監修 松浦絢子 弁護士
監修 北田 悠策 公認会計士・税理士

合資会社は、無限責任社員と有限責任社員の両方で構成される会社形態です。合同会社と同じ持分会社に分類されますが、構成する社員の責任範囲や社員構成などに違いがあります。
合資会社は、定款認証なしで設立でき、定款の内容も自由に定めることが可能です。また、株式会社と比較して経営の自由度の高い点も特徴です。
本記事では、合資会社のメリット・デメリットや合同会社・株式会社との違いについて解説します。記事の後半では、事業承継における注意点も紹介します。
目次
合資会社とは?
合資会社は、無限責任社員と有限責任社員をそれぞれ1名以上含む、計2名以上で設立する会社形態です。有限責任と無限責任の違いは、次の通りです。
有限責任と無限責任の違い
- 有限責任:出資額の範囲に債務の責任が限定される
- 無限責任:出資額を超える債務全額の責任を負う(私有財産にも責任が及ぶ)
有限責任社員が自身の出資額の範囲内でのみ責任を負うのに対し、無限責任社員は出資額を超えて債務全額の責任を負います。つまり、会社が負債を抱えて倒産した場合、無限責任社員は私有財産による弁済を求められる可能性があります。
また、株式会社では原則1株につき1議決権を有しますが、合資会社では定款で別段の定めがない限り社員1人につき1議決権を有します。
合資会社と株式会社・合同会社・合名会社の違い
新設できる会社は、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4種類です。4種類の会社の違いをまとめると、次の通りです。
株式会社 | 合同会社 | 合資会社 | 合名会社 | |
---|---|---|---|---|
①会社の種類 | 株式 | 持分 | 持分 | 持分 |
②資本金 | 資本金1円以上 | 資本金1円以上 | 規定なし | 規定なし |
③出資者(呼称) | 1名以上(株主) | 1名以上(社員) | 有限・無限責任社員それぞれ1名以上(計2名以上) | 1名以上(社員) |
④出資者と経営者 | 分離 | 同一 | 原則同一(有限責任社員は経営に関与しない場合あり) | 同一 |
⑤責任の範囲 | 有限責任 | 有限責任 | 有限責任・無限責任 | 無限責任 |
⑥設立費用 | 25万円〜 | 10万円〜 | 6万円〜 | 6万円〜 |
⑦最高意思決定機関 | 株主総会 | 社員の過半数 | 社員の過半数 | 社員の過半数 |
⑧議決権 | 一株一議決権 | 一人一議決権 | 一人一議決権 | 一人一議決権 |
⑨決算公告義務 | 有 | 無 | 無 | 無 |
⑩登記書類 | 定款 | 定款 | 定款 | 定款 |
⑪定款の認証 | 必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
⑫上場 | できる | できない | できない | できない |
⑬役員の任期 | 規定あり | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
⑭利益の配分 | 出資比率による | 自由 | 自由 | 自由 |
⑮設立件数※ | 98,671件 | 41,774件 | 19件 | 11件 |
(※)設立件数は2024年次のもの
4種類の会社のうち、合同会社・合資会社・合名会社は「持分会社」と呼ばれます。
持分会社と株式会社の大きな違いは、経営と所有が一致しているかどうかという点です。
持分会社では株式が発行されず、社員が出資者として会社を所有しますが、株式会社では株式を発行し、経営と所有は基本的に分離されています。
ただし、株式会社では株式の多くを創業者が所有し、株主が取締役として経営を行うケースもあります。
また、持分会社は所有と経営が一致しているため、株主総会などの法定手続きが不要です。その結果、株式会社より迅速に意思決定が可能です。
なお、合同会社・合資会社・合名会社では、構成される社員の種類が異なります。
合同会社・合資会社・合名会社の構成社員の違い
- 合同会社:有限責任社員のみ
- 合資会社:有限責任社員+無限責任社員
- 合名会社:無限責任社員のみ
合資会社は、有限責任社員1名以上と無限責任社員が1名以上の、計2名以上で構成されます。
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合資会社の略称
合資会社の略称(漢字略語・カナ略語)の表記方法は、次の通りです。
略称 | 記載例 | ||
---|---|---|---|
漢字略語 | (資) | (資)○○工業 (合資会社○○工業の場合) ○○工業(資) (○○工業合資会社の場合) | |
カナ略語 | 頭部に使用するとき | シ) | シ)○○コウギョウ (合資会社○○工業の場合) |
途中に使用するとき | (シ) | ○○コウギョウ(シ)トウキョウシシャ (○○工業合資会社東京支社の場合) | |
末尾に使用するとき | (シ | ○○コウギョウ(シ (○○工業合資会社の場合) |
カナ略語は、法人名内での使用箇所に応じて使い分けられます。
合資会社のメリット
合資会社には、主に以下のメリットがあります。
合資会社のメリット
- 設立にかかる費用が抑えられる
- 設立の手間が少ない
- 定款を自由に定められる
- 決算公告義務がない
設立の手間が少ない
合資会社を設立する際は、定款の作成は必要ですが、公証役場での認証手続きが不要です。合資会社は、以下のような流れで設立できます。
合資会社を設立する流れ
- 会社の基本情報を決定する
- 法人用の実印を作成する
- 定款を作成する
- 出資金の払い込みを行う
- 登記に必要な書類を準備する
- 法務局に登記書類を提出する
定款は、企業の根本原則が記載された「会社の憲法」とも呼ばれ、会社設立の際に欠かせない文書です。株式会社の場合、定款作成後に公証役場で定款認証を受ける手続きが必要です。
設立にかかる費用が抑えられる
株式会社では、定款認証にあたり、認証手数料(最大5万円)、収入印紙代(4万円)などの費用がかかります。合資会社では、定款認証を受ける必要がないため、その分の費用はかかりません。
また、登記の際の「登録免許税」も合資会社であれば6万円で済み、株式会社に比べて費用が抑えられます。株式会社の設立の際は、15万円または資本金額×0.7%のどちらか高いほうを登録免許税として支払う必要があります。
定款を自由に定められる
合資会社では、業務・内部組織・意思決定に関して定款で自由に定めることができ、定款自治が広く認められています。一方、株式会社では、会社方針などの決定に株主総会の開催が必要です。
また、合資会社では、原則として総社員の同意により定款の変更も可能で、定款で定めがあれば変更条件を緩和することもできます。
一方、株式会社では、定款を変更するには、株主総会での特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。
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決算公告義務がない
決算公告は、法人が決算に関する情報を広く公に知らせるものです。株式会社では株主総会で承認された決算内容を遅滞なく公告する義務があり、これに基づいて年に一度、決算公告を行います。
合資会社では、株式会社と異なり決算公告義務がないため、決算公告にかかる費用と手間がかかりません。
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合資会社のデメリット
合資会社には、メリットだけでなく主に以下のデメリットもあります。
合資会社のデメリット
- 無限責任社員が必要
- 株式を発行できない
- 社会的な認知度が低い
無限責任社員が必要
合資会社を設立するためには、1名以上の無限責任社員が必要です。無限責任社員は、出資額を超える金額についても上限なく弁済責任を負います。
万が一、債務の支払いができずに会社が倒産した場合、無限責任社員は個人として弁済を求められる可能性があります。
株式を発行できない
合資会社は株式の発行ができず、株式上場もできません。株式による資金調達が行えないため、資本を拡大するには融資や既存社員による追加出資などに頼る必要があります。
また、合資会社では、株式譲渡による事業承継はできません。一方、株式会社では株式譲渡により株式の所有権を移転させることで、経営権をスムーズに引き継ぐことができます。
特に経営者が株式の多くを保有している株式会社では、経営者からの株式の譲渡がそのまま経営の実権移譲につながるケースがよく見られます。
社会的な認知度が低い
合資会社という会社形態は、一般的な認知度が低く、株式会社と比べて広く知られていないのが現状です。
合資会社の設立件数は株式会社や合同会社と比べて少ないため、認知度の低さから会社として十分な信用が得にくいことも想定されます。
合資会社ではなく合同会社が選ばれる理由は?
2006年施行の会社法で新たに「合同会社」という会社形態が設けられました。現在では、持分会社を設立する場面では、多くのケースで合同会社が選ばれています。
合同会社が選ばれる主な理由は、社員全員が有限責任であるという点です。合資会社は無限責任社員が必要なため、その分経営上のリスクが高まります。
合同会社も定款認証を要せずに設立でき、定款を自由に定められます。また、決算公告義務もありません。つまり、合同会社は合資会社と同様のメリットを享受しつつ、特定の社員が無限責任を負う必要がありません。
2024年の設立件数では、合同会社が4万1,774件であるのに対し、合資会社は19件に留まります。負債に対するリスクの違いもあり、現在持分会社の設立は合同会社が主流です。
出典:法務省「商業・法人登記(2024年)-会社及び登記の種類別 会社の登記の件数」
合資会社の事業承継における注意点
合資会社の事業承継では、以下のような点に注意が必要です。
合資会社の事業承継における注意点
- 事業承継後も「無限責任社員1名以上」と「有限責任社員1名以上」が必要
- 持分を譲渡する場合、原則として社員全員の同意が必要
- 社員が死亡した場合、原則として持分払戻請求権のみを相続する
合資会社としての会社形態を維持するには、事業承継後も無限責任社員1名以上と有限責任社員1名以上が必要です。有限責任社員のみになる場合は「合同会社」、無限責任社員のみになる場合は「合名会社」へ定款変更したものと法律上みなされます。
そのため、法務局での会社形態変更登記が必要になるほか、契約書・許認可・銀行口座の名義などもあわせて変更手続きが必要になり、事業承継や社員の退社・死亡時には早急な対応が求められます。
また、持分を譲渡して事業承継を行う場合、合資会社のような持分会社では、原則として社員全員の同意が必要です。
そのほか、社員の死亡の際には、定款に定めがない限り持分払戻請求権のみを相続します。持分払戻請求権とは、出資した価額に相当する金額の払い戻しを請求できる権利のことです。
たとえば、無限責任社員Aと有限責任社員Bで構成される合資会社で、Bが死亡したとします。定款に特別な定めがなければ、Bの相続人はBの「社員」という地位(経営に参加する権利)を引き継ぐことはできず、Bが出資していた金額の払い戻しを会社に請求できる権利だけを相続します。
これにより、相続人が後継者として経営を引き継ぐことが難しくなるため、事業承継をスムーズに行うには、あらかじめ定款で「社員の地位も相続できる」旨を定めておくことが非常に重要になります。
まとめ
合資会社は、無限責任社員と有限責任社員をそれぞれ1名以上含む、計2名以上で設立する会社形態です。
合同会社や合名会社と同じ持分会社のひとつで、設立の費用や手間が少ない、定款を自由に決められるなどのメリットがあります。ただし、無限責任社員が必要となるなどの制約があり、近年ではほとんどの場合で合同会社が選ばれています。
合資会社の特徴を正しく理解し、会社設立に役立てていきましょう。
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合資会社とは?
合資会社は、所有と経営が一致する持分会社のひとつで、無限責任社員および有限責任社員をそれぞれ1名以上含む、計2名以上で設立する会社形態です。
詳しくは「合資会社とは?会社形態をわかりやすく紹介」をご覧ください。
合資会社のメリット・デメリットは?
合資会社のメリットとしては、設立の費用や手間が抑えられること、定款を自由に定められること、決算公告義務がないことなどが挙げられます。
一方、合資会社のデメリットは、無限責任社員が必要になること、株式を発行できないこと、社会的な認知度が低いことなどが挙げられます。
詳しくは「合資会社のメリット」「合資会社のデメリット」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。
