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中小企業向けの賃上げ税制とは?要件や所得拡大促進税制からの変更点・注意点を解説

監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所

中小企業向けの賃上げ税制とは?要件や所得拡大促進税制からの変更点、注意点を解説

賃上げ促進税制とは、賃上げや人材育成への投資に積極的な企業が所定の税額控除を受けられる制度です。

2024年度に税制改正が施行され、中小企業向け賃上げ促進税制で要件を満たす中小企業は最大45%の税額控除を受けられるため、税負担を軽減しながらの賃上げが可能となりました。

本記事では、中小企業向け賃上げ促進税制について詳しく解説します。

人材定着や従業員の能力アップに役立てるため、企業の経営者や事業主、人事担当者はぜひ参考にしてください。

目次

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中小企業向け賃上げ促進税制とは?

賃上げ促進税制とは、従業員の賃上げや人材育成への投資に積極的な企業が、所定の税額控除を受けられる制度です。所得拡大促進税制から改正され、要件の簡素化や控除率の引き上げで内容が拡充しました。

大企業向け・中小企業向けで内容が分かれており、中小企業向けの制度では給与などの増加額の一部を法人税(個人事業主の場合は所得税)から税額控除できます。

2022年4月1日からスタートしており、適用期間は2024年4月1日から2027年3月31日までに開始する各事業年度です(個人事業主の場合は2024年から2027年が対象)。

給与などの支給額が前年度より増加すれば、増加額の最大30%を税額控除できます。教育訓練費の増加で上乗せできる要件もあり、控除できる税額は最大40%です。

賃上げ促進制度を活用すれば、負担を抑えながら給与アップや教育訓練の拡充が可能となります。それにより、従業員のモチベーション・能力アップにつながり、人材定着や生産性・企業イメージの向上も期待できるでしょう。

また、賃上げを行った企業が赤字の場合、最大5年間は控除枠を繰り越しできる措置も新設されました。

中小企業向け賃上げ促進税制の対象者は?

中小企業向け賃上げ促進税制の対象者は、以下のとおりです。

【中小企業向け賃上げ促進税制の対象者】


  • 資本金または出資金、従業員数が一定以下の法人
  • 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
  • 中小企業等協同組合や出資組合の商工組合などの組合組織

資本金または出資金、従業員数が一定以下の法人

青色申告書を提出する法人のうち、いずれかに該当すれば制度対象の中小企業者に含まれます。

【制度対象の中小企業者】


  • 資本金または出資金の金額が1億円以下
  • 資本または出資のない法人で、常時使用の従業員数が1,000人以下

ただし、出資金または資本金が1億円以下でも、以下に該当する法人は対象外です。

【制度対象外の中小企業者】


  • 同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受けている
  • 2つ以上の大規模法人から合計で3分の2以上の出資を受けている

制度を適用する事業年度終了時点で要件を満たしていないと、対象法人に認められません。

常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主

法人化せずに青色申告書を提出している個人事業主なら、常時使用の従業員数が1,000人以下であれば制度の対象となります。

従業員数が1,000人を超える場合は、個人事業主でも本制度は受けられません。また、青色申告ではなく白色申告をしている個人事業主も対象外です。

制度を適用する年の12月31日時点で、要件を満たしている必要があります。

中小企業等協同組合や出資組合の商工組合など

一定要件を満たす法人または個人事業主のほか、協同組合なども対象です。対象の協同組合などには、以下の組合組織が挙げられます。

【対象者に含まれる協同組合など】


  • 農業協同組合
  • 農業協同組合連合会
  • 中小企業等協同組合
  • 出資組合である商工組合および商工組合連合会
  • 内航海運組合
  • 内航海運組合連合会
  • 出資組合である生活衛生同業組合
  • 漁業協同組合
  • 漁業協同組合連合会
  • 水産加工業協同組合
  • 水産加工業協同組合連合会
  • 森林組合
  • 森林組合連合会

いずれも、適用を受ける事業年度終了時点で、該当組合の要件を満たしていなければなりません。

中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件

適用要件には、通常要件と2つの上乗せ要件が存在します。

【中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件】


  • 通常要件:給与などの支給額が前年度比で1.5%または2.5%以上増加
  • 上乗せ要件1:教育訓練費が前年度比で5%以上増加
  • 上乗せ要件2:適用事業年度中または適用事業年度終了までに指定の認定を取得

2つの上乗せ要件は併用でき、併用すれば最大45%の税額控除率です。以下、各要件を解説します。

通常要件:給与などの支給額が前年度比で1.5%または2.5%以上増加

従業員へ支払う給与などが、前事業年度と比較して1.5%以上増加していると増加額の15%を、2.5%以上増加していると増加額の30%を税額控除できます。

増加率は以下の計算式で求めます。

  • 増加率 =(適用年度の雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額) ÷ 比較雇用者給与等支給額

比較雇用者給与等支給額は、前事業年度に従業員へ支払った給与などの金額です。

増加率を求める際は、雇用安定助成金以外の「給与等に充てるため他のものから支払を受ける金額」を除いて計算します。

たとえば、業務改善助成金や労働移動支援助成金、キャリアアップ助成金などを受け取っていた場合は、その金額分を差し引いて増加率を計算します。

「給与等に充てるため他のものから支払を受ける金額」に該当する助成金等は、経済産業省の「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」に記載されているので、事前に確認しましょう。

上乗せ要件1:教育訓練費が前年度比で5%以上増加

従業員の教育訓練に使う費用が前事業年度より5%以上増加していると、税額控除率をさらに10%上乗せできます。

増加率は以下の計算式で求めます。

  • 増加率 =(適用年度の教育訓練費 - 比較教育訓練費の額) ÷ 比較教育訓練費の額

ただし教育訓練の対象者や、教育訓練費の範囲に条件があります。教育訓練の対象者は、法人または個人の国内雇用者です。法人役員や個人事業主自身、入社予定の人物などは対象者に含みません。

また、教育訓練費に含まれる費用の範囲も決まっています。基本的には外部講師への報酬や外部施設の利用にかかった費用、教育に必要なコンテンツの利用料などが教育訓練費の範囲です。

社内研修で講師役を務めた社員へ対価を支払っていた場合は、教育訓練費に含みません。自社の研修施設にかかる光熱費や維持費、研修施設を取得する際の費用も対象外です。

教育訓練費の明細書を作成し、保存をしなければならない点にも注意しましょう。

上乗せ要件2:適用事業年度中または適用事業年度終了までに指定の認定を取得

適用事業年度中または適用事業年度終了までに、以下の認定を取得すると税額控除率を5%上乗せできます。

【適用事業年度中に取得する認定】


  • くるみん認定
  • くるみんプラス認定
  • えるぼし認定 (2段階目以上)

【適用事業年度終了までに取得する認定


  • プラチナくるみん認定
  • プラチナくるみんプラス認定
  • プラチナえるぼし認定

上記の認定は、女性の活躍や子育て、不妊治療において一定の基準に達した企業が取得できる認定です。

所得拡大促進税制からの3つの変更点

現在の賃上げ促進税制は、2022年4月に改正された制度です。以前は2021年4月~2022年3月までに開始する事業年度を対象にした制度があり、所得拡大促進税制と呼ばれていました。

旧制度にあたる所得拡大促進税制からの変更点は、以下のとおりです。

【所得拡大促進税制からの変更点】


  • 上乗せ要件を簡素化し、税額控除率を引き上げ
  • 経営力向上要件を廃止
  • 教育訓練費の明細書を保存義務へ変更

各変更点を詳しく解説します。

1.上乗せ要件を簡素化し、税額控除率を引き上げ

旧制度の所得拡大促進税制では、上乗せ要件で加算される税額控除率は10%、最大25%の税額控除率でした。賃上げ促進税制では、最大45%の税額控除率になっています。

また上乗せ要件の内容も簡素化し、適用しやすくなりました。旧制度の上乗せ要件では、給与等支給額2.5%以上増加と、教育訓練費の増加または経営力向上の証明が必要でした。

賃上げ促進税制では、給与等支給額が2.5%以上増加するだけで控除率が15%上乗せされます。教育訓練費の10%以上増加で控除率が10%加算される上乗せ要件も加わり、併用も可能です。

2.経営力向上要件を廃止

旧制度では控除率の上乗せに、給与等支給額2.5%以上の増加に加え、教育訓練費の増加または経営力向上の証明が必要でした。

経営力向上の証明には、適用年度終了までに経営力向上計画の認定が必要なうえ、経営力向上が確実にできたと証明しなければなりませんでした。

賃上げ促進税制では、経営力向上要件は廃止されています。控除率の上乗せ要件からなくなり、適用を受けるために経営力向上の証明は不要です。

3.教育訓練費の明細書を保存義務へ変更

教育訓練費の増加で上乗せ要件を適用する場合、旧制度では明細書の添付義務がありました。

賃上げ促進税制では、添付義務から保存義務に変更され、税務申告時に明細書を添付する必要はありません。

ただし実施時期・実施内容・受講者・支払証明を明記した明細書の作成・保存が必要です。

賃上げ促進税制を適用する際の注意点

賃上げ促進税制を適用する際の主な注意点は、以下のとおりです。

【賃上げ促進税制を適用する際の主な注意点】


  • 一時的な海外勤務をしていても国内雇用者に含まれる
  • 教育訓練費の増加には対象者・範囲が決まっている
  • 適用年度と前事業年度の月数が異なる場合は調整する

一時的な海外勤務をしていても国内雇用者に含まれる

賃上げ促進税制の適用は、国内雇用者へ支払った給与や教育訓練費の増加が要件です。国内雇用者とは、国内にある事業所で作成された賃金台帳に記載された人を指します。

国内の事業所で作成された賃金台帳に名前があり、給与を支給していたなら、海外出張していた従業員も対象者です。

教育訓練費の増加には対象者・範囲が決まっている

教育訓練費の増加で適用できる上乗せ要件では、教育訓練費の対象者と範囲が決まっています。教育訓練を目的に使った費用でも、対象外であれば教育訓練費に含みません。

教育訓練の対象者は、法人または個人の国内雇用者です。以下に該当する人物は、教育訓練の対象者に含みません。

【教育訓練の対象者に含まない人物】


  • 当該法人の役員または個人事業主自身
  • 役員を兼務する使用人
  • 該当法人の役員や個人事業主の特殊関係者*
  • 内定者などの入社予定者
  • 役員や個人事業主の特殊関係者
  • 親族
  • 事実上婚姻関係と同様の事情にある人物
  • 役員・個人事業主から生計の支援を受けている人物
  • 「2」または「3」と同一生計の親族

*役員や個人事業主の特殊関係者に該当する人物

また、教育訓練費の範囲は、次に該当する費用でなければなりません。教育訓練が目的でも対象外となる費用もあるので、あわせて覚えておきましょう。

【教育訓練費の範囲】


  • 教育訓練などを法人・個人事業主自身が実施する場合の費用
  • 他者に委託して教育訓練などを実施する場合の費用
  • 他者が実施する教育訓練などへ参加させる場合の費用

【教育訓練費に含まない費用】


  • 社員や役員へ支払う教育訓練中の人件費や報奨金
  • 教育訓練に関する旅費・交通費・食費・宿泊費・居住費
  • 福利厚生など、教育訓練以外を目的に実施する研修などの費用
  • 法人・個人事業主自身が所有する施設などにかかる光熱費や維持管理費などの費用
  • 法人・個人事業主自身が施設や設備を取得する際の費用
  • 教材などの購入・製作にかかる費用

教育訓練の直接費用でない大学などへの寄附金や保険料などの支払い 外部講師や外部施設を利用した際の費用は教育訓練費に含みますが、自社施設の利用や講習時の交通費・旅費などは含みません。


出典:経済産業省「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」

適用年度と前事業年度の月数が異なる場合は調整する

決算期の変更や前事業年度が設立初年度だと、適用年度と前事業年度の月数が異なる場合もあるでしょう。

適用年度と前事業年度の月数が異なる場合、同じ期間で比較できないため制度の適用や税額控除の算定時に調整が必要です。

月数に応じた調整をするため、比較雇用者給与等支給額を調整して計算します。具体的な計算式は以下のとおりです。

  • 前事業年度の国内雇用者の給与等支給額 × 適用年度の月数 ÷ 前事業年度の月数

前事業年度の月数が適用年度の月数に満たない場合、前事業年度の月数が6月以上なら同じ計算式です。

前事業年度の月数が6月未満の場合、以下のA・Bを使って調整します。

【前事業年度の月数が6月未満の場合の調整方法】


  • 適用年度の開始の日の前日~過去1年以内に終了した各事業年度の国内雇用者の給与等支給額の合計額
  • 適用年度の月数÷適用年度の開始日の前日~過去1年以内に終了した各事業年度の月数

AとBをかけて、比較雇用者給与等支給額を調整します。


出典:経済産業省「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」

まとめ

賃上げ促進税制は、賃上げや人材育成に投資した費用が前年度より一定以上増加していると、所定の税額控除が受けられる制度です。

中小企業向けの制度内容は、要件を満たせば最大45%の税額控除が受けられます。制度を活用すれば、人件費の負担を抑えながら従業員の賃上げや教育機会拡大も可能です。

従業員の賃上げや教育機会拡大は人材定着や企業の生産性向上にも繋がります。賃上げ促進税制を活用し、自社の成長機会に活かしましょう。

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よくある質問

中小企業向け賃上げ促進税制とは?

中小企業向け賃上げ促進税制は、要件を満たすと最大45%の税額控除が受けられる制度です。

中小企業向け賃上げ促進税制を詳しく知りたい方は、「中小企業向け賃上げ促進税制とは?」をご覧ください。

中小企業向け賃上げ促進税制の対象者は?

中小企業向け賃上げ促進税制の対象者は、青色申告書を提出する一定規模以下の法人・個人事業主、または協同組合などです。

中小企業向け賃上げ促進税制の対象者を詳しく知りたい方は、「中小企業向け賃上げ促進税制の対象者は?」をご覧ください。

監修 安田 亮(やすだ りょう)

1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。

監修者 安田亮
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