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特定親族特別控除とは?創設の背景や制度開始に向けて必要な対応を解説

監修 鶏冠井 悠二

特定親族特別控除とは?創設の背景や制度開始に向けて必要な対応を解説

特定親族特別控除は、大学生年代の子どもなどがいる世帯に向けた新しい控除制度で、2025年度税制改正に盛り込まれた内容のひとつです。

既存の控除制度にも、大学生年代の子どもなどがいる世帯を想定した扶養控除(特定扶養親族)が存在します。今回創設された特定親族特別控除では、従来の扶養控除(特定扶養親族)よりも適用要件や控除額が拡大される方針です。

特定親族特別控除は、所得税と住民税で適用時期が異なり、所得税は2025年分以降、住民税は2026年度分以降に適用されます。

本記事では、特定親族特別控除の概要や制度開始時期、制度開始に向けて注意すべき事項を解説します。

目次

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特定親族特別控除とは?

特定親族特別控除は、大学生年代の子どもなどがいる世帯に向けた、新たな控除制度です。2024年12月27日に閣議決定された2025年度税制改正の大綱に盛り込まれ、2025年3月31日に改正税法が公布されました。

これにより、扶養控除の適用対象が拡大し、所得税や住民税が軽減される世帯が増加しました。

出典:財務省「令和7年度税制改正の大綱の概要」
出典:財務省「令和7年度税制改正の大綱」

特定親族特別控除の控除額

特定親族特別控除の控除額は、特定扶養親族に該当する子どもなどの合計所得金額によって変化します。一定以下なら所得税63万円・住民税45万円の控除を適用し、一定額を超えると段階的に控除額が減少します。

所得税の控除額

特定扶養親族の合計所得金額控除額
58万円超85万円以下63万円
85万円超90万円以下61万円
90万円超95万円以下51万円
95万円超100万円以下41万円
100万円超105万円以下31万円
105万円超110万円以下21万円
110万円超115万円以下11万円
115万円超120万円以下6万円
120万円超123万円以下3万円
出典:財務省「令和7年度税制改正の大綱」

住民税の控除額

特定扶養親族の合計所得金額控除額
58万円超95万円以下45万円
95万円超100万円以下41万円
100万円超105万円以下31万円
105万円超110万円以下21万円
110万円超115万円以下11万円
115万円超120万円以下6万円
120万円超123万円以下3万円
出典:財務省「令和7年度税制改正の大綱」

合計所得金額は、給与所得・不動産所得・事業所得・雑所得などの総合課税の対象となる所得の合計です。アルバイトの給与以外に収入を得ていなければ、税引き前の給与収入から給与所得控除を差し引いた金額が給与所得となります。

たとえば、月12万円・年間144万円のアルバイト収入がある場合、給与所得は以下の通りです。

年間のアルバイト収入1,440,000円 – 給与所得控除650,000円* = 給与所得790,000円

*2025年以降・年収190万円までの場合

出典:荒川区「特別区民税・都民税における合計所得金額・総所得金額・総所得金額等の違い」
出典:国税庁「No.1400 給与所得」


上記のように、特定扶養親族に該当する子どもの所得が上記の給与所得のみなら、79万円が合計所得金額です。この場合、扶養している親族は所得税63万円・住民税45万円の控除を受けられます。

特定親族特別控除は、合計所得金額がある程度増えても、少しずつ控除額が調整されるよう設計されています。

仮に、子どものアルバイト収入が月13万円・年間156万円に増加しても、控除額は0円になりません。合計所得金額91万円となり特定親族特別控除の控除額は変化しますが、所得税51万円・住民税45万円の所得控除を受けられます。

特定親族特別控除を創設する背景

特定親族特別控除を創設する背景には、労働力不足の解消と扶養する世帯の税負担軽減を目的としています。

現在、日本は人口減少の局面を迎え、今後15歳から64歳の人口が大幅に減少する想定です。大学生年代のアルバイトも、雇用する企業にとっては重要な労働力です。

出典:厚生労働省「人口減少社会への対応と人手不足の下での企業の人材確保に向けて」

現在の制度では、大学生年代の人が一定以上の給与を得ると、扶養する世帯は扶養控除(特定扶養親族)を適用できません。

扶養者の税負担の増加を避けるために、大学生年代の人がアルバイトする時間を制限すると、学生アルバイトを必要とする業種で人手不足が発生するケースがあります。

所得制限を緩和することで過度な労働制限を防ぎ、学生アルバイトの就労を促進することが、税制改正の狙いです。

特定親族特別控除の節税効果

控除制度を適用した場合の節税効果は、控除額に税率をかけて求めます。

これは、所得税や住民税が、あなたの所得から各種控除(この場合は特定親族特別控除)を差し引いた「課税対象となる所得金額」に対して税率をかけて計算されるためです。

つまり控除額が大きくなると、課税対象となる所得金額が減り、結果として税金が安くなります。

節税額を求める式

納税する所得税や住民税 =(あなたの所得 – 控除)× 税率
= あなたの所得 × 税率 – 控除 × 税率

この引く部分「控除 × 税率」が増えるほど納税する所得税や住民税が減るので、「節税額
= 控除額 × 税率」という計算式が成り立ちます。

所得税の税率は、課税対象となる所得金額(1,000円未満切り捨て)に応じて5%から45%まで変化する、累進課税という仕組みを採用しています。

所得税の税率

課税対象となる所得金額税率
1,000円から194万9,000円まで5%
195万円から329万9,000円まで10%
330万円から694万9,000円まで20%
695万円から899万9,000円まで30%
900万円から1,799万9,000円まで33%
1,800万円から3,999万9,000円まで40%
4,000万円以上45%
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」

特定親族特別控除を適用した場合、節税できる所得税の目安は以下の通りです。

特定親族特別控除で節税できる所得税の目安

所得税の
税率
5%10%20%23%33%40%45%
控除額
63万円
3万1,500円6万3,000円12万6,000円14万4,900円20万7,900円25万2,000円28万3,500円
控除額
61万円
3万500円6万1,000円12万2,000円14万300円20万1,300円24万4,000円27万4,500円
控除額
51万円
2万5,500円5万1,000円10万2,000円11万7,300円16万8,300円20万4,000円22万9,500円
控除額
41万円
2万500円4万1,000円8万2,000円9万4,300円13万5,300円16万4,000円18万4,500円
控除額
31万円
1万5,500円3万1,000円6万2,000円7万1,300円10万2,300円12万4,000円13万9,500円
控除額
21万円
1万500円2万1,000円4万2,000円4万8,300円6万9,300円8万4,000円9万4,500円
控除額
11万円
5,500円1万1,000円2万2,000円2万5,300円3万6,300円4万4,000円4万9,500円
控除額
6万円
3,000円6,000円1万2,000円1万3,800円1万9,800円2万4,000円2万7,000円
控除額
3万円
1,500円3,000円6,000円6,900円9,900円1万2,000円1万3,500円

たとえば、アルバイトで働く大学生の親が所得金額600万円の場合、所得税の税率は20%です。ここで、子どもの合計所得金額が85万円の場合に適用される最大の控除額63万円を適用すると、節税できる所得税の目安は以下のように計算できます。

節税できる所得税額 = 控除額630,000円 × 税率20% = 126,000円

次に、住民税の節税効果を見ていきましょう。住民税には所得割と均等割があります。このうち、所得に応じて税率がかかるのは「所得割」です。「均等割」は所得にかかわらず定額の負担です。

所得割の税率は都道府県民税4%・市町村住民税6%の10%です。ただし、横浜市・名古屋市・大阪市などの政令指定都市は、道府県民税2%・市民税8%の10%です。

出典:総務省「個人住民税」

特定親族特別控除を適用した場合、節税できる住民税の目安は以下の通りです。

特定親族特別控除で節税できる住民税の目安

適用する控除額節税できる住民税の目安
控除額45万円4万5,000円
控除額41万円4万1,000円
控除額31万円3万1,000円
控除額21万円2万1,000円
控除額11万円1万1,000円
控除額6万円6,000円
控除額3万円3,000円

たとえば、アルバイトで働く大学生の子どもが合計所得金額85万円の場合、適用する控除額は45万円です。つまり、節税できる住民税額は「控除額45万円 × 税率10%」の4万5,000円になります。

特定親族特別控除と扶養控除(特定扶養親族)との違い

今回創設された特定親族特別控除と、現在の税制の扶養控除(特定扶養親族)の違いは以下の2つです。

特定親族特別控除と扶養控除(特定親族)の相違点

  • 扶養控除(特定扶養親族)よりも扶養親族の合計所得金額を引き上げる
  • 特定扶養親族の合計所得金額に応じて控除額を段階的に下げる

一番の変更点は、扶養される子ども(特定扶養親族)の所得に対する考え方です。

現行の「扶養控除(特定扶養親族)」では、子どもの合計所得金額が48万円(給与収入のみなら103万円)を超えると、扶養控除(所得税63万円・住民税45万円)は完全に適用できなくなります。これがいわゆる「103万円の壁」とされていました。

一方、今回新設された「特定親族特別控除」では、この所得要件が緩和されます。

子どもの合計所得金額が一定額(所得税は85万円、住民税は95万円)以下であれば、満額の控除(所得税63万円・住民税45万円)が適用できます。

さらに、その所得額を超えた場合でも、直ちに控除額が0円になるのではなく、子どもの所得が123万円(給与収入のみなら190万円)以下になるまで、所得に応じて控除額が段階的に減少していく仕組み(スライド方式)が導入されました。

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特定親族特別控除の適用に関する注意点

特定親族特別控除は主に大学生年代の子どもがいる世帯を対象にしていますが、控除対象の特定扶養親族には要件があるため、誰でも適用できるわけではありません。

特定親族特別控除の適用に関する注意点

  • 居住者の配偶者や青色事業専従者は控除対象から除く
  • 控除対象の特定扶養親族は19歳以上23歳未満
  • 控除対象の特定扶養親族は居住者と同一生計
  • 特定扶養親族1人に対して控除を適用する居住者は1人
  • 所得税と住民税で適用開始時期が異なる

居住者の配偶者や青色事業専従者は控除対象から除く

配偶者は特定扶養親族には該当しましせん。配偶者が対象となる控除制度は、配偶者控除や配偶者特別控除です。

また、青色事業専従者も特定親族特別控除の対象から外れます。

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控除対象の特定扶養親族は19歳以上23歳未満

控除対象となる特定扶養親族は、申告対象年の12月31日時点で19歳以上23歳未満でなければなりません。

たとえば早生まれで2026年1月に19歳の誕生日を迎える大学生の場合、2025年12月31日時点では18歳です。2025年分の申告では、年齢が19歳に満たないため、控除対象ではありません。

控除対象の特定扶養親族は居住者と同一生計

同一生計でない特定扶養親族は控除の対象者になれませんが、同居していなくても生計を一にしているとみなされるケースはあります。

たとえば、下宿先から通学する大学生の子どもがいる場合、学費の負担や仕送りをしているなら、同一生計とみなされます。

特定扶養親族1人に対して控除を適用する居住者は1人

同じ特定扶養親族1人に対して控除を適用できる居住者は1人であり、二重控除はできません。

たとえば、特定扶養親族に該当する子どもがいる共働き世帯の場合、特定親族特別控除を受けられる親はいずれか一方です。

所得税と住民税で適用開始時期が異なる

特定親族特別控除は、所得税と住民税で適用開始の時期が異なります。

特定親族特別控除の適用を始める時期

  • 所得税:2025年分以降に適用
  • 住民税:2026年度分以降に適用

出典:財務省「令和7年度税制改正の大綱」

2025年分の所得税は、年末調整の際に特定親族特別控除を適用します。2026年1月1日以降の給与からは、特定親族の合計所得金額が58万円超100万円以下である場合に限り源泉徴収の際に適用され、年末調整で精算されます。

また、勤務先で年末調整を受けなかった人や個人事業主などが適用開始されるのは、2025年分の確定申告からです。

特定親族特別控除の申告方法

特定親族特別控除は年末調整、または確定申告の際に申告して適用します。

企業に勤める会社員の場合、要件を満たす扶養親族がいる人は年末調整の際に申告しましょう。勤務先で年末調整を受けなかった人や年末調整のない個人事業主などは、確定申告の際に申告します。

【関連記事】
税金の控除制度とは? 所得控除・税額控除の種類や違いを解説

特定親族特別控除の開始に向けて企業や経理担当に必要な対応

特定親族特別控除は、適用開始時期がすでに発表されています。企業や経理担当者は開始に向けて、以下の対応が求められます。

特定親族特別控除の開始に向けて企業や経理担当者に求められる対応

  • 特定親族特別控除の控除額や計算方法を把握する
  • 特定親族特別控除を従業員に周知する
  • 給与計算システムを特定親族特別控除に対応させる

制度内容を理解し、2025年の年末調整や2026年以降の源泉徴収で対応できる体制を整えてください。また、今後の制度改正に備え、最新の情報に注目しておきましょう。

特定親族特別控除の控除額や計算方法を把握する

特定親族特別控除の仕組みを理解し、控除額や控除を適用する場合の計算方法を把握しましょう。

2025年分の所得税は年末調整の際に適用するため、例年とは異なる処理が必要です。さらに、2026年1月1日以降に支払う給与については、特定親族の合計所得金額が58万円超100万円以下である場合に限り源泉徴収の際に適用されます。

また、住民税への適用は2026年度分以降です。適用時期の違いも注意を払うべき事項です。

出典:財務省「令和7年度税制改正の大綱」

特定親族特別控除を従業員に周知する

特定親族特別控除の対象者にあたる大学生年代のアルバイトや、子どもがいる人を雇っているなら、従業員へ制度を周知しましょう。

特定親族特別控除の適用は、アルバイトで働く大学生の労働時間に影響をおよぼします。

また、控除制度の適用により、従業員の納税額に大きな差が生じる可能性があります。従業員側から質問を受ける可能性もあるため、企業や担当者は制度と控除内容の十分な理解が求められます。

給与計算システムを特定親族特別控除に対応させる

給与計算システムを新しい制度に対応させれば、給与の処理を効率よく適切に実行できます。

現在使用しているシステムの提供元に確認し、特定親族特別控除の適用開始までに対応できる状態を整えましょう。

まとめ

2025年度税制改正の大綱にて、特定親族特別控除の創設が発表されました。特定親族特別控除の創設は、税負担の軽減と労働力不足の解消が目的です。

従来の税制よりも控除対象の要件を引き上げ、大学生年代の子どもなどがいる世帯の税負担を緩和します。同時に、アルバイトで働く大学生が就労時間を気にせず働ける環境を作り、労働力不足を補います。

制度の適用開始時期がすでに発表されているため、企業や経理担当者は適用開始に向けて準備を進めましょう。

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よくある質問

特定親族特別控除はどんな制度?

特定親族特別控除は、大学生年代の子どもなどがいる世帯を対象にした新しい控除制度です。最大で所得税63万円・住民税45万円の控除が適用でき、特定扶養親族の所得金額に応じて段階的に控除額が減少します。

詳しくは「特定親族特別控除とは?」をご覧ください。

特定親族特別控除は扶養控除(特定扶養親族)と何が違う?

従来の扶養控除(特定扶養親族)より控除対象となる合計所得金額を引き上げ、控除額を段階的に下げる点が異なります。

詳しくは「特定親族特別控除と扶養控除(特定扶養親族)との違い」をご覧ください。

監修 鶏冠井 悠二(かいで ゆうじ)

コンサルタント会社、生命保険会社を経験した後、ファイナンシャルプランナーとして独立。「資産形成を通じて便利で豊かな人生を送って頂く」ことを目指して相談・記事監修・執筆業務を手掛ける。担当分野は資産運用、保険、投資、NISAやiDeCo、仮想通貨、相続、クレジットカードやポイ活など幅広く対応。現在、WEB専門のファイナンシャルプランナーとして活動中。

監修者 鶏冠井 悠二
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