バックオフィスのトレンド情報をまとめて解説!

健康保険法改正で何が変わった? 変更点や企業に求められる対応を解説

監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級

健康保険法改正で何が変わった? 変更点や企業に求められる対応を解説

健康保険法は、国民の健康を守る重要な法律であり、定期的な改正が行われています。企業は改正内容を正しく理解し適切に運用する必要があります。

2023年5月に可決された健康保険法の改正では、後期高齢者医療制度の保険料の引き上げが盛り込まれ話題となりました。

さらに、2024年10月からは、パートやアルバイトなどの短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が広がることが決定しており、気になっている人も多いのではないでしょうか。

本記事では、健康保険法の概要、直近の変更点や会社に求められる対応をわかりやすく解説します。

目次

健康保険法とは

健康保険法とは、従業員とその家族の事故・疾病・妊娠・出産の際の保険給付や費用負担方法を定める法律です。

国民健康保険法とともに、日本の公的医療保険制度を支える基盤になっています。職域保険(全国健康保険協会、健康保険組合、共済組合)と地域保険(国民健康保険)の2つの保険で、ほぼすべての国民をカバーしています。

日本の健康保険制度は明治時代にはすでに始まっていましたが、民間企業や公務員共済による運営で、加入対象者は限定されていました。

1922年に健康保険法が制定され、数回の改正を経て適用事業所を拡大し、対象者も増加しました。

1982年の老人保健法、1997年の介護保険法、2006年の後期高齢者医療保険制度と、医療の実態や高齢化にあわせて数度の改正が行われています。

健康保険法の適用事業所とは

健康保険法の規定する「適用事業所」には、以下の2種類があります。

適用事業所の種類

● 強制適用事業所:常時5人以上の従業員を使用する事業所(農林漁業、サービス業など一部業種を除く)とすべての法人の事業所
● 任意適用事業所:申請により厚生労働大臣の認可を受けて健康保険の適用となった事業所
強制適用事業所には、2023年10月から「法律や会計にかかる業務につく士業」に該当し、常時5人以上の従業員を雇用する個人事業所が追加されています。

2023年の健康保険法改正の3つのポイント

2023年5月、後期高齢者医療制度の保険料の上限額引き上げを盛り込んだ改正案が可決され、メディアで話題になりました。

直近の健康保険法改正で注目すべき内容は3つです。

2023年の健康保険法改正3つのポイント

  1. 2023年4月1日出産分から出産育児一時金が50万円に引き上げ
  2. 後期高齢者医療制度の保険料上限は段階的に引き上げられる見通し
  3. 医療保険制度の基盤強化

2023年に可決・成立した改正案を、それぞれ詳しく解説します。

①出産育児一時金が50万円に引き上げ

出産育児一時金とは、健康保険の被保険者や、扶養される家族・親族(被扶養者)が出産したときに支給されるお金です。

出産に関しては、これまで42万円(産科医療補償制度未加入や妊娠22週未満の場合は40.8万円)が支給されていましたが、2023年4月1日以降の出産からは50万円に引き上げられました。

産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合や、妊娠22週未満で出産した場合は48.8万円です。

2023年4月1日以降の出産2022年1月1日から2023年3月31日までの出産
産科医療補償制度に加入する医療機関で妊娠22週以降に出産1児につき50万円1児につき42万円
産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産1児につき48.8万円1児につき40.8万円
妊娠22週未満で出産
出典:全国健康保険協会「出産に関する給付」

出産育児一時金については、「出産育児一時金とは?増額されるのはいつから?金額や申請方法をわかりやすく解説」をご覧ください。

②後期高齢者医療制度の保険料上限が段階的に引き上げられる見通し

2023年5月、後期高齢者医療制度の保険料上限の引き上げが、参院本会議で可決・成立しました。

年金収入が153万円超ある75歳以上を対象に、収入に応じて保険料を引き上げる制度が導入されます。年間の上限額も現行の66万円から80万円に、段階的に引き上げられる見込みです。

この税収は、出産育児一時金の財源にも充てられる予定で、後期高齢者全体の約4割が保険料負担増加の影響を受けると予測されています。

③医療保険制度の基盤強化

医療保険制度の基盤強化とは、医療保険制度をより堅固な基盤のうえに築き上げるための取り組みや改革を指します。

医療費の適正な使用や経済的負担の軽減・医療サービスの質の向上・医療保険制度の運営体制の改善などが含まれます。

主に都道府県ごとに保険者協議会を必置とする役割の明確化や、退職被保険者の医療給付費を調整する仕組みについての廃止が目的です。

具体的には以下の改正案が可決されています。

医療保険制度の基盤強化等

1.都道府県医療費適正化計画の充実と保険者協議会の導入
2.国民健康保険運営方針の法定化
3.退職被保険者の医療給付費の調整する仕組みの廃止
出典:厚生労働省「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための 健康保険法等の一部を改正する法律案の概要」

2023年の健康保険法改正における企業の対応

2023年の健康保険法改正で実施された出産育児一時金の引き上げに対して、会社は従業員へ情報提供や周知を強化する必要があります

出産育児一時金は、医療機関等や加入する健康保険へ従業員が申請する仕組みです。健康保険法改正をきっかけに、手続きがスムーズに進むよう会社のサポート方法の見直しもおすすめです。

申請手続きに変更はありませんが、給付額の増加により、出産育児一時金よりも出産費用が少ないケースが増える可能性もあります。

従業員からたずねられた場合に備えて、生じた差額を申請する手続きを押さえておくといいでしょう。

参考として、日本最大の健康保険である「協会けんぽ」で出産育児一時金に生じた差額を申請する2つの方法を紹介します。

なお、差額申請が必要となるのは、協会けんぽが医療機関に給付金を直接支払う「直接支払制度」を利用したときのみです。

申請のタイミング申請方法添付書類
協会けんぽより「支給決定通知書」が通知された後同封の「差額申請書」で協会けんぽへ申請不要
協会けんぽより「支払い決定通知書」が通知される前「内払金支払依頼書」で協会けんぽへ申請(※1)①医療機関等から交付される直接支払制度に係る代理契約に関する文書の写し
②出産費用の領収・明細書の写し(※2)
※1:証明欄に医師、助産婦または市区町村長の出産証明が必要
※2:医療機関の領収書や明細書に出産年月日や出産児数が記載されていれば不要 出典:全国保険協会「出産育児一時金について」

2022年に改正された傷病手当金の支給期間への対応は?

2022年改正の傷病手当金の支給期間に対する運用変更が行われています。

けがや病気で会社を休まなければならなくなったとき、会社を休み始めて4日目以降から欠勤日数に応じて支給されるのが傷病手当金です。

給付金額の目安は月給の約3分の2で、標準報酬月額をもとに計算されます。

これまで同じけがや病気を理由に欠勤した場合、傷病手当金の支給期間は支給開始日から「起算」して1年6ヶ月と定められてきました。

たとえば、入退院を繰り返し途中に就労期間があっても、傷病手当金を支給されなかった日も支給期間としてカウントされていました。

しかし2022年1月以降は、支給開始日から「通算」して1年6ヶ月に変更されています。つまり、途中に就労期間があった場合も、傷病手当金の支給日のみが支給期間としてカウントされます。

支給期間の考え方
出典:厚生労働省「事業主の皆さまへ(従業員の皆さまへもお知らせください)」

これにより、従来よりもさらに支給期間を延長できる人が増えました。

会社は傷病手当金の支給開始日に加え、従業員が休んだ日数が1年6ヶ月に達するまでを把握する必要があります。

傷病手当金の申請には、給与の支払いがあったかどうかに関する会社の証明が必要です。給与の締め日ごとに1ヶ月単位で管理するとよいでしょう。

注意すべきは、2021年12月31日時点で、支給開始日から起算して1年6ヶ月を経過していない(2020年7月2日以降に支給が開始された)傷病手当金が対象である点です。

長期間療養を続けながら働く従業員がいれば、法改正により支給期間が延長されている場合もあるので、手続きは慎重に行ってください。

2024年10月からは短時間労働者の社会保険適用範囲が広がる

2024年10月からは、パートやアルバイトなどの短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が広がることが決定しました。社会保険とは、健康保険・厚生年金保険・介護保険などの加入が義務付けられている制度です。

従来は「被保険者数101人以上の企業」が対象となっていた制度ですが、年金制度改正法により、範囲が広がる運びとなりました。2024年10月からは「被保険者数51人以上の企業」で働く短時間労働者でも、要件を満たす場合社会保険の適用が義務となります。

社会保険に関する業務を円滑にする方法

社会保険に関する業務は、加入手続きや保険料の計算など多岐にわたります。それらの業務を効率化したいとお考えの方には、freee人事労務がおすすめです。

freee人事労務には、以下のような機能があります。

  • 社会保険の加入手続きに必要な書類を自動で作成
  • ペーパーレスでの従業員情報の収集
  • 入社時の被保険者資格取得届の作成
  • 社会保険料の計算含む、給与計算事務
従業員・労務担当者双方の対応を簡略化し、効率化とペーパーレス化を同時に実現できるサービスです。

上記のほかにも年末調整・労働保険の年度更新・算定基礎届の作成・住民税の更新など、人事労務関連のさまざまな業務をサポートします。

企業の労務担当者のみなさん、freee人事労務をぜひお試しください。

まとめ

健康保険法の改正は、従業員の雇用安定や福利厚生に関わります。会社として改正内容を正しく理解して、従業員に対する周知や適切な運用を心がけましょう。

出産育児一時金の増額、傷病手当金の支給期間の変更、後期高齢者医療制度の保険料上限の引き上げなど、健康保険法の改正が続いています。

法改正内容のアップデートに対応できるソフトを導入するなど、会社の負担を軽減するための対策を検討するのもおすすめです。

よくある質問

2023年の健康保険法改正の内容は?

2023年の健康保険法改正の内容は下記の通りです。

適用事業所の種類

● 2023年4月1日出産分から出産育児一時金が50万円に引き上げ
● 後期高齢者医療制度の保険料上限は段階的に引き上げられる見通し
● 医療保険制度の基盤強化
2023年の健康保険法改正の内容を詳しく知りたい方は「2023年の健康保険法改正の3つのポイント」をご覧ください。

健康保険法改正は2024年以降にも予定されている?

健康保険法改正は、2022年、2023年に続き、2024年には後期高齢者医療制度の保険料上限の引き上げが予定されています。

2024年に実施予定の健康保険法改正の内容を詳しく知りたい方は「2023年の健康保険法改正の3つのポイント」をご覧ください。

監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級

現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。

監修者 羽場康高