監修 安田 亮 公認会計士・税理士・1級FP技能士

上場株式等の配当所得等を受け取った場合、源泉徴収で納税を完了して確定申告を不要とする「申告不要制度」があります。
2022年度の税制改正前は、所得税で総合課税、住民税で申告不要制度を選択するなど、異なる課税方式の選択が可能でした。しかし、2023年分からは、所得税と住民税で異なる課税方式を選択する制度は廃止され、課税方式が統一されています。
本記事では、株式投資や投資信託をしている人に向けに、3つの課税方式の違いや「異なる課税方式」の選択廃止による影響を解説します。
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目次
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所得税・住民税の申告不要制度とは
上場株式の配当金や投資信託の分配金を受け取る際、特定口座(源泉徴収あり)で受け取れば、配当金等の支払時に所得税・住民税が源泉徴収されて納税が完結します。そのため、別途確定申告をする必要はありません。これを「申告不要制度」といいます。
申告不要制度で源泉徴収されるときの税率は、所得税および復興特別所得税が15.315%、住民税が5%です。合計20.315%の税金が天引きされて、残りの金額が支払われます。
申告不要制度のメリット・デメリットを理解するためには、申告不要制度を含む3つの課税方式の特徴や違いをおさえましょう。
上場株式等の配当所得等に関する3つの課税方式の違い
配当所得等に関する課税方式は、申告不要制度を含む以下の3つです。選択する課税方式によって、税率や適用できる制度の種類が変わってきます。
項目 | 申告不要制度 | 総合課税 | 申告分離課税 |
---|---|---|---|
税率 | 所得税(※):15% 住民税:5% | 所得税(※):累進税率 住民税:10% | 所得税(※):15% 住民税:5% |
配当控除の適用有無 | なし | あり | なし |
譲渡損失との損益通算 | なし | なし | あり |
合計所得金額への算入 | なし | あり | あり |
(※)2037年までは、基準所得税額の2.1%の復興特別所得税(日本大震災からの復興に用いるための税金)を所得税とあわせて納付します。
配当控除とは、配当金額の一定割合を税額から控除できる制度、損益通算とは、所得税・住民税を計算する際に配当金収入と株式の譲渡損失を相殺できる制度です。配当所得が合計所得金額に算入されるかどうかは、扶養控除・配偶者控除の適用や社会保険料などに影響します。
申告不要制度
申告不要制度は、配当金や分配金が支払われる際に税金が源泉徴収(所得税15%、住民税5%)されることで、納税が完結する課税方式です。
申告不要制度を選択した場合、合計所得金額には算入されないため、住民税の非課税判定や扶養控除の適用などに影響はありません(※)。
(※)合計所得金額は、給与所得や事業所得、不動産所得などの所得金額を合計した金額(繰越控除を適用される前の金額)です。
総合課税
総合課税は、各種の所得金額を合計して所得税額を計算する課税方式です。所得税は累進税率(課税所得金額に応じて5%~45%)、住民税は10%の税率で算出します。
申告不要制度・申告分離課税と比較した場合、住民税の税率は5%から10%に上がりますが、所得税の税率は15%よりも下がるケースがあります。
また、総合課税を選択して申告すれば、配当控除の適用が可能です。原則として所得税では配当所得金額の10%の金額を、住民税では配当所得金額の2.8%の金額をそれぞれ控除できるので、税負担を軽減できます。
申告分離課税
申告分離課税は、ほかの所得金額とは分離して税額を計算し、確定申告によって納税する課税方式です。税率は申告不要制度と同じで、所得税15%・住民税5%です。
申告分離課税を選択すると、上場株式などの売却で損失が生じた場合に、配当金などと相殺できます。また、損益通算をしても損失が残る場合は、翌年以降3年間の繰越控除が可能です。
株式の譲渡損失がある人は、申告不要制度や総合課税だと配当金との損益通算ができませんが、申告分離課税を選択すれば損益通算によって税負担を抑えられることがあります。
2023年分からは所得税と住民税で異なる課税方式を選択できない
以前は、所得税と住民税で別の課税方式を選択できましたが、2023年分の所得税の確定申告(2024年度の住民税)からは、別の課税方式を選択できなくなりました。
金融商品から得られる所得の課税は、所得税・住民税が一体として設計されています。このような事情を踏まえ、不公平感をなくす観点から税制改正が行われ、所得税と住民税で課税方式が統一されました。
2023年分以降、所得税で総合課税を選択した場合は、住民税も総合課税で申告することになります。また、所得税で申告不要制度を選択すれば、住民税も申告不要制度が適用されます。
異なる課税方式の選択廃止による影響と注意点
従来は、有利な課税方式を所得税・住民税のそれぞれで選択できました。しかし、改正後は所得税・住民税を単体で考えると、税額や保険料の負担が増える可能性があります。
2023年分以降は、所得税・住民税の両方の負担を踏まえて、課税方式を選択しなくてはなりません。異なる課税方式の選択廃止による主な影響は以下の通りです。
課税方式の統一による影響と注意点
- 住民税単体では総合課税を選択すると不利になる
- 課税所得金額が一定額以下なら総合課税が有利になる
- 課税方式の選び方で所得控除や社会保険料に影響する場合がある
- 修正申告や更正の請求で課税方式の変更はできない
住民税単体では総合課税を選択すると不利になる
総合課税を選択すれば配当控除を受けられますが、住民税だけで考えるとほかの課税方式よりも税率が高くなります。
配当控除とは、配当所得があるときに、一定の方法で計算した金額の税額控除を受けられる制度で、控除率は原則として以下の割合です。
区分 | 配当控除率 |
---|---|
所得税 | 10% |
住民税 | 2.8% |
申告不要制度や申告分離課税を選択した場合、住民税の税率は5%です。一方、総合課税を選択したときの住民税の税率は10%であり、配当控除2.8%を考慮してもほかの課税方式より高くなります。
- 10%-2.8%(配当控除)=7.2%
課税所得金額が一定額以下なら総合課税が有利になる
課税所得金額が695万円未満の人は、総合課税を選択すればほかの課税方式よりも税率が低くなります。
申告分離課税・申告不要制度の所得税率は15%、総合課税は累進税率です。
所得税率の速算表
課税対象の所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
所得税だけで考えると、課税所得金額が900万円未満の場合、「所得税率23%-配当控除10%=13%」となります。そのため、総合課税を選択すると有利です。
しかし、住民税だけで見た場合、総合課税を選択すると税率が高くなります。
所得税と住民税の両方で考えると、総合課税を選択したときの税率が低くなるのは、課税所得金額が695万円未満の場合です。
区分 | 計算式 | 税率 |
---|---|---|
所得税 | 税率20%-配当控除10% | 10% |
住民税 | 税率10%-配当控除2.8% | 7.2% |
合計 | - | 17.2% |
課税所得金額が695万円未満の場合、総合課税を選択したときの税率は17.2%です。したがって、申告しない場合の税率20%(所得税15%+住民税5%)より低くなります。
課税方式の選び方で所得控除や社会保険料に影響する場合がある
総合課税や申告分離課税を選択して上場株式等の配当所得等を確定申告すると、これらの所得は合計所得金額等に算入されます。合計所得金額等に算入された場合に影響があるものは以下の通りです。
合計所得金額等への算入による影響
- 扶養控除や配偶者控除の適用
- 住民税の非課税判定
- 国民健康保険税や後期高齢者医療保険料、介護保険料などの保険料算定
扶養控除や配偶者控除は、合計所得金額が48万円以下の家族が対象です。配当所得が合計所得金額に算入されると、48万円を超えて控除の適用を受けられなくなる場合があります。
また、住民税の非課税判定をする際の所得額に配当所得等が含まれると、非課税基準額を超えてしまい、非課税にならず住民税がかかることがあります。各種社会保険料を計算するときの所得額に配当所得等が含まれれば、保険料負担が増える点にも注意が必要です。
申告不要制度を選択した場合は、配当控除や損益通算の適用は受けられませんが、所得控除や社会保険料への影響は生じません。
修正申告で課税方式の変更はできない
所得税の確定申告でいったん課税方式を選択すると、その後修正申告や更正の請求で変更はできません。
したがって、所得税と住民税をあわせてどの課税方式が有利なのかを慎重に検討する必要があります。
出典:国税庁「確定申告で申告しなかった上場株式等の利子及び配当を修正申告により申告することの可否」
まとめ
上場株式等の配当所得等について、従来は所得税と住民税で異なる課税方式が選択できました。しかし、2023年分の確定申告(2024年度の住民税)からは、所得税と住民税で同じ課税方式が適用され、異なる課税方式の選択制度は廃止されています。
申告不要制度・総合課税・申告分離課税のいずれを選択すべきか、課税方式を選ぶときには所得税・住民税の両方の負担を踏まえて検討しなくてはなりません。
税額や保険料の負担が増える可能性があるので、3つの課税方式の違い、所得税・住民税の課税方式の統一による影響を正しく理解しましょう。
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よくある質問
住民税のみ申告不要制度を選択する制度はいつから廃止された?
2023年分の所得税の確定申告(2024年度の住民税)から、所得税と住民税の課税方式が統一されています。
所得税と住民税で異なる課税方式を選択する制度の廃止について詳しく知りたい方は「2023年分からは所得税と住民税で異なる課税方式を選択できない」をご覧ください。
課税方式の統一による影響と注意点は?
課税方式の統一による影響と注意点は、以下の通りです。
課税方式の統一による影響と注意点
- 住民税単体では総合課税を選択すると不利になる
- 課税所得金額が一定額以下なら総合課税が有利となる
- 課税方式の選び方で所得控除や社会保険料に影響する場合がある
- 修正申告や更正の請求で課税方式の変更はできない
課税方式の統一による影響と注意点を詳しく知りたい人は「異なる課税方式の選択廃止による影響と注意点」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。
