監修 内山 貴博 1級FP技能士・CFP

年収の壁とは、その数値を超えると税金や社会保険料が変わる年収額です。103万円・106万円・130万円など、さまざまな年収の壁があり、それらを超えると税金や社会保険料がかかって手取りが減る場合があります。
年収の壁を超えそうな人は、超えても問題ないか、事前に税金や社会保険料がどれくらい変わるのかを確認してください。
また、パートやアルバイトなどを雇用している企業で人事・労務・経理などに携わっている人も、年収の壁を理解しておきましょう。従業員が意識している金額がわかれば、勤怠管理やシフト調整を実施する際に役立ちます。
本記事では、年収の壁の金額を一覧で紹介します。それぞれの年収の壁の意味や政府が行っている対策、令和7年度税制改正大綱の内容もわかりやすく解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
年収の壁とは? 一覧表で金額を紹介
年収の壁とは、税金や社会保険料がかからないように、年収を抑えようと働き控えを検討する金額のボーダーラインです。
年収が一定の金額を超えると、税金や社会保険料がかかり始めるため給与から天引きされる金額が増え、手取りが減ります。
年収の壁には、税制上の壁と社会保険上の壁の2種類があります。税制上の年収の壁は以下の4つです。
税制上の年収の壁
- 100万円
- 103万円
- 150万円
- 201万円
社会保険上の年収の壁は以下の2つです。
社会保険上の年収の壁
- 106万円
- 130万円
それぞれの年収の壁に関して、税金や社会保険料がかかるかどうか下表にまとめました。
年収 | 住民税 | 所得税 | 社会保険料 | 配偶者控除 | 配偶者特別控除 |
---|---|---|---|---|---|
100万円以下 | かからない | 対象 | - | ||
100万円~ | かかる | かからない | |||
103万円~ | かかる場合あり(※2026年分以降は、控除額引き上げにより123万円以下は原則かからなくなります。) | かからない | - | 対象 | |
106万円~ | かかる場合あり | ||||
130万円~ | かかる | ||||
150万円~ | |||||
201万円~ | - |
100万円以下では、原則として税金と社会保険料のどちらもかかりません。しかし、100万円を超えると住民税がかかり始め、年収が上がるにつれて所得税や社会保険料の負担が発生する可能性があります。
なお、2025年3月に所得税法等の改正法が成立し、所得税に関する控除額が引き上げられることになりました。具体的には、基礎控除と給与所得控除がそれぞれ10万円ずつ引き上げられ、合計20万円の控除増となります。これにより、2026年分の所得税からは、年収123万円以下であれば原則として所得税がかからなくなります。
出典:財務省「「所得税法等の一部を改正する法律案」について」
各年収の壁の具体的な内容は、以降で詳しく解説します。
【関連記事】
社会保険の扶養から外れるとどうなる?事業主・従業員が必要になる手続きを解説
100万円の壁
パートやアルバイトをして給与収入がある人は、一般的に年収が100万円を超えると住民税と森林環境税がかかります。
年収が100万円以下で住民税・森林環境税がかからない場合は、収入が増えればその分だけ手取りが増えます。
一方で、年収が100万円を超えて住民税・森林環境税がかかる場合は、手取り額は収入から住民税・森林環境税を引いた金額です。以下のケースで、具体的に解説します。
例:品川区在住・給与収入101万円(収入は給与収入のみ、控除は給与所得控除のみ)の場合
【所得割】
給与収入 1,010,000円 - 給与所得控除 550,000円 = 給与所得 460,000円
給与所得 460,000 円 - 住民税基礎控除 430,000円 = 課税所得 30,000円
課税所得 30,000円 × 住民税率 10% = 3,000円
※そのほかの所得控除は考慮していません。
【均等割】
特別区民税 3,000円 + 都民税 1,000円 = 4,000円
【森林環境税】
1,000円
【住民税・森林環境税の合計額】
所得割 3,000円 + 均等割 + 森林環境税 1,000円 = 8,000円
【手取り】
1,010,000円 - 8,000円 = 1,002,000円
年収100万円の場合は住民税が非課税ですが、年収が1万円増え101万円となった場合、住民税・森林環境税8,000円の課税対象となります。この場合、手取りは100万2,000円となり、増える手取りは2,000円のみです。
税金がかかると手取りが増えません。そのため、年収100万円前後の場合は、住民税がかからないように年収を100万円以下に抑えようと意識する人もいます。
なお、自治体によっては、住民税がかかり始める年収の基準額が100万円とは異なる場合があります。住民税を意識して働く場合は、住民税がかかり始める年収の基準額がいくらなのか自治体の公式サイトなどで確認しましょう。
103万円の壁
パートやアルバイトで給与収入がある人は、一般的に年収が103万円を超えると所得税がかかります。
給与所得者の場合、基礎控除48万円に加えて給与所得控除として最低55万円を引けるため、年収103万円までは所得税が0円です。
つまり、年収が110万円の場合、上述した住民税・森林環境税に加えて、103万円を超える7万円に対して所得税がかかります。
年収110万円であれば所得税率は5%なので、3,500円(7万円 × 5%)の所得税が発生し、この金額だけ手取りが減る計算です。厳密には、復興特別所得税もかかります。
( 年収 1,100,000円 – 1,030,000円 )× 所得税率 5% = 所得税 3,500円
課税される所得金額に対する税率は、以下の「所得税の速算表」で確認できます。
所得税率の速算表
課税対象の所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
各種控除(医療費控除など)の適用を受ける場合は、年収が103万円を超えても所得税がかからないことがあります。
なお、2025年3月に所得税法等の改正法が成立し、基礎控除と給与所得控除がそれぞれ10万円ずつ引き上げられることになりました。これにより、2026年分以降の所得税については、年収123万円以下であれば原則として所得税がかからなくなります。
ただし、現時点(2025年4月)では、まだこの改正は施行されていませんのでご注意ください。
出典:財務省「「所得税法等の一部を改正する法律案」について」
106万円の壁
106万円の壁とは、社会保険料がかからずに済む金額のボーダーラインのひとつです。厳密には月額賃金8万8,000円が基準ですが、一般的に年収106万円の壁と呼ばれます。
パートやアルバイトなどの短時間労働者は、以下の要件に該当する場合、社会保険の加入対象とされ社会保険料がかかります。
社会保険の加入条件(短時間労働者)
- 勤務先の従業員数が51名以上
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8万8,000円以上(年間約106万円)
- 2ヶ月を超える勤務の見込みがある
- 学生ではない
法改正により、2024年10月以降は、勤務先の従業員数の要件が101人以上から51人以上に変更されました。
以前は社会保険の加入条件を満たしていなかった人でも、2024年10月からは加入しなければならない場合もあります。
なお、所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書などで定められた勤務時間であり、実際の勤務時間ではありません。
月額8万8,000円以上かどうかは、通勤手当・交通費や残業代などを含めない金額で判定します。年収の壁のうち、同じく社会保険上の壁である130万円の壁では、通勤手当・交通費を含めて考えます。通勤交通費の取り扱いを混同しないようにしてください。
【関連記事】
106万の壁を超えたらどうなる?対象者や130万の壁との違いを解説
106万円の壁の撤廃
厚生労働省の社会保障審議会では、社会保険の適用対象をさらに拡大する議論が進められています。2024年12月10日の年金部会では、将来的に企業規模要件や「週20時間以上」といった労働時間要件を撤廃し、厚生年金・健康保険の適用対象者を増やしていく方向性が示されました。
仮にこれらの要件が撤廃されれば、働く時間や収入にかかわらず、より多くの人が社会保険に加入することになり、結果的に「106万円の壁」を意識する必要がなくなると考えられます。
ただし、具体的な制度改正の時期や内容はまだ決まっていません(2025年4月時点)。今後の政府の動きを引き続き注視していく必要があります。
出典:厚生労働省「被用者保険の適用拡大及び第3号被保険者制度を念頭に置いたいわゆる「年収の壁」への対応について②」
130万円の壁
130万円の壁とは、社会保険に関するボーダーラインのひとつで、家族の扶養に入れるかどうかの基準です。
年収が130万円以上の場合、一般的に家族の扶養から外れ、ご自身で社会保険に加入しなければいけないため、社会保険料がかかります。
平均的には月々の収入が10万8,333円までであれば、年収130万円未満に収まります。そのため、130万円の壁を意識して働く場合は、月収10万8,333円がひとつの目安です。
家族の扶養に入れる条件は、健康保険組合によって異なる場合があります。臨時的に1ヶ月だけ10万8,333円を超えただけであれば、扶養認定は取り消されないケースもあります。
家族の扶養に入る場合は、扶養認定の条件がどのように定められているのか、加入している健康保険組合の規程を正確に把握しましょう。
【関連記事】
個人事業主は扶養に入れる?扶養に入るメリットと要件を解説
150万円の壁
150万円の壁とは、税金に関するボーダーラインのひとつで、税金を計算する際の配偶者特別控除額が減り始める基準です。
ご自身の年収が150万円を超え、配偶者の税金を計算する際に配偶者特別控除額が減ると、家族(世帯)全体の税負担が増えます。
ご自身の年収が150万円以下で、かつ控除を受ける配偶者自身の合計所得金額が900万円以下の場合、配偶者の所得税から38万円、住民税から33万円の配偶者特別控除(満額)を適用できます。
配偶者特別控除額は、控除を受ける納税者本人の合計所得金額および配偶者の合計所得金額に応じて、下表のように変化します。
納税者本人の年間合計所得 | |||
---|---|---|---|
配偶者の年間合計所得 | 900万円以下 | 900万円超 950万円以下 | 950万円超 1,000万円以下 |
48万円超 95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超 100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 |
100万円超 105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 |
105万円超 110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 |
110万円超 115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 |
115万円超 120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 |
120万円超 125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 |
125万円超 130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 |
130万円超 133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
※年収150万円の場合、給与所得控除(55万円)を差し引くことで所得が95万円と算出されるため、配偶者特別控除の控除額は最大38万円です。
出典:国税庁「No.1195 配偶者特別控除」
150万円を超えた場合は、配偶者控除を受けられないわけではなく、控除可能な金額が減る仕組みです。控除額を最大71万円(所得税38万円・住民税33万円)にするためには、年収を150万円以下に抑えなければいけません。
なお、控除を受ける配偶者自身の合計所得金額が900万円を超えると配偶者特別控除の控除額が減り、1,000万円を超えると控除自体の適用を受けられません(ご自身の年収が103万円を超えていても、配偶者の所得が1,000万円を超えると配偶者控除も適用できません)。
配偶者控除に関して詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】
確定申告で配偶者控除を申請する方法!控除が受けられる所得なども解説
201万円の壁
201万円の壁とは、税金に関するボーダーラインのひとつで、配偶者特別控除が適用されなくなる基準です。
年収が約201万円(正確には201万6千円)を超えると、配偶者特別控除が適用されないため、控除を受ける配偶者(納税者本人)の税負担が増える可能性があります。
年収が150万円を超えると、それ以降は、年収が増えるほど配偶者の税金の計算で引ける配偶者特別控除額が減少していきます。そして、年収が201万6千円(合計所得金額133万円)に達すると、配偶者特別控除額がゼロとされる仕組みです。
詳細は、下表でご確認ください。詳細は、下表でご確認ください。
配偶者の合計所得金額 | 【参考】配偶者の収入が給与所得だけの場合の配偶者の給与などの収入金額 | 控除額 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
納税者本人の合計所得額 | |||||||
900万円以下 | 900万円超950万円以下 | 950万円超1,000万円以下 | 1,000万円超 | ||||
配偶者控除 | 48万円以下 | 配偶者が70歳未満 | 103万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 | 0円 |
配偶者が70歳以上 | 48万円 | 32万円 | 16万円 | 0円 | |||
配偶者特別控除 | 48万円超 95万円以下 | 103万円超 150万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 | 0円 | 0円 |
95万円超 100万円以下 | 150万円超 155万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | 0円 | 0円 | |
100万円超 105万円以下 | 155万円超 160万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | 0円 | 0円 | |
105万円超 110万円以下 | 160万円超 166万7,999円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | 0円 | 0円 | |
110万円超 115万円以下 | 166万7,999円超 175万1,999円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | 0円 | 0円 | |
115万円超 120万円以下 | 175万1,999円超 183万1,999円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | 0円 | 0円 | |
120万円超 125万円以下 | 183万1,999円超 190万3,999円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | 0円 | 0円 | |
125万円超 130万円以下 | 190万3,999円超 197万1,999円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | 0円 | 0円 | |
130万円超 133万円以下 | 197万1,999円超 201万5,999円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 | 0円 | 0円 | |
133万円超 | 201万5,999円超 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
配偶者特別控除の適用を受けるためには、年収を201万円以下に抑える必要があります。
制度見直しの取り組み「年収の壁・支援強化パッケージ」とは?
厚生労働省は、2023年9月27日に「年収の壁・支援強化パッケージ」を公表しました。これは、短時間労働者(パートやアルバイトなど)が年収の壁を意識せずに働ける環境づくりを支援するための施策です。
支援が強化される背景には、人手不足があります。年収の壁の引き上げにより就業時間を調整せずに働ける環境が整備されることは、人手不足解消に役立ちます。
「年収の壁・支援強化パッケージ」の当面の施策には、以下が挙げられます。
年収の壁・支援強化パッケージの対応
- 106万円の壁への対応
- 130万円の壁への対応
- 配偶者手当への対応
各対応の内容を、以下で詳しく解説します。
106万円の壁への対応
106万円の壁は、社会保険料がかかるかどうかのボーダーラインです。
年収が106万円以上の場合、厚生年金・健康保険に加入する必要があり、保険料がかかります。そのため、保険料負担が生じないように労働時間を調整して、年収を106万円(厳密には月収8.8万円)未満に抑えるケースが見られます。
「年収の壁・支援強化パッケージ」で挙げられている106万円の壁への対応は、以下の2つです。
106万円の壁への対応
- キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の新設
- 社会保険適用促進手当を支給した場合の標準報酬月額・標準賞与額の算定基礎への不算入
キャリアアップ助成金に新設された社会保険適用時処遇改善コースには、3種類のコースがあり、一定の要件を満たすと助成金を受け取れます。
社会保険適用時処遇改善コースのメニュー
- 手当等支給メニュー
- 労働時間延長メニュー
- 併用メニュー
それぞれの要件や助成額は、以下の通りです。
【手当等支給メニュー】
事業主が労働者の収入を「社会保険適用促進手当」などで増やし、社会保険を適用させる場合、助成を受けられます。下表に、要件・申請期間・助成額をまとめました。
要件 | 申請期間 | 1人あたりの助成額 | |
---|---|---|---|
1年目 | ①賃金(標準報酬月額・標準賞与額)の15%以上分を労働者に追加支給すること(社会保険適用促進手当 など) | 左欄の取組を6ヶ月間継続した後2ヶ月以内 | 6ヶ月ごとに10万円×2回 (大企業は7.5万円×2回) |
2年目 | 賃金の15%以上分を労働者に追加支給する(社会保険適用促進手当 など)とともに、3年目以降、以下③の取組が行われること | 6ヶ月ごとに10万円×2回 (大企業は7.5万円×2回) | |
3年目 | 賃金(基本給)の18%以上を増額させていること(労働時間の延長との組み合わせも可能) | 6ヶ月で10万円(大企業は7.5万円) |
【労働時間延長メニュー】
所定労働時間の延長によって社会保険を適用させる場合(または、適用時に所定労働時間を延長させる場合)に、事業主が助成を受けられます。
具体的には、下表のいずれかの取り組みを実施すると、中小企業では労働者1人あたり30万円、大企業の場合は22.5万円が支給されます。
週所定労働時間の延長 | + | 賃金の増額 | 申請の時期 | 1人あたり助成額 | |
① | 4時間以上 | - | 左欄の取組を6ヶ月間継続した後2ヶ月以内 | 6ヶ月で30万円 (大企業は22.5万円) | |
② | 3時間以上4時間未満 | 5%以上 | |||
③ | 2時間以上3時間未満 | 10%以上 | |||
④ | 1時間以上2時間未満 | 15%以上 |
【併用メニュー】
1年目に「手当等支給メニュー」の取り組みを行い、2年目に「労働時間延長メニュー」の取り組みを行った場合に助成を受けられます。下表に、要件・申請時期・助成額をまとめました。
要件 | 申請時期 | 1人あたりの助成額 | |||
---|---|---|---|---|---|
1年目 | 賃金(標準報酬月額・標準賞与額)の15%以上分を労働者に追加支給すること (社会保険適用促進手当 など) | 左欄の取組を6ヶ月間継続した後2ヶ月以内 | 6ヶ月ごとに 10万円 × 2回(大企業は7.5万円 × 2回) | ||
2年目 | 週所定労働時間の延長 | 賃金の増額 | 6ヶ月で30万円 (大企業は22.5万円) | ||
① | 4時間以上 | - | |||
② | 3時間以上4時間未満 | 5%以上 | |||
③ | 2時間以上3時間未満 | 10%以上 | |||
④ | 1時間以上2時間未満 | 15%以上 |
また、社会保険適用促進手当とは、労働者が社会保険に加入する際、事業主が労働者の社会保険料負担を軽減するために支給する手当です。
社会保険料分の手当を受け取れば、従業員は手取りが減りません。そのため、手取りが減ることを気にして(年収を106万円未満に抑えようとして)就業時間を調整せずに済みます。
各種手当には、受け取ると社会保険料が増加するものもあります。しかし、社会保険適用促進手当は、社会保険料の算定の基礎とされる標準報酬月額・標準賞与額には含めません。
なお、不算入とされる社会保険適用促進手当の上限額は、社会保険適用に伴って新たに発生した本人負担分の保険料相当額です。
【関連記事】
キャリアアップ助成金とは? 対象者や申請手順、注意点を最新動向とともに解説!
130万円の壁への対応
130万円の壁は、家族の扶養に入れるかどうかのボーダーラインです。130万円の壁への対応として、事業主の証明による被扶養者認定が従来に比べて円滑化されました。
年収が130万円以上になると、家族の扶養から外れ、ご自身で社会保険料を支払う必要があります。そのため、保険料負担が生じないように労働時間を調整し、年収を130万円未満に抑えるケースが見られます。
そこで、政府は、「年収の壁・支援強化パッケージ」の一環として、パート・アルバイトで働く方が、繁忙期などによる一時的な収入増加で年収130万円以上となった場合でも、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けられる仕組みを設けました(原則として連続2回まで)。
被扶養者認定(または被扶養者資格の再確認)の際には、過去の課税証明書・給与証明書・雇用契約書などに加えて、一時的な収入の変動である旨の事業主の証明も添付します。
この仕組みを活用すれば、一時的な収入増によってすぐに扶養から外れ社会保険料負担が発生することを避けられるため、繁忙期などに労働時間を調整する必要がありません。
配偶者手当への対応
配偶者手当は、民間企業において配偶者がいる従業員に支給される手当です。一般的に配偶者手当は、配偶者の収入が一定額以下の場合に支給されます。
支給対象とされるために労働時間を調整するケースが見られるため、「年収の壁・支援強化パッケージ」で対応すべき事項として挙げられています。
配偶者手当の支給基準額を年収の壁と意識することで就業調整している状況を改善するためには、配偶者手当の見直しが必要です。
厚生労働省では、賃金制度の円滑な見直しを行う際のフローチャートとして、以下の4ステップを公表しています。
配偶者手当見直し検討のフローチャート
- 賃金制度・人事制度の見直し検討に着手
- 従業員のニーズを踏まえた案の策定
- 見直し案の決定
- 決定後の新制度の丁寧な説明
出典:厚生労働省「配偶者手当見直し検討のフローチャート」
短時間労働者がより働きやすい環境を整えるために、配偶者手当を支給している企業には、仕組みを見直すことが求められます。なお、配偶者手当の見直しは、労働者にとって不利益変更となる場合があるため、慎重に対応しましょう。
2024年10月「社会保険適用拡大」が年収の壁に与えた影響とは?
年収の壁に関連する制度改正のうち、直近では2024年10月に「社会保険の適用拡大」が実施されました。この改正では、短時間労働者が社会保険の加入対象とされる企業の要件が、「101人以上」から「51人以上」に変更されました。
また、2024年9月までは年収130万円未満で家族の扶養に入っていた人でも、改正後は年収106万円以上でご自身が社会保険の加入対象とされます。その結果、家族の扶養から抜けるケースが発生しました。
社会保険に加入すれば公的な保障が充実する反面、社会保険料がかかって手取りが減り、生活に影響が及ぶことがあります。
政府は近年、「社会保険適用拡大」以外にも、年収の壁に関する制度改正や対策に取り組んでいます。
たとえば、2025年3月には所得税法等の改正法が成立し、基礎控除と給与所得控除が合計20万円引き上げられることになりました。これにより、2026年分以降の所得税については、「103万円の壁」が実質的に「123万円の壁」へと変わります。
このように、年収の壁に関連する制度は変化しています。制度改正に関する最新の動向をチェックして、ご自身や家族への影響を把握しましょう。
出典:財務省「「所得税法等の一部を改正する法律案」について」
2025年度税制改正(所得税控除引き上げ)の内容
2024年12月に閣議決定された「令和7年度税制改正の大綱」に基づき、所得税法等の一部を改正する法律が2025年3月に成立しました。これにより、2026年分以降の所得税について、主に以下の点が変更されます。
- 基礎控除・給与所得控除の引き上げ
- 「103万円の壁」の実質的な引き上げ
- 特定扶養控除の年収要件の変更
まず、基礎控除が10万円、給与所得控除(最低額)が10万円、それぞれ引き上げられます。これにより、合計で20万円控除額が増えることになります。
次に、この控除額引き上げの結果、「103万円の壁」が実質的に引き上げられます。パート収入など給与収入のみの場合、年収123万円以下であれば原則として所得税がかからなくなります。
さらに、特定扶養控除についても変更があります。大学生などを扶養している場合に適用されるこの控除について、対象となる子の年収要件が現行の103万円から150万円に引き上げられます。
これらの改正は、2026年1月1日以降に支払われる給与等に係る所得税から適用されます。ご自身の働き方や家族構成に合わせて、これらの変更点を確認しておくことが重要です。
出典:財務省「「所得税法等の一部を改正する法律案」について」
まとめ
年収の壁は、以下のように、さまざまな種類があります。
年収の壁の種類
- 100万円の壁
- 103万円の壁
- 106万円の壁
- 130万円の壁
- 150万円の壁
- 201万円の壁
年収の壁を超えると、税金や社会保険料が増加し、手取りが減る可能性があります。ご自分の手取りが減るだけではなく、家族(世帯全体)の手取りが減る場合もあるため注意してください。
年収や手取りを考える際には、ご自身だけでなく家族を含めた世帯全体の損得を計算することが重要です。
年収によって税金や社会保険料がどのように変わるのかを正しく理解したうえで、手取り額の計算を行いましょう。
なお、2025年3月には所得税法等の改正法が成立し、2026年分以降の所得税について、基礎控除と給与所得控除がそれぞれ10万円ずつ引き上げられることになりました。
これにより、「103万円の壁」は実質的に「123万円の壁」に変わります。
年収の壁に関する制度は今後も変更される可能性がありますので、最新情報を常に確認するようにしましょう。
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よくある質問
年収の壁とは?
年収の壁とは、税金や社会保険料がかかり始めたり増えたりする基準として意識される年収額です。具体的には、100万円の壁・103万円の壁・106万円の壁・130万円の壁・150万円の壁・201万円の壁があります。
詳しく知りたい場合は、記事内「年収の壁とは? 一覧表で金額を紹介」をご覧ください。
年収の壁への対策や制度見直しが行われている?
近年、年収の壁への対策や関連する制度の見直しが進められています。
2023年には「年収の壁・支援強化パッケージ」が公表され、2024年には「社会保険適用拡大」の一部が実施されました。
また、2025年3月には所得税法等の改正法が成立しました。これにより、2026年分以降の所得税について、基礎控除と給与所得控除が合計20万円引き上げられ、「103万円の壁」は実質的に「123万円の壁」に変わります。
今後も制度が変更される可能性があるため、政府の発表などを確認することが大切です。
「年収の壁・支援強化パッケージ」の詳細に関しては、記事内「制度見直しの取り組み「年収の壁・支援強化パッケージ」とは?」をご覧ください。
「社会保険適用拡大」の詳細に関しては、記事内「2024年10月「社会保険適用拡大」が年収の壁に与えた影響とは?」をご覧ください。
監修 内山貴博(うちやま たかひろ) 1級FP技能士・CFP
大学卒業後、証券会社の本社で社長室、証券業務部、企画グループで5年半勤務。その後FPとして独立。金融リテラシーが低く、資産運用に保守的と言われる日本人のお金に対する知識向上に寄与すべく、相談業務やセミナー、執筆等を行っている。
日本証券業協会主催「投資の日」イベントや金融庁主催シンポジウムで講師等を担当。
2018年に日本人の金融リテラシー向上のためのFPの役割について探求した論文を執筆。
