最終更新日:2021/10/12
監修 アトラス総合事務所

法人化(法人成り)とは、個人事業主として事業をしている人が会社を設立し、事業を引き継ぐことをいいます。
この記事では、個人事業主から法人化するメリットや検討するタイミング、法人化するために必要な手続きを詳しく解説します。
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個人事業主と法人の違いを詳しく知りたい方はこちら

個人事業主と法人の違いは?10項目で比較したそれぞれの特徴と事業開始時の選び方
自分で事業をはじめる場合、個人事業主になるか法人を設立するかを選択することになります。それぞれのメリットやデメリット・適性について、判断基準を簡潔に解説します。...
目次
個人事業主が法人化(法人成り)をするメリット
節税対策になる
法人化することによる主な節税メリットは以下の4つです。
役員報酬を損金にできる
法人は自身の給与(役員報酬)を経費として計上することができます。役員報酬は給与所得控除が適用されるので、控除額の分だけ全体の所得を減らすことができ、節税に繋がります。
役員報酬は税法上、給与所得として扱われ、受け取った個人に所得税がかかります。法人は役員報酬として計上することで法人としての課税所得がその分圧縮されます。仮に課税所得が0円となれば、法人税はかかりません。ほかにも住民税の法人税割は発生せず、均等割にかかる住民税のみで済ませることができます。

役員への退職金が損金として認められる
個人事業の場合でも、一定の要件を満たせば従業員に対する給料やボーナスを必要経費とすることはできますが、個人事業主に対する退職金は必要経費にできません。
法人であれば、原則として役員への退職金も損金計上が認められ、法人所得を減らす効果が得られます。
欠損金の繰越控除可能期間が長くなる
事業をしていると赤字になることもあります。個人事業主(青色申告の場合)は、この赤字を翌年以降に繰越して翌年以降に発生する事業所得と相殺することができますが、その繰越期限は翌年以降3年間とされています。
一方、法人の場合は、欠損金の繰越控除可能期間は10年間、事業年度によっては9年間認められます。大きな赤字が生じた場合には、繰越控除可能期間が短いと使いきれない可能性がありますので、期間が長いほうが節税効果は高いと言えます。
消費税の課税事業者になるタイミングを遅らせることができる
2年前の課税売上高、もしくは前年前半6カ月の課税売上高等が1,000万円を超えると課税事業者となり、消費税の納税義務を負うことになります。

しかし、個人事業者として消費税の課税事業者になるタイミングで法人化すると、1年間もしくは2年間は課税事業者になるタイミングを遅らせることができ、納税負担を減らせます。
個人と法人は別人格ですので、法人設立1期目は2年前や1年前の期間がなく納税判定対象期間の課税売上高はゼロ、設立2年目は前年がありますが、前年前半6カ月の課税売上高等が1,000万円を超えなければ免税事業者となります。ただし、資本金1,000万円未満で法人設立した場合に限られる点に注意が必要です。

有限責任にできる
個人事業では、経営が悪化した際に仕入れ先への未払い金や金融機関などからの借入金、滞納している税金などは個人の負債として背負うことになります。
一方、法人化して株式会社や合同会社にした場合には、個人保証による借入を除くと出資金の範囲内での責任になります。
社会的信用度が上がる
一般的に個人事業主よりも法人の方が社会的信用度が高く、取引先を法人に限定している企業もあります。法人化することで取引先を確保しやすくなり、仕事の幅が広がります。
また、金融機関からの借入を行う際にも個人事業主では事業目的の融資は受けにくく、借入できても保証人を求められるケースが多いのが現実です。法人化することで信用力が上がり、金融機関からの融資など、資金調達がしやすいこともメリットに挙げられます。
さらに、人材採用の面でも法人化したほうが人を集めやすく、より優秀な人材を雇用できる可能性も高まります。
法人化(法人成り)をする前に知っておくべきこと
赤字でも税金の支払いがある
個人事業主であれば、赤字経営となってしまった場合には所得税や住民税の負担はありません。一方、法人に課される法人住民税は、赤字であっても均等割分は発生します。小規模法人の場合で7万円ほどが目安です。
社会保険への加入が必須
法人化をしたら従業員の人数に関係なく、健康保険や厚生年金の加入は原則必須です。費用はかかりますが、国民健康保険や国民年金よりも補償が手厚い点ではメリットといえます。
社長一人の場合でも役員報酬を支給する場合には、加入必須なので会社設立後は忘れずに手続きをしておきましょう。
会計や事務手続きなどが増える
個人事業主の場合、確定申告などの税務は税理士に委託している人もいますが、自身で税務申告や会計処理を行う人も少なくありません。
しかし、法人化すると会計処理や決算が複雑化するため、自分でやるのはかなり困難になりますし、税理士や公認会計士に委託すればコストが発生します。また社会保険などの手続きなど事務処理も煩雑になり、事務スタッフが必要になるケースもあります。
交際費が全額損金にできない場合がある
個人事業主の場合、事業に関連性があれば交際費は全額損金にできます。一方、法人の場合は交際費のうち、飲食代に限って50%の費用を損金に算入することができます。 また、資本金1億円以下の企業は年間800万円までは全額損金に算入が可能です。
個人事業主で多額の交際費を使っている人や、個人事業主からの法人化で資本金が1億円を超える場合は損金に算入できる交際費が減ってしまいますので、注意しましょう。
参考:国税庁「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」
法人化(法人成り)に適したタイミングとは
法人化に適したタイミングを考えるポイントは利益額と売上高です。
ポイント1. 利益額
個人事業主と法人では利益額に対する税金の種類が変わってきます。
個人事業主 | 法人 | |
利益にかかる 税金の種類 |
所得税 | 法人税 |
制度 | 累進課税率 | 比例税率 |
税率 | 5%〜45% | 所得800万円以下:15% (適用除外事業者は19%) 800万円超:23.20% ※資本金1億円以下の普通法人の場合 |
表のとおり、個人事業主にかかる所得税は累進税率が適用されており、所得が増えれば増えるほど税率も高くなります。対して法人の税率は固定されています。
たとえば、所得800万円の場合、個人事業主にかかる税率は23%、法人税にかかる税率は15%となり、控除分を差し引いても個人の納税金額のほうが高くなります。
一般的には、個人事業の利益が800万円を超えたあたりで法人化するとよいといわれています。ただし、所得控除や事業以外の所得の有無、法人化した際の報酬額などによって条件は大きく変わる可能性があるので、概ね事業所得700万円を超えたら一度税額シミュレーションをすることをおすすめします。
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ポイント2. 売上高
売上高は、消費税の納税義務者になるかどうかに影響を与えます。適切なタイミングで法人化することで、消費税を納め始める時期を2年先送りできる可能性があります。
個人事業主の2年前の消費税課税売上高が1,000万円を超える場合、または2年前の課税売上高が1,000万円以下であっても、前年の前半6カ月の課税売上高等が1,000万円を超える場合は消費税の課税事業者となり、消費税を納める義務が生じます。

個人事業主として消費税の納税義務者に該当することになった場合、そのタイミングに合わせて法人化することによって、消費税の納税義務は免除されます。
新設法人は個人事業主とは別人格ですので、法人の設立年は納税義務の判定に必要となる2年前の売上高がないことになります。また、翌年度についても2年前の売上高はなく、初年度の開始半年間の売上高等が1,000万円以下であれば免税事業者となります。
そのため、新規に法人を設立した場合は、設立後2年間は消費税の納税義務が免除される可能性が高く、個人事業を継続した場合と比較すると税負担が減るメリットを得られます。

上記が適用されるのは、資本金1,000万円未満で法人化をした場合です。資本金が1,000万円以上で法人化をすると設立事業年度から課税事業者になります。
季節に連動してピークがくる業種の場合
季節に連動した形で売上のピークが訪れるような業種の場合は、その売上のピークを法人として迎えるようにすることで法人化による節税効果などを最大化できるでしょう。
しかし、売上が増える季節にちょうど法人化のタイミングが重なってしまうと、法人化の手続きなどに追われてしまい売上を伸ばすチャンスを失いかねません。できれば、法人化を完了してから売上ピークの季節を迎えるように準備することをおすすめします。
たとえば、不動産仲介業であれば、年度末の引越しシーズン前の年明けごろには法人化の手続きを終えるというイメージです。また、法人としての許認可を新たに得る必要があったり、法人設立を機に新たな店舗や事務所を借りたりする場合は、そのために必要なリードタイムも考慮して法人化の準備を始める時期を逆算する必要があるでしょう。
個人事業主から法人化(法人成り)するために必要な手続き
会社設立
まず、法人化するためには法人を設立する必要があります。会社形態によって多少異なりますが、法人設立には以下の手続きが必要です。
- 定款の作成・認証
- 資本金の払込
- 登記申請
事前に会社印の購入や社名などの基本情報も決めておく必要があります。また、会社を設立後は税務署や都道府県、労働基準監督署などへの届出書や申請書の提出や社会保険の加入手続きもしなくてはなりません。
会社設立の方法や設立後の手続きについて詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
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資産の移行手続き
法人設立が終了したら、事業内容だけでなく資産などについても個人から法人に移行する必要があります。一般的には、事業に関わるすべての資産などを設立した法人に移すことになります。
移行する方法は以下の3つです。
- 売買契約
- 現物出資
- 賃貸契約
1. 売買契約
個人事業主と法人間で資産などを特定して売買を行います。手続きがわかりやすいというメリットがありますが、資金移動が発生する点に注意が必要です。
2. 現物出資
個人事業主から金銭以外の資産を現物で出資し資本金を増加させる方法です。現物出資額が500万円以上になると弁護士や公認会計士が検査役として価額内容について調査を行う必要があります。
時間や手間がかかるので、移行する合計額が500万円以上の場合は他の方法で移行した方が良いでしょう。
3. 賃貸借契約
資産を個人事業主の所有にしたまま法人に賃貸する方法です。個人事業主と法人で賃貸借契約を結ぶことになります。賃貸の場合は法人から賃借料を受け取ることになるので、毎年確定申告をしなければいけません。
それぞれの方法は手続きの複雑さや資産の種類による税法上の取り扱いなどに違いがあります。また、借入金などの負債の移行については債権者との調整が必要になるケースもあります。税理士などの専門家に相談しながら最適な方法で移行することをおすすめします。
債務の移行手続き
個人事業から法人化した場合は、設立した会社に対して資産だけでなく債務も引き継ぐのが一般的です。
設立した会社が債務を引き受けする方法には以下の2種類あります。
- 重畳的債務引受
- 免責的債務引受
重畳的債務引受
この方法は、設立した会社が個人事業主とともに債務引受します。根抵当権が設定されている場合は債務者に会社が加わることになります。
免責的債務引受
免責的債務引受方法は、会社が単独で債務を引受する形になります。個人事業主は連帯保証人になるのが一般的です。根抵当権に関しては債務者を個人から会社に切り替えることになります。
他にも個人事業主として借りていた借入金などの負債を返済し、新会社で新たに融資を受ける方法もあります。この場合、法人で新たに融資審査を受けることになります。
個人事業の廃業手続き
会社を設立したら税務署や都道府県税事務所、市区町村窓口に法人設立届出書を提出します。個人事業主から法人化をした場合はそれと併せて個人事業の廃業届出書を提出する必要があります。
また、青色申告をしていた個人事業主は青色申告の取りやめ届出書を、従業員を雇っていた個人事業主は給与支払事務所等の廃止届出書の提出も必要です。
都道府県や市町村に対する廃業に関する申告書の提出期限は自治体によって違いますので事前に確認しておきましょう。
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