働者に対してストレスチェック制度を実施しなければなりません。(※)
(※)契約期間が1年未満の労働者、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の3/4未満の短時間労働者は、ストレスチェック制度実施義務の対象ではありません。

ストレスチェックとは、労働者自身にストレス状態の気づきを促すとともに、職場環境の改善につなげてメンタルヘルス不調を予防するための検査です。

労働者が記入した質問票を集計・分析して本人に通知すると、ストレス状態を調べることができ、会社は従業員全体のストレスの傾向や程度を知ることができます。なお、会社が個人結果を本人の同意なしに知ることはできません。

また、ストレスチェックの結果、ストレスが高い労働者から申し出があった場合は、医師による面接指導を行います。なお、面接指導は申し出から1ヶ月以内に行わなくてはなりません。

企業が取り組むべき「3段階」のメンタルヘルス対策

企業が取り組むべきメンタルヘルス対策は、目的に応じて3段階に分けられます。

段階目的
一次予防メンタルヘルス不調を未然に防止する
二次予防メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う
三次予防メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰支援などを行う


なかでも一次予防は、労働者の健康や事故・トラブル、訴訟などのさまざまなリスクを避けるための重要な取り組みです。以下で3つの予防を詳しく解説します。

一次予防(未然防止)

一次予防は、ストレス要因を除去するまたは減らすことで、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ対策です。

一次予防の例

● 労働者のストレスマネジメントを向上させる(※)
● 職場環境を把握・改善する
(※)ストレスマネジメントとは、ストレスに対し、どのように対処し、付き合っていくかを考えることです。

2015年12月から義務付けられたストレスチェック制度は、一次予防に含まれます。

二次予防(早期発見と適切な措置)

二次予防は、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う対策です。

二次予防の例

● 上司や産業保健スタッフによる相談対応
● 労働者によるセルフチェック
● 労働者の家族による気付き
二次予防では、なるべく早期に対応し、メンタルヘルス不調の深刻化(合併症や自殺など)を防ぐことが求められます。

三次予防(職場復帰支援)

三次予防は、メンタルヘルス不調となった労働者がスムーズに職場復帰できるよう支援するとともに、合併症や再発の防止に努める取り組みです。

三次予防の例

● 職場復帰支援プログラムの計画と実施
● 医師との連携
企業は、労働者が職場復帰をするうえで不安に感じていることに対して、適切な措置(情報提供や相談対応)を行わなくてはなりません。

また、再発や新しい問題の発生有無に関する確認・職場環境の改善・上司や同僚への配慮など、職場復帰後のフォローアップも三次予防に含まれます。

企業や労働者が行う「4種類」のメンタルヘルス対策

企業や労働者が行う「4種類」のメンタルヘルス対策
出典:厚生労働省「メンタルヘルス対策のポイント」

メンタルヘルス対策は、実施主体によって以下の4種類に分類されます。

4つのケア実施主体
セルフケア労働者
ラインによるケア管理監督者
産業保健スタッフ等によるケア産業医や衛生管理者、保健師など
事業場外資源によるケア外部の機関・専門家


メンタルヘルス対策では、各ケアの計画的・継続的な実施が重要です。

①セルフケア(労働者)

セルフケアとは、労働者が自分自身で行うケアです。

セルフケアの例

● メンタルヘルスに対して正しい知識をもつ
● ストレスチェックから自分のストレス状態に気付く
● ストレスの予防対処をする
企業は、労働者がセルフケアを行えるように、研修や情報提供による支援を行わなくてはなりません。なお、セルフケアの対象には、管理監督者も含めます。

②ラインによるケア(管理監督者)

ラインによるケアは、管理監督者が行うメンタルヘルスケアです。

ラインによるケアの例

● 部下が相談しやすい雰囲気や環境を整え、日常的に相談対応する
● 部下の考え方や行動様式を理解する
● 必要に応じて産業保健スタッフへの相談を促す
ラインケアでは、管理監督者が以下のような部下の異変にいち早く気付くことが求められます。

部下の異変の例

● 遅刻を繰り返す
● ミスが目立つようになる
● 会話がなくなる
● 表情に活気がない
● 思考力や判断力が低下する

③産業保健スタッフによるケア

産業保健スタッフによるケアは、企業に在籍する産業医・衛生管理者・保健師・人事労務管理スタッフなどが行うケアです。

産業保健スタッフによるケア

● 具体的なケアの実施に関する企画立案や個人の健康情報の保護
● 外部機関との連携
● 労働条件の改善
セルフケアやラインケアが効果的に実施されるように、労働者や管理監督者を支援します。また、具体的なケアを進めるうえで中心的な役割を担うのも産業保健スタッフです。

④外部の機関・専門家によるケア

外部の機関・専門家によるケアは、社外の専門的な機関や専門家を活用したケアです。

外部の機関・専門家によるケア

● 労働者が自発的に相談できるよう外部の相談機関を活用する
● 必要に応じて外部機関の受診を促す
具体的には、以下のような機関・専門家が該当します。

外部の機関・専門家の例

● 都道府県産業保健総合支援センター
● 健康保険組合
● 労災病院
● 精神科・心療内科などの医療機関
● 労働衛生コンサルタント
● 公認心理師
● 精神保健福祉士
● 産業カウンセラー
● 臨床心理士
なお、何から始めてよいかわからない企業向けに、無料で使用できる機関として、厚生労働省が「こころの耳」というポータルサイト(相談窓口)を運営しています。まずは同サイトを活用するとよいでしょう。

メンタルヘルス対策の具体的な内容

企業が行うとよい具体的なメンタルヘルス対策の例を解説します。

メンタルヘルス対策の具体的な取り組み例

● 社内研修を実施する
● 職場環境を改善する
● 相談窓口を設置する
厚生労働大臣が定めた「労働者の心の健康の保持増進のための指針」も参考に、適切・有効に実施しましょう。

社内研修を実施する

メンタルヘルス対策を推進するには、従業員が社内研修などを通して、ストレスやメンタルヘルスケアに対する正しい知識をもつことが重要です。

社内研修の取り組み例

● 全従業員に向けたセルフチェック促進のための研修
● 管理監督者向けの部下との関わり方に関する研修
● 管理監督者や産業保健スタッフ向けの相談対応研修
必要に応じて外部機関も活用しながら、職務に応じた研修を実施しましょう。

職場環境を改善する

職場環境の問題を把握し、改善に努めるのもメンタルヘルス対策のひとつです。対策内容の一例を紹介します。

職場環境の問題把握・改善の取り組み例

● 人事労務管理システムを導入して労働時間を適切に管理する
● 労働者から意見を聴取する
● インターバル制度を導入する(※)
● コミュニケーション活性化のための研修を実施する
(※)インターバル制度とは、翌日の出勤までに一定時間以上の休息時間を設ける制度です。
メンタルヘルス不調の原因は、対人関係や長時間労働、ハラスメントなどさまざまです。業種や職種、企業の状況にあわせた改善を行いましょう。

相談窓口を設置する

従業員が自発的に相談できるよう、メンタルヘルス不調に関する相談窓口を設けましょう。

相談窓口設置の取り組み例

● 専属の産業医や保健師を配置する
● 社内パンフレットで相談窓口について周知する
産業保健スタッフとの定期的な面談機会を設けるなど、従業員が相談しやすい環境を整えることも重要です。

現在では、ヘルスサービスの分野も多様化しています。メンタルヘルスサポート(相談業務)を含め、オンラインかつサブスク型、もしくはスポットでサービスを提供している医療機関も増えてきました。

ぜひ、企業のニーズにフィットしたメンタルヘルス対策をご検討ください。

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まとめ

メンタルヘルスの不調は、深刻な社会問題のひとつです。企業によるメンタルヘルス対策の実施は、従業員の健康を守るだけでなく、生産性の低下や離職率の上昇を防ぎ、リスクを抑止するのに重要な意味をもちます。

2015年12月には、常時50人以上の労働者を使用する企業に対してストレスチェック制度の実施が義務付けられました。

メンタルヘルス不調には、対人関係や長時間労働などさまざまな要因が影響しているため、問題の正しい把握、適切な対処が求められます。メンタルヘルス対策の重要性を理解し、メンタルヘルス不調の予防に努めましょう。

よくある質問

企業がメンタルヘルス対策を行う意義は?

企業によるメンタルヘルス対策の意義は、主に以下の3つです。

企業がメンタルヘルス対策を行う意義

● 生産性の低下を防ぐ
● 離職率の上昇を抑える
● リスクマネジメントにつながる
企業がメンタルヘルス対策を行う意義を詳しく知りたい方は「企業がメンタルヘルス対策を行う重要性」をご覧ください。

メンタルヘルス対策は具体的に何を行えばよい?

企業によるメンタルヘルス対策の具体的な取り組み例は、以下の通りです。

メンタルヘルス対策の具体的な取り組み例

● 社内研修を実施する
● 職場環境を改善する
● 相談窓口を設置する
メンタルヘルス対策の具体的な取り組み例を詳しく知りたい方は「メンタルヘルス対策の具体的な内容」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史