監修 竹国 弘城 1級FP技能士・CFP
出産育児一時金とは、健康保険から支給される助成金です。本記事では出産育児一時金の支給額や申請方法、いくらに増額されたのかを解説します。
出産は原則として保険が適用されず、個人の金銭的負担が重くなる場合があります。個人の負担を少しでも軽くするために支給される助成金が出産育児一時金です。
出産に伴う費用負担や家計への影響を考える際の参考にしてください。
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目次
- 出産育児一時金とは
- 出産育児一時金は2023年4月から50万円に増額された
- 出産育児一時金が増額された背景
- 出産育児一時金の対象者
- 出産育児一時金の申請方法
- 直接支払制度を利用して申請するときの手続き方法
- 受取代理制度を利用して申請するときの手続き方法
- 事後申請するときの手続き方法
- 出産育児一時金に関するポイント
- 出産手当金との違い
- 退職後でも受け取れる場合がある
- 出産育児一時金は税金の計算に含まれない
- 2024年度に改正される子育て支援制度
- 児童手当の拡充
- 住宅ローン減税の優遇措置
- ひとり親控除の拡充
- 生命保険料控除の限度額拡大
- まとめ
- 社会保険に関する業務を円滑にする方法
- よくある質問
- 出産育児一時金はいつから増額されますか
- 出産育児一時金の申請方法を教えてください
出産育児一時金とは
出産育児一時金とは、出産時に公的医療保険制度から受け取れる一時金で、出産に要する経済的負担を軽減する制度です。
健康保険法等に基づく保険給付として、健康保険や国民健康保険などの被保険者や被扶養者が出産したとき、一定の金額が支給されます。
ケガや病気で入院した場合は、健康保険の適用対象になるため原則3割負担で済みます。しかし通常の出産はケガや病気として扱われないため、基本的に健康保険の適用を受けられません。
健康保険の適用対象外であるため、出産にかかる費用は原則として全額自己負担ですが、出産育児一時金により負担が軽減されます。
出産育児一時金は2023年4月から50万円に増額された
出産育児一時金は従来の42万円から8万円増額され、2023年4月以降の出産で受け取れる出産育児一時金は50万円です。
産科医療補償制度に加入していない医療機関で出産する場合は、従来の40.8万円(※1)から48.8万円に増額されています。
(※)1令和3年12月31日までの出産の場合は40.4万円
出産育児一時金を受け取る際に、確認しておきたいのが、出産育児一時金と出産費用の関係です。
令和3年度の正常分娩費用平均額は473,315円です(※2,3)。
(※)2出典:厚生労働省「令和4年 出産一時金について」
(※)3直接支払制度専用請求書を集計したもので、室料差額、産科医療補償制度掛金、その他の費目を除く出産費用の合計額
それに対し、出産育児一時金で支給される金額は以下の通りです。
出産一時金で支給される金額
● 産科医療補償制度に加入している医療機関での出産:500,000円● 産科医療補償制度に加入していない医療機関での出産の場合:488,000円
出産育児一時金で出産費用をすべてまかなえるのか、まかなえないのかによって備えも変わってくるでしょう。
次項では、出産費用についての詳細や、出産育児一時金が増額される背景を紹介します。
出産育児一時金が増額された背景
下のグラフは出産費用の平均値の推移を表したグラフです。出産費用は増加傾向にあり、出産にかかる経済的な負担は年々大きくなっていることがわかります。
2021年度の出産費用の平均値(正常分娩のみ)は約47.3万円で、内訳は以下の通りです。
項目 | 金額 | 項目 | 金額 |
入院料 | 115,776円 | 検査・薬剤料 | 14,419円 |
分娩料 | 276,927円 | 処置・手当料 | 16,135円 |
新生児管理保育料 | 50,058円 | 合計 | 473,315円 |
従来の出産育児一時金42万円だけでは、平均的な出産費用である47.3万円をまかなえません。出産育児一時金によって負担は軽減されますが、平均で約5万円の自己負担が生じる状況でした。
2023年4月から出産育児一時金が50万円に増額された背景には、このような状況を改善する目的がありました。
増額後の金額50万円は2021年度の出産費用の平均額を上回る額なので、出産にかかる平均的な費用は出産育児一時金でまかなえる計算です。
ただし、上記の出産費用に室料差額は含まれておらず、出産する地域や医療機関ごとの差もあります。出産費用が50万円を超え、出産育児一時金だけでは不足するケースも考えられます。
参考として、2021年度の出産費用の平均額は、もっとも高い東京都で約56.5万円、もっとも低い鳥取県で約35.7万円です(※)。
(※)出典:厚生労働省「令和4年 出産一時金について」
出産育児一時金の対象者
出産育児一時金の支給対象は「妊娠4ヶ月(85日)以上を経過した後の出産」です。早産でも妊娠4ヶ月を過ぎていれば出産育児一時金が支給されます。
死産や流産、人工妊娠中絶(経済的理由による人工妊娠中絶も含む)などで出産に至らなかった場合も、妊娠4ヶ月を過ぎていれば支給対象です。
また支給条件には自然分娩・異常分娩(帝王切開、早産などの正常以外の分娩)による区別はありません。いずれの場合も4ヶ月を過ぎていれば支給を受けられます。
出産育児一時金の申請方法
出産育児一時金の申請方法には3つの申請方法があります。
出産一時金で支給される金額
● 直接支払制度● 受取代理制度
● 事後申請
直接支払制度を利用して申請するときの手続き方法
直接支払制度を利用した場合、出産育児一時金は公的医療保険から病院に直接支払われます。
実際にかかった出産費用が出産育児一時金を超えた場合も、超えた金額のみ病院の窓口で支払えば済むため、窓口での負担が軽減されます。
申請手続きは、病院から手渡される直接支払制度に関する書類に記入するだけです。病院が被保険者に代わって出産育児一時金の支給申請を公的医療保険に対して行います。
なお、出産費用が出産育児一時金に満たない場合は差額分の支給申請手続きが必要です。
受取代理制度を利用して申請するときの手続き方法
受取代理制度とは、本来なら被保険者が受け取るべき出産育児一時金を病院が被保険者に代わって受け取る制度です。
直接支払制度を導入していない小規模な医療機関などで利用できます。
出産育児一時金を超える額のみ支払う点は直接支払制度と同じですが、直接支払制度と違って受取代理制度では事前の申請手続きが必要です。
直接支払制度と受取代理制度のどちらを利用できるのかは、出産を予定されている医療機関に確認してください。
事後申請するときの手続き方法
直接支払制度や受取代理制度を利用せず、出産後に自分で手続きをして出産育児一時金を受け取るのが事後申請です。
手続きには直接支払制度・受取代理制度を利用していない旨がわかる書類(医療機関との合意書)や、出産費用の内訳が記載された明細書などが必要です。
事後申請では病院の窓口でいったんかかった費用を全額支払うため、クレジットカードで支払ってポイントが付けば、ポイント分だけお得になります。ただし、一時的とはいえ出産費用を全額立て替えなければなりません。
クレジットカードの利用限度額をオーバーしないか、そのほかの支払いに支障がでないか、事前に確認しておきましょう。
また、病院がクレジットカード払いに対応していないと、高額な出産費用を現金で支払わなくてはなりません。
出産育児一時金に関するポイント
最後に、出産育児一時金に関して知っておくべきポイントをいくつか紹介します。
出産手当金との違い
出産手当金とは、出産のために仕事を休んだとき、給与の支払いがなかった人に支給される手当金です。
出産日以前42日(※)から、出産の翌日以後56日まで支給されます。支給額は月額給与を平均した金額の3分の2です。
(※)双子以上の多胎出産の場合は出産日以前98日
出産育児一時金では同じ額が一律に支給されますが、出産手当金はその人の給与額によって支給額が変わります。
出産のために仕事を休み給料が支払われなかった場合だけでなく、支払われた給料が出産手当金額よりも少ない場合も対象です。
【関連記事】産休を取らずに退職したら出産手当金はもらえない?条件と注意点を解説
退職後でも受け取れる場合がある
出産育児一時金の申請先は原則として出産時に加入している公的医療保険ですが、退職後に出産した場合、一定の要件を満たすと在職時の公的医療保険から出産育児一時金を受け取れる場合があります。
出産育児一時金の支給対象になるのは、以下のような一定の条件を満たす場合です。
出産一時金で支給される金額
● 資格喪失日の前日(退職日)までに継続して1年以上被保険者期間がある● 資格喪失後(退職日の翌日)から6ヶ月以内の出産である など
出産育児一時金は税金の計算に含まれない
出産育児一時金は所得税や住民税の計算には含まれず、控除対象配偶者の判定をする際の合計所得金額に含める必要もありません。
たとえば年末調整の対象である給与所得者の場合、給料以外で20万円を超える所得があると確定申告が必要です。
しかし出産育児一時金50万円を受け取っても、課税対象となる所得には含まれないため、原則確定申告は不要です。
ただし医療費控除の適用を受ける場合は、控除額を計算する際に出産にかかった医療費から受け取った出産育児一時金の金額を差し引きます。
2024年度に改正される子育て支援制度
出産育児一時金のほかにも子育てに関わる支援制度は多くあります。2024年度の改正では、子育て世帯の支援を充実させる内容が多く盛り込まれました。
2024年度税制改正の子育て支援
● 児童手当の拡充● 住宅ローン減税の優遇措置
● ひとり親控除の拡充
● 生命保険料控除の限度額拡大
児童手当の拡充
児童手当は、中学卒業までの児童を養育している人に支給される手当です。現行の制度では所得が一定水準を超えると減額もしくは支給されません。
2024年度税制改正では、2024年10月から支給対象期間が高校卒業(18歳)まで拡大され、所得制限は撤廃、第3子以降の支給額は年齢にかかわらず3万円に増額されます。
一方で16歳から18歳までの扶養控除額引き下げ(所得税38万円→25万円、住民税33万円→12万円)も予定されており、高校生の子どもがいる世帯では所得税や住民税が増える可能性があります。
扶養控除額の引き下げは、所得税が2026年以降分から、住民税が2027年度以降分から行われる予定です。扶養控除額が引き下げられても、児童手当の拡充によって所得に関わらず実質的な手取りは増える設計です。
しかし、所得金額や税額の増加によって社会保障制度などに影響する可能性もあります。不利益が生じないように適切な措置を講じるとしていますが、今後の動向には注意しておきましょう。
住宅ローン減税の優遇措置
2024(令和6)年および2025年(令和7)年に入居の場合、減税対象となる住宅ローンの借入限度額は以下の通りです。
住宅の種類 | 借入限度額 |
認定住宅 | 4,500万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 3,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 3,000万円 |
その他の住宅 | 0円 |
子育て世帯(19歳未満の扶養親族のいる世帯)および若者夫婦世帯(夫婦いずれかが40歳未満の世帯)の借入限度額は、2024年度税制改正により以下の通り優遇されます。
住宅の種類 | 借入限度額 |
認定住宅 | 5,000万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 |
その他の住宅 | 0円 |
認定住宅では500万円、ZEH水準省エネ住宅と省エネ基準適合住宅では1,000万円の上乗せです。
ひとり親控除の拡充
ひとり親控除に関して、所得税の控除額は35万円から38万円に、個人住民税の控除額は30万円から33万円に引き上げられます。
また現在の所得要件は合計所得金額500万円以下ですが、1,000万円以下に緩和されます。
生命保険料控除の限度額拡大
所得税の生命保険料控除のうち、新契約にかかる「(新)一般生命保険料控除」の限度額が23歳未満の扶養親族がいる場合には2万円が上乗せされ、現行の4万円から6万円に引き上げられます。
(新)一般生命保険料控除に該当するのは、親(扶養者)が万が一に備えて加入する生命保険(死亡保険)の保険料などです。
限度額の拡大によって控除額が増えて税負担が減れば、実質的な保険料負担の軽減につながります。
生命保険料控除限度額<所得税>(旧契約:契約日2011年12月31日以前)
区分 | 限度額 | |
改正前 | 改正後 | |
(旧)一般生命保険料控除 | 5万円 | 変更なし |
個人年金保険料控除 | 5万円 | |
合計 | 10万円 |
生命保険料控除限度額<所得税>(新契約:契約日2012年1月1日以降)
区分 | 限度額 | |
改正前 | 改正後 | |
(新)一般生命保険料控除 | 4万円 | 6万円(23歳未満の扶養親族あり) 4万円(23歳未満の扶養親族なし) |
介護医療保険料控除 | 4万円 | 4万円 |
個人年金保険料控除 | 4万円 | 4万円 |
合計 | 12万円 | 12万円 |
なお、新契約にかかる生命保険料控除の合計額は、23歳未満の扶養親族がいる場合も12万円のままです。
まとめ
出産育児一時金は、公的医療保険制度の対象にならず自己負担が大きくなりがちな出産にかかる費用を軽減してくれる制度です。
出産育児一時金の支給対象は妊娠4ヶ月(85日)以上の出産で、支給額は2023年4月以降の出産から50万円に増額されています。
出産育児一時金の申請方法には直接支払制度・受取代理制度・事後申請の3つの方法があります。出産前にどの方法が利用できるかを医療機関に確認し、申請する方法を決めておきましょう。
直接支払制度なら出産育児一時金が病院に直接支払われるため、出産費用全額を病院の窓口で支払う必要がありません。
直接支払制度に関する書類に記入すれば申請手続きは完了し、病院が出産育児一時金の支給申請をしてくれます。
出産では何かとお金がかかります。出産育児一時金や出産手当金など受け取れるお金と出産にかかるお金を出産前に試算して、備えておきましょう。家計に支障はないか事前の確認が大切です。
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よくある質問
出産育児一時金はいくら増額された?
出産育児一時金は2023年3月までは42万円でしたが、2023年4月以降は50万円に増額されました。
出産育児一時金の増額について詳しく知りたい方は「出産育児一時金は2023年4月から50万円に増額された」をご覧ください。
出産育児一時金の申請方法は?
出産育児一時金の申請方法には直接支払制度・受取代理制度・事後申請の3つの方法があります。
出産育児一時金の申請方法を詳しく知りたい方は「出産育児一時金の申請方法」をご覧ください。
監修 竹国弘城(たけくに ひろき) 1級FP技能士・CFP
RAPPORT Consulting Office (ラポール・コンサルティング・オフィス)代表。名古屋大学工学部機械・航空工学科卒業。証券会社、生損保代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。お金に関する相談や記事の執筆・監修を通じ、自身のお金の問題について自ら考え、行動できるようになってもらうための活動を行う。