監修 安田亮 公認会計士・税理士・1級FP技能士
SXとは、「サステナビリティ・トランスフォーメーション」の略称です。企業の稼ぐ力と持続可能性の両方を重視して同期化させる変革を指します。
2020年頃から広まった新しい変革や指針を指す言葉で、不確実性が高まっている現代社会に必要な考え方です。
似たような言葉として「DX」や「SDGs」などもあり、どのような違いがあるのか気になっている人もいるかもしれません。企業の担当者・経営者はSXへの理解を深め、経営に反映させましょう。
本記事ではSXの意味や取り組みに関する現状、取り組むメリット、ポイントなどを解説します。
目次
SXとは
SXとは「Sustainability Transformation(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」の略称、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化させるために必要な経営や事業変革を指す言葉です。
社会の持続可能性の向上を図るとともに、長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力の向上へとつなげていくことを指します。
つまり、社会のサステナビリティに関する課題を解決できるビジネスモデルを構築できれば、自社の長期的かつ持続的な「稼ぐ力」の向上にもつながるという考え方です。
SXとDXの違い
DXとは、「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」の略称で、IoTやビックデータ解析などのテクノロジーを用いてビジネスに革新をもたらし、新しい価値の創造を指します。
SXと似た単語ですが、SXはサステナビリティを、DXはテクノロジーを重視して稼ぐ力や新しい価値の創造を目指すという点で違います。
なお、SXとDXは相反するわけではありません。たとえば、サステナビリティを目的とした事業を行うためにIoTやビックデータ解析などのテクノロジーを用いるように、一体的に取り組んでいくことが必要です。
SXとSDGsの関係性
SDGsとは、「Sustainable Development Goals(サステナブル・デベロップメント・ゴールズ)」の略称で、2015年の国連サミットで採択された持続可能な世界を目指す国際目標です。
一方、SXは経済産業省の「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」にて触れられた経済戦略です。
SXとSDGsの違い
● SX:日本独自の経済戦略● SDGs:国連サミットで採択されている世界全体の方針
【関連記事】SDGsとは?国際的な取り組みの内容や意味をわかりやすく紹介
SXの必要性と取り組みに関する現状
SXは2020年8月に開催された「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」で提唱された考え方です。
2022年には「伊藤レポート 3.0」や「価値協創ガイダンス 2.0」でも取り上げられており、社会の不確実性の高まりもあって、SXの注目度は急速に高まっています。
SXの必要性と取り組みに関する現状を順番に解説します。
SXの必要性
2020年以降、DXやIoT、AIなどを用いた第4次産業革命などにより、産業構造の変化が起きており企業は変革への対応を余儀なくされています。
また、企業は気候変動や局地的な災害、病気などの経済リスクを考慮して、中長期的な企業価値の創造も必要です。
さらに、投資家や資本市場から企業のサステナビリティ(持続可能性)やレジリエンス(適応力)への要請が高まっており、社会のサステナビリティへの貢献度も投資の対象となっています。
以上の理由から企業は社会の持続可能性の向上を図るとともに、長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力の向上としてSXが必要だと提唱されています。
SXの取り組みに関する現状
現状、中小企業ではSXの取り組みがなかなか進んでいません。
一方で、SXに取り組んでいる企業への投資や資本市場での注目度が高いこともあり、大企業では徐々にSXに取り組む姿が見られます。
また、経済産業省は2024年にSXへの取り組みを行っている企業を選定した、SX銘柄レポートを公表する予定です。
SX銘柄レポートが公開されれば、SXに取り組んでいるかどうかが投資対象を選別するポイントになる可能性が高くなり、今後は企業の経営者だけでなく投資家の間でもSXに関心をもつ人が増えると考えられます。
SXに取り組むメリット
SXに取り組む企業側のメリットは下記の通りです。
企業がSXに取り組むメリット
● 企業イメージが向上する● ESG投資家・株主からの評価が向上する
● 中長期的な稼ぐ力が強化される
企業イメージが向上する
資本市場は日本企業に対して、手元の資金を有効活用せずに成長する機会を逃してきたと指摘しています。また、1980年代前半から1990年代半ばごろに生まれたミレニアル世代の台頭により、企業に対する社会のサステナビリティの要請が高まってきています。
SXは自社の稼ぐ力を強化しつつ、社会の持続可能性を目指すという考え方です。SXの取り組みをアピールできれば、企業イメージの向上につながります。
ESG投資家・株主からの評価が向上する
ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)観点の課題解決に役立てる投資です。投資先を選定する際に、企業のESGへの取り組みを評価したり、ESGへの継続的な配慮をしたりするなど、ESGの要素を考慮します。
2008年に起きたリーマン・ショック以降、世界規模で見るとESG投資は急速に拡大しています。
しかし、日本は欧米に比べるとESG投資の割合は少なく、投資家や株主は様子見している状況です。
SXは社会の将来の姿や持続可能性を考慮してビジネスモデルを構築する考え方のため、ESG投資のニーズに当てはまります。
SXに取り組めば、ESG投資家や株主からの評価が向上し、企業の成長につながる可能性があります。
【関連記事】ESGとは? SDGsやCSRとの違いや投資の種類を詳しく解説!
中長期的な稼ぐ力が強化される
現在、次のような理由から中長期的な環境変化の不確実性は高まっています。
不確実性の要素
● 感染症の流行による経済危機● 第4次産業革命の進展に伴う技術革新
● サプライチェーンの寸断
● 気候変動問題
SXによって中長期的な稼ぐ力を強化できれば、不確実性のリスクに備えられます。また、中長期的な稼ぐ力が強化されれば、他社との競争での優位性が向上する可能性もあります。
SXに取り組む際のポイント
SXに取り組む際のポイントは下記の通りです。
SXに取り組む際のポイント
● 稼ぐ力の持続化・強化を図る● 社会のサステナビリティを経営に取り込む
● 投資家との対話を繰り返す
稼ぐ力の持続化・強化を図る
SXに取り組む場合、企業として稼ぐ力を中長期で持続化・強化する方法を考えてみましょう。
たとえば、企業の強みを活かす、他社との競争で優位なポイントを考える、ビジネスモデルの無駄を見直すなどがあります。
実際にSXに取り組んでいる企業の事例を紹介します。
イギリスにある一般消費財メーカーはビジネスとサステナビリティの両立を目指すプランとして50個以上の数値目標を設定したところ、自社工場の温室効果ガスを75%削減に成功しました。
ビジネスモデルの無駄を削減できれば、生産の効率化や余分なコストカットが実現できる可能性は高いです。また、事業ポートフォリオやマネジメント、イノベーションに対する取り組みなどを通じて、サステナビリティを高めていくとよいでしょう。
社会のサステナビリティを経営に取り込む
不確実性に備えて、社会のサステナビリティを経営に取り組む、あるいは目標にしてみましょう。
たとえば、将来の社会の姿を具体的に描いて、実現に至るためにビジネスを進める、SDGsの観点やESGの観点をもつなどの方法があります。
実際にSXに取り組んでいる企業を例に挙げて紹介します。
コンピューター機器やソフトウェアの開発・製造・販売などをしている大手企業では、イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくことを存在意義(パーパス)に設定し、実現のために新事業ブランドを立ち上げました。
上記のような事例の実践は難しいかもしれません。
しかし、SXは稼ぐ力の持続化と同時に、将来的な社会の姿を策定して実現を目指す取り組みが求められます。そのため、SXに取り組む際は、社会のサステナビリティを意識してみましょう。
投資家との対話を繰り返す
SDGsやESGなどに興味がない、あるいは知識がない投資家にはSXへの取り組みに関して、投資家の理解を得づらい場合があります。
なぜなら、不確実性の高まりは実際に起きるかどうか誰にも断言できず、SXは企業のサステナビリティと社会のサステナビリティを中長期的に同期させる考え方のため、利益に直結するまで時間がかかるからです。
また、将来に対するシナリオが途中で変更する場合も考えられるため、投資家の理解を得ることは難しいかもしれません。
しかし、SXは将来的に必要不可欠な要素となっているため、対話を何度も繰り返して投資家からの信頼を得てSXを推し進めていきましょう。
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まとめ
SXとは、企業の稼ぐ力の持続性と社会の将来的な姿という2種類のサステナビリティの同期化を実現する考え方や取り組みです。
不確実性が高まっている社会のリスクに備え、中長期的に稼ぐ力を強化しつつ、企業が社会への課題を取り組めるようにする変革を指します。
実行すれば企業のイメージが向上し、投資家や資本市場から注目され、中長期的な稼ぐ力が身に付く可能性があるなどのメリットが得られるため、SXの取り組みを検討してみましょう。
よくある質問
SXに関するよくある質問を順番に解説します。
SXとは?
SXとは、企業の「稼ぐ力」と、社会の長期的な持続可能性の両方を重視して同期化させる変革です。
SXを詳しく知りたい方は「SXとは」をご覧ください。
SXの必要性は?
現代社会は不確実性が高まりつつあり、中長期的で、かつSDGsやESGの観点を持った変革や指針をもつ企業が評価されています。
SXの必要性に関して詳しく知りたい方は「SXの必要性」をご覧ください。
監修 安田亮(やすだ りょう) 公認会計士・税理士・1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。