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危険負担とは?2020年の民法改正で見直された内容と注意点をわかりやすく解説

公開日:2023/09/13

監修 松浦 絢子 弁護士

危険負担とは?2020年の民法改正で見直された内容と注意点をわかりやすく解説

危険負担は、双務契約を締結した後、債務者の責任なく一方の債務が履行不能となった場合の負担に関する問題です。

企業では、売買契約を始め日々多くの契約を結んでいます。なかには、契約を結んだあとに債務者に責任がない事由で目的物が消滅したり、損傷したりしてしまう場合もあるでしょう。

本記事では、危険負担とは何かや注意するべき点、実務でのポイントを民法改正とあわせて解説します。危険負担の意味と民法改正の内容を把握し、日々の契約業務に役立ててください。

目次

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危険負担とは

危険負担とは、売買契約など双務契約が成立した後に、債務者が責任のない事由で履行できなくなった場合のリスク(危険)を債権者と債務者のどちらが負担するかに関する問題です。

たとえば、売主のA社と買主のB社で設備機械の売買契約が結ばれたケースを考えてみましょう。A社はB社に設備機械を引き渡す債務を負い、B社はA社に代金を支払う債務を負います。

もし、売主のA社が設備機械を引き渡す前に、A社の責任により設備機械を引き渡せなくなったとします。その場合、A社は債務不履行となり、生じた損害はA社の負担です。

しかし、設備機械が完成した後に地震が発生し、設備機械が損壊してしまった場合は責任の所在が明確ではありません。このようなとき、売主であるA社と買主であるB社のどちらがリスクを負担するかを示した内容が、「危険負担」です。

危険負担の法的概要・改正点

危険負担の取り扱いは民法に明記されています。注意点は、2020年4月の民法改正により、危険負担の考え方が見直された点です。以下、民法改正前と民法改正後の危険負担の考え方を解説します。

民法改正前の危険負担の考え方

民法改正前の基本的な危険負担の考え方は以下の通りです。

原則の考え方危険負担の場面では、債権者の負う反対給付債務は消滅する(債務者主義)
例外の考え方特定物の物権設定・移転の契約の場合や債権者に責任がある場合は、反対給付債務は消滅しない(債権者主義)
出典:法務省「危険負担に関する見直し」

改正前の民法では、危険負担の場面では債務者主義を採用していました。債務者主義とは、一方の債務が履行不能となった場合に債務者がその危険を負担する考え方です。

たとえば、売主のA社が買主のB社に目的物を売買する契約で、いずれにも責任のない事由で売買目的物が滅失した場合です。債務者主義では、B社がA社に代金を支払う債務(反対給付債務)は消滅します。

ただし、すべてのケースで債務者主義が採用されるわけではありません。改正前の民法では、特定物の物権設定・移転の契約や債権者に責任がある場合は、債権者主義を採用していました。

債権者主義では、債務が履行不能となった場合には債権者が危険を負担します。たとえば、契約した特定物が地震で全壊して引き渡しができなくなってしまった場合、買主の代金支払い義務が残ります。

民法上、債権者主義が適用される特定物の売買契約等では、契約書において債務者主義を採用することを明記します。このように民法の定める債権者主義の適用を排除することが実務上の工夫として行われてきました。

また、危険負担の例外としての債権者主義は、合理性に問題があるのではないかと検討が続けられていました。

民法改正後の危険負担の考え方

改正後の民法では、改正前に存在していた特定物に関する債権者主義の条文を削除しました。これにより、危険負担では基本的に債務者主義を採用するよう改められます。民法改正の主なポイントは以下の通りです。

民法改正後の危険負担の考え方

● 債権者主義を定めた規定(改正前民法534条、535条1項、2項)を削除
● 債権者主義条項の削除により、特定物の危険負担も債務者主義を採用
● 効果を反対給付の消滅から反対給付債務の履行拒絶権へと改正
● 危険負担の移転が「引渡し時」へと明文化
なお、改正後の民法では反対給付や危険負担の移転時期に関する項目も改められています。次の章で、民法改正後の危険負担の考え方を、注意点とともに解説します。

危険負担で注意するべき点

企業間で契約を行う場合は、契約書に記載しなければ現行民法のルールが適用されます。このため、現行民法のルールを知っておくことが大切です。

民法改正後の危険負担の考え方、注意点は以下の通りです。

危険負担で注意するべき点

● 危険負担が債務者主義に統一された
● 反対給付債務の履行拒絶権が与えられた
● 危険の移転時期が明文化された

危険負担が債務者主義に統一された

改正後の民法では、旧民法の問題点の解消を目指し、債権者主義を定めた規定を削除しています。この改正により、危険負担の考え方は債務者主義に統一されました。

第五百三十四条及び第五百三十五条 削除

出典:e-GOV 法令検索「民法」
以前の民法では、特定物か不特定物かで、債務負担は債務者か債権者かに分かれていました。改正後の民法では、特定物・不特定物を問わず、債務不履行のリスクは売主である債務者が負担すると定められています。

反対給付債務の履行拒絶権が与えられた

改正後の民法では、第536条が以下のように改められました。

(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

出典:e-GOV 法令検索「民法」
なお、改正前の民法では危険負担の場面で「反対給付債務が消滅する」となっていましたが、改正後の民法では「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」(反対給付債務の履行拒絶権)と変更されたため、注意してください。

反対給付債務が「消滅」から「履行拒絶権」へと変更された背景には、契約の解除要件が見直された点が関連しています。改正により、債務者の売主が債務を履行できない場合、売主の帰責性にかかわらず、債権者の買主は契約の解除が可能となりました。

そのため、解除規定との矛盾を避ける目的で、反対給付債務は消滅ではなく、履行拒絶権の付与にとどめられています。

危険の移転時期が明文化された

改正前の民法では、危険の移転時期は明文化されていませんでしたが、改正後の民法では危険の移転時期について「引き渡した場合」と明文化されました。

(目的物の滅失等についての危険の移転)
第五百六十七条 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。

出典:e-GOV 法令検索「民法」
危険の移転時期が明文化されたことで、特定物を引き渡す前は売主が、引き渡したあとは買主が危険を負担すると明確になりました。

また、買主が目的物の引渡しを受けられる状態にあるにもかかわらず受領しなかった場合は、危険は買主に移転します(第567条2項)。このような状態で危険負担の場面となった場合、買主は支払代金の履行を拒絶できないので注意してください。

危険負担の実務でのポイントや影響

危険負担は双務契約での自社のリスクにかかる大切な項目です。以下、法務担当者の実務でのポイントや改正の影響を解説します。

契約の特約条項を確認する

売買契約などの双務契約を行う際は、契約の特約条項を確認するようにしましょう。

危険負担のルールは任意規定であるので、契約書で特約条項を結び、民法のルールとは異なる内容での契約が可能です。

たとえば、民法では危険の移転時期を「引渡し時」と規定していますが、契約時に特記事項を記載することで、売買契約の締結時や所有権の移転時などに変更できます。

なお、契約を結ぶ際は契約書で自社に不利な条項がないか十分に確認し、不利な内容であれば修正の交渉を行いましょう。

雇用契約の危険負担に注意する

民法改正により、雇用契約の危険負担への影響が考えられます。通説は改正前の民法を根拠に、雇用側の責任による事由で働けなかった場合は、報酬請求権が発生すると解釈されていました。

しかし、民法の改正により反対給付債務が「反対給付を受ける権利を失わない 」から「反対給付の履行を拒むことができない 」へ表現が変更されています。そのため、今後の取り扱いについての論点が残されています。

現状の実務に与える影響は少ないと考えられますが、今後、注視していきたい項目です。

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まとめ

地震や台風など当事者の責任でない事由で契約が履行不能となった場合、危険負担にしたがって、どちらが負担するか決定されます。

以前は、特定物などの双務契約では債権者主義が採用されていました。しかし2020年の民法改正により、危険負担は原則債務者主義に統一されました。企業の法務担当者は民法改正を考慮し、契約業務を進めていきましょう。

なお、危険負担については、契約で別途特約事項を定めることで、当事者間でのルールを定められます。トラブルとなりやすい点は、契約書での明文化が大切です。

よくある質問

危険負担とは?

危険負担とは、双務契約が成立後、債務者の責任がない事由で目的物が損傷・消滅し、債務が履行できなくなった場合のリスクを債務者と債権者どちらが負担するかの問題です。

危険負担を詳しく知りたい方は「危険負担とは」をご覧ください。

危険負担で注意するべき点は?

2020年の民法改正により、危険負担は原則債務者主義となり、危険の移転時期も「引渡し時」に明文化されました。

注意点を詳しく知りたい方は「危険負担で注意するべき点」をご覧ください。

監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士

松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

監修者 松浦絢子