バックオフィスのトレンド情報をまとめて解説!

労働安全衛生法とは? 2024年・2025年の改正事項や事業者の義務などをわかりやすく解説

監修 寺林 智栄 NTS総合弁護士法人札幌事務所

労働安全衛生法とは? 2024年・2025年の改正事項や事業者の義務などをわかりやすく解説

労働安全衛生法の改正により、2023年と2024年に新たな化学物質規制が導入され、2025年には定期健康診断結果報告など一部の手続きで電子申請が義務化されました。

これにより、企業の人事担当者には改正内容を踏まえた対応が求められています。

本記事では、2023年から2025年にかけて実施されている、労働安全衛生法の改正内容を一覧でまとめて紹介します。

目次

中小企業にも大企業並みの福利厚生を!

日常の出費削減と手取りアップを実現する、2つの福利厚生サービス。



低コストで始めやすく、従業員も本当に「嬉しい」サービスです。従業員の生活を豊かにすることで、会社への満足度も向上します。

労働安全衛生法とは

労働安全衛生法とは「職場における労働者の安全と健康を確保する」とともに「快適な職場環境を形成する」目的で制定された法律です。

職場で責任者を選定すべきケースや機械・危険物・有害物の取扱方法など、事業場における安全衛生管理体制に関するルールが定められています。

労働安全衛生法が規定する内容は多岐にわたり、安全衛生教育や作業環境測定、健康診断などさまざまです。企業の人事労務担当者は、労働安全衛生法の内容や各年の改正事項を理解し、法に則った対応を行う必要があります。

出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法第一条」

労働安全衛生法が成立した背景

日本で労働安全衛生法が制定されたのは1972年です。このとき、労働基準法の第5章に労働安全衛生関連の規定が14条盛り込まれていました。

しかし、高度経済成長期に入ると、大規模工事の増加や生産技術の革新により労働環境が急速に変化したことから労働災害が急増し、年間の労働災害死亡者数が6,000人を超える深刻な事態に陥りました。

これに対応すべく、1969年頃から労働省が中心となり、専門家を交えた総合的な労働安全衛生法令の整備に着手しています。

その後、1971年の通常国会で法案が提出され、1972年に可決・成立、労働基準法から安全衛生に関する部分を独立・拡充させる形で現在の「労働安全衛生法」が誕生しました。法律制定後は労働災害による死亡者数が急激に減少し、今でも時代の変化に合わせて継続的に改正がなされています。

労働安全衛生法で事業者に定められている義務

現行の労働安全衛生法で事業者に定められている義務を6つ紹介します。

安全衛生管理体制を整える

事業者には、事業場の規模や業種に応じて、総括安全衛生管理者や安全管理者、衛生管理者、産業医などを選任する義務が定められています。

常時50人以上の労働者を使用する事業場では衛生委員会の設置が義務付けられており、業種と規模に応じて安全委員会も設置しなくてはなりません。管理者等を選任しなかった場合や規定の業務に就かせなかった場合は罰則が科されます。

【関連記事】
産業医の選任義務が発生する条件とは?選任期限や注意点・手順について解説

労働災害を防ぐための措置をとる

事業者には、爆発性・発火性・引火性のある物質や電気・熱などのエネルギーによる危険から労働者を守るため、機械・器具その他の設備に対する危険防止措置を講じる義務があります。

また、有害なガス・粉じん・放射線・排気・排液などによる健康障害の防止や、作業場所での転落防止といった作業環境の安全確保措置も講じなくてはいけません。

元請け企業には、下請け企業の労働者の安全も確保する責任が生じます。万が一、労働災害が発生してしまった場合、事業者は再発防止のための原因究明が求められます。

労働者に安全衛生教育を行う

事業者は、新たに雇い入れた労働者および作業内容を変更した場合に安全衛生教育を実施しなくてはいけません。

また、職長や作業指揮者など、労働者を直接指導・監督する立場の者への教育も必要です。教育内容は、設備・機器のメンテナンスといった「物的」なものと、労働者のスキル向上といった「人的」なものに大別されます。

なお、パート・アルバイトなどの時短勤務者に対しても安全衛生教育の実施が必要です。

労働者の健康保持・増進に向けた措置をとる

事業場は、年1回のストレスチェックと健康診断を実施する必要があり、高ストレス者や長時間労働者には医師による面接指導などの対応を行います。

健康診断結果は労働者本人に通知し、労働基準監督署にも報告して5年間保管する必要があります。有害業務に従事する労働者の場合は特殊健康診断の実施が必要となる点も覚えておきましょう。

リスクアセスメントを実施する

リスクアセスメントとは、職場にある危険性や有害性を特定して評価することです。「危険有害性の特定、リスクの見積り、対策の検討、実施」の手順で実施し、リスクの高いものから優先的に対策を講じ、継続的に職場の安全性を向上させていくのが一般的です。

危険性・有害性のある化学物質についてはリスクアセスメントの実施義務があり、製造業や建設業の事業者にはリスクアセスメントとその結果に基づく措置の実施が義務付けられています。

リスクアセスメントにより危険性や有害性が特定できたら、低減するための具体的な行動に移りましょう。

快適な職場環境を整える

労働安全衛生法では「快適な職場環境の形成のための措置を講ずるよう努めなければならない」とされ、事業者は職場環境を快適に整える努力義務があります。

作業環境の管理・改善の取り組みには「適切な空気環境、防音環境、照明などを整備する」「作業方法の改善により、不自然な姿勢や高い緊張状態が続く作業を減らす」「休憩室のような労働者の心身の疲労回復を図るための施設・設備を設置・整備する」などが挙げられます。

【一覧】2023年~2025年の労働安全衛生法の改正事項

2023年~2025年の労働安全衛生法の改正事項は以下の一覧表のとおりです。

改正内容施行時期
2023年2024年2025年
化学物質管理体系の見直しラベル表示・通知をしなければならない化学物質の追加
ばく露を最小限度にすること
ばく露低減措置等の意見聴取、記録作成・保存
皮膚等障害化学物質への直接接触の防止
衛生委員会付議事項の追加
がん等の遅発性疾病の把握強化
リスクアセスメント結果等に係る記録の作成保存
化学物質労災発生事業場等への労働基準監督署長による指示
リスクアセスメントに基づく健康診断の実施・記録作成等
がん原性物質の作業記録の保存
実施体制の確立化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任義務化
雇入時等教育の拡充
職長等に対する安全衛生教育が必要となる業種の拡大
情報伝達の強化SDS等の「人体に及ぼす作用」の定期確認及び更新
SDS等による通知事項の追加及び含有量表示の適正化
事業場内別容器保管時の措置の強化
注文者が必要な措置を講じなければならない設備の範囲の拡大
管理水準良好事業場の特別規則等適用除外
特殊健康診断の実施頻度の緩和
第三管理区分事業場の措置強化
労働安全衛生関係の一部の手続きの電子申請義務化
危険箇所の作業者の保護対象範囲の拡大、一人親方への周知義務化
出典:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」
出典:厚生労働省「労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます」
出典:厚生労働省「2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について」

2024年の改正事項(新たな化学物質規制)

化学物質を原因とする労働災害は年間450件程度で推移しており、がん等の遅発性疾病も後を絶たない状況です。労働災害を減らすため、労働安全衛生法が改正されて新たな化学物質規制が導入されました。

労働安全衛生法の「新たな化学物質規制」

  • 化学物質管理体系の見直し
  • 実施体制の確立
  • 情報伝達の強化

以下では、2024年に導入された新たな化学物質規制の概要を解説します。

化学物質管理体系の見直し

労働安全衛生法に基づくラベル表示やSDS(安全データシート)による通知等、リスクアセスメント実施の義務対象となる物質(リスクアセスメント対象物)が順次追加されました。対象物質は労働安全衛生総合研究所のサイトで確認してください。

また、「皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止」規定は、2023年までは努力義務でしたが、2024年から義務化されました。皮膚から吸収されて健康障害が起きうる化学物質の製造等をする場合、その物質の有害性に応じて労働者に保護具を使用させる必要があります。

出典:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」

実施体制の確立

2024年から化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任が義務化され、雇入時等の教育の実施対象が拡充されました。

リスクアセスメント対象物の製造等をする事業場では、業種や事業場の規模に関わらず化学物質管理者を選任しなければいけません。リスクアセスメントに基づく措置として労働者に保護具を使用させる事業場では、保護具着用管理責任者の選任が必要です。

また、特定の業種では雇い入れ時等の教育のうち一部教育項目の省略が認められていましたが、この省略規定が廃止されました。危険性・有害性のある化学物質の製造等をする事業場では、化学物質の安全衛生に関する必要な教育を行わなければいけません。

出典:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」

情報伝達の強化

2024年からSDSの通知事項に「(譲渡提供時に)想定される用途及び当該用途における使用上の注意」が追加されています。

また、SDSの通知事項である「成分の含有量の記載」について、従来の10%刻みでの記載方法を改め、重量パーセントの記載が必要となりました。

ただし、他の記載方法で表示している場合でも、重量パーセントへの換算方法を明記していれば重量パーセントによる表記を行ったものとみなされます。

出典:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」

2025年の改正事項

2025年の労働安全衛生法の改正事項は次の2つです。

2025年の労働安全衛生法の改正事項

  • 一部手続きの電子申請の義務化
  • 危険な作業場での保護措置

以下でそれぞれ解説します。

一部手続きの電子申請の義務化(2025年1月~)

労働安全衛生法関連の手続きを効率化するため、2025年1月1日から以下の手続きについて電子申請が原則義務化されました。

電子申請の義務化

  • 労働者死傷病報告
  • 総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医の選任報告
  • 定期健康診断結果報告
  • 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告
  • 有害な業務に係る歯科健康診断結果報告
  • 有機溶剤等健康診断結果報告
  • じん肺健康管理実施状況報告

電子申請を利用するにはe-Govでアカウント登録が必要です。初めて利用する場合は専用サイト「e-Gov電子申請」から利用登録を行ってください。

【関連記事】
e-Govとは?できることやメリット・デメリット|利用前に準備しておくことを解説

出典:厚生労働省「労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます」

危険な作業場での保護措置(2025年4月~)

事業者が行う退避や立入禁止等の措置について、2025年4月から保護措置の対象が拡大されています。

危険箇所等で作業を行う場合、事業者が行う以下の措置について、同じ作業場所にいる労働者以外の人も2025年4月からは対象です。一人親方や他社の労働者・資材搬入業者・警備員なども対象に含まれます。

  • 労働者に対して危険箇所等への立入禁止、危険箇所等への搭乗禁止、立入等が可能な箇所の限定、悪天候時の作業禁止の措置を行う場合、その場所で作業を行う労働者以外の人もその対象とすること
  • 喫煙等の火気使用が禁止されている場所において、その場所にいる労働者以外の人についても火気使用を禁止すること
  • 事故発生時等に労働者を退避させる必要があるときは、同じ作業場所にいる労働者以外の人も退避させること

また、立入禁止とする必要があるような危険箇所等で例外的に作業を行わせるため、労働者に保護具等を使用させる義務がある場合、保護具等使用の必要性の周知を請負人(一人親方・下請業者)に対しても行うことが義務化されます。

出典:厚生労働省「2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について」

労働安全衛生法に適応する手順

事業者が労働安全衛生法に適応するための具体的な手順を紹介します。

STEP1.経営層が安全衛生基本方針を発信する

まずは、安全衛生に関する会社としての基本的な考え方や方向性を明文化します。方針には法令遵守、職場環境改善、労働災害防止への取り組み姿勢などを盛り込みましょう。

この際、経営トップ自らが安全衛生を重視していることを全従業員に示す姿勢が重要です。策定した方針は社内掲示板や社内報、朝礼などを通じて伝達し、全従業員への周知を徹底しましょう。

STEP2.安全衛生に関する目標と計画を立てる

安全衛生基本方針に基づき、具体的な数値目標を設定していきます。実施項目ごとに実施月や強化月間などを設定するのも効果的です。

より効果を見込める体制とするために、定期的に進捗状況を確認し、必要に応じて計画を見直す仕組みも構築しましょう。

STEP3.安全衛生管理体制を整える

事業場の規模や業種に応じて必要な管理者(総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医など)を選任します。安全衛生委員会を設置し、月1回以上の定期的な開催と議事録の作成・保存を行いましょう。

また、各管理者の役割と責任を明確にし、組織図などで可視化します。現場と経営層をつなぐ報告・連絡体制を確立し、情報が迅速に共有される仕組みを構築します。

【関連記事】
安全衛生委員会とは?設置義務や構成メンバー、テーマ選びのコツなどを解説

STEP4.日々の活動で労働災害を防止する

職場の巡視や点検を定期的に実施し、危険箇所や不安全行動を早期に発見・改善しましょう。リスクアセスメントを実施し、危険性や有害性の特定と対策を継続的に行うことが重要です。

KY(危険予知)活動やヒヤリハット報告制度、4Sなどを導入し、現場の安全意識を高めるのがおすすめです。

労働安全衛生法に違反した際の罰則

事業者に労働安全衛生法違反の疑いがあると、労働基準監督署の立ち入り検査の対象となります。違反が発覚した場合、以下のような罰則が科されます。

罰則主な違反内容
50万円以下の罰金・健康診断の未実施
・産業医、衛生委員会などの未設置
・労災発生時の「労働者死傷病報告」の未提出または虚偽報告
6カ月以下の懲役、又は50万円以下の罰金・危険防止や健康障害防止に関する規定の未実施
・無資格での機械運転
1年以下の懲役または100万円以下の罰金・ボイラーやクレーンなど特定機械の検定の未実施
3年以下の懲役または300万円以下の罰金・労働者に重度の健康障害を与える化学物質の製造や輸入、譲渡、使用、提供
出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法第十二章」

まとめ

2023年と2024年に労働安全衛生法が改正され、新たな化学物質規制が導入されたことで、化学物質を扱う企業では管理の方法や体制の見直しが必要になる場合があります。

また、2025年からは一部の手続きで電子申請が義務化されており、これまで電子申請をしていなかった企業では電子申請用のアカウント登録などの対応が必要です。

労働基準法や労働安全衛生法など、労働関係法令の改正内容や趣旨を理解し、法改正に適切に対応することが企業の人事労務担当者には求められます。今後も労働関係法令で改正が行われる可能性があるので、厚生労働省のサイトなどを使って法改正情報を定期的に確認しましょう。

よくある質問

2024年・2025年の労働安全衛生法の主な改正内容は?

2023年に続いて新たな化学物質規制が2024年に導入され、また一部手続きで電子申請が2025年から義務化されました。

労働安全衛生法の改正内容について詳しくは「【一覧】2023年~2025年の労働安全衛生法の改正事項」をご覧ください。

労働安全衛生法で事業者に定められている義務は?

労働安全衛生法では事業者に対し次のような義務を定めています。


  • 安全衛生管理体制を整える
  • 労働災害を防ぐための措置をとる
  • 労働者に安全衛生教育を行う
  • 労働者の健康保持・増進に向けた措置をとる
  • リスクアセスメントを実施する
  • 快適な職場環境を整える

詳しくは記事内「労働安全衛生法で事業者に定められている義務」をご覧ください。

監修 寺林 智栄(てらばやし ともえ)

2007年弁護士登録。2013年頃より、数々のWebサイトで法律記事を作成。ヤフートピックス1位獲得複数回。離婚をはじめとする家族問題、労務問題が得意。

寺林 智栄
フリーがみなさまの「解決したい!」にお応えします。バックオフィスの悩みを一挙解決!詳しくはこちら