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人的資本開示の義務化はいつから? 背景や企業に求められる19項目も紹介

公開日:2023/07/31

監修 岡崎 壮史 社会保険労務士・1級FP技能士・CFP

人的資本開示の義務化はいつから? 背景や企業に求められる19項目も紹介

人的資本開示は、企業の人材戦略や組織の成果に関連する情報を内部、または外部の関係者に提供することを目的としています。

人的資本への投資は、持続的な企業価値の向上や投資家へのアピールにもつながるため、積極的に投資をする企業が増えてきました。

人的資本の開示を求める動きは、世界的にも高まっており、アメリカではすでに上場企業に対して情報開示が義務づけられています。日本でも2023年3月期決算から、人的資本開示の義務化が決定されました。

本記事では、人的資本開示の背景や義務化の時期、開示の際のポイントなどを解説します。

目次

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人的資本とは

人的資本とは、個人のもつ能力や才能、資格などを資本として扱うという考え方です。

わかりやすくいうと、人も適切な投資を行えば、物資資本と同じように価値が高まり資産となり得るということです。

人的資本を含めた、無形資産の企業価値に占める割合は、年々増加しています。米国では2020年には9割に達していることから、企業の人的資本に対する重要性が高まっていることがわかります。 出典:内閣府 知的財産戦略推進事務局「企業価値に占める知的財産(無形資産)の重要性」

また、近年はコロナ禍の影響もあり、社会環境が大きく変化してきました。企業には新しい価値を生み出す力がより求められるようになった点も、人的資本が注目される要因と考えられるでしょう。

なお人的資本は、企業にとってだけでなく、投資の観点でも企業価値を決定する重要な要素のひとつになっています。

人的資本開示の背景と動向

人的資本の開示が求められるようになった主な背景として、以下が挙げられます。

人的資本開示の背景と動向

● 人的資本への関心の高まり
● ESG投資の重要性
それぞれの内容が、人的資本の開示とどのような関係があるのか確認してみましょう。

人的資本への関心の高まり

現在、企業の市場価値として重視すべき点が、有形資産から無形資産へ移行しています。

この傾向から、多くの企業が人的資本の重要性を認識し、企業の発展に不可欠であると認識していることがわかるでしょう。

また、企業にとって人的資本は、投資家を始めとするステークホルダーへのアピールの側面もあります。

ステークホルダーにとって人的資本情報の開示は、企業の将来性や企業価値を判断する指標です。

注目されるESG投資

ESG投資とは、以下の3つの要素に着目した投資を指しています。

ESG投資の要素

● 環境(Environment)
● 社会(Social)
● ガバナンス(Governance)
近年は、SDGsの考え方が市場に浸透してきており、ESG や SDGs への取り組みを含めたサステナビリティ経営が注目されています。

中でも人的資本は、ESGの「社会(Social)」に位置づけられており、サステナビリティ経営の重要な要素です。そのため、投資家が投資先を決める際の判断材料として、人的資本は重要な指標です。

このような背景の中、日本の企業も、投資家から的確な人的資本情報の開示を期待されています。

ESG投資については、「ESGとは? SDGsやCSRとの違いや投資の種類を詳しく解説!」で詳しく解説しています。

いつから人的資本開示は義務化される?

人的資本開示は、金融商品取引法第24条の「有価証券を発行している企業」のうち、主に大手企業約4,000社が対象です。令和5年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用されます。

人的資本開示の対象企業は、ステークホルダーに向けて、以下の情報を有価証券報告書に記載しなければいけません。

有価証券報告書に記載する内容

● 従業員の状況(人材投資の費用、従業員の満足度など)
● 女性管理職比率
● 男性の育児休業取得率
● 男女間賃金格差

人的資本で開示を要求されるのは7分野19項目

2022年8月に、内閣官房が策定した「人的資本可視化指針」では、人的資本の望ましい開示項目として7分野19項目が記載されています。開示項目の詳細は以下です。

分野項目
人材育成● リーダーシップ
● 育成
● スキル・経験
エンゲージメント● エンゲージメント
流動性● 採用
● 維持
● サクセッション
ダイバーシティ● ダイバーシティ
● 非差別
● 育児休業
健康・安全● 精神的健康
● 身体的健康
● 安全
労働慣行● 労働慣行
● 児童労働・強制労働
● 賃金の公平性
● 福利厚生
● 組合との関係
コンプライアンス・倫理● コンプライアンス・倫理
出典:内閣官房 非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」

企業は、上記の項目から、自社の戦略に沿った取り組みや目標と、具体的な数値目標の2つの視点から開示が求められます。各分野での開示内容をもう少し詳しく見ていきましょう。

分野①人材育成

人材育成の分野では、「リーダーシップ」「育成」「スキル・経験」の項目が盛り込まれています。

たとえば、育成のための教育・研修費用や時間、スキル向上プログラムの種類や対象者などです。

経営戦略、経営計画の目標実現のため、具体的になにを実行するのかを、わかりやすく記載されることが求められます。

分野②エンゲージメント

エンゲージメントとは、一般的に愛社精神や従業員満足度と言われています。

たとえば、労働環境や業務内容に「満足しているか」「やりがいをもてているか」などの度合いです。

具体的には、診断ツールを活用したエンゲージメント・サーベイの実施結果や、エンゲージメントの持続的向上を促す取り組みの開示が求められます。

分野③流動性

流動性の分野は、「採用」「維持」「サクセッション」の項目です。

具体的には、人材の維持・定着に関する取り組みや、採用人数や離職率などの数値の開示が求められます。

分野④ダイバーシティ

ダイバーシティの分野では、「ダイバーシティ」「非差別」「育児休業」の項目が盛り込まれています。

具体的には「女性管理職の比率推移」、「男性の育休取得率」、「男女間の給与格差」などの数値です。

近年は多様な働き方が推進されていることもあり、ダイバーシティは注目されている分野のひとつになっています。

分野⑤健康・安全

健康・安全の分野は、「精神的健康」「身体的健康」「安全」の項目です。

従業員の健康や労働環境に対して、企業が行っている施策や具体的な数値などを可視化し、今後の目標や進捗状況も開示が求められます。

分野⑥労働慣行

労働慣行の分野では、「労働慣行」「児童労働・強制労働」「賃金の公正性」「福利厚生」「組合との関係」の項目が盛り込まれています。

労働に対して賃金が適正なのか、不正が行われていないかなどに加え、福利厚生の内容や種類の情報も開示が必要です。

労働に関する項目は、企業の社会的信用にかかわる大切な項目になっています。

分野⑦コンプライアンス・倫理

コンプライアンスとは、法令遵守を指します。

つまり、企業として法律を遵守し、社会的な規範や倫理観にもとづいて行動できているかを示す情報の開示をしなくてはいけません。

具体的には、ハラスメント実態調査や内部通報制度など、コンプライアンスに関する取り組みの開示が求められます。

人的資本開示の課題と展望

人的資本開示は企業だけで なく、投資家にとっても重要な指標です。そのため、人的資本開示の課題を抽出するときは、企業と投資家の側面から考える必要があるでしょう。

まずは企業視点での課題です。

企業視点の課題

● モニタリングすべき指標や目標の設定
● 開示項目と企業価値との関連付け
● 必要な非財務情報の収集プロセスやシステムの整備
● 取締役レベルでの議論の不足
これらは、企業が 人的資本を含む、サステナビリティ関連全般の課題として挙げています。

つぎに人的資本に関して、投資家が優先的な開示を期待する内容です。

投資家が期待する開示内容

● 経営層・中核人材の多様性の確保方針
● 中核人材の多様性に関する指標
● 人材育成方針、社内環境整備方針など
上記を踏まえ、経営者には、人的資本開示に関して取締役・経営層との密な議論を行い、明瞭かつ論理的な説明が期待されています。

人的資本開示で企業に求められる対応

人的資本情報の開示は、企業価値の向上やステークホルダー間の相互理解を深めるのも目標のひとつです。ただ情報を開示するだけでは、人的資本の目標を達成できません。

人的資本の開示で企業が求められる対応には以下があります。

企業に求められる対応

● 開示情報にストーリー性を持たせる
● 開示情報の数値化
● 独自性のある情報の開示
各内容を詳しく解説します。

開示情報にストーリー性を持たせる

人的資本情報をただ開示するだけでは、企業価値の向上やステークホルダーへのアプローチにつながりません。

人的資本に関して自社が取り組むべき課題を抽出して、企業が成長するために必要な人材や具体的な行動の明確化が重要です。

たとえば、従業員の残業時間が課題の場合、必要なのは「時間を提供」するではなく、限られた時間で「価値を創出する」人材となります。

どのような人材育成を行い、どのような 結果や残業時間の変化が見られたのか、具体的な数値まで開示するとよいでしょう。

課題と行動を結びつけることで、適切な人的資本に関する項目の選択ができ、ステークホルダーに論理的な説明ができます。

開示情報の数値化

自社が人的資本に関して取り組んだ施策の情報を開示する場合は、結果を数値化し載せられると効果的です。

過去の実績を示し、長期時系列での変化を開示するとデータ分析もできるため、ステークホルダーへの説得力が増します。

また企業にとっては、開示したデータから自社の強みや、強化しなければいけないポイントが見えてくることもあるでしょう。

独自性のある情報の開示

開示する情報は、ステークホルダーがどのような情報を求めているかを分析して、的確にアプローチできるようにしなければいけません。

たとえば、自社のビジョンや理念、ビジネスモデルに沿った取り組みなど、自社を魅力的に見せられる情報を開示するとよいでしょう。

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まとめ

人的資本は、個人のもつ資格や能力なども資本とする考え方です。企業価値の占める割合は、年々、無形財産へシフトしているため、人的資本は企業にとって重要な要素になっています。

また、人的資本は、投資家にとっても投資先を決定するための判断材料です。そのため、令和5年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書から、記載が必須になりました。

人的資本開示は、企業価値の向上だけでなく、投資家などのステークホルダーへのアプローチで重要な要素となります。

自社の魅力をアピールするために、適切な開示を行い、持続的な成長と長期的な関係構築に取り組んでいきましょう。

よくある質問

人的資本とは?

人的資本とは、個人のもつ能力や才能、資格なども物資資本と同様に、資本として扱うという考え方です。企業が人材の価値を最大化できれば、企業価値の向上につながるでしょう。

人的資本を詳しく知りたい方は「人的資本とは?」をご覧ください。

人的資本開示はいつから義務化される?

令和5年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用されます。対象は有価証券報告書の提出義務がある、主に大企業4,000社となっています。

人的資本開示がいつから義務化されるのかを詳しく知りたい方は「いつから人的資本開示は義務化される?」をご覧ください。

監修 岡崎壮史(おかざき まさふみ) 社会保険労務士・1級FP技能士・CFP

マネーライフワークス代表。現在は、助成金申請代行・活用コンサルとして、企業様の助成金の申請代行や活用に向けたサポート業務、金融系サイトへ多くの記事を執筆・記事監修を担当し、社労士試験の受験指導講師としての活躍の場を全国に展開している。

監修者 岡崎壮史