バックオフィスのトレンド情報をまとめて解説!

2023年の最低賃金引き上げはどうなる?目的や企業への影響、必要な対応も解説

監修 岡崎 壮史 社会保険労務士・1級FP技能士・CFP

2023年の最低賃金引き上げはどうなる?目的や企業への影響、必要な対応も解説

最低賃金は近年、毎年引き上げが行われており、2023年も引き上げが行われる見通しです。引き上げによる影響を適切に理解する必要があります。

企業は従業員に対し、最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。本記事では、改定の時期や最低賃金の計算方法などを解説します。引き上げの影響や対応を把握し、適正な事務処理を行いましょう。

※関連記事
労働基準法を守るには?雇用者が知っておきたい違反のリスクや対策をわかりやすく解説

目次

人事労務のすべてをfreeeひとつでシンプルに

freee人事労務は、複雑な労務事務を一つにまとめて、ミス・作業時間を削減します!

入社手続きで取得した従業員ごとの保険料・税金と、打刻情報とを紐づけて自動で給与計算し、給与明細も自動で発行します。

ぜひ一度ご覧ください。

2023年の最低賃金引き上げはどうなる?

最低賃金は毎年10月頃に改定されています。近年の最低賃金を引き上げる傾向を考慮すると、2023年10月の改定で最低賃金は引き上げられる見通しです。

そもそも、最低賃金制度は最低賃金法により定められた制度です。最低賃金法では法に基づいて国が賃金の最低限度を定め、使用者は最低賃金額以上の賃金の支払いが義務付けられています。

近年、最低賃金は上昇傾向にありますが、背景には2017年3月28日に決定された「働き方改革実行計画」が挙げられます。

「働き方改革実行計画」では名目GDP成長率に配慮しつつ、年率3%度を目安とした最低賃金の引き上げを目標に掲げたからです。最終的に、全国加重平均(全国の最低賃金を都道府県ごとの労働者数に応じて重み付けをして算出した平均額)が1,000円以上となることを目指しています。

2023年に入り、岸田首相は政労使会議や記者会見などで2023年度中の最低賃金1,000円への引き上げに言及してきました。これを受け、中央最低賃金審議会(厚労省)では、2023年6月30日に最低賃金引き上げに向けた議論を開始しています。

2022年10月時点での地域ごとの最低賃金

2022年10月に改定された地域ごとの最低賃金は下記の通りです。改定前の最低賃金とともに紹介します。

都道府県最低賃金時間額(円)
改定前改定後
北海道889920
青森822853
岩手821854
宮城853883
秋田822853
山形822854
福島828858
茨城879911
栃木882913
群馬865895
埼玉956987
千葉953984
東京1,0411,072
神奈川1,0401,071
新潟859890
富山877908
石川861891
福井858888
山梨866898
長野877908
岐阜880910
静岡913944
愛知955986
三重902933
滋賀896927
京都937968
大阪9921,023
兵庫928960
奈良866896
和歌山859889
鳥取821854
島根824857
岡山862892
広島899930
山口857888
徳島824855
香川848878
愛媛821853
高知820853
福岡870900
佐賀821853
長崎821853
熊本821853
大分822854
宮崎821853
鹿児島821853
沖縄820853
全国加重平均額930961
出典 :厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」

2023年度の最低賃金の改定では、全国的に最低賃金が引き上げられています。全国加重平均額で見ると43円の引き上げとなっています。要因のひとつには、物価の上昇の影響が挙げられるでしょう。

最低賃金引き上げの流れ

過去5年間での全国加重平均額の推移は下記の通りです。

2018年度2019年度2020年度2021年度2022年度2023年度
全国加重平均額874円901円902円930円961円1,004円
引き上げ額前年度比
+26円
前年度比
+27円
前年度比
+1円
前年度比
+28円
前年度比
+31円
前年度比
+43円


過去5年の最低賃金の全国加重平均額を見ると、最低賃金額はおおむね右肩上がりに上昇しています。

2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大による影響もあり、大幅な引き上げは見送られました。しかし、2022年度は31円、2023年度は43円とともに過去最大の引き上げがなされました。

最低賃金の計算方法

自社の給与が最低賃金を上回っているか確認する際は、下記の方法で計算しましょう。時間給制、日給制、月給制に分けて紹介します。

給与形態計算方法
時間給制時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)
日給制・日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
・日給 ≧ 最低賃金額(日額)(特定最低賃金適用の場合)
月給制月給 ÷ 1ヶ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
出典:厚生労働省「最低賃金のチェック方法は?」

時間給制の場合は、お住まいの地域の最低賃金額と比較し、金額以上であれば問題ありません。日給制や月給制の場合は、日給・月給それぞれを1日または1ヶ月の所定労働時間で割り、最低賃金額と比較してください。

なお、特定最低賃金とは、都道府県で産業ごとに設けられている最低賃金です。特定最低賃金に該当する場合は、一般的な最低賃金(地域別最低賃金)ではなく、特定最低賃金との比較になるので注意しましょう。

出来高払い制やそのほかの請負制などの場合は、賃金総額を当該賃金算定期間の総労働時間数で割って、最低賃金額と比較します。

「時間給制と日給制」など異なる給与形態が組み合わせられている場合、それぞれを時間額に換算し、最低賃金額と比較してください。

最低賃金引き上げの目的

最低賃金の引き上げの主な目的は、最低賃金額を現状にあわせて適正な金額とすることです。

最低賃金法は賃金の最低額の保障により、労働条件の改善や労働者の生活の安定を図り、国の経済の健全な発展を目的としています。

労働者の生活環境は、物価や地価の上昇などの影響を受けるため、最低賃金が据え置かれたままだと、生活が厳しくなっていく一方です。

そのため、中央最低賃金審議会および各地の地方最低審議会では、「労働者の生計費」「労働者の賃金」「通常の事業の賃金支払能力」を総合的に勘案して、最低賃金を決定しています。

近年では、労働者の生活向上を考慮し、最低賃金は引き上げられる傾向です。

最低賃金引き上げが企業へ及ぼす影響

最低賃金の引き上げは労働者の賃金改善を期待できる一方、労働者を雇用する企業へ次のような影響を与えます。

最低賃金引き上げが企業へ及ぼす影響

● 人件費が増加する
● 収益が悪化する可能性がある
● 新しい人材の確保が難しくなる
以下では、最低賃金の引き上げが企業に及ぼす影響を説明します。

人件費が増加する

最低賃金の引き上げで懸念される点は、人件費の増加です。給与を最低賃金に近い金額で設定している企業の場合、最低賃金の上昇により人件費が高騰するリスクが想定されます。

収益が悪化する可能性がある

人件費が増加すると、その分だけ企業の利益は圧縮されます。収益が悪化すると、本来行うべき設備投資も縮小されかねません。

人件費増加分をカバーするだけの設備投資ができなければ、業務の縮小や廃業・倒産につながるケースも考えられます。

新しい人材の確保が難しくなる

人件費の高騰は、新しい人材確保にも影響を与えます。

現在雇用している従業員の維持に企業の資金が回ってしまい、新規採用のコストを賄えなくなる可能性があるためです。結果として、雇用が縮小する恐れがあります。

最低賃金引き上げへの企業の対応

最低賃金の引き上げが行われた場合、下記で紹介する点を確認・検討しましょう。

最低賃金引き上げへの企業の対応

● 最低賃金が下回っていないか確認する
● 業務改善を検討する
● 公的支援を活用する
なお、国は最低賃金の引き上げに伴う企業の負担を軽減するため、いくつかの支援を実施しています。賃金引き上げの際は、公的支援の活用も大切なポイントです。

最低賃金が下回っていないか確認する

はじめに、自社の給与がお住まいの地域の最低賃金を下回っていないか確認してください。厚生労働省が運営する最低賃金の特設サイトを活用すると、調べたい都道府県をクリックするだけで、最低賃金を確認でき便利です。

ただし、複数の都道府県にまたがって事業所などがある場合は、それぞれが所在する都道府県の最低賃金額で判断されます。

なお、最低賃金は毎月支払われる基本給が計算の対象です。残業代やボーナス、一部手当などは含まれないため、最低賃金を計算するときは注意しましょう。

自社の給与が最低賃金を下回っていた場合は、給与の見直しを行います。給与の引き上げで増える費用や社会保険料事業主負担分の金額などを試算し、対応を検討しましょう。

業務改善を検討する

人件費の見直しには、業務改善も有効です。たとえば、セミセルフPOSレジを導入する、介護事業でモニター管理できる設備を採用するなどです。

事業の形態に適したツールを導入できれば、業務を効率化でき、人手による作業の軽減につながります。

なお、生産性向上による賃金の引き上げを図る中小企業・小規模事業者には、「業務改善助成金」の支援制度が設けられています。次の章で詳細を説明するので、あわせてご覧ください。

公的支援を活用する

国は賃金引き上げに伴う企業の負担を抑制するため、さまざまな支援制度を実施しています。主な支援制度は下記の通りです。

名称内容
業務改善助成金● 事業場内最低賃金を一定額引き上げ(最低でも30円以上の引き上げが必要)、生産性向上のための設備投資を行う場合に、一定の助成が受けられる制度
● 助成率は10分の9~4分の3で、最大助成額は600万円
キャリアアップ助成金● 非正規雇用労働者のキャリアアップ促進のための助成制度
● 賃金規定等改定コースでは、賃金規定等の改訂を行ったうえで賃金額を3%以上引き上げた場合に助成が受けられる
中小企業向け賃上げ促進税制● 中小企業で一定の要件を満たした賃上げを行ったときに、税金の控除が受けられる制度
● 青色申告書の提出なとの要件がある
企業活力強化貸付● 事業場内最低賃金の引き上げに取り組む中小企業などに対する制度
● 設備資金や運転資金を低金利で借り入れできる
出典:厚生労働省「最低賃金・賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策紹介マニュアル」

上記の制度を利用するには、さまざまな要件を満たす必要があります。しかし、設備投資の資金助成が受けられたり、法人税・所得税の控除が適用されたりと多くのメリットを受けられます。

なお、中小企業向け賃上げ促進税制は、2023年12月22日に閣議決定された「令和6年度 税制改正大綱」で3年間の延長と控除率の見直しが決定されました。たとえば従業員全体の給与やボーナスが前年度より1.5%引き上げられた場合、増額分の15%を法人税納税額から控除できます。

自社の賃金の引き上げを検討するときは積極的に活用してみましょう。

まとめ

最低賃金は労働者の賃金改善だけでなく、企業の経営にも影響を与える課題です。近年、国は最低賃金の全国加重平均額を1,000円以上にする指針を示しており、岸田首相も2023年中の達成に意欲を見せています。

賃金の引き上げは企業の人件費増加につながる反面、従業員の生活水準引き上げを期待できる、人材の確保に貢献するなどのメリットも挙げられます。

国の支援を活用しつつ、必要な賃金の引き上げを実施していきましょう。

社会保険に関する業務を円滑にする方法

社会保険に関する業務は、加入手続きや保険料の計算など多岐にわたります。それらの業務を効率化したいとお考えの方には、freee人事労務がおすすめです。

freee人事労務には、以下のような機能があります。

  • 社会保険の加入手続きに必要な書類を自動で作成
  • ペーパーレスでの従業員情報の収集
  • 入社時の被保険者資格取得届の作成
  • 社会保険料の計算含む、給与計算事務
従業員・労務担当者双方の対応を簡略化し、効率化とペーパーレス化を同時に実現できるサービスです。

上記のほかにも年末調整・労働保険の年度更新・算定基礎届の作成・住民税の更新など、人事労務関連のさまざまな業務をサポートします。

企業の労務担当者のみなさん、freee人事労務をぜひお試しください。

よくある質問

最低賃金引き上げの目的とは?

最低賃金の引き上げの主な目的は、最低賃金額を現状にあわせて適正な金額とすることです。

最低賃金引き上げの目的を詳しく知りたい方は「最低賃金引き上げの目的」をご覧ください。

2023年の最低賃金引き上げはいつ行われた?

最低賃金は2023年10月に改訂されました

2023年の最低賃金引き上げはいつか詳しく知りたい方は「2023年の最低賃金引き上げはどうなった?」をご覧ください。

監修 岡崎壮史(おかざき まさふみ) 社会保険労務士・1級FP技能士・CFP

マネーライフワークス代表。現在は、助成金申請代行・活用コンサルとして、企業様の助成金の申請代行や活用に向けたサポート業務、金融系サイトへ多くの記事を執筆・記事監修を担当し、社労士試験の受験指導講師としての活躍の場を全国に展開している。

監修者 岡崎壮史