監修 鶏冠井 悠二

事業資金とは、事業を立ち上げる際や運営にあたって必要となる資金のことです。主に、設備の購入などにかかる「設備資金」と、日々の事業運営に必要な「運転資金」に分類されます。
事業資金を自己資金でまかなえない場合には、金融機関からの融資なども検討する必要があります。また、事業資金の融資を受けるためには、事業計画書の作成や開業届の提出など、事前の準備が欠かせません。
本記事では、事業資金の概要や開業に必要な資金の目安、調達方法を解説します。あわせて、融資を受けるための条件や事前準備も紹介します。
目次
事業資金とは
事業資金とは、事業を始める際や運営にあたって必要となる資金のことで、大きく以下の2つに分類されます。
事業資金の種類
- 設備資金
- 運転資金
事業をスムーズに立ち上げ、継続していくために、必要な事業資金の種類や金額をあらかじめ把握しておきましょう。
設備資金
設備資金に該当する資金の例は、以下のとおりです。
設備資金の例
- 店舗・事務所の初期費用
- 内外装工事費用
- 什器・備品の購入費
- 車両購入費
- パソコン・プリンターなどの機器購入費
- ソフトウェアの導入費など
これらの資金は一度にまとまった金額が必要となることが多く、事業を長期的に成長させていくための重要な投資となります。事業内容や規模などによって大きく金額が変わるため、自身の事業に必要な設備資金を具体的に見積もりましょう。
出典:日本政策金融公庫「第2回 創業融資の審査では結局、何が重視されるのか」
出典:J-Net21「起業に必要な資金」
運転資金
運転資金とは、事業を運営するうえで必要となる資金です。具体的には、次のような資金が該当します。
運転資金の例
- 原材料や商品の仕入費用
- 役員報酬
- 従業員の給与
- 社会保険料
- 広告宣伝費
- 家賃
- 通信費
- 水道光熱費
- 交通費
- 交際費
- 会議費
- 消耗品費など
事業運営では一般的に、売上が入金される時期と仕入代金や人件費の支払時期にタイムラグが生じます。運転資金は、こうしたズレを埋めるためにも重要な資金です。
運転資金が足りなくなると、資金繰りが苦しくなり、たとえ利益が出ていても事業の継続が困難になる可能性があります。
出典:日本政策金融公庫「第2回 創業融資の審査では結局、何が重視されるのか」
出典:J-Net21「運転資金の考え方」
起業・開業に必要な資金の目安
日本政策金融公庫によると、2024年度の開業費用は平均985万円でした。
中央値は580万円となっており、必ずしも1,000万円近くの資金が必要ではないとわかります。内訳を見ると、500万円未満で開業しているケースは全体の4割以上を占めています。
開業費用 | 割合 |
---|---|
250万円未満 | 20.1% |
250万~500万円未満 | 21.0% |
500万~1,000万円未満 | 30.7% |
1,000万~2,000万円未満 | 18.8% |
2,000万円以上 | 9.4% |
開業時に必要な資金は、事業内容や規模、立地などによって異なるため、自身の事業にあわせて準備しましょう。
【関連記事】
開業するには資金はいくらかかる? 業種別の開業資金内訳や調達方法を詳しく解説
事業資金を調達する方法
事業内容や規模によっては、事業資金を自己資金でまかなうことが難しいケースもあります。必要に応じて、自己資金以外の調達方法を検討しましょう。
事業資金を調達する主な方法は以下のとおりです。
資金調達方法 | 概要 |
---|---|
自己資金 | 起業者自身が用意する方法 |
融資 | 公的機関や民間の金融機関から借入する方法 |
出資 | ベンチャーキャピタル(VC)や個人投資家などから資金の提供を受ける方法 |
クラウドファンディング | インターネット上でプロジェクトを立ち上げて公開し、賛同を得た人から金銭的な支援を受ける方法 |
補助金・助成金 | 事業者の取り組みを支援する目的で国・自治体などから交付を受ける方法 |
以下の記事では、資金調達の種類やメリット・デメリット、注意点を詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
【関連記事】
資金調達とは? 企業の資金調達方法やメリット・デメリットを簡単に解説
個人事業主が検討できる事業資金の借入先
個人事業主が検討できる事業資金の借入先は複数あり、それぞれ扱っている融資の種類や資金調達にかかる期間などに違いがあります。
借入先 | 特徴 | 資金調達にかかる期間の目安 |
---|---|---|
日本政策金融公庫 | ・比較的金利が低く、返済の負担を抑えやすい ・創業融資も行っている | 2週間程度 |
民間金融機関 (自治体実施の制度融資) | ・利息の補助や元金据置などがある ・信用保証協会を利用することが一般的 | 1ヶ月~3ヶ月程度 |
民間金融機関 (銀行などの金融機関) | ・プロパー融資や保証付融資、ビジネスローンなどを扱う | 2週間~3ヶ月程度 |
民間金融機関 (ノンバンク) | ・主にビジネスローンを扱う ・事業資金に幅広く利用可能 | 最短即日 |
出典:日本政策金融公庫「創業融資のご案内」
出典:日本政策金融公庫「よくあるご質問 事業を営む方 個人・小規模企業の方(国民生活事業)」
出典:J-Net21「制度融資の活用」
出典:J-Net21「プロパー融資と保証協会付き融資の違いについて教えてください。」
これらの借入先は、融資を受けられる条件や審査ポイントもそれぞれ異なります。事前に各機関の要件を確認しましょう。
【関連記事】
必ず借りれるビジネスローンはあるのか?確実に資金調達をするために
個人事業主が事業資金の融資を受けるための条件
個人事業主が事業資金の融資を受ける際に求められる一般的な条件は、以下のとおりです。
融資を受けるための主な条件
- 開業届を提出している
- 確定申告を行っている
- 信用情報に問題がない
開業届とは、事業の開始を税務署に届け出るための書類です。融資を受けるうえで、開業していることを証明する書類である、「個人事業開業届出済証明書」を発行するためにも提出が必要となります。
また、確定申告を行っていることも重要視されます。確定申告をしていることで、正確に申告・納税を行っており、かつ事業の収益性があると判断されるためです。
さらに、融資の審査では信用情報も確認されます。信用情報とは、ローンやクレジットなどの申込・契約、返済状況などに関する情報のことです。長期にわたる滞納や債務整理などの情報が登録されていると、融資の審査に通過しづらくなる可能性があります。
【関連記事】
開業届とは?個人事業主が知っておくべき基礎知識や提出するメリット・注意点について解説
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出典:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
個人事業主が事業資金の融資を受けるための準備
個人事業主が金融機関から資金を調達するためには、事前の準備が欠かせません。
個人事業主が事業資金の融資を受けるための準備
- 自己資金を計画的に準備する
- 事業計画書を作成する
- 開業届を提出する
これらの準備をしっかり行えば、金融機関からの信用を得やすくなり、スムーズに資金を調達できる可能性が高まります。
自己資金を計画的に準備する
必要な資金を具体的に見積もったうえで、自己資金を計画的に準備しましょう。
自己資金を準備できていれば、融資を受けるうえで有利に働くことがあります。実際に、自己資金割合を要件として定めている金融機関や制度も存在します。
ただし、自己資金を準備する際は、生活に支障をきたさないよう無理のない範囲で進めましょう。
出典:J-Net21「自己資金の準備」
事業計画書を作成する
融資を受ける際には、事業計画書の提出を求められることがあります。
事業計画書とは、事業内容や経営戦略、収益予測などをまとめた書類です。
事業計画書の主な記載事項
- 事業概要
- 経営者の経歴
- 起業の動機
- ビジョン・目標
- 事業内容
- 事業コンセプト
- 現状分析
- 販売・仕入計画
- 実施体制・人員計画
- 数値計画
- 投資・調達計画
- 損益計画
- 実行計画
融資の審査では、借入金を確実に返済できるかどうかが重視されます。そのため、事業として利益が見込め、返済できる計画であることに加え、実現性のある事業計画であることが重要です。
【関連記事】
事業計画書の書き方と記入例を項目別に解説! テンプレートや作成時のポイントも紹介
出典:J-Net21「事業計画書はなぜ必要か」
出典:J-Net21「事業計画書の作成手順」
出典:日本政策金融公庫「第2回 創業融資の審査では結局、何が重視されるのか」
開業届を提出する
個人事業を開始した際は、開始日から1ヶ月以内に税務署へ「開業届」を提出します。税務署窓口への持参または郵送、あるいはe-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用し、納税地を所轄する税務署に提出しましょう。
青色申告を行う人は、あわせて「青色申告承認申請書」の提出が必要です。
なお、法人を設立する場合は、法務局へ法人登記の申請を行います。
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会社設立の流れを徹底解説!株式会社を設立するメリットや注意点について
会社設立の費用はいくら?株式会社と合同会社の維持費もわかりやすく解説
出典:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
出典:国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」
出典:法務局「商業・法人登記申請手続」
事業資金の仕訳方法
事業資金を調達または支出した場合は、その取引内容を仕訳し、帳簿に記録する必要があります。日々の取引を正しく仕訳することで、資金の流れを把握しやすくなり、確定申告もスムーズに進められます。
よくある3つのケースを例に、仕訳方法を押さえておきましょう。
仕訳例①自己資金を事業用口座に入金した
事業用口座の残高が少なくなったためにプライベートの資金を事業資金として補てんしたときは、「事業主借」の勘定科目を用いて処理します。
自己資金100万円を事業用口座に入金した際の仕訳例は、次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 1,000,000円 | 事業主借 | 1,000,000円 |
なお、事業資金からプライベートの支出をまかなった際は、「事業主貸」の勘定科目を用います。
仕訳例②融資を受けた
公的機関や銀行から融資を受けた際は、「短期借入金」や「長期借入金」の勘定科目を用いて処理を行います。
短期借入金 | 決算日の翌日から1年以内に返済期限が到来する借入金 |
---|---|
長期借入金 | 決算日の翌日から1年を超えて返済期限が到来する借入金 |
たとえば、銀行から50万円の融資を受け、返済期限が1年以内に到来する場合の仕訳例は次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 500,000円 | 短期借入金 | 500,000円 |
仕訳例③借入金を返済した
借入金を返済する際は、元金と利息を分けて仕訳します。たとえば、短期借入金50万円を利息5,000円とあわせて返済した際は、次のように仕訳しましょう。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
短期借入金 | 500,000円 | 普通預金 | 505,000円 |
支払利息 | 5,000円 |
なお、返済に伴い振込手数料などがかかる場合は、「支払手数料」などの勘定科目を用います。
まとめ
事業資金とは、事業に必要な資金のことで、大きく設備資金と運転資金に分類されます。
設備資金は、開業や事業拡大などで一時的に必要となる資金であり、店舗・事務所の初期費用や、設備の購入費用などが該当します。運転資金は日々の事業運営に必要な資金です。たとえば、原材料や商品の仕入費用、従業員の給与、家賃などが該当します。
事業をスムーズに立ち上げ、継続していくために、自身の事業に必要となる資金の種類や金額を把握しましょう。
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監修 鶏冠井 悠二(かいで ゆうじ)
コンサルタント会社、生命保険会社を経験した後、ファイナンシャルプランナーとして独立。「資産形成を通じて便利で豊かな人生を送って頂く」ことを目指して相談・記事監修・執筆業務を手掛ける。担当分野は資産運用、保険、投資、NISAやiDeCo、仮想通貨、相続、クレジットカードやポイ活など幅広く対応。現在、WEB専門のファイナンシャルプランナーとして活動中。
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