人事労務の基礎知識

扶養とは? 所得税の扶養と社会保険(健康保険と厚生年金保険)の扶養の違い

所得税の扶養と社会保険(健康保険と厚生年金保険)の扶養の違い

共働きの夫婦は、夫または妻の扶養に入ったまま働くか、それとも扶養から外れるかを選択することで働き方が変わってきます。

扶養者の扶養(被扶養者)になることで、扶養者が支払う所得税の控除を受けることができたり、被扶養者が社会保険に加入していれば保険料(健康保険と厚生年金保険)の免除が受けられたりするようになります。

本記事では、扶養の対象となる範囲や年齢、メリット・デメリットについて解説します。

目次

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扶養とは

扶養とは、自身の稼ぎで生計を立てられない家族や親族に対して、経済的な援助を行うことをいいます。扶養(援助)をしている方を「扶養者」と呼び、扶養(援助)を受ける方を「被扶養者」と呼びます。被扶養者には、配偶者・子供・両親などが該当します。

扶養には「所得税上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類あります。扶養に入れたい対象(被扶養者)の条件次第では、社会保険上の扶養にはなることはできるものの、所得税上の扶養にはなれないという場合もあります。

また、扶養を受ける人を「扶養親族」と呼ぶこともあります。「被扶養者」は社会保険上の名称で、「扶養親族」は所得税上の名称です。この2つは同じ意味合いで使われることが多いですが、実際には対象範囲なども異なるため混同しないようにしましょう。

所得税の扶養の範囲

所得税における扶養は、扶養控除に関わってきます。この扶養控除は、扶養親族の数に応じて、一定の金額が所得から控除されます。ここでは扶養の対象となる家族の範囲や年齢などの条件を解説します。

扶養親族の対象になる親族の範囲と条件

扶養に入っている場合、所得税の控除には、配偶者が対象となる「配偶者控除」と「配偶者特別控除」、配偶者以外の親族が対象となる「扶養控除」があります。それぞれの対象条件は以下のとおりです。

配偶者控除の対象となる条件

  • 民法上の規定で配偶者と認められていること(内縁関係の方は該当しません)
  • 扶養者と生計を一にしていること
  • 1年間の所得額が48万円以下であること(給与のみの場合は、年収103万円以下)
  • 青色申告者の事業専従者として、年間一度も給与の支払いを受けていない、または白色申告の専業専従者ではないこと

出典:国税庁「No.1191 配偶者控除」

配偶者特別控除の対象となる条件

  • 民法上の規定で配偶者と認められていること(内縁関係の方は該当しません)
  • 扶養者と生計を一にしていること
  • 青色申告者の事業専従者として、給与の支払いを受けていないこと
  • 白色申告の事業専従者ではないこと
  • 年間に受け取った合計所得が48万円超から133万円以下であること
  • 配偶者が配偶者特別控除を適用していないこと
  • 配偶者が給与所得者の「扶養控除等申告書」または「従たる給与についての扶養控除等申告書」に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として源泉徴収されていないこと
  • 配偶者が公的年金などの受給者の「扶養親族等申告書」に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として源泉徴収されていないこと

出典:国税庁「No.1195 配偶者特別控除」

扶養控除の対象となる親族の範囲は、6親等内の血族と3親等内の婚姻によってできた親族までとされています。

具体的には、自分の兄弟や叔父、叔母はもちろん、4親等となる祖父母の兄弟や6親等に該当する従兄弟の孫、3親等の姻族である配偶者の兄弟の子どもまで含まれます。


扶養控除の対象となる親族の範囲

所得税の扶養の対象になる年齢

扶養の対象となる年齢は、扶養者が年末調整を行った年の12月31日時点で16歳以上の親族に限られます。これは所得税は、毎年12月31日時点の状況をもとに計算をしていることに関係しています。

以前は16歳未満も扶養の対象でしたが、2012年4月から15歳以下の子どもは児童手当(2012年3月以前の名称は子ども手当)が創設されたため、15歳以下の扶養控除が廃止となりました。なお、扶養の対象年齢に上限はありません。

扶養対象者と生計を一にしているか

所得税に関する扶養親族として生計を一にしている必要があります。「生計を一にする」とは、必ずしも同居をしていなくてはならないということではありません。

以下のように同居をしていなくても、仕送りをしている場合は、同居していなくても法的に「生計を一にしている」と認められて、扶養親族にすることが可能です。

生計を一にしていると認められる例

  • 親元を離れて生活をしている学生
  • 高齢の両親との別居
  • 扶養者の単身赴任による別居

所得税の扶養の収入基準と控除

扶養している家族のすべてが、扶養親族に該当するわけではありません。扶養親族に該当するためには、親族の範囲や生計が一かどうかの条件以外にも、扶養親族になりたい側の収入によって扶養できるかが決まります。

配偶者が控除を受ける場合

配偶者には「配偶者控除」と「配偶者特別控除」という2つの控除が設けられています。

配偶者控除

配偶者控除は、年間所得が48万円以下(給与所得のみの場合は、年収103万円以下)の方が該当します。

※税制改正により、2020年から年間の所得が48万円以下(給与所得のみの場合、給与収入の103万円以下)となりました。

控除額は納税者の所得額によって異なります。


控除を受ける納税者本人の
合計所得金額
控除額
一般の控除対象配偶者老人控除対象配偶者
900万円以下38万円48万円
900万円超950万円以下26万円32万円
950万円超1,000万円以下13万円16万円
出典:国税庁「No.1191 配偶者控除」

配偶者特別控除

配偶者特別控除は、2020年の税制改正により、配偶者の年間所得が48万円を超えて133万円以下(給与収入のみの場合は、103万円を超えて約201万円以下)の場合に該当します。

配偶者控除の控除額は納税者の所得額と配偶者の合計所得金額によって異なります。

<2020年以降の配偶者特別控除額>

控除を受ける納税者本人の合計所得金額
900万円以下900万円超
950万円以下
950万円超
1,000万円以下
配偶者の合計所得金額48万円超95万円以下38万円26万円13万円
95万円超100万円以下36万円24万円12万円
100万円超105万円以下31万円21万円11万円
105万円超110万円以下26万円18万円9万円
110万円超115万円以下21万円14万円7万円
115万円超120万円以下16万円11万円6万円
120万円超125万円以下11万円8万円4万円
125万円超130万円以下6万円4万円2万円
130万円超133万円以下3万円2万円1万円
出典:国税庁「No.2672 年末調整で配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるとき」

また、ここでの「配偶者」とは民法上認められた人のみを指し、内縁関係などは適用されない点に注意しましょう。

配偶者控除の対象となる配偶者とは、民法の規定により効力が生じた婚姻に基づく配偶者をいいます。いわゆる内縁の妻など、事実婚の相手方は、このような民法の規定による配偶者ではありませんから、配偶者控除の対象とはなりません。

出典:国税庁「No.1191 配偶者控除」

ほかにも、以下に該当する場合は配偶者控除・配偶者特別控除を受けられません。

<配偶者控除・配偶者特別控除を受けられないケース>

  • ・青色申告者の事業専従者として給与の支払いを受けている
  • ・白色申告者の事業専従者
  • ・扶養者(納税者)本人の合計所得が1,000万円を超えている場合

配偶者以外の親族が扶養控除を受ける場合

配偶者以外で6親等内の血族と3親等内の婚姻に該当する親族で、以下の条件を満たしている場合は扶養親族として認められます。

<配偶者控除・配偶者特別控除を受けられないケース>

  • ・年間所得が48万円以下(給与所得のみは103万円以下)であること
  • ・白色申告専従者ではなく、青色申告専従者として給与を受け取っていないこと

また、扶養者が事前に「扶養控除申告書」を年末調整時に会社に提出している必要があります。

税制改正により2020年から、対象親族の年間所得は48万円以下となりましたが、給与所得のみの場合は103万円以下という点は変わっていません。

扶養控除は扶養親族の年齢によって区分され、控除額が異なります。


区分控除額
一般の控除対象扶養親族
(23歳以上70歳未満)
38万円
特定扶養親族
(19歳以上23歳未満)
63万円
老人扶養親族
(70歳以上)
同居老親等以外の者48万円
同居老親等58万円
出典:国税庁「No.1180 扶養控除」

給与収入が103万円に設定されている理由は、給与所得における55万円の所得控除を考慮した際に、基礎控除と合わせて課税所得がちょうど0円となる給与収入額になるためです。以下の計算式の詳細は、国税庁のホームページで確認できます。

48万円(基礎控除) + 55万円(給与所得控除) = 103万円

社会保険(健康保険)の扶養の範囲

社会保険上の被扶養者は、所得税における扶養親族と比べて、親族の範囲から対象となる年齢、同居の有無など条件が大きく異なります。

また、社会保険(健康保険)の運営主体は協会けんぽと健康保険組合の2つがあります。本記事では、被扶養者の対象と条件に関して、加入者数の多い協会けんぽを例にして解説します。

被扶養者の対象になる親族の範囲と条件

被扶養者の対象となる親族は、配偶者と3親等内の血族となります。また、所得税における扶養親族と大きく違う点としては、生計を共にしているという実態を優先させていることです。

社会保険(健康保険)では、法律上は家族にならない内縁関係の配偶者や、亡くなった内縁関係の配偶者の父母や子どもも扶養の対象にできるのです。

被扶養者の対象となる親族の条件

  • 被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人※同居している必要はない
  • 被保険者と同一の世帯で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人※「同一の世帯」とは、同居して家計を共にしている状態
    (1)被保険者の三親等以内の親族(上記に該当する人を除く)
    (2)被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
    (3)(2)の配偶者が亡くなった後における父母および子
    ※ただし、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は除く

出典:全国健康保険協会「被扶養者とは?」

ただし、内縁関係の配偶者を扶養にする場合は、被保険者と内縁関係の配偶者2人の戸籍謄本(または戸籍抄本)、被保険者の世帯全員が記載された住民票が必要となります。

社会保険(健康保険)の扶養の対象になる年齢

社会保険(健康保険)の扶養対象は所得税のように年齢の制限はありません。

しかし、75歳以上になると後期高齢者医療制度へ移行することにより、対象者自身が後期高齢者医療制度に加入する必要があります。そのタイミングで、社会保険(健康保険)の扶養対象者からは外れるため、75歳未満という上限は設定されています。


出典:全国健康保険協会「75歳以上の方が全国健康保険協会管掌健康保険から後期高齢者医療制度に移行することにより、その扶養家族である被扶養者の方が新たに国民健康保険に加入する場合の手続きについて」

扶養対象者と同居をしているか

社会保険(健康保険)における扶養対象者は、配偶者(内縁関係も可能)だけではなく、子・孫・兄弟・父母・祖父母についても同居している実態がなくとも扶養にすることが可能です。しかし、そのほかの3親等以内の親族については同居している必要があります。


社会保険の被扶養者の範囲
出典:全国健康保険協会「被扶養者とは?」

社会保険(健康保険)の扶養の収入基準

社会保険における扶養の収入基準は、所得税とは異なります。特に社会保険(健康保険)では、所得税では非課税になるものも収入に含める必要があるため注意しましょう。

所得税では非課税ですが、社会保険(健康保険)では収入に含まれる代表的な例は以下のとおりです。

社会保険(健康保険)で収入に含まれる例

  • 障害基礎年金、障害厚生年金
  • 遺族基礎年金、遺族厚生年金
  • 雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)
  • 健康保険の傷病手当金や出産手当金
  • 労災保険の傷病補償給付、障害補償給付、遺族補償給付等

社会保険(健康保険)の収入基準は130万円

社会保険(健康保険)の扶養対象となる収入基準額は年間130万円未満です。被扶養者が60歳以上の場合や障害がある場合は180万円未満まで引き上げられます。

ただし、社会保険(健康保険)は月々の収入ベースで判断されてしまうので注意が必要です。

年間の給与収入が130万円未満なので、これを月給に換算すると10万8,333円未満が扶養対象者ということになります。通年で扶養対象者になりたい場合は、毎月10万8,333円未満の収入に抑えなくてはいけません。

たとえば、1月から6月は働いていなかったので1円も収入がなかった人が、7月に入社して12月まで月給20万円を得ていた場合は、年間収入は120万円となるので基準金額の130万円未満となります。しかし、月々10万8,333円未満という基準を越えてしまっているため、7月以降は被扶養者から外れることになります。


出典:全国健康保険協会「被扶養者とは?」

被扶養者の年収による基準

被保険者と被扶養者が同居している際は、被扶養者の年収が130万円の基準額より下回っており、被保険者の年収の2分の1未満であれば被扶養者の条件を満たしています。

また、被保険者と別居している場合は、同居の場合と同様に年収が130万円未満で、被保険者からの仕送り額より少ないことが被扶養者の条件となります。

このように、被扶養者の条件を満たすためには、被保険者と被扶養者の年収や仕送り額が関係することも忘れないようにしましょう。


出典:全国健康保険協会「被扶養者とは?」

扶養になるメリットとデメリット

夫婦のどちらかが家計を支える収入を得ている場合、もう一人の配偶者は扶養者の扶養に入るか、外れるか選択することで働き方が変わってきます。扶養に入ることで、どのようなメリットやデメリットがあるか解説します。

扶養になるメリット

配偶者の扶養に入ると以下のようなメリットがあります。

配偶者が負担する税額が減る

収入を得ている人は、収入にかかる所得税を支払う必要があります。もし配偶者が扶養に入っている場合、年末調整や確定申告をする際に「配偶者控除」や「配偶者特別控除」を適用させることで、収入を得ている方の税金を減らすことができます。

さらに、扶養に入ったまま働いたとしても、年間の収入が103万円以下であれば所得税を支払う必要もありません。もし、103万円を超えてしまっても150万円以下であるなら、配偶者特別控除を受けられる場合があります。

【関連記事】
年末調整の配偶者控除・配偶者特別控除の書き方

社会保険(健康保険)に加入できる

国民健康保険には扶養という概念がないため、家族全員の保険料を納付する必要がありますが、社会保険(健康保険)には配偶者の扶養になった場合、保険料を個別に支払わなくてもよいというメリットがあります。

配偶者が、社会保険(健康保険)社会保険に加入している企業に勤めている場合、てその配偶者の扶養に入ることができれば自身で国民健康保険や国民年金に加入する必要はありません。

配偶者が社会保険(健康保険)の被扶養者になるには、年間収入が130万円未満である必要があります。そのため、150万円以下の収入で配偶者特別控除を受けられる扶養親族だったとしても、社会保険(健康保険)の被扶養者からは外れてしまうことになります。

また、勤務形態がパートやアルバイトだったとしても、勤めている企業によっては年間106万円以上の収入を得ている場合は、自身が社会保険(健康保険)に加入する必要があります。2022年9月現在は501人以上の従業員が在籍している企業が対象となっていますが、2022年10月からは101人以上が対象となり、2024年10月からは51人以上の企業が対象となります。

この場合は、社会保険(健康保険)上での被扶養者からは外れてしまうので、勤めている企業に事前に確認するようにしましょう。

扶養手当をもらえる可能性がある

収入を得ている人が勤めている企業によっては、扶養がいる社員に対して扶養手当(家族手当)を支給していることがあります。企業によって扶養の範囲は異なりますが、多くは扶養の年収が103万円以下だったり130万円未満を対象としています。

扶養になるデメリット

年金の受給額が少なくなる

厚生年金保険や共済組合などに加入している会社員や公務員の人を「第2被保険者」、その第2被保険者の扶養になっている20歳から60歳未満の配偶者で、1年間の収入が130万円未満の人を「第3被保険者」といいます。

第3被保険者が将来受け取れる年金は、国民年金のみとなり厚生年金は受け取ることができません。そのため、将来受給できる年金が第2被保険者と比べて少なくなります。

収入に制限がある

配偶者の扶養に入ったまま働く場合は、年間の収入に制限が生じてしまいます。もし所得税を自分では納めずに配偶者控除を受けるのなら、一年間の収入を103万円未満に抑える必要があります。

また、扶養の社会保険(健康保険)に加入したい場合は月10万8,333円未満、年130万円未満に収入を制限しなくてはならないのです。

まとめ

一括りに扶養といっても、社会保険(健康保険)と所得税では条件も違い、扶養できる親族の範囲なども異なります。所得税の扶養対象条件は満たしているものの、社会保険(健康保険)では条件を満たしていなかったりすることもあれば、その逆もあり得るのです。

被扶養者の扶養に入りながら収入を得ようとしている人は、所得税と社会保険(健康保険)の年収だけではなく月給なども注意して確認するようにしましょう。

よくある質問

扶養とは?扶養者・被扶養者との違いは?

扶養とは、自身の稼ぎで生計を立てられない家族や親族に対して、経済的な援助を行うことをいいます。扶養(援助)をしている方を「扶養者」と呼び、扶養(援助)を受ける方は「被扶養者」と呼びます。詳しくはこちらもご覧ください。違いや例を分かりやすく解説しています。

扶養に入っている親族が対象になる控除の種類は?

所得税の控除には配偶者が対象となる「配偶者控除」と「配偶者特別控除」、配偶者以外の親族が対象となる「扶養控除」があります。詳しくはこちらで、分かりやすく解説しています。

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