監修 安田亮 公認会計士・税理士・1級FP技能士
RegTech(レグテック)とは、法規制に効率的・効果的に対応するための技術や動きのことです。法規制への対応コストが増大化するなかで注目を集めています。
今後、幅広い業界で活用が期待されるRegTechに関する正しい知識を身につけておきましょう。
本記事では、RegTechの概要やSupTech(スプテック)との違い、導入によるメリットや課題を解説します。
目次
- RegTech(レグテック)とは?
- RegTech(レグテック)とSupTech(スプテック)の違い
- RegTech(レグテック)とFinTech(フィンテック)の違い
- RegTech(レグテック)が推進される背景
- RegTech(レグテック)の導入で期待できるメリット
- 手間やコストを削減できる
- コンプライアンス管理を徹底できる
- リスクマネジメントを強化できる
- RegTech(レグテック)に関する課題
- RegTechの認知度がまだ低い
- RegTech事業者の新規参入が難しい
- 効果的な試行の仕組みがない
- まとめ
- 経理を自動化し、業務を効率的に行う方法
- よくある質問
- RegTech(レグテック)とは?
- RegTech(レグテック)で期待できる効果とは?
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RegTech(レグテック)とは?
RegTech(レグテック)は、「規制」(Regulation)と「技術」(Technology)を組み合わせた造語です。複雑化する規制に対してより効率的、効果的に対応するための技術(ブロックチェーンやAI、ビッグデータ解析など)や動きを指します。
国際決済銀行(BIS)によるRegTechの定義は、次の通りです。
被規制機関によって利用される、規制・報告義務等の法令遵守をサポートするイノベーティブな技術RegTechは、規制が複雑化する金融業界を中心に取り入れられており、今後幅広い業界での活用が期待されます。
RegTech活用の一例
● オンラインによる本人確認(eKYC)● AI(人工知能)スコアリング
RegTech(レグテック)とSupTech(スプテック)の違い
RegTechと似た言葉に、「SupTech(スプテック)」があります。SupTech(スプテック)は、「監督(Supervisory)」と「技術(Technology)」を組み合わせた造語です。
国際決済銀行(BIS)は、SupTechを次のように定義しています。
監督機関によって利用される、監督業務を支援するイノベーティブな技術RegTechは、「規制される側」が利用する技術や動きを指すのに対し、SupTechは「規制する側」が利用する技術や動きを指す点が異なります。
RegTechとSupTechの違い
● RegTech:規制される側(民間金融機関など)が利用する技術や動き● SupTech:規制する側(規制当局や法執行機関)が利用する技術や動き
RegTech(レグテック)とFinTech(フィンテック)の違い
FinTech(フィンテック)は、RegTechよりも早く普及した言葉です。
FinTechは、「金融(Finance)」と「技術(Technology)」を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけた革新的な動きを指します。国際決済銀行(BIS)による定義は、次の通りです。
金融取引に技術を活用し、今までの取引の在り方を変革するものRegTechは、現状金融分野で発展していることから、FinTechの一部だと捉えられる場合があります。ただし、RegTechは法規制に対応するための技術や動きを指し、金融分野に限定する言葉ではありません。
なお、RegTechは2015年頃から使われ始めた言葉です。一方、FinTechは2000年代前半に米国で使われ始めました。2016年4月1日には、日本銀行が「FinTechセンター」を設立し、金融サービスの向上や持続的成長のためにFinTechに関する取り組みの強化を進めています。
RegTech(レグテック)が推進される背景
欧米などの先進諸国では、規制やコンプライアンス対応コストの課題を解決する目的で、RegTechの導入が進んでいます。日本でもRegTechに注目が集まっているのは、こうした先進諸国の動きを受けているためです。
また、デジタル化などによってビジネスモデルの多様化が急速に進み、日本ではさまざまな課題が生じています。
リーマンショック以降、金融危機の再発を防止する目的で、金融規制の強化が相次ぎました。規制の複雑化が進むなかで、対応するためのコンプライアンスコストや人的な負担の増大が規制される側(金融機関)の大きな課題とされています。
規制に対し、正確かつスピード感をもった対応が求められるなかで重要性を増していることが、RegTechによる効果的・効率的な法令遵守の確保です。
出典:経済産業省「RegTechの海外・国内動向と我が国将来の規制の在り方に関する調査」
一方、規制する側は、規則的・定型的な業務に時間を取られてしまい、高度な分析に充てる時間の確保が課題とされています。より創造性が求められる業務に時間を割き、技術力向上を図るためにRegTechやSupTechを推進しています。
RegTech(レグテック)の導入で期待できるメリット
RegTechの活用によって期待できるメリットは、大きく以下の3つです。
RegTechの導入で期待できるメリット
● 手間やコストを削減できる● コンプライアンス管理を徹底できる
● リスクマネジメントを強化できる
手間やコストを削減できる
先進技術の活用によって、規制対応に関する業務を自動化すれば、手間やコストを削減できます。
規制対応に取られていた時間をほかの業務に充てられるようになるため、生産性の向上が期待できるでしょう。より創造力の求められる業務に時間を使えるようになれば、新たな商品やサービス、ビジネスモデルにもつながります。
金融機関だけでなくさまざまな業界で取り入れられている「オンライン本人確認(eKYC)」は、RegTech活用例のひとつです。オンラインでの本人確認は、事業者と消費者の双方にメリットがあります。
事業者のメリット | 本人確認に関する業務の手間やコストがかからなくなる |
消費者のメリット | 手続きに日数がかからなくなる |
本人確認は業務の負担が大きいだけでなく、書類提出の依頼や確認に時間がかかり、顧客満足度低下の原因にもなっていました。
eKYCを活用すれば、オンライン上で本人確認を完了でき、事業者が消費者に郵便を送るなどの手間やコストがかかりません。また、スマートフォンひとつで本人確認を完結でき、手続きに日数がかからないため、消費者からみても便利です。
コンプライアンス管理を徹底できる
RegTechを活用すれば、コンプライアンス管理を徹底できます。
国際RegTech協会のアンケートによると、リスク管理・コンプライアンスに関する予算に関して、回答者の35%が「前年比で増加している」と回答しました。
出典:経済産業省「RegTechの海外・国内動向と我が国将来の規制の在り方に関する調査」
万が一規制対応への漏れがあれば、処罰の対象となってしまいます。近年では、多額の罰金が課される例も増えてきていました。
RegTechを推進すれば、コンプライアンス違反を未然に防げます。遵守しなければならない法令に対して漏れなく正確に対応でき、新たな法規制に対してもより迅速かつ低コストで対応できるようになるでしょう。
コンプライアンス管理の徹底は、結果的に企業価値の向上にもつながります。
リスクマネジメントを強化できる
RegTechを導入すれば、従業員による不正行為や金融犯罪の検知など、リスクマネジメントの強化も期待できます。先進技術の活用によってリスクを予測できるため、より効果的な対策を行えるでしょう。
近年、金融機関には、複雑化・高度化するマネー・ローンダリングの手口に対応するための対策が求められています。
マネー・ローンダリング対策(AML)に対応するためのモニタリングシステムに、RegTechが活用されています。過去の取引履歴などのデータをもとに「疑わしい取引」を検知し、不正取引の防止を図るものです。
また、RegTechは信用リスクの管理にも活用されています。AIが与信審査や与信枠設定を行うと、債権未回収率の改善を図れるだけでなく、与信にかかる時間の短縮も期待できます。
RegTech(レグテック)に関する課題
RegTechは比較的新しい概念であり、以下のような課題もあります。
RegTechに関する課題
● RegTechの認知度がまだ低い● RegTech事業者の新規参入が難しい
● 効果的な試行の仕組みがない
RegTechの認知度がまだ低い
RegTechは、FinTechよりもあとに広がり始めた言葉であり、認知や理解が不足しています。
国際RegTech協会のアンケートによると、RegTechを全社のデジタル戦略の一部に位置付けている事業者は33%であり、半数にも達しません。
出典:経済産業省「RegTechの海外・国内動向と我が国将来の規制の在り方に関する調査」
RegTechに関する教育プログラムを提供するなど、RegTechを導入する意義への理解を促進する取り組みが求められます。
RegTech事業者の新規参入が難しい
国際RegTech協会のアンケートによると、RegTechによるソリューション・システムを選択するときに「ベンダーの信頼性」を基準とする事業者が61%を占めていました。
出典:経済産業省「RegTechの海外・国内動向と我が国将来の規制の在り方に関する調査」
被規制機関はソリューション・システムの性能以上にベンダーの信頼性を重視する傾向が見られます。実績がない新興のRegTech事業者は成長しにくい環境にあり、新規参入の障壁を高めています。
また、現状ではRegTechの認知度が低いほか、機密性が高い社外秘のデータをクラウド上に保管したくない、新しいデジタル・ソリューションがまだ信頼できないなどの意見が多い点も課題です。
出典:経済産業省「RegTechの海外・国内動向と我が国将来の規制の在り方に関する調査」
国による認定制度を設けるなど、RegTech事業者が参入しやすい環境の整備が求められています。
効果的な試行の仕組みがない
効果的な施行の仕組みがないことも、RegTechの推進に歯止めをかけています。
RegTechには「レギュラトリーサンドボックス制度」が導入されており、試行の仕組み自体がないわけではありません。
レギュラトリーサンドボックス制度とは、金融機関やRegTech/FinTech事業者が、既存の規制に捉われず、新しい技術の実証実験を行える制度です。
実証実験を行える場は設けられていますが、「監査などに影響を与えるのでは」との懸念から、事業者が実証を躊躇する傾向があります。
実証実験が効果的に活用されていない要因のひとつは、規制する側とされる側の対話不足であり、事業者が安心して実証を行える環境の整備が求められます。
まとめ
近年、法規制の複雑化に伴い、RegTechに注目が集まっています。
RegTechは、ブロックチェーンやAI、ビッグデータ解析などの技術を活用し、法規制に効率的・効果的に対応する動きです。導入によって、法規制への対応コスト削減やコンプライアンス管理の徹底、リスクマネジメント強化が期待できます。
RegTechは主に金融業界で活用されていますが、法規制対応への課題を抱えているのは金融業界だけではありません。今後、幅広い業界で活用されることが予想されるRegTechの概要やメリット、注意点を正しく理解しておきましょう。
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よくある質問
RegTech(レグテック)とは?
RegTech(レグテック)とは、ブロックチェーンやAI、ビッグデータ解析などの技術を活用し、複雑化する法規制に対してより効率的・効果的に対応する動きのことです。
RegTechの概要を詳しく知りたい方は「RegTech(レグテック)とは?」をご覧ください。
RegTech(レグテック)で期待できる効果とは?
RegTechを導入する主なメリットは、以下の通りです。
RegTechの主なメリット
● 手間やコストを削減できる● コンプライアンス管理を徹底できる
● リスク管理を強化できる
監修 安田亮(やすだ りょう) 公認会計士・税理士・1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。