監修 橋爪 祐典 税理士
通勤手当は一定の限度額を超えると所得税・住民税の課税対象となります。
2026年現在、公共交通機関を利用する場合の通勤手当の非課税限度額は月額15万円です。一方で、マイカーや自転車などの交通用具を使用する場合は、適用される限度額が異なるため注意が必要です。
また、交通機関と交通用具を併用する場合は、1ヶ月あたりの合計額が15万円以内であれば非課税となります
本記事では、通勤手当の非課税限度額や実務上の注意点、課税された場合の手取り額への影響などについて、わかりやすく解説します。
通勤手当は課税対象になる?いつから?
- 通勤手当は課税対象になる?いつから?
- 【交通手段別】2025年改正後の通勤手当の非課税限度額
- 交通機関または有料道路を利用している人の非課税限度額
- 交通用具(マイカーや自転車)を使用している人の非課税限度額
- 交通機関と交通用具を併用している場合の非課税限度額
- 通勤手当を支給する際の注意点
- 通勤手当の支給要件などは明確に設定する
- パートタイム労働者・有期雇用労働者にも通勤手当を支給する
- 通勤手当の廃止・減額は慎重に判断する
- リモートワーク推奨企業なら実費分のみを支給する
- 通勤手当は社会保険料の計算対象になると理解しておく
- 通勤手当が課税された際の手取り額への影響は?
- まとめ
- 社会保険に関する業務を円滑にする方法
- よくある質問
通勤手当は課税対象になる?いつから?
通勤手当が課税対象となるタイミングは、企業から支給される1ヶ月あたりの金額が、非課税限度額を超えた時点からです。
この非課税制度は、通勤に必要な実費を補填するという通勤手当の性質を考慮して設けられているもので、所得税法第9条第1項第5号に規定されています。
また、2023年の政府税制調査会による答申を受け、「通勤手当が全額課税になるのではないか」という憶測が広がりましたが、現状は全額課税ではありません。従来どおり、国税庁が定める非課税限度額を上回った分に対してのみ、所得税が課される仕組みとなっています。
なお、通勤手当が非課税となるのは「通勤のために必要な金額」に限られます。実際の通勤経路や交通費よりも明らかに高額な手当を支給している場合や、完全リモートワークで通勤していないのに通勤手当を支給している場合は、全額が課税対象となる可能性があります。
出典:e-Gov 法令検索「所得税法」
【交通手段別】2025年改正後の通勤手当の非課税限度額
2025年の税制改正では、近年のガソリン価格の高騰や物価変動を踏まえ、マイカーや自転車通勤者の非課税限度額が拡充されました。
公共交通機関利用者は月額15万円、マイカー・自転車通勤者は通勤距離に応じた区分、そして両者を併用する場合は合算して判定する仕組みになっています。
交通手段ごとに、具体的な非課税限度額と注意点を解説します。
交通機関または有料道路を利用している人の非課税限度額
電車やバスなどの公共交通機関あるいは有料道路を利用して通勤している人の場合、1ヶ月あたりの非課税限度額は15万円と定められています。通勤定期券や有料道路の金額が1ヶ月あたり15万円を超えると、超えた部分が課税対象となります。
非課税と認められるのは、経済的かつ合理的な経路で通勤した場合の運賃・料金の合計額です。
たとえば新幹線や特急列車を利用する場合、その方法がもっとも経済的かつ合理的であれば非課税の対象となります。グリーン車の料金は一般的に個人の嗜好による付加的な費用とみなされ、たとえ合計額が15万円未満であっても課税対象となる可能性が高いです。
従業員の住所変更や運賃改定のタイミングで、15万円の枠を超えていないか定期的にチェックする体制を整えましょう。
交通用具(マイカーや自転車)を使用している人の非課税限度額
マイカーや自転車などの交通用具を使用する人には、通勤距離に応じて非課税限度額が細かく規定されています。2025年に行われた改正では、片道の距離に応じた非課税枠が2025年4月分まで遡及して引き上げられました。非課税枠の拡大により課税対象となる給与額が抑えられることで、手取り額の増加につながります。
改訂前後の違いは以下のとおりです。
| 片道の通勤距離(1ヶ月あたり) | 改定後(1ヶ月あたり) | 改訂前(1ヶ月あたり) |
|---|---|---|
| 2キロメートル未満 | (全額課税) | 同左 |
| 2キロメートル以上10キロメートル未満 | 4,200円 | 同左 |
| 10キロメートル以上15キロメートル未満 | 7,300円 | 7,100円 |
| 15キロメートル以上25キロメートル未満 | 13,500円 | 12,900円 |
| 25キロメートル以上35キロメートル未満 | 19,700円 | 18,700円 |
| 35キロメートル以上45キロメートル未満 | 25,900円 | 24,400円 |
| 45キロメートル以上55キロメートル未満 | 32,300円 | 28,000円 |
| 55キロメートル以上 | 38,600円 | 31,600円 |
通勤距離の測定方法は、通勤経路に沿った最短距離が原則です。地図上の直線距離ではなく、実際の道路に沿った距離で測定します。
複数のルートがあるときは最短距離のルートを基準とし、一方通行や通行止めなどで通行できない場合は、実際に利用可能なルートで判断します。
人事労務の現場では、過去の遡及分が正しく精算されているかを確認し、管理体制を整えることが大切です。
出典:国税庁「通勤手当の非課税限度額の改正について」
交通機関と交通用具を併用している場合の非課税限度額
電車と自転車など、公共交通機関と交通用具を併用している場合、「交通機関の合理的な金額」と「交通用具の距離に応じた限度額」の合計が、1ヶ月あたり15万円以内であれば非課税となります。
改正後の交通用具分の限度額を正しく合算できているか、再計算が必要な対象者がいないか確認しておきましょう。
通勤手当を支給する際の注意点
通勤手当の扱いは、税務面だけでなく労務管理や社会保険の実務においても複雑です。
実務に際し、以下のポイントを押さえておく必要があります。
- 通勤手当の支給要件などは明確に設定する
- パートタイム労働者・有期雇用労働者にも通勤手当を支給する
- 通勤手当の廃止・減額は慎重に判断する
- リモートワーク推奨企業なら実費分のみを支給する
- 通勤手当は社会保険料の計算対象になると理解しておく
通勤手当の制度を適正に運用し、従業員への説明や税務上のリスク回避を行いましょう。
通勤手当の支給要件などは明確に設定する
本来、事業主に通勤手当を負担する義務はありませんが、就業規則などで通勤手当を支給する旨を記載している場合、支払う義務が生じます。
就業規則に定める際、支給要件や限度額などを曖昧にしていると、従業員が増えたときの対応に手間がかかる可能性があります。 また、上限を定めていないと、企業側の負担が大きくなる場合もあるため、主に以下の内容を明確に規定しましょう。
通勤手当で定めるべき事項
- 支給要件
- 支給金額の算出方法
- 通勤手段ごとの取り扱い方法
- 申請方法
支給金額に関しては、例として以下のような基準で算出する方法があります。
| 通勤手段 | 算出方法・基準(例) |
|---|---|
| バイク マイカー | ・「往復の移動距離×1ヶ月の勤務日数×ガソリン単価÷平均燃費」で算出する ・「片道の移動距離×距離単価×1ヶ月の勤務日数×2」で算出する ・税法上の非課税限度額を支給額とする |
| 自転車 | ・通勤距離に応じて、「〇〇キロ以上に〇〇円」など非課税限度額を考慮したうえで一律支給とする ・マイカー通勤の算出方法に準じて算出する |
| バス 電車 | ・定期券の運賃相当額を支給額とする ・「片道のIC運賃×2×1ヶ月の勤務日数」で算出する |
バイクやマイカーを利用する場合、ガソリン単価と燃費を基準にした計算式のほか、距離単価による算出方法もあります。自転車の場合、駐輪場や賠償責任保険の費用、雨の日のバス代などを考慮し、一定の通勤手当を支給するのが望ましいでしょう。
なおバイクやマイカー、自転車のメンテナンス費については、個人負担とするのが一般的です。マイカー通勤や自転車通勤を認めるのであれば、安全面に配慮した規定の整備も行いましょう。
パートタイム労働者・有期雇用労働者にも通勤手当を支給する
通勤手当は、一般的に労働時間の長さに関わらず支給されるため、パートタイム労働者・有期雇用労働者にも正社員と同じように支給する必要があります。なお、パートタイム労働者・有期雇用労働者の定義は以下のとおりです。
パートタイム・有期雇用労働者の定義
- パートタイム労働者:1週間の所定労働時間が通常の正規型労働者に比べて短い労働者
- 有期雇用労働者:事業主と期間の定めのある労働契約を結んでいる労働者
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(通称、パートタイム・有期雇用労働法)では、「差別的取扱いの禁止(第9条)」が定められています。
通常の労働者と就業の実態が同じであれば、賃金や手当などの待遇に関して、パートタイム労働者・有期雇用労働者であることを理由に差別的な扱いをしてはいけません。
また事業主は、パートタイム労働者・有期雇用労働者から説明を求められた際、措置の内容や待遇に関して説明する義務が生じます。
出典:e-Gov 法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」
出典:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法の概要」
通勤手当の廃止・減額は慎重に判断する
通勤手当の廃止や減額は、労働者にとって手取り額に直結する重要な変更です。労働契約法上の不利益変更に該当するおそれがあるため、慎重な判断が求められます。
通勤手当も労働基準法における賃金の一部として定義されており、企業側の都合で一方的に支給を停止したり、大幅に金額を下げたりすることは原則として認められません。
また通勤手当などを含む総支給額によって、社会保険料の算定基準が変わり、年金などに影響が生じるケースもあります。
とくに、長年支給されていた手当は、従業員にとって生活給の一部としての性質を強めています。廃止や減額を検討する際には、代替措置として別の手当を検討したり、数ヶ月の猶予期間を設けたりといった緩和措置を講じることが大切です。
事業主の独断での決定は従業員のモチベーション低下や離職を招くため、慎重な検討と法的なチェックをセットで行いましょう。
リモートワーク推奨企業なら実費分のみを支給する
リモートワークを積極的に推奨している企業であれば、毎月定額の定期代を支給するのではなく、実際に出社した日数に応じた交通費を実費精算する形に切り替えるのが合理的です。
実費支給であっても、それが業務遂行に必要な通勤費用である限り、月額15万円の非課税限度額の範囲内であれば所得税はかかりません。
一方で、光熱費や通信費の補助を目的とした在宅勤務手当を定額で支給した場合、それは給与所得として課税対象となります。
非課税の通勤手当を減らして課税の在宅手当を増やすと、従業員の税負担が増え、結果的に手取り額が目減りしてしまうことも考えられます。
これを回避するには、実費精算型の通勤手当を支給しつつ、在宅勤務に要した費用についても、国税庁のガイドラインに沿って実費分として算出・精算する運用が理想的です。
出典:国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」
通勤手当は社会保険料の計算対象になると理解しておく
通勤手当は月額15万円まで非課税として扱われますが、社会保険の分野では通勤手当を含む報酬の全額が算入されます。
4月から6月の平均給与で決定する標準報酬月額は、基本給と諸手当が合算されたものになるため、通勤手当が高いほど社会保険料の等級が上がり、毎月の天引き額が増えることになります。
この仕組みを従業員が正しく理解していないと、非課税枠が広がったのになぜ手取りが増えないのかといった不満やミスを疑う声につながりかねません。
実務担当者は、どの報酬が社会保険料の対象になるのかを明確に伝え、保険料負担が増えることで将来の年金額が増える可能性がある点まで、わかりやすく説明する必要があります。
なお、社会保険料の複雑な計算をミスなく、かつ効率的に行いたいなら「freee人事労務」の活用がおすすめです。freee人事労務なら、通勤手当の金額を入力するだけで、所得税の非課税計算と社会保険料の算定基礎への算入を自動で正しく処理できます。
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通勤手当が課税された際の手取り額への影響は?
通勤手当の支給額が非課税限度額を超えると、その超過分は所得税の課税対象となります。なお、通勤手当は所得税の課税・非課税に関係なく、社会保険料の計算には含まれる点に注意が必要です。支給額が増えて社会保険の等級が上がると、社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)が増加するため額面の増額分ほど手取り額は増えません。
たとえば、東京都在住・40歳未満・額面年収500万円の社員が、マイカー通勤で限度額を月1万円超えて支給される場合、その1万円に対して税金がかかるだけでなく、社会保険料の負担も増えます。結果として、手当のうち3,000円ほどが天引きされる計算となります。
通勤手当は全額が交通費に充てられると考えていると、社会保険料の増加分だけ、生活費に回せるお金が目減りしたように感じるかもしれません。
まとめ
通勤手当は限度額を超えると課税対象になります。2025年には、マイカー通勤者の非課税限度額が引き上げられるなど、改正が行われました。
通勤手当は、従業員の通勤にかかる負担を補填する重要な制度です。事業主や実務担当者は、通勤手当の非課税制度について正しく理解することが欠かせません。
この記事を参考に、自社の通勤手当制度が「法的・税務的に正しいか」を再点検し、従業員が安心して働ける環境を整えましょう。
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よくある質問
通勤手当が課税対象になるのはいつからですか?
通勤手当が所得税の課税対象となるタイミングは、企業から支給される1ヶ月あたりの金額が、国税庁の定める非課税限度額を超えた時点からです。
公共交通機関を利用している場合、月額15万円を超える差額分が給与所得として課税されます。
くわしくは記事内『通勤手当は課税対象になる?いつから?』をチェックしてください。
通勤手当の非課税限度額は2025年にいくらになりますか?
電車やバスのみを利用する場合の非課税限度額については、2025年の改正後も据え置かれ、引き続き月額15万円です。
これに対し、マイカーや自転車などの交通用具を使用する場合については、通勤距離が片道10キロメートル以上の区分において、限度額の上限が緩和されました。
くわしい金額は記事内『【交通手段別】2025年改正後の通勤手当の非課税限度額』からご確認いただけます。
交通費の税制改正はいつからですか?
通勤手当に関する非課税限度額の改正は、2025年4月1日以後に支払われる通勤手当から適用されています。
改正後の非課税限度額は記事内『【交通手段別】2025年改正後の通勤手当の非課税限度額』からご確認ください。
通勤手当が課税されたのはなぜですか?
通勤手当に課税された場合、要因は支給された通勤手当の額が、通勤手段や距離に応じて定められた非課税限度額を超えていることです。たとえば、電車通勤にかかる費用が月額15万円を超えていた場合などが考えられます。
場合によっては、税制改正に対応できておらず、従来の限度額で計算されている可能性もあるため、気になる場合は一度担当部署に確認することをおすすめします。
参考文献
▶︎ 国税庁「通勤手当の非課税限度額の改正について」
監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)
2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。
