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企画業務型裁量労働制とは?専門型との違い、導入方法やメリット・デメリットを解説

監修 松浦絢子 弁護士

企画業務型裁量労働制とは?専門型との違い、導入方法やメリット・デメリットを解説

企画業務型裁量労働制は裁量労働制のひとつで、一定の職種を対象にあらかじめ定めた時間働いたとみなす制度です。柔軟性の高い働き方を実現でき、勤怠管理の負担軽減や生産性向上が期待できます。

本記事では、企画業務型裁量労働制の概要企業側・労働者側のメリットとデメリットを解説します。

目次

企画業務型裁量労働制とは?

企画業務型裁量労働制とは、あらかじめ定めた時間分労働したものとみなす裁量労働制のひとつです。具体的には、対象の業務に就く労働者を対象に、実労働時間にかかわらず、労使委員会で決議した時間を労働したものとみなすことができます。

【関連記事】裁量労働制とは?対象の職種や2024年4月の見直し、メリットをわかりやすく解説!

導入できるのは、対象となる業務が存在する事業場に限られます。要件は以下の通りです。

区分要件
事業場以下のいずれかに該当する事業場
● 本社・本店
● 事業運営に大きな影響を及ぼす決定を行う事業場
● 本社・本店の具体的な指示を受けることなく独自に、事業運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行う支社・支店など
業務以下のすべてに該当する業務
● 事業の運営に関する事項についての業務である
● 企画、立案、調査、分析の業務である
● 業務の性質上、適切に遂行するには遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務である
● 業務遂行の手段や時間配分の決定などに関して使用者が具体的な指示をしない業務である
労働者以下のいずれにも該当する労働者
● 対象業務を適切に遂行するための知識や経験がある
● 対象業務に常態として従事している

企画業務型裁量労働制の趣旨・仕組み

企画業務型裁量労働制の目的は、創造性豊かな人材がその能力を存分に発揮できるよう、フレキシブルな働き方を実現することです。

社会の変化や労働者の働き方に対する意識の変化にともない、一人ひとりが能力を十分に発揮し得る環境づくりが求められています。企画業務型裁量労働制はこうした状況に対応するため、2000年4月に施行された制度です。

専門業務型裁量労働制との違い

裁量労働制には、企画型裁量労働制のほかに「専門業務型裁量労働制」があります。

専門業務型裁量労働制は、専門性の高い業種を対象にした制度です。導入できるのは、以下の19業種に限られます。

専門業務型裁量労働制の対象となる業種

1. 新商品もしくは新技術の研究開発または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
2. 情報処理システムの分析または設計の業務
3. 新聞もしくは出版の事業における記事の取材もしくは編集の業務または有線ラジオ放送も有線テレビジョン放送の放送番組の制作のための取材もしくは編集の業務
4. 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5. 放送番組、映画等の制作の事業のプロデューサーまたはディレクターの業務
6. コピーライターの業務
7. システムコンサルタントの業務
8. インテリアコーディネーターの業務
9. ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10. 証券アナリストの業務
11. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12. 大学の教授研究の業務
13. 公認会計士の業務
14. 弁護士の業務
15. 建築士の業務
16. 不動産鑑定士の業務
17. 弁理士の業務
18. 税理士の業務
19. 中小企業診断士の業務
出典:厚生労働省労働基準局監督課「専門業務型裁量労働制」

このように制度の対象が特定の「業務」である点が、企画業務型裁量労働制とは異なります。

フレックスタイム制や変形労働時間制との違い

裁量労働制と似た制度に、フレックスタイム制や変形労働時間制があります。

区分概要
フレックスタイム制総労働時間の範囲内で、労働者が出退勤時刻や労働時間の長さを決められる制度
変形労働時間制業務の繁閑や特殊性に応じて、労働時間を週や月、年単位で調整できる制度

フレックスタイム制は、一定期間の総労働時間を決めたうえで、労働者が自身の裁量で出退勤時刻や労働時間の長さを決める仕組みです。そのため、実労働時間にかかわらずあらかじめ定めた時間働いたとみなす、裁量労働制とは異なります。

また、変形労働時間制は、繁忙期・閑散期や業務の特殊性に応じて労働時間を調整する制度です。労使協定や就業規則などで定めて実施する制度であり、労働者に裁量が委ねられるものではありません。

企画業務型裁量労働制のメリット・デメリット

企画業務型裁量労働制を効果的に運用すれば、主体性や柔軟性の高い働き方の実現につながります。

以下では企業・労働者それぞれの立場からみた、企画業務型裁量労働制のメリット・デメリットを解説するので、ぜひ参考にしてください。

企業側のメリット

企業が企画業務型裁量労働制を導入する主なメリットは、以下の通りです。

企業側のメリット

● 勤怠管理の負担を軽減できる
● 生産性向上が期待できる
● 人件費の予算管理を容易にする
企画業務型裁量労働制を導入した事業場では、実労働時間ではなく、決議で決めた時間働いたとみなして労働時間を算定します。そのため、労働時間管理や給与計算の負担を軽減できます。

ただし、休憩時間や法定休日、深夜の割増賃金の規定は通常と変わりありません。

また、企画業務型裁量労働制では、長い時間働いても給料が増えるわけではないため、労働者の生産性向上や人件費の予算管理がしやすくなるメリットも期待できます。

企業側のデメリット

一方、企画業務型裁量労働制には以下のデメリットもあります。

企業側のデメリット

● 導入の要件が厳しい
● 導入の手続きに手間がかかる
● 業務量が不適切なものであれば、トラブルを招く可能性がある
企画業務型裁量労働制は、すべての事業場で導入できるわけではありません。仕事の進め方を、大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある一定の職種のみが対象です。また、事業場・業務・労働者の要件をそれぞれ満たした場合のみ導入できます。

導入するには、労使委員会を設置し、必要な事項を決議するなどの手続きが必要です。

さらに、制度が有効に運用されなければ、不当な長時間労働などのトラブルにつながる可能性があります。制度内容を正しく理解し、手当の支給などによって相応の処遇を確保する、苦情対応措置を適切に実施するなどの対策が必要です。

労働者側のメリット

次に、企画業務型裁量労働制を導入した際の労働者側のメリットを紹介します。

労働者側のメリット

● 柔軟な働き方ができる
● 労働時間を短縮できる可能性がある
労働者側の大きなメリットは、仕事の進め方や時間配分を自身の裁量で決められる点です。業務を効率よく進めて早く終われば、実労働時間があらかじめ決められた労働時間を下回っても問題ありません。

そのため、業務効率が上がれば労働時間を短縮でき、モチベーションやワークライフバランスの向上につながるでしょう。

労働者側のデメリット

一方、企画業務型裁量労働制を導入した際の労働者側のデメリットは、以下の通りです。

労働者側のデメリット

● 長時間労働をしても残業代が支払われない
● 適切に運用されない可能性がある
企画業務型裁量労働制では、みなし労働時間より長く働いても、原則として残業代が出ません。そのため、労働時間が長くなれば、時間あたりの給与が低くなってしまいます。

また、制度が適切に運用されなければ、みなし労働時間の範囲ではこなしきれない業務が課され、長時間労働を余儀なくされる可能性があります。

企画業務型裁量労働制を導入するための流れ

企画業務型裁量労働制を導入する際の流れは、以下の通りです。

企画業務型裁量労働制を導入する流れ

1. 労使委員会を設置する
2. 労使委員会での決議を行う
3. 労働基準監督署への届出を行う
4. 対象となる労働者の同意を得る
5. 企画業務型裁量労働制を実施する
それぞれ詳しく解説します。

1. 労使委員会を設置する

企画業務型裁量労働制を導入するには、労使委員会を設置し、必要な事項を決議しなければなりません。労使委員会とは、賃金や労働時間などの労働条件に関し、事業主に対して意見を述べる委員会です。

最初に日程や手順など、労使委員会を設置するための必要な事項を労使で話し合いましょう。次に、労使委員会を構成するための代表者(労働者・使用者)をそれぞれ決定します。人数の規定はありませんが、労働者を代表する者が半数を占めなければなりません(※)。
(※)労使それぞれ1名、計2名からなるものは「労使委員会」と認められません。

また、労使委員会を運営するための規定も策定します。策定の際、労使委員会による同意が必要です。

2. 労使委員会での決議を行う

企画業務型裁量労働制を導入するには、労使委員会に出席している委員の5分の4以上の多数による決議が必要です。具体的には、以下8つの事項を決議します。

決議すべき8つの事項

1. 対象業務の具体的な範囲
2. 対象労働者の具体的な範囲
3. みなし労働時間(労働したものとみなす時間)
4. 労働者の健康・福祉を確保するための措置内容
5. 労働者からの苦情に対する措置内容
6. 制度の適用に関して労働者本人の同意を得なければならないこと、不同意の労働者に不利益取り扱いをしてはならないこと
7. 決議の有効期間
8. 制度の実施状況にかかる労働者ごとの記録を保存すること

3. 労働基準監督署への届出を行う

労使委員会での決議後、制度運用までに所轄の労働基準監督署へ「企画業務型裁量労働制に関する決議届」を届け出ましょう。様式は、厚生労働省のホームページにてダウンロードできます。

また、決議とは別に、個別の労働契約や就業規則などの整備も必要です。就業規則を変更した際は、労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見書を添えて、所轄の労働基準監督署長に届け出をします(※)。
(※)常時10人以上の労働者を使用する使用者の場合

4. 対象となる労働者の同意を得る

労使委員会の決議内容に従い、企画業務型裁量労働制の対象となる労働者本人から同意を得ます。就業規則による包括的な同意ではなく、対象労働者一人ひとりから同意を得なくてはなりません。

また、同意が得られなかった場合、その労働者に対する不利益な取り扱いは禁じられています。

5. 企画業務型裁量労働制を実施する

企画業務型裁量労働制の運用を開始します。制度導入後、使用者は労働者の健康・福祉を確保するための措置や苦情に対する措置を実施しなければなりません。

健康・福祉を確保するための措置例

● 労働者の勤務状況や健康状態に応じて代償休日または特別な休暇を付与する
● 労働者の勤務状況や健康状態に応じて健康診断を実施する
● 年次有給休暇の取得を促進する
● 相談窓口を設置する
● 必要に応じて、産業医による助言・指導を受ける、または労働者に保健指導を受けさせる
● 労働者の勤務状況や健康状態に配慮し、必要に応じて適切な部署に配置転換する
また、企画業務型裁量労働制を導入する際の労使委員会の決議が行われた日から6ヶ月以内ごとに1回、所轄の労働基準監督署長への定期報告を行います。報告する事項は以下の2点です。

定期報告の内容

● 対象労働者の労働時間の状況
● 対象労働者の健康・福祉を確保するための措置の実施状況

企画業務型裁量労働制の労働時間や残業代はどうなる?

企画業務型裁量労働制は、実際に働いた時間ではなくあらかじめ決議で決めた時間で労働時間を算定する仕組みです。本制度を導入した場合、労働時間や残業代がどうなるのかを解説します。

企画業務型裁量労働制における残業代

企画業務型裁量労働制では、みなし労働時間で労働時間を算定します。みなし労働時間を超えても超過分は労働したことになりません。

たとえば、みなし労働時間が8時間の場合、実労働時間が7時間や9時間でも、8時間働いたものとみなされます。そのため、みなし労働時間が8時間の場合に9時間働いても、原則として残業代は発生しません。

ただし、法定休日や深夜に働いた場合は、みなし労働時間にかかわらず実際に労働した時間分の割増賃金を支払います。

企画業務型裁量労働制と36協定との関係

企画業務型裁量労働制を採用する場合も、法定労働時間(1日8時間、週40時間)の規定が適用されます。そのため、法定労働時間を超えて労働させる場合は、「36協定(時間外労働協定)」の締結が必要です。

また、36協定を結んで時間外労働させる場合も、原則として月45時間・年360時間を超えることはできません。特別な事情で使用者と労働者が合意する場合も年720時間以内、月100時間未満などのルールを守らなくてはなりません。

勤怠管理を効率化する方法

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まとめ

企画業務型裁量労働制とは、企業の本社などで企画や立案、調査などを行う労働者に関して、あらかじめ決めた時間労働したとみなす制度です。

企画業務型裁量労働制を導入すれば、勤怠管理の負担軽減・生産性向上・人件費の削減などが期待できます。また、従業員側からみても労働時間を短縮できるなどのメリットがあります。

ただし、企画業務型裁量労働制でも、法定休日や深夜に労働させた場合は、割増賃金を支払わなくてはなりません。勤怠管理を怠っているとトラブルを招く可能性もあるため、制度の内容を正しく理解したうえで導入しましょう。

よくある質問

企画業務型裁量労働制とは?

企画業務型裁量労働制とは、企業の本社などで企画や立案、調査、分析を行う労働者に裁量労働制を認める制度です。

企画業務型裁量労働制の概要を詳しく知りたい方は「企画業務型裁量労働制とは?」をご覧ください。

企画業務型裁量労働制のメリットは?

企画業務型裁量労働制を導入する主なメリットは、以下の通りです。

企業側のメリット● 勤怠管理の負担を軽減できる
● 生産性向上が期待できる
● 人件費の予算管理が容易になる
労働者側のメリット● 柔軟な働き方ができる
● 労働時間を短縮できる可能性がある

企画業務型裁量労働制を導入するリット・デメリットを詳しく知りたい方は「企画業務型裁量労働制のメリット・デメリット」をご覧ください。

監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士

松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

監修者 松浦絢子