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無期転換ルールとは?企業に求められる対応と導入手順

監修 岡崎 壮史 社会保険労務士・1級FP技能士・CFP

無期転換ルールとは?企業に求められる対応と導入手順

無期転換ルールとは、有期社員の労働契約が通算5年を超えて更新された場合に、期間の定めがない労働契約に転換されるルールです。

有期社員とは、1年や6ヶ月単位の有期労働契約を締結、または更新している契約社員やアルバイト、パートタイマーなどを指します。

現在、無期転換ルールが規定された2013年の改正労働契約法施行から、10年が経過しようとしています。無期転換制度への対応が進んでいない企業では、早急な整備が必要です。

本記事では、無期転換ルールの概要や例外を解説します。企業に求められる対応、導入の流れも説明するので、参考にしてください。

目次

無期転換ルールとは?

無期転換ルールは、有期契約労働者の雇用を安定化させる目的で2013年に施行された「改正労働契約法」で規定された制度です。

具体的には、同じ企業との間で有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合に、有期契約労働者(アルバイトや契約社員など)からの申し出により期間の定めのない労働契約に転換されるルールです。

企業側には、有期契約労働者の無期転換により「長期的な視点で人材育成ができる」「安定的な労働力が得られやすくなる」などのメリットがあります。

無期転換ルールはすべての企業に適用され、契約期間に定めのある社員すべてが対象となります。契約期間に定めのある社員のうち、無期転換申込権が得られるのは以下3つの条件を満たす方です。

無期転換申込権が得られる条件

● 有期労働契約の通算期間が5年以上
● 契約の更新回数が1回以上
● 現時点で同一の使用者との間で契約中
たとえば、契約期間が1年の場合は、5回目の更新後の1年間に無期労働契約の申込ができます。また、契約期間が3年の場合は、1回目の更新後の3年間に無期労働契約の申込が可能です。



無期転換ルール


無期転換申込権を得た労働者から無期転換の申し出があった場合、企業側は断れません。

なお、有期労働契約の通算期間が5年を超えているかどうかは、2013年4月1日以降に開始した有期労働契約で判断されます。

無期転換ルールには例外がある

2015年に、一定の期間に無期転換申込権が発生しない特例が設けられました。対象となるのは、高度専門職の有期雇用労働者、定年後引き続き雇用される労働者です。高度専門職とは、公認会計士や弁護士、医師などを指します。

有期雇用労働者(高度専門職)の場合、5年を超える一定の期間内に完了するプロジェクトに従事している期間は、無期転換申込権が発生しません。ただし、無期転換申込権が発生しない期間の上限は10 年です。

また、有期雇用労働者(継続雇用の高齢者)の場合、定年後引き続き雇用される期間は無期転換申込権が発生しません。なお、無期転換ルールの特例を受けるには、都道府県労働局長の認定が必要です。

さらに、大学の教員などは、無期転換申込権発生までの期間を10年(通常は5年)とする特例が設けられています。

無期転換ルールの例外

無期転換申込権が発生しない高度専門職の範囲(発生しない期間の上限は10 年)
● 契約期間中に支払われるのが確実に見込まれる賃金の額が1年間当たり1,075 万円以上
● 都道府県労働局長の認定を受けた事業主から雇用
● 高収入かつ高度の専門的知識等を有す
● その高度の専門的知識等を必要とし、5年を超える一定の期間内に完了するプロジェクトに従事
● 毎年度行われる恒常的に継続する業務などは含まない

クーリング以前の契約期間は通算対象から除外される

クーリング期間が一定の長さ以上の場合、それ以前の期間は通算契約期間から除外されます。クーリング期間とは、同一の使用者との間で有期労働契約を締結していない期間、つまり退職して労働契約がない期間です。

具体的には、無契約期間以前の通算契約期間が1年以上の場合、無契約期間が6ヶ月以上であればそれ以前の期間が除外されます。

また、無契約期間以前の通算契約期間が1年に満たない場合は、無契約期間が以下に該当する場合にそれ以前の期間が除外されます。

無契約期間の前の通算契約期間無契約期間
2ヶ月以下1ヶ月以上
2ヶ月超~4ヶ月以下2ヶ月以上
4ヶ月超~6ヶ月以下3ヶ月以上
6ヶ月超~8ヶ月以下4ヶ月以上
8ヶ月超~10ヶ月以下5ヶ月以上
10ヶ月超6ヶ月以上


なお、2013年4月1日までに開始した有期労働契約は、通算契約期間の対象とはなりません。

無期転換ルール適用を避ける雇止めは無効の場合がある

無期転換ルールの適用を避ける目的で、企業側が社員の無期転換申込権が発生する前の雇止めは、労働契約法上適切とはいえません。

無効となるかどうかは労働契約法にもとづき、個別の事案ごとに更新回数や雇用の通算期間、企業の言動、過去の最高裁判例などで判断されます。そのため、雇止めに慎重に検討しなくてはいけません。特に権利の濫用(労働契約法第16条)などに該当しないかどうかの注意が必要です。

無期転換ルールにおいて求められる企業の対応

改正労働契約法の施行から10年が経過しようとしており、有期社員に無期転換申込権が本格的に発生しています。

無期転換の申込みがあった場合、企業側は申込み時の有期労働契約が満了する日の翌日から、有期社員を無期労働契約に転換しなければなりません。

無期転換に対応するには、有期社員の把握や無期転換後の労働条件の検討、就業規則の作成などが必要であり、一定の時間や手間がかかります。特に、2013年4月以降長期にわたり勤務している有期社員がいる企業は、早急な対応が必要です。

無期転換ルールの見直しも行われている

無期転換ルールは2013年に施行されましたが、2022年に厚生労働省審議会による見直しが行われ、制度が適切に運用されるための報告書がまとめられました。

報告書では、無期転換を希望する労働者の転換申込機会を確保するため、無期転換申込権が発生する契約更新の際に、無期転換する権利や無期転換後の労働条件の明示を義務づけるべきだとされています。

無期転換ルール導入の流れ

無期転換ルールへの対応が進んでいない事業主の方向けに、導入の流れを解説します。

無期転換ルール導入の流れ

1. 有期社員の人数や契約内容を把握する
2. 無期転換社員の役割・働き方を考える
3. 無期契約労働者・正社員の就業規則を作成・見直しする

有期社員の人数や契約内容を把握する

最初に、自社で勤務している契約期間に定めのある有期社員(アルバイトやパート、契約社員など)が何人いるのかを把握しましょう。

仕事内容・労働時間・契約期間・更新回数・勤続年数・社員のキャリアに対する考え・無期転換申込権の発生時期なども把握します。また、有期社員の定義が就業規則で明記されているかも確認しましょう。

あわせて、無期転換ルールも正しく理解しておく必要があります。厚生労働省が無期転換ルールをまとめたハンドブックや、導入事例などの無期転換制度の導入支援を行っているので、積極的に活用しましょう。

無期転換社員の役割・働き方を考える

有期社員が無期転換したあとの役割や責任を明確にしていなければ、トラブルに発展する可能性があります。業務の必要性や基幹的/補助的な業務で自社の仕事内容をグループ分けし、無期転換後、有期社員一人ひとりにどのような働き方をしてもらうのかを考えましょう。

無期労働契約への転換には、3つの方法があります。本人の考えを聞きながら、社員一人ひとりに合った転換方法を考えることが重要です。

転換方法対象となる社員
雇用期間の変更職務や処遇を変更する必要がない社員
多様な正社員への転換子育てや介護、家庭の事情などで勤務地が制限される、正社員と同じ時間働けない社員など
正社員への転換職務内容や能力が正社員と同等の社員


なお、「多様な正社員への転換」とは、正社員のうち勤務地や労働時間、職務などの労働条件に制限がある社員への転換を指します。

無期契約労働者・正社員の就業規則を作成・見直しする

無期転換後の労働条件は、就業規則などでの定めがない場合、直前の有期労働契約と同一の内容となります。

無期転換後、どのような労働条件を適用するのかを検討し、無期契約労働者対象の就業規則を作成しましょう。作成の際には、厚生労働省が提供するモデル就業規則などが活用できます。

また、無期転換者用の就業規則を作成した場合は、正社員の就業規則も見直し、無期転換者を対象から外しておく必要があります。

運用と改善を繰り返す

無期転換制度の導入後も、必要に応じて改善を繰り返しましょう。労働組合との協議など社員とのコミュニケーションを積極的にとり、企業側・労働者側の双方が納得のいく運用が重要です。

また、無期転換により労働条件や働き方が変わる場合もあります。社員からの不満などが出ないよう、説明会や個別の面談、リーフレット、相談窓口などを利用し、事前の丁寧な周知が必要です。

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まとめ

無期転換ルールとは、同じ企業との間で有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合に、有期契約労働者からの申し出により期間に定めのない労働契約に転換されるルールです。

無期転換後の労働条件は、就業規則などでの定めがない場合、直前の契約と同一の内容となります。したがって、労働条件を変更する場合は、就業規則などの整備が必要です。

改正労働契約法の施行から10年が経ち、多くの有期社員に無期転換申込権が発生しているものと考えられます。無期転換制度の導入が進んでいない企業は、早急に対応しましょう。

よくある質問

無期転換ルールとは?

同じ企業間で有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、有期契約労働者(アルバイトや契約社員など)からの申し出によって期間の定めのない労働契約に転換されるルールです。

無期転換ルールを詳しく知りたい方は「無期転換ルールとは?」をご覧ください。

無期転換ルールに対応するには?

無期転換に対応するには、有期社員の把握や無期転換後の労働条件の検討、就業規則の作成などが必要です。対応には一定の時間や手間がかかります。

無期転換ルールへの対応を詳しく知りたい方は「無期転換ルールにおいて求められる企業の対応」をご覧ください。

監修 岡崎壮史(おかざき まさふみ) 社会保険労務士・1級FP技能士・CFP

マネーライフワークス代表。現在は、助成金申請代行・活用コンサルとして、企業様の助成金の申請代行や活用に向けたサポート業務、金融系サイトへ多くの記事を執筆・記事監修を担当し、社労士試験の受験指導講師としての活躍の場を全国に展開している。

監修者 岡崎壮史