監修 松浦絢子 弁護士
監修 北田 悠策 公認会計士・税理士

合名会社は1名以上の無限責任社員で構成される会社形態です。
合同会社や合資会社と同じ「持分会社」に分類され、株式会社と比べて手続きが簡素で設立しやすい特徴があります。利益の分配方法を自由に決められる点もメリットです。
ただし、合名会社では社員全員が無限責任を負うため、そのリスクは十分に理解しておきましょう。
本記事では、合名会社の設立方法やメリット・注意点をわかりやすく紹介します。記事の後半では、合名会社ではなく合同会社が選ばれることが多い理由も解説します。
目次
合名会社とは
合名会社は、社員が出資者となり所有と経営が一致する持分会社のひとつで、無限責任社員のみで構成される会社形態です。
合名会社では、出資者である社員全員が会社の債務に無限責任を負います。そのため、会社が負債を抱えて倒産すると、私有財産による弁済を求められる可能性があります。
また、各社員が議決権・業務執行権・代表権をもって直接経営に参加することも、合名会社の特徴です。
株式会社では原則1株ごとに1議決権をもつのに対して、合名会社では原則として社員1人ひとりが「議決権」をもっています。さらに、各社員は、業務を実際に遂行する「業務執行権」や、会社を代表して取引などを行う「代表権」も有しています。
合名会社の略称
合名会社の略称(漢字略語・カナ略語)の表記方法は、以下のとおりです。
略称 | 記載例 | ||
---|---|---|---|
漢字略語 | (名) | (名)○○商事 (合名会社○○商事の場合) ○○商事(名) (○○商事合名会社の場合) | |
カナ略語 | 頭部に使用するとき | メ) | メ)○○ショウジ (合名会社○○商事の場合) |
途中に使用するとき | (メ) | ○○ショウジ(メ)トウキョウシシャ (○○商事合名会社東京支社の場合) | |
末尾に使用するとき | (メ | ○○ショウジ(メ (○○商事合名会社の場合) |
カナ略語の場合は、法人名の位置によって略称の表記方法が変わります。
合名会社と株式会社・合同会社・合資会社の違い
現在新設できる会社は、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4種類です。それぞれの違いは、以下のとおりです。
株式会社 | 合同会社 | 合資会社 | 合名会社 | |
---|---|---|---|---|
会社の種類 | 株式 | 持分 | 持分 | 持分 |
資本金 | 資本金1円以上 | 資本金1円以上 | 規定なし | 規定なし |
出資者(呼称) | 1名以上(株主) | 1名以上(社員) | 有限・無限責任社員それぞれ1名以上(計2名以上) | 1名以上(社員) |
出資者と経営者 | 分離 | 同一 | 原則同一(有限責任社員は経営に関与しない場合あり) | 同一 |
責任の範囲 | 有限責任 | 有限責任 | 有限責任・無限責任 | 無限責任 |
設立費用 | 25万円〜 | 10万円〜 | 6万円〜 | 6万円〜 |
最高意思決定機関 | 株主総会 | 社員の過半数 | 社員の過半数 | 社員の過半数 |
議決権 | 一株一議決権 | 一人一議決権 | 一人一議決権 | 一人一議決権 |
決算公告義務 | 有 | 無 | 無 | 無 |
登記書類 | 定款 | 定款 | 定款 | 定款 |
定款の認証 | 必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
上場 | できる | できない | できない | できない |
役員の任期 | 規定あり | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
利益の配分 | 出資比率による | 自由 | 自由 | 自由 |
設立件数※ | 98,671件 | 41,774件 | 19件 | 11件 |
※設立件数は2024年次のもの
出典:e-Gov法令検索「会社法(平成十七年法律第八十六号)」
出典: e-Stat「登記統計 / 商業・法人」
4種類の会社のうち、合同会社・合資会社・合名会社は「持分会社」と呼ばれます。
持分会社は株式の発行がないため社員が出資者となって会社を所有しますが、株式会社では株式を発行し経営と所有は基本的に分離されています。
持分会社は、所有と経営が一致しており、株主総会などの法定手続きを経る必要がないため、株式会社より迅速に意思決定が可能です。
また、合同会社・合資会社・合名会社では、構成する社員の種類が異なります。
合同会社・合資会社・合名会社の構成社員の違い
- 合同会社:有限責任社員のみ
- 合資会社:有限責任社員+無限責任社員
- 合名会社:無限責任社員のみ
社員の種類は、出資額の範囲に責任が限定される「有限責任社員」、出資額に限定されずに全額の責任を負う「無限責任社員」の2種類に分類されます。
合名会社では、全社員が無限責任社員となるため、合同会社などと比較して負債により重い責任を負います。
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合名会社を設立するメリット
合名会社は、設立の手間や費用が少なく、利益の分配や出資形態の自由度が高いなど、株式会社と比較してメリットとなる点がいくつかあります。
合名会社を設立するメリット
- 会社設立のハードルが低い
- 利益の分配を自由に決められる
- 決算公告義務がない
- 出資の柔軟性が高い
以下でそれぞれ解説します。
会社設立のハードルが低い
株式会社は定款作成後に公証役場で定款認証を受ける手続きが必要ですが、合名会社では定款認証を受けずに会社を設立できます。
定款とは、基本情報や規則が記載された会社のルールブックに相当する書類です。
合名会社は定款認証を受ける必要がないため、定款認証の費用もかかりません。株式会社の場合、定款認証にあたり認証手数料が最大5万円、収入印紙代が4万円(紙の場合)など、一定の費用がかかります。
また、登記の際の「登録免許税」も合名会社は6万円で済み、株式会社に比べて費用を抑えられます。株式会社の設立時には、登録免許税として15万円または資本金額×0.7%のどちらか高いほうの支払いが必要です。
出典:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
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会社設立の流れを徹底解説!株式会社を設立するメリットや注意点について
利益の分配を自由に決められる
合名会社などの持分会社では、利益の分配を定款で自由に定めることが可能です。定款に定めない場合は、各社員の出資の価額に比例して分配されます。
一方、株式会社の場合は、配当の有無や1株あたりの配当額は株主総会(条件を満たす場合は取締役会)で決定され、その金額は株数に応じて平等に株主に支払われます。
決算公告義務がない
「決算公告」は会社の決算内容を広く社会に向けて知らせる手続きであり、株式会社では株主総会で承認された決算内容を遅滞なく公告する義務があります。
一方、合名会社では、株式会社と異なり決算公告義務がなく、決算公告の費用や手間が発生しません。
出典:国立印刷局「会社法 法定公告について一公告掲載例一(令和3年度適用版)」
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公告とは?公告方法の種類やメリット・デメリットをわかりやすく解説
出資の柔軟性が高い
合名会社を構成する無限責任社員には、金銭出資に加えて労務出資(労働力を出資する形態)や信用出資(個人の信用力を出資とみなす形態)も認められています。
金銭以外も含めた柔軟な形態での出資が可能です。
合名会社を設立するデメリット・注意点
合名会社は、社員全員が無限責任を負い、株式発行ができないなどの特徴があります。これらの点は、資金調達や経営リスクに大きく影響するため、設立前に十分な理解が必要です。
合名会社を設立するデメリット・注意点
- 社員全員が無限責任を負う
- 株式発行ができない
以下でそれぞれ見ていきましょう。
社員全員が無限責任を負う
合名会社は無限責任社員から成り立つ会社形態で、所属社員は出資額を超える金額についても上限なく弁済責任を負わなければなりません。
そのため、債務の支払いができずに会社が倒産した場合、社員個人が弁済を求められる可能性があります。状況によっては、自宅や預金などの私有財産が差し押さえられることもあります。
株式発行ができない
合名会社は株式の発行ができず、株式上場もできません。株式発行による資金調達や上場を検討している場合は、合名会社ではなく株式会社を設立する必要があります。
また、従業員や役員にストックオプションを付与するなど、株式会社特有の制度や手段を想定している場合も、株式会社の設立が必要です。
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合名会社を設立する流れ
合名会社を設立する際の手続きの流れは、以下のとおりです。
合名会社を設立する流れ
- 会社の基本情報を決定する
- 法人用の実印を作成する
- 定款を作成する
- 出資金の払い込みを行う(労務・信用出資も可能)
- 登記に必要な書類を準備する
- 法務局に登記書類を提出する
まず、基本情報の決定・実印作成・定款作成・出資金の払い込みなどを登記の前に進めます。必要書類の準備が整い次第、法務局への登記を行えば、合名会社の設立が完了します。
会社設立に必要な費用は、登録免許税6万円です。資本金については法律上の規定がなく、理論上は資本金0円でも設立が可能です。
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合名会社ではなく合同会社が選ばれる理由は?
2006年施行の会社法により、新たに「合同会社」が設けられました。現在では、持分会社を設立する場合、合同会社を選択するケースが多く見られます。
合同会社は、無限責任を負わずに合名会社と同様のメリットを得られます。たとえば、合同会社でも定款認証なしで設立でき、利益分配を柔軟に定められるなど、自由度の高い経営が可能です。また、決算公告義務もありません。
合同会社は有限責任社員のみで構成できるため、経営リスクを抑えたい場合に適しています。
一方で、合名会社は全社員が無限責任を負うため、信頼関係を前提とした少人数経営や、特定の業種・関係性で選ばれるケースがあります。
2024年の設立件数では、合同会社が4万1,774件であるのに対し、合名会社は11件です。こうした数字からも、現在は合同会社のほうが主流であることが分かります。
出典:法務省「商業・法人登記(2024年)-会社及び登記の種類別 会社の登記の件数」
まとめ
合名会社は、無限責任社員のみで構成される会社形態です。設立のハードルが低く、定款で利益の分配を決められるなど、持分会社としてのメリットを享受できます。
ただし、社員全員が無限責任を負うため、社員は出資額を超える範囲の金額も弁済しなければなりません。債務が払えず倒産した際には、私有財産まで差し押さえられる可能性があります。
現在では持分会社としては、ほとんどの場合に有限責任社員のみで構成できる合同会社が選ばれています。合名会社の特徴や注意点を理解し、会社の設立などにお役立てください。
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よくある質問
合名会社とはどんな会社?
合名会社は、所有と経営が一致している持分会社のひとつで、無限責任社員のみで構成される会社形態です。
詳しくは、記事内「合名会社とは」をご覧ください。
合名会社はやばい?
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詳しくは、記事内「合名会社を設立するデメリット・注意点」「合名会社ではなく合同会社が選ばれる理由は?」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。
