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通勤手当が課税される?税法上のルールや支給時に気をつけたいポイントを解説

公開日:2023/10/26

監修 大柴 良史 社会保険労務士・CFP

通勤手当が課税される?税法上のルールや��支給時に気をつけたいポイントを解説

SNS上で「通勤手当への課税」が話題になりました。本記事では、通勤手当への課税・非課税のルールや、サラリーマン増税のニュースについて解説します。

「通勤手当が課税される可能性があるのでは?」というニュースから、通勤手当の税制に注目が集まっています。

通勤手当の支給時に注意したい点も解説するので、企業の経営者や人事労務にかかわる人は把握しておきましょう。

目次

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通勤手当とは?

通勤手当は、通勤に必要な費用を支給される手当であり、労働基準法上で「賃金」の一部として整理されています。

使用者(企業側)による支給は義務ではありません。しかし2020年の就労条件総合調査によると、諸手当を支給している企業のうち「通勤手当など」を支給している企業の割合は92.3%です。

出典:厚生労働省「令和2年就労条件総合調査 結果の概要」

企業によって、全額支給されたり上限があったり、支給の条件は異なります。定期券などの現物を支給されるケースもあります。

交通費との違い

交通費とは、出張や営業など業務で移動した際に生じた費用をいいます。

通勤手当とは異なり「賃金」として扱われません。義務ではありませんが、企業側が負担するケースが一般的です。

通勤手当の課税・非課税に関するルール

通勤手当のうち、一定額以下のものは非課税です。所得税法9条の6では、「通勤手当は実費弁済的なものである」という観点から、通常必要と認められる範囲内の通勤手当は課税されません。

また2016年度の税制改正では、通勤手当の非課税限度額が引き上げられました。

以下では、通勤手段ごとに課税・非課税の基準を説明します。

交通機関(バスや電車)を利用している場合の非課税限度額

公共交通機関を利用する場合、1ヶ月あたりの非課税限度額は15万円です。

通勤定期券などの金額が1ヶ月あたり15万円を超える場合、超えた部分が課税対象となります。

非課税と認められるのは、通勤にかかる運賃・時間・距離などを考慮し、もっとも経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の定期券代などです。

たとえば新幹線や特急列車を利用する場合、その方法がもっとも経済的かつ合理的であれば非課税の対象となります。ただしグリーン料金は、経済的かつ合理的な通勤方法として認められません。

交通用具(マイカーや自転車)を使用している場合の非課税限度額

マイカーや自転車などの交通用具で通勤している場合、下表の通り、片道の通勤距離に応じて1ヶ月あたりの非課税限度額が定められています。

片道の通勤距離1ヶ月当たりの限度額
2キロメートル未満(全額課税)
2キロメートル以上10キロメートル未満4,200円
10キロメートル以上15キロメートル未満7,100円
15キロメートル以上25キロメートル未満12,900円
25キロメートル以上35キロメートル未満18,700円
35キロメートル以上45キロメートル未満24,400円
45キロメートル以上55キロメートル未満28,000円
55キロメートル以上31,600円
出典:国税庁「No.2585マイカー・自転車通勤者の通勤手当」

通勤距離とは、通勤経路に沿った長さです。片道が2キロメートル未満の場合、支給される通勤手当の全額が課税対象となります。

交通機関と交通用具を併用している場合の非課税限度額

電車と自転車など、交通機関および交通用具の両方を利用して通勤している場合、次の合計額が非課税となります。

交通機関と交通用具を併用した場合の非課税対象

● 電車やバスなどの交通機関を利用する場合の1ヶ月間の通勤定期券などの金額
● マイカーや自転車など交通用具を使って通勤する片道の距離で決まっている1ヶ月あたりの非課税となる限度額
なお、1ヶ月あたりの非課税限度額は15万円です。

非課税限度額を超えた場合

非課税限度額を超えて通勤手当や定期券などを支給する場合、限度額を超える部分は給与として課税されます。

非課税限度額を超えた金額は、通勤手当を支給した月の給与に上乗せして、所得税および復興特別所得税の源泉徴収が行われます。

通勤手当を支給する際の注意点

通勤手当を支給する場合、気をつけておきたい主なポイントは以下の3つです。

通勤手当を支給する際の主な注意点

● 通勤手当の支給要件などは明確に設定する
● パートタイム労働者・有期雇用労働者にも通勤手当を支給する
● 通勤手当の廃止・減額は慎重に判断する
それぞれ詳しく解説します。

通勤手当の支給要件などは明確に設定する

本来、使用者(企業側)に通勤手当を負担する義務はありませんが、就業規則などで通勤手当を支給する旨を記載している場合、支払う義務が生じます。

就業規則に定める際、支給要件や限度額などを曖昧にしていると、従業員が増えたときの対応に手間がかかる可能性があります。また上限を定めていないと、企業側の負担が大きくなる場合もあるため、主に次の内容を明確に規定しましょう。

就業規則に定める通勤手当に関する規定

● 支給要件
● 支給金額の算出方法
● 通勤手段ごとの取り扱い方法
● 通勤手当の申請方法
支給金額に関しては、例として次のような基準で算出する方法があるため、参考にしてください。

通勤手段算出方法・基準(例)
バイク
自動車
● 「往復の移動距離×1ヶ月の勤務日数×ガソリン単価÷平均燃費」で算出する
● 「片道の移動距離×距離単価×1ヶ月の勤務日数×2」で算出する
● 税法上の非課税限度額を支給額とする
バス
電車
● 定期券の運賃相当額を支給額とする
● 「片道のIC運賃×2×1ヶ月の勤務日数」で算出する
自転車● 通勤距離に応じて、「〇〇キロ以上に〇〇円」など非課税限度額を考慮したうえで一律支給とする
● マイカー通勤の算出方法に準じて算出する
バイクや自動車を利用する場合、ガソリン単価と燃費を基準にした計算式のほか、距離単価による算出方法もあります。

自転車の場合、駐輪場や賠償責任保険の費用、雨の日のバス代などを考慮し、一定の通勤手当を支給するのが望ましいでしょう。

なおメンテナンス費については、個人負担とするのが一般的です。また自動車通勤や自転車通勤を認める場合、安全面から多くのルールが必要です。安全面に配慮した規程の整備も行いましょう。

パートタイム労働者・有期雇用労働者にも通勤手当を支給する

パートタイム労働者とは、1週間の所定労働時間が、通常の正規型労働者に比べて短い労働者を指します。また有期雇用労働者とは、事業主と期間の定めのある労働契約を結んでいる労働者です。

通勤手当は、一般的に労働時間の長短に関わらず支給されるため、通常の労働者と同じように支給する必要があります。

2021年4月に全面施行されたパートタイム・有期雇用労働法では、「差別的取扱いの禁止(第9条)」が定められています。

通常の労働者と就業の実態が同じ場合、賃金や教育訓練の実施などの待遇に関して、パート労働者であることを理由に差別的な扱いをしてはいけません。

また事業主は、パートタイム労働者から求められた場合、措置の内容や待遇に関して説明する義務が生じます。

通勤手当の廃止・減額は慎重に判断する

新型コロナウイルス感染症の影響によって、多様な働き方が広がり、通勤スタイルも変化しました。通勤スタイルの変化により、通勤手当を廃止した企業もあります。

ただし通勤手当を廃止したり減額したりする場合、労働条件の不利益変更に該当する可能性があるため、慎重に進めなければなりません。

また通勤手当などを含む総支給額によって、社会保険料の算定基準が変わり、年金などにも影響が生じるケースもあります。在宅勤務手当など代替案を用意するなど、労働者から理解を得ることが大切です。

非課税だった通勤手当も課税される?

2023年9年現在、非課税だった通勤手当が課税されると決まっているわけではありません。

2023年6月30日に政府税制調査会が提出した「わが国税制の現状と課題」によると、非課税所得について「政策的配慮の必要性も踏まえつつ注意深く検討する必要がある」と提言されました。

出典:税制調査会:「わが国税制の現状と課題」

非課税所得とは、通勤手当や失業等給付などをいいます。上記の提言に対して、「サラリーマン増税である」といった指摘があり、SNS上などで批判が集まりました。

世間の反応に対し、松野官房長官は「具体的な税制改正の方針を示したものではない」と発言しています。

通勤手当への課税など「サラリーマン増税」が検討される背景

通勤手当への課税に限らず、給与所得控除の上限の引き下げなど、さまざまな「サラリーマン増税」の検討や見直しが行われています。

サラリーマン増税が検討されている背景には次の理由があります。

サラリーマン増税が検討されている背景

● 働き方が多様化している
● 会社員は税制上優遇されている
政府税制調査会の「わが国税制の現状と課題」は、「会社員の税金制度は手厚い」という認識を政府がもっていると読み取れる内容です。

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まとめ

一定額以下の通勤手当は、非課税対象です。しかし非課税限度額を超えて通勤手当や定期券などを支給する場合、非課税限度額を超える金額は給与として課税されます。

「サラリーマン増税」がSNS上で話題になりましたが、2023年9月時点では、通勤手当の課税は決定されていません。

よくある質問

通勤手当が課税されるケースとは?

非課税限度額を超えて通勤手当や定期券などを支給する場合、通勤手当に対して税金がかかります。

通勤手当に関する税法上のルールを知りたい方は、「通勤手当の課税・非課税に関するルール」をご覧ください。

非課税だった通勤手当も課税される?

通勤手当のうち、一定額以下のものは課税されません。

通勤手当が課税対象となるかに関して知りたい方は、「非課税だった通勤手当も課税される?」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史