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サラリーマン増税とは? 現行制度との違いや行われた場合の影響を紹介

監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所

サラリーマン増税とは? 現行制度との違いや行われた場合の影響を紹介

サラリーマン増税とは、給与所得控除や退職所得控除などサラリーマンを対象とした税制の見直し案に対して、主にSNSなどで使われるようになった言葉(造語)です。

2023年に政府税制調査会がまとめた中期答申で、給与所得控除を現行の約30%から給与収入の約3%程度まで大幅に引き下げる可能性が示唆され話題となりました。

しかし、現時点(2025年4月)では中期答申の内容はあくまで将来的な検討課題であり、具体的な増税が決まったわけではありません。

むしろ、2025年度税制改正(2025年3月に関連法成立)では、いわゆるサラリーマン増税は実施されず、基礎控除と給与所得控除の最低控除額がそれぞれ10万円引き上げられる減税措置が決定しています(2026年分以降の所得税に適用)。

本記事では、話題となったサラリーマン増税とは具体的にどのような内容か、現行の税制度との違い、仮に将来実施された場合の影響、そして今からできる対策について解説します。

目次

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サラリーマン増税とは?

サラリーマン増税とは、サラリーマンが対象の給与所得控除や退職所得控除に関する税制の見直し案に対し、世間がつけた造語です。

2023年6月に、政府税制調査会がまとめた中期答申で、サラリーマンに関わる税制の見直し案が盛り込まれました。そのことに関して、一部報道やSNSを通じて世論が反応した形になります。

答申とは、諮問機関が諮問を受けた事項に関して、行政官庁に意見を具申することです。

サラリーマン増税で控除額が引き下げになると考えられる控除の種類は以下の通りです。

サラリーマン増税で引き下げになる控除

  • 給与所得控除
  • 退職所得控除

給与所得者の所得控除の見直しに関して、同答申では「給与所得控除によりマクロ的には給与収入総額の3割程度が控除されている」とされており、そのうえで主要国と比べても「相当手厚い仕組」としています。

給与所得者の実際の必要経費に近いとされる支出は、給与収入の約3%という試算があると指摘されています。

このことから、将来的に給与所得控除額が現行水準から大幅に縮小され、約3%程度まで引き下げられるのではないか、と一部で懸念の声が上がりました。

また、中期答申では所得控除に関連して、通勤手当などの非課税所得や配偶者控除、生命保険料控除などの各種控除に関しても「(働き方によって有利不利が生じないか等の観点から)検討の必要がある」と指摘しています。

なお、これまでも給与所得控除の上限額引き下げなどは行われてきましたが、その影響が大きかったのは主に高所得者層でした。

しかし、もし2023年の中期答申で示唆されたような大幅な控除見直しが行われれば、高所得者層だけでなく、中間所得者層を含む幅広い層に影響を与える可能性があります。

ただし、繰り返しになりますが、提出された答申の内容はあくまでも将来的な課題や選択肢を示したものであり、すぐに増税が実施されるわけではありません。

現時点(2025年4月)ではサラリーマン増税に関する具体的な制度改正は決まっておらず、2025年度の税制改正でも関連する増税は行われませんでした。

サラリーマンの所得税の計算方法

サラリーマンの所得税は、以下のように算出されます。

  1. 給与 - 給与所得控除 = 給与所得金額
  2. 給与所得金額 - 所得控除 = 課税所得金額
  3. 課税所得金額 × 税率 = 所得税額
  4. 所得税額 - 税額控除 = 基準所得税額
  5. 基準所得税額 × 2.1% = 復興特別所得税額
  6. 基準所得税額 + 復興特別所得税額 = 納付税額

出典:国税庁「所得税のしくみ」

所得税は、給与からさまざまな控除が差し引かれて計算されます。

サラリーマンの所得控除の仕組み

一般的なサラリーマンの所得税に関わる控除の種類は、以下の通りです。

所得に関わる控除の種類

  • 給与所得控除(給与所得を算出する過程での控除)
  • 基礎控除
  • 社会保険料控除
  • 配偶者控除
  • 生命保険料控除
  • 医療費控除
  • 住宅ローン控除(税額からの控除)
  • 特定支出控除 など

中でも給与所得控除はサラリーマンの必要経費とも言われ、控除額も大きくなっています。

現行の給与所得控除の収入範囲と控除額は以下の通りです。


給与などの収入金額給与所得控除額
162万5,000円まで55万円
162万5,001円から180万円まで収入金額 × 40% - 10万円
180万0,001円から360万円まで収入金額 × 30% + 8万円
360万0,001円から660万円まで収入金額 × 20% + 44万円
660万0,001円から850万円まで収入金額 × 10% + 110万円
850万0,001円以上195万円(上限)
出典:国税庁「No.1410 給与所得控除」

たとえば、年収500万円のサラリーマンの給与所得控除額は、以下の通り算出されます。

給与所得控除の具体例

  • 500万円 × 20% + 44万円 = 144万円

所得税や住民税は、年収から給与所得控除を差し引いた「給与所得」から各種所得控除を差し引いた「課税所得」を基に算出されます。そのため、給与所得控除の重要度はとても高いです。

なお、給与などの収入金額が660万円までの場合は、上記の表ではなく、国税庁が毎年公表する「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」で直接、給与所得の金額を確認する方が簡単です。

別表第五 年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表(第二十八条、第百九十条関係)

出典:e-Gov法令検索「別表第五」

また、前述の通り2025年度税制改正(2025年3月法案成立)により、2026年分以降の所得税について、給与所得控除の最低控除額が現行の55万円から65万円に引き上げられることが決定しています。

2025年度の税制改正では基礎控除額が引き上げに

2025年度税制改正では、基礎控除と給与所得控除の最低控除額がそれぞれ10万円引き上げられます。

給与所得控除の最低額引き上げは、特に年収162.5万円以下の給与所得者にとって直接的な減税となります。それ以上の年収層でも、基礎控除の引き上げにより、所得税・住民税の負担軽減効果が期待できます。

基礎控除は、ほとんどの納税者に適用される基本的な控除だからです。

また、特定扶養控除や配偶者特別控除も控除対象となる年収が引き上げられます。

特定扶養控除と配偶者特別控除の対象年収

  • 特定扶養控除 : 103万円 → 150万円
  • 配偶者特別控除 : 150万円 → 160万円
上記の控除を受けられる人は、さらに税負担が軽減されます。 ※給与所得控除55万円を前提とした場合。2026年以降は最低控除額が65万円になるため、年収165万円以下となる見込みです。正確な情報は今後の国税庁の発表等をご確認ください。

サラリーマン増税が行われた場合の影響

2025年度の税制改正では見送りとなったものの、将来的に2023年の中期答申通りにサラリーマン増税が行われた場合、給与所得者にどのような影響をもたらすのかを以下で考察していきます。

サラリーマン増税が行われた場合の影響

  • 支払う税金の金額が大きくなる可能性がある
  • 実際にもらえる退職金が少なくなる可能性がある

支払う税金の金額が大きくなる可能性がある

所得税や住民税の算出に関わる控除が見直されると、必然的に支払う税金の金額が大きくなる可能性があります。

答申では、前述の通り、給与所得者の実際の必要経費に近いとされる支出は給与収入の約3%程度という試算が示されています。もし控除水準がこの試算に合わせて大幅に引き下げられると、課税対象となる所得が増えるためです。

現時点で具体的な見直し内容が決まっているわけではありませんが、答申では給与所得控除だけでなく、通勤手当などの非課税措置や、配偶者控除、生命保険料控除など様々な控除についても「検討する必要がある」と指摘されています。

サラリーマン増税が行われる可能性が否定できない以上、サラリーマンは節税対策を考えましょう。

実際にもらえる退職金が少なくなる可能性がある

サラリーマン増税が行われると、もらえる退職金が少なくなる可能性があります。答申では、退職所得控除に関しても言及しているからです。

現在の退職所得控除額の計算方法は、以下です。


勤務年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤務年数
20年超800万円 + 70万円 × (勤務年数 - 20年)
出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」

現行制度では、勤務年数20年を超えると、勤務年数20年以下の場合に比べて1年につき30万円も控除額が増えます。

しかし、控除額の見直しがされれば、勤務年数に関わらず、勤務年数に一律40万円を掛けた控除額になると予想されています。そのため、勤続年数が20年を超える場合は、現行制度より退職所得控除額が少なくなる可能性が高いです。

現行の退職所得控除額とサラリーマン増税が行われた場合の退職所得控除額を、勤務年数30年で計算すると以下のようになります。

サラリーマン増税後の退職所得控除の例

  • 現行 : 800万円 + 70万円 × (30年 - 20年) = 1,500万円
  • サラリーマン増税後 : 40万円 × 30年 = 1,200万円

上記の場合、サラリーマン増税が行われれば現行制度と比べ、控除額が300万円少なくなります。

退職所得控除額が少なくなると、実際にもらえる退職金も少なくなるため、退職金に関しても対策を講じておきましょう。

サラリーマンにもできる節税方法

サラリーマン増税が行われると、所得が少なくなる可能性が高いため、今からでも節税対策を検討することが大切です。

サラリーマンにも対応した主な節税対策としては、以下が挙げられます。

主な節税対策

  • ふるさと納税をする
  • iDeCo(確定拠出年金制度)を活用する
  • NISA(少額投資非課税制度)を活用する

各内容を詳しく解説するので、参考にしてください。

ふるさと納税をする

ふるさと納税は、故郷や応援したい自治体に寄附し、確定申告を行えば、寄附額の大半が所得税や住民税から控除される制度です。

ふるさと納税の特徴として以下が挙げられます。

ふるさと納税の特徴

  • 税金還付・控除が受けられる
  • 出身地に限らず、さまざまな地域の自治体に寄附ができる
  • 寄附した自治体から名産品などの返礼品を受け取れる

ふるさと納税では、控除される金額に上限額はあります。ただし、控除上限額の範囲内であれば、寄附額のうち自己負担の2,000円を超える部分が全額控除されます。

たとえば、3万円のふるさと納税を行った場合、自己負担額の2,000円を差し引いた2万8,000円の控除が可能です。

また、ふるさと納税はただ税金が控除されるだけでなく、ふるさと納税を行った自治体から名産品などを返礼品の形で受け取れます。

なお、自己負担分を引いた全額が控除される、ふるさと納税の年間上限額の目安に関しては、総務省の公式ホームページで確認できるので参考にしてください。

iDeCo(確定拠出年金制度)を活用する

iDeCoは、厚生年金や国民年金のような公的年金と別に、個人で積み立てて運用する私的年金制度です。

公的年金ではないため、加入が任意となり、運用した分の金額は満60歳以降に受け取れます。

iDeCoには月間の掛け金に上限が設けられていますが、2025年の税制改正ではiDeCoの掛け金も引き上げとなり、今までより高い節税効果が期待できます。

また、iDeCoは、掛け金を受け取る際に退職所得扱いとなるため、節税を見込めることが大きなメリットです。

iDeCoに加入する場合の加入対象者と、掛け金の変更点は、以下の通りです。


加入対象税制改正前の上限税制改正後の上限
確定給付型の年金および企業型DCに加入していない2万3,000円/月6万2,000円/月
(企業型DCとの合算による上限を撤廃)
企業型DCのみに加入している2万円/月
(企業型DCの事業主掛金額との合計額が5万5,000円の範囲内)
確定給付型の年金のみ、または確定給付型と企業型DCの両方に加入している

ただし、iDeCoの掛け金を受け取るときは注意が必要です。

現行ではiDeCoの掛け金を受け取り、5年後に勤務先からの退職金を受け取れば両方とも退職所得控除が適用されますが、税制改正後はこの期間が5年から10年に延びます。

そのため、今まで通りに60歳でiDeCoを受け取り、65歳で勤務先からの退職金を受け取ると控除額が減少する可能性があります。

iDeCoの節税効果自体がなくなるわけではありませんが、少しでも税負担を軽減したい人は、受取方法も考慮したうえで利用を検討しましょう。

なお、iDeCoの運用商品には、元本確保型のほかに投資信託などもあるため、元本を下回る可能性も考慮して選択してください。

NISA(少額投資非課税制度)を活用する

NISAは2014年にスタートした、少額からの投資を行う人のための非課税制度です。通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合は、売却益や配当に対して税金が発生します。

しかし、NISAは「NISA口座(非課税口座)」内で、毎年一定金額の範囲内で購入した金融商品から得られる利益が非課税になります。

なお、2024年には「一般NISA」「つみたてNISA」をあわせて内容が強化された「新NISA」が導入されました。「新NISA」には、以下の特徴があります。

新NISAの特徴

  • 非課税期間が無期限
  • 「つみたて投資枠」は年間120万円、「成長投資枠」は240万円まで拡大
  • 非課税保有限度額1,800万円まで(成長投資枠は1,200万円まで)
  • 「つみたて投資枠」「成長投資枠」の併用が可能

出典:金融庁「NISAとは?」

新NISAでは、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の両方に投資が可能です。また、NISAへ投資した場合の非課税期間が無制限になるなど、制度の拡充がなされています。つまり、従来のNISAに比べ、より長期間・より自由に投資ができます。

ただし、NISAは投資であるため、必ず元本が保証されるわけではありません。

まとめ

サラリーマン増税は、2023年の中期答申に記載された、給与所得控除や退職所得控除に関連する税制の見直し案に対して、世論が反応してできた造語です。

現段階ではあくまで検討中のため、すぐに税制が改正されるわけではなく、2025年の税制改正にもサラリーマン増税に関する内容は盛り込まれていません。

しかし、将来的にサラリーマン増税が行われた場合は、支払う税金の金額が大きくなる可能性や退職金が少なくなる可能性が高いです。

現状でも政府公認のサラリーマンができる節税対策があるので、税負担を抑えるための対策を身に付けることをおすすめします。

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よくある質問

サラリーマン増税とは?

サラリーマン増税とは、サラリーマンを対象とした税制の見直し案に対して、S世論が反応してできた造語です。

サラリーマン増税を詳しく知りたい方は「サラリーマン増税とは?」をご覧ください。

サラリーマン増税が行われた場合の影響は?

サラリーマン増税が行われると、以下の影響が出る可能性があります。

サラリーマン増税が行われた場合の影響

  • 支払う税金の金額が大きくなる可能性がある
  • 実際にもらえる退職金が少なくなる可能性がある

サラリーマン増税が行われた場合の影響を詳しく知りたい方は「サラリーマン増税が行われた場合の影響」をご覧ください。

監修 安田 亮(やすだ りょう)

1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。

監修者 安田亮