監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP
個人事業主が、節税対策として検討する選択肢のひとつに「法人化(法人成り)」があります。
法人化には、税負担の軽減や経費計上の幅が広がるといったメリットがある一方で、設立費用や社会保険の加入義務などの負担も生じます。
年収(課税売上高)や事業所得の水準によっては、法人化によって必ずしも節税効果が得られるとは限らないため、個々の状況を踏まえて判断しなくてはなりません。
本記事では、個人事業主が法人化すべきタイミングや年収の目安、節税以外の法人化のメリット・注意点などを、具体的な金額を例に挙げたシミュレーションも交えて解説します。
※「個人事業主の年収」は一般的に「所得(売上−経費)」を指す場合もありますが、本記事では、売上高を示す意味で「年収(課税売上高)」と表記しています。
目次
- 個人事業主が法人化(法人成り)するタイミングは?
- 法人化を検討するタイミング①年収(課税売上高)1,000万円
- 法人化を検討するタイミング②事業所得800万円
- 法人化に最適な時期はいつ?
- 法人化に適した月
- 法人化に不向きな月
- 法人化のタイミングと決算月の関係
- 法人化による節税効果シミュレーション
- 個人事業主の場合に負担すべき税金
- 個人事業主が負担する税額の合計
- 法人化した場合に負担すべき税金
- 法人が負担する税額の合計
- 法人化した場合に役員報酬を損金算入するための条件
- 節税以外で法人化するメリット
- 社会的信用度の向上
- 経費で計上できる項目の増加
- 責任範囲の限定
- 法人化するときの注意点
- 設立時に費用がかかる
- 会社の種類に応じた意思決定手続きが必要になる
- 会計・税務処理が複雑になる
- 赤字でも法人住民税が課税される
- 社会保険への加入義務が生じる
- まとめ
- 自分でかんたん・あんしんに会社設立する方法
- よくある質問
個人事業主が法人化(法人成り)するタイミングは?
個人事業主が法人化を検討するタイミングは主に2つあります。
ひとつは、売上・利益の増加により年収が一定水準を超えた場合です。所得が増えるほど個人の所得税の累進課税の影響が大きくなり、法人税のほうが税負担を抑えられるケースが出てきます。
もうひとつは、事業所得が継続的に一定額を上回る状況になった場合です。継続的に利益が見込める状況であれば、社会保険への加入によるメリットや資金調達のしやすさ、信用力向上などの法人化の恩恵が得られます。
この2つのタイミングでの年収・所得目安は以下のとおりです。
法人化を検討するタイミング
- 法人化を検討するタイミング①年収(課税売上高)1,000万円
- 法人化を検討するタイミング②事業所得800万円
法人化を検討するタイミング①年収(課税売上高)1,000万円
個人事業主の年収(課税売上高)が1,000万円を超えたら、法人化を検討するタイミングです。このタイミングで法人化することで、消費税の免税措置を活用した節税が可能になります。
課税売上高が1,000万円を超えた個人事業主は、翌々年には自動的に消費税の課税事業者となり、消費税の負担が発生します。
法人化すれば、消費税の基準期間がリセットされるため、納税義務が発生するタイミングを「法人化してから翌々年」にすることが可能です。ただし、これは消費税の納付が2年間免除されるに過ぎず、節税効果は一時的なものです。
出典:国税庁「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」
法人化前の売上高によっては、法人化後の課税売上高が1,000万円を下回り、結果として課税事業者にならず、消費税の節税メリットが得られないケースもあります。
また、2023年10月1日から始まったインボイス制度により、消費税の申告義務の判定方法や申告方法が変更されました。
たとえば、法人化時にインボイス発行事業者として登録すると、登録時点から課税事業者となるため、「法人化してから翌々年」という免税措置は適用されません。
免税措置を目的として法人化を検討する際は、インボイス制度の影響を理解しておきましょう。
消費税の免税については、別記事「法人化(法人成り)とは?メリットやデメリット、最適なタイミングについて徹底解説」でも詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
法人化を検討するタイミング②事業所得800万円
事業所得(利益)が800万円を超えたときも法人化を検討すべきタイミングです。
事業所得が800万円を超えると、個人よりも法人のほうが所得税・住民税などの税負担が軽くなる可能性が高いためです。
個人事業主の利益は全て個人所得として扱われ、所得税が課税されます。所得税率は5〜45%まで7段階に分かれており、所得が増えるごとに税率も上がる仕組みです。
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」
住民税は、所得が増えるとその分だけ税負担が増加します。
住民税には、所得に応じて負担額が変動する「所得割」と、所得額に関係なく一定額を支払う「均等割」があります。所得割の税率は一律で10%で、道府県民税4%、市町村民税6%で構成されています(政令指定都市の場合は、道府県民税2%、市民税8%)。
出典:総務省「個人住民税」
さらに、多くの一般的な事業では5%の個人事業税が掛かります。
つまり、個人事業主の利益にかかる税率は、最大で60%(所得税の最大税率45%+住民税所得割の税率10%+個人事業税の税率5%)です。
一方、資本金1億円以下の普通法人(中小企業)で、利益が年800万円を超える場合、法人税率は最大で23.20%、法人住民税や法人事業税をあわせても約35%です。利益にかかる税金のみを比較すると、法人化したほうが税負担は軽くなります。
ただし、手元に残る金額は、所得控除の内容や事業以外の所得の有無、法人化後の役員報酬の額などによって大きく変動します。シミュレーションを行う際は、利益に影響する要素を正確に洗い出しましょう。
法人化に最適な時期はいつ?
法人化のタイミングは、節税効果・事務負担・事業の繁忙期などから総合的に判断する必要があります。
以下では、法人化するのに適した月や不向きな月を解説します。
法人化に適した月
法人化に最適な時期は、事業の繁忙期を避けた閑散期の月初です。
法人設立後は、銀行口座開設・社会保険加入・会計処理の切り替えなど、多くの手続きが発生します。業務が落ち着く時期であれば、これらの事務作業に十分な時間を確保でき、運営開始後のトラブルも未然に防ぎやすくなります。
また、決算月も同様に閑散期の月末に設定することで、棚卸や売上計上などの決算処理の負担を軽減でき、会計業務をスムーズに進めることが可能です。
たとえば、サービス業では繁忙期となりやすい年末年始や大型連休を避けた6月頃が適しています。小売・物販業の場合は、年末商戦後の1月や夏の繁忙期明けとなる9月頃が適しています。
業種や事業によって最適な月は異なるため、事業サイクルと手続き負荷のバランスを見極め、余裕をもって準備できる時期を選びましょう。
法人化に不向きな月
法人化に不向きな時期は、事業の繁忙期が重なるタイミングです。
多くの手続きや名義変更が必要となる法人化の準備と日常業務が重なると、事務負荷が増え、営業機会を損なう恐れがあります。
さらに、法人名義への変更手続きが集中すると、取引先との請求書や支払い処理で混乱が生じ、信用面に影響する可能性があります。
個人事業主が法人化を検討する場合は、1〜3月の法人化は適していません。個人の確定申告準備と法人設立作業が同時進行となり、負担が大幅に増える可能性があるためです。
ただし、1〜3月が閑散期にあたる業種では、事前に十分な準備を行うことで円滑な法人成りが可能となるでしょう。
事業の繁忙サイクルと税務申告期限を踏まえ、手続きに集中しやすい時期を選定すれば、移行後の事務処理もスムーズに進みます。
法人化のタイミングと決算月の関係
法人化のタイミングと決算月は混同されがちですが、両者はまったく異なる概念です。
法人化のタイミングとは、会社を設立し登記する日をいつに定めるかの判断を指します。
一方、決算月とは、事業年度の終了月です。法人設立時に自由に設定でき、法律上は設立日から最長12ヶ月以内であれば、任意の月を決算月に設定できます。
たとえば、5月に法人を設立し、決算月を翌年1月にすることも可能です。
つまり、法人化の時期は事業開始の都合や手続きのしやすさを考慮して決定し、決算月は繁忙サイクルや税務申告期限を踏まえて適切に設定しましょう。
法人化による節税効果シミュレーション
以下では、法人化によってどれだけの節税効果を得られるか、具体的なシミュレーションを紹介します。
法人化を検討する目安である「年収(課税売上高)が1,000万円、利益(事業所得)が800万円」のケースをもとに、個人事業主と法人のパターンに分けて、それぞれの税金を計算します。
なお、計算の前提条件は以下のとおりです。
- 個人事業税の税率は5%(第1種事業の法定税率)を適用
- 個人事業主として青色申告特別控除65万円の適用条件を満たす
個人事業主の場合に負担すべき税金
個人事業主の場合にかかる税金は、以下のとおりです。
個人事業主が負担する税金
- 所得税
- 復興特別所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 消費税および地方消費税
所得税
個人事業主の所得税は、以下の計算式で求めます。
個人事業主の場合にかかる所得税の計算式
(事業所得 - 青色申告特別控除 - 基礎控除) × 所得税率 - 控除額
上記の式に、前提条件と「年収(課税売上高)が1,000万円、利益(青色申告特別控除前の事業所得)が800万円」のケースの数値を当てはめると、以下のとおりです。
売上1,000万円、利益が800万円の時の計算
(8,000,000円 - 650,000円 - 580,000円)× 20% - 427,500円 = 926,500円
復興特別所得税
復興特別所得税は「基準所得税額 × 2.1%」の計算式で求めます。基準所得税額とは所得税額から配当控除やローン控除などを差し引いた金額です。
前提条件に所得税額からの控除が設定されていないため、「所得税額×2.1%」で計算します。
売上1,000万円、利益が800万円の時の計算
926,500円 × 2.1% = 19,456円
住民税
住民税には、所得に応じて金額が変動する「所得割」と、所得額に関係なく一定額を支払う「均等割」があります。
所得割を求める計算式は、以下のとおりです。
個人事業主の場合にかかる住民税所得割の計算式
所得割 =( 前年中の所得金額 - 所得控除 )× 税率 - 税額控除
所得割の税率は一律で10%(道府県民税4%、市町村民税6% ※政令指定都市の場合道府県民税2%、市民税8%)です。
また、均等割は自治体によって金額が異なることがあります。2024年以降は森林環境税等が上乗せされるケースもあるため、詳細は自治体への確認が必要です。
今回は、東京都の均等割5,000円(個人都民税の税額1,000円、個人区市町村民税の税額3,000円、森林環境税の税額1,000円の合計)を用います。
上記の内容に、前提条件と「年収(課税売上高)が1,000万円、利益(青色申告特別控除前の事業所得)が800万円」のケースの数字を当てはめると、以下のとおりです。
なお、前提条件に「所得控除」「税額控除」の設定がないため、所得控除のうち基礎控除のみ適用し、それ以外は0として計算します。
売上1,000万円、利益が800万円の時の計算
- 均等割:個人都民税1,000円 + 個人区市町村民税3,000円 + 森林環境税1,000円 = 5,000円
- 所得割:(8,000,000円 - 青色申告特別控除650,000円- 基礎控除430,000円)× 10% = 692,000円
- 合計:5,000円 + 692,000円 = 697,000円
出典:東京都主税局「個人住民税」
出典:一般社団法人神奈川青色申告会「【令和7年度税制改正】所得税・住民税の基礎控除の注意点」
個人事業税
個人事業税を求める計算式は、以下のとおりです。
個人事業主の場合にかかる個人事業税の計算式
個人事業税 =( 事業所得 - 事業主控除 )× 法定税率
上記の式に、前提条件と「年収(課税売上高)が1,000万円、利益(青色申告特別控除前の事業所得)が800万円」のケースの数値を当てはめると、以下のとおりです。
利益が800万円の時の計算
(8,000,000円 - 2,900,000円 )× 第1種事業の税率5% = 255,000円
出典:東京都主税局「個人事業税」
個人事業主が負担する税額の合計
ここまでに求めた4つの税金の金額を合計すると、以下のとおりです。
売上1,000万円、利益が800万円の時の税金の合計額
926,500円 + 19,456円 + 697,000円 + 255,000円 = 1,897,956円
なお、今回のケースは年収(課税売上高)が1,000万円であるため、翌々年から自動的に消費税の課税事業者となり、上記の税額に消費税が加算されます。
各税金の概要や計算方法などは、下記の記事でそれぞれ解説しています。詳しく知りたい方はご覧ください。
【関連記事】
法人にかかる税金の種類は?税率や計算方法を個人事業主と比較
消費税申告とは?計算方法や申告方法など詳しく解説
個人事業主の消費税はどう処理する?計算や申告方法と注意点を解説
法人化した場合に負担すべき税金
法人化した場合にかかる税金は、以下のとおりです。
法人が負担する税金
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
- 消費税および地方消費税
また、法人化すると経営者本人の給与(役員報酬)も経費として計上できます。一人会社を設立し、個人事業と並行して事業を行う場合は、法人と個人で所得を分散させることも可能です。
法人税
法人税を計算する際の前提条件は、下記と仮定します。
法人税を計算するうえでの前提条件
- 普通法人
- 資本金1億円以下
- 適用除外事業者以外
- 開始事業年度2022年4月1日以後
法人税は、以下の計算式で算出します。
法人の場合にかかる法人税の計算式
法人税 = 課税所得 × 税率 - 税額控除額
上記の計算式に、前提条件と「年収(課税売上高)が1,000万円、利益が800万円」のケースの数字を当てはめると、以下のとおりです。なお、前提条件に「税額控除」の設定がないため、その部分は0として計算します。
売上1,000万円、利益が800万円の時の計算
8,000,000円 ×15% = 1,200,000円
出典:国税庁「No.5759 法人税の税率」
さらに、法人税と似て非なるものとして地方法人税があります。地方法人税とは、法人税額に対して課される国税で、地方自治体の財源に充てられる仕組みです。以下の計算式で求めます。
法人の場合にかかる地方法人税の計算式
地方法人税 = 法人税額×10.3%(税率)
上記の計算式に「法人税額120万円」の数字を当てはめると、以下のとおりです。
売上1,000万円、利益が800万円の時の計算
1,200,000円 × 10.3% = 123,600円
つまり、「年収(課税売上高)が1,000万円、利益が800万円」の企業では、法人税120万円と地方法人税12万3,600円を合計して、132万3,600円の税額が発生します。
出典:東京都主税局「法人事業税・法人都民税」
出典:国税庁「3 地方法人税」
なお、法人化した場合でも、会社から役員個人に支払われる報酬(役員報酬)は、法人にとっては経費(損金)として扱われますが、受け取る役員個人には「給与所得」として課税されます。
この場合、役員個人の所得税および復興特別所得税は次の計算式で求めることが可能です。
役員報酬を経費として計上する場合の計算式
所得税 =(給与所得 - 給与所得控除)× 所得税率 - 控除額
復興特別所得税 = 所得税 × 2.1%
上記の計算式に、前提条件と「年収(課税売上高)が1,000万円、役員報酬が800万円」のケースの数字を当てはめると、以下のとおりです。
売上1,000万円、役員報酬が800万円の時の計算
(8,000,000円 - 1,900,000円)× 20% - 427,500円 = 792,500円
792,500円 × 2.1% = 16,642円
出典:国税庁「No.1410 給与所得控除」
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」
出典:国税庁「個人の方に係る復興特別所得税のあらまし」
また、個人にかかる住民税の計算方法について詳しく知りたい方は、別記事「住民税の計算方法とは?税率や計算シミュレーションを紹介」をあわせてご覧ください。
法人住民税
法人住民税は、法人の所得に応じて金額が変動する「法人税割」と、所得額に関係なく一定額を支払う「均等割」で構成されています。
法人税割の税率は原則として一律7%(道府県民税1%、市町村民税6%)ですが、自治体によっては一定の条件を満たす法人に対して超過税率が適用されることがあります。
また、均等割の税額は、資本金等の額と従業員数によって区分される仕組みです。
上記の内容に、前提条件と「年収(課税売上高)が1,000万円、利益が800万円」のケースを当てはめると、以下のとおりです。
売上1,000万円、利益が800万円の時の計算
- 法人住民税の法人税割額(資本金等1,000万円以下、従業員数50人以下):1,200,000円 × 7% = 84,000円
- 法人住民税の均等割額(資本金等1,000万円以下、従業員数50人以下):20,000円 + 50,000円 = 70,000円
- 合計:84,000円 + 70,000円 = 154,000円
出典:東京都主税局「法人事業税・法人都民税」
出典:総務省「法人住民税」
法人事業税
法人事業税は、以下の計算式で求めます。
法人の場合にかかる法人事業税の計算式
法人事業税 = 課税標準額(所得等)× 税率
また、税率は以下のとおりです。
法人事業税の税率
- 400万円以下の部分:3.5%
- 400万円超800万円以下の部分:5.3%
- 800万円超の部分:7%
上記の内容に、前提条件と「年収(課税売上高)が1,000万円、利益が800万円」のケースの数字を当てはめると、以下のように算出されます。
利益が800万円の時の計算
- 400万円以下の部分:4,000,000円 × 3.5% = 140,000円
- 400万円超800万円以下の部分:4,000,000円 × 5.3% = 212,000円
- 合計:140,000円 + 212,000円 = 352,000円
出典:東京都主税局「法人事業税・法人都民税」
特別法人事業税
特別法人事業税は、以下の計算式で求めます。
法人の場合にかかる特別法人事業税の計算式
特別法人事業税 = 法人事業税額 × 税率
上記の計算式に数字を当てはめると、以下のとおりです。
売上1,000万円、利益が800万円の時の計算
352,000円 × 37% = 130,240円
出典:東京都主税局「特別法人事業税の創設について」
消費税および地方消費税
法人化した場合、原則として設立後2年間は消費税の納税義務が免除されます。
ただし、事業年度開始時点の資本金が1,000万円以上の場合は、設立初年度から消費税の課税事業者となり、免税措置は適用されません。
また、1期目の最初の6ヶ月間で、売上と給与支払額(役員報酬含む)のいずれかが1,000万円を超えた場合も、2期目から課税事業者となります。
さらに、法人設立時にインボイス発行事業者として登録した場合は、免税事業者とみなされず、初年度から消費税の申告・納付が必要です。
法人化に伴う消費税への対応を検討する際は、自社の資本金や売上見込み、取引先のインボイス要件を総合的に考慮する必要があります。
出典:e-Gov法令検索「消費税法(昭和六十三年法律第百八号)第九条の二」
なお、法人化した場合の消費税の扱いは別記事「法人成りをした場合の消費税の扱いとは?」で解説しています。詳しく知りたい方はご覧ください。
法人が負担する税額の合計
ここまでに算出した4つの税金(消費税および地方消費税は除く)の金額を合計すると、法人化した場合に負担する税額は、以下のとおりです。
売上1,000万円、利益が800万円の時の税金の合計額
(1,200,000円 + 123,600円 )+ 154,000円 + 352,000円 + 130,240円 = 1,959,840円
なお、利益800万円を全て役員報酬として支払う場合の税額は、以下のとおりです。
792,500円 + 70,000円 = 862,500円
上記のケースでは、個人事業主の場合の税金負担額は約190万円であり、法人化のほうが節税効果が期待できるといえます。
ただし、上記の役員報酬に関する税額には、個人にかかる住民税などが含まれておらず、別途社会保険料が発生する点を把握しておきましょう。
法人化した際にかかる税金の種類や税率などは、別記事「法人にかかる税金の種類は?税率や計算方法を個人事業主と比較」でまとめています。詳しく確認したい方はご覧ください。
法人化した場合に役員報酬を損金算入するための条件
法人の役員報酬は、自由に金額を変更することはできません。株式会社の場合は株主総会の決議を経て決定する必要があります。
役員報酬は、従業員に支払う給与とは異なり、自動的に損金として認められるわけではありません。損金算入が認められるには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
| 定期同額給与 | 毎月、定期的に同額が支払われる役員給与 |
|---|---|
| 事前確定届出給与 | あらかじめ支払時期と金額を定め、税務署へ事前に届け出を行ったうえで支払う役員給与 |
また、利益に応じて支払われる業績連動給与という制度もありますが、オーナー経営者には適用されません。
これらは、役員報酬を節税目的で恣意的に調整することを防ぐために設けられています。要件を満たさず損金算入が認められない場合、役員報酬は経費として扱えず、その分だけ課税所得が増えるため、法人税等の税負担が増えるおそれがあります。
また、設立直後の法人では年間の利益を正確に見通すことは難しく、適切な役員報酬額を設定することは困難です。
役員報酬を設定したうえで法人の利益が出れば法人税が課税され、赤字であっても役員報酬に対する所得税や社会保険の負担は生じます。
損金算入のための条件を満たしていたとしても、報酬設定にはリスクが伴うことを理解しておきましょう。
出典:国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
節税以外で法人化するメリット
法人化で注目されるのは主に節税効果ですが、ほかにもさまざまなメリットがあります。
社会的信用度の向上
法人化のメリットのひとつとして、個人事業主よりも社会的信用度が高いことが挙げられます。
法人化するためには、商号(社名)・所在地・資本金などの情報を法務局に提出して商業登記しなければなりません。
登記した内容は誰でも確認できるため、事業継続の意思や責任を公に示すことができ、結果として社会的信用度が向上します。/
企業や金融機関によっては、個人事業主との取引を避けるケースもあります。そうした企業に対しては、法人化によって社会的信用度を高めることが有効です。
経費で計上できる項目の増加
法人化には、経費として計上できる項目が増えるというメリットがあります。
個人事業主の経費項目は法人と共通しており、どちらも事業にかかった費用を経費として計上することが可能です。
ただし、法人の場合は、個人事業主よりも経費として認められる項目の幅が広がります。
具体的には、以下のような費用を経費として計上できる可能性があります。
法人が経費計上できる項目
- 経営者本人の給与・賞与・退職金
- 生命保険料(法人が契約者の場合)
- 福利厚生にかかる費用
- 健康診断にかかる費用
- 出張時の日当
- 住宅費(社宅制度を利用した場合)
経費項目以外の個人事業主と法人の違いは、別記事「個人事業主と法人の違いは?13項目で比較した特徴とメリット・デメリットや法人化を選択するポイント」で解説しています。詳しく知りたい方はご覧ください。
責任範囲の限定
法人化することで、個人事業主よりも責任の範囲が限定される点もメリットといえます。
個人事業主は、事業に伴う仕入先への未払金・滞納した税金・金融機関からの借入金の返済などが発生した場合、全て「自己責任」です。
しかし、法人の場合は、会社形態によって「有限責任」となるため、経営者は出資額の範囲でのみ責任を負います。出資額を超える支払い義務は発生しないため、経営者の個人資産は法的に保護されます。
ただし、経営者が連帯保証人となるなど、個人保証を伴って借入をした場合には、その返済について個人資産での履行責任を負わなければなりません。
法人化するときの注意点
法人化にはいくつかのメリットがありますが、一方で注意すべき点もあります。
設立時に費用がかかる
法人化には費用がかかります。株式会社を設立する場合は、登録免許税や定款に関する手数料など、最低でも25万円前後の費用がかかります。
内訳の目安は、以下のとおりです。
法人設立の際にかかる費用
- 収入印紙代:4万円
- 定款認証手数料:5万円
- 定款の謄本交付手数料:約2,000円(1ページにつき250円)
- 登録免許税:15万円~(もしくは資本金の0.7%の金額)
このうち、収入印紙代は紙で定款を作成する場合のみ必要となるため、電子定款を利用すれば不要となり、費用の削減が可能です。
また、定款の謄本交付手数料は1ページにつき250円で、定款は一般的に8ページ程度であるため、合計で約2,000円がかかります。
登録免許税は資本金の0.7%ですが、その金額が15万円を下回る場合は一律15万円です。
株式会社を設立する際の費用は、会社の形態によって異なります。詳しくは別記事「約6万円から設立可能!?会社設立に必要な費用とは?株式会社・合同会社別に解説」をご覧ください。
会社の種類に応じた意思決定手続きが必要になる
法人を設立すると、個人事業主のように自由に意思決定することはできません。法人の重要事項は、会社の種類に応じた決議手続き(株式会社なら株主総会、合同会社なら社員の同意など)を経て決定する必要があります。
設立メンバーが自分一人だけの場合でも、原則として決議の記録(株主総会議事録や社員決定書など)を作成・保管する必要があります。
会計・税務処理が複雑になる
法人の経理作業は、一人会社であっても多くの場合、個人事業主より複雑になります。そのため、経理担当者を雇うか、税理士に依頼する必要が生じる場合があります。
会計ソフトの導入や税理士への相談など、会社の状況に応じた方法を選択してください。
一人会社での法人決算は、別記事「法人決算は自分でできる?税理士なしでの流れや必要書類について解説」で解説しています。法人決算を自分だけで済ませたい方は、ぜひご覧ください。
赤字でも法人住民税が課税される
法人住民税の均等割額は、法人が赤字であっても、あるいは事業を停止していても課税されます。
ただし、以下の要件などに該当する場合は、法人住民税の均等割が免除される可能性があります。
法人住民税の均等割が免除されることがあるケース
- 非営利法人として活動しているなど、収益事業を営んでいない場合
- 法人としての活動を休止している場合
地方公共団体によっては、上記要件に加えて独自の要件を設定していることがあります。免除申請前に確認しておきましょう。
法人にかかる法人住民税について詳しく知りたい方は、別記事「法人住民税とは?均等割や計算方法についてわかりやすく解説」をご覧ください。
社会保険への加入義務が生じる
個人事業主の場合、「国民健康保険」と「国民年金」の負担があります。一方、会社を設立して社長となると、一人会社であっても社会保険料(健康保険と厚生年金保険)の負担が生じます。
将来の厚生年金の受給額にもつながるため有利な面もありますが、報酬額によっては、負担が個人事業主のときより増える可能性があります。
法人化した際の社会保険に関しては以下の記事が参考になるため、詳しく知りたい方はご覧ください。
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まとめ
個人事業主が法人化(法人成り)を検討すべきタイミングは、年収(課税売上高)1,000万円または事業所得800万円を超えたときが目安です。
法人化には、節税だけでなく社会的信用度の向上や経費計上の幅の拡大といったメリットがありますが、設立費用や事務負担、社会保険料の増加などの注意点も伴います。
法人税や住民税のほか、赤字でも課税される均等割など負担面も理解した上で、自身の事業状況に応じて総合的に判断することが重要です。
本記事で紹介したシミュレーションも参考にして、事業を法人化すべきかどうかを判断してください。
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よくある質問
法人化の目安となる年収(課税売上高)や事業所得は?
法人化を検討する目安となる年収(課税売上高)は1,000万円です。また、事業所得(利益)が800万円を超えた場合もひとつの目安となります。
詳しくは記事内「法人化を検討するタイミング①年収(課税売上高)1,000万円」「法人化を検討するタイミング②事業所得800万円」をご覧ください。
個人事業主(フリーランス)が法人化を行うのに適したタイミングは?
個人事業主が法人化手続きを行うのに適したタイミングは、事業の閑散期の月初です。
詳しくは記事内「法人化に最適な時期はいつ?」をご覧ください。
節税以外で法人化するメリットは?
法人化には節税のほか、社会的信用度の向上や経費として計上できる項目の増加、責任範囲の限定などのメリットもあります。
詳しくは記事内「節税以外で法人化するメリット」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。
