監修 松浦 絢子(弁護士)
監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級

医療現場で問題となっているペイシェントハラスメント(ペイハラ)は、患者や家族による医療従事者への迷惑行為を指します。暴言・暴力・セクハラなどが代表的な例です。
ペイハラが放置されると、医療従事者の心身に大きな負担がかかり、離職や医療サービスの質の低下につながる恐れがあります。ペイハラを防止し、発生時に適切に対応するためには、事例や対処法・対策方法を理解しておくことが重要です。
本記事では、ペイハラの具体的な事例や原因、現場での対処法、未然に防ぐための対策方法をわかりやすく解説します。
目次
ペイシェントハラスメント(ペイハラ)とは
ペイシェントハラスメント(ペイハラ)とは、患者やその家族が医療従事者に暴言・暴力などの迷惑行為を行うことです。医療現場におけるカスタマーハラスメント(顧客ハラスメント)にあたります。
ペイハラが発生すると、医療従事者の離職を招いたり、本来の医療業務に支障をきたしたりするおそれがあります。
ペイハラはいたずらレベルの軽微な迷惑行為に留まらず、暴行罪・傷害罪・強制わいせつ罪などに該当するケースもあり、看過できない重大な問題です。
ペイハラの事例
主なペイハラの事例として、以下が挙げられます。
事例の種類 | 具体的な行為 |
---|---|
暴言 |
|
暴力 |
|
脅迫 |
|
不当な要求 |
|
セクハラ・ストーカー |
|
インターネットでの誹謗中傷 | SNSや口コミサイトなどに名誉棄損、プライバシー侵害の情報を載せる |
暴言や暴力は、ペイハラの典型的な事例です。また、土下座や不当な謝罪の強要、金銭的な要求など、悪質な行為が行われるケースもあります。
また、ボディタッチや性的な言動などのセクハラやストーカー行為は、医療従事者に深刻な精神的負担をもたらすハラスメントです。SNSや口コミサイトでの誹謗中傷など、非対面の場でペイハラが行われることもあります。
ペイハラが起こる背景・原因は?
ペイハラが起こる際には、患者側・医療機関側の双方に原因が考えられます。
以下では、患者側が原因となるケースと、医療機関側が原因となるケースをそれぞれ解説します。
患者側が原因となるケース
患者やその家族がペイハラに及んでしまう背景には、個人の性格や心理的要因が関係していることがあります。
たとえば、以下のような傾向があると、気に入らない対応に直面した際にペイハラに及ぶ可能性があります。
医療機関側が原因となるときの状況の一例
- もともと怒りっぽい性格や攻撃的な気質をもっている
- 家庭内や仕事上などのトラブルで苛立ちを抱えている
- 精神疾患などで衝動的・攻撃的な言動が出てしまうことがある
また、患者側の意識の問題や過度な期待がペイハラを引き起こしていることもあります。
「患者はお客様」「治療は当然」などの意識があると、期待通りの結果が出なかったとき、理不尽に怒りをぶつけやすくなります。
医療機関側が原因となるケース
ペイハラは、医療機関側の対応に起因することもあります。医療機関側が原因となる具体的なケースとしては、以下のような状況が挙げられます。
医療機関側が原因となるときの状況の一例
- 長時間患者を待たせてしまった
- スタッフからの説明が不足していた
- 医師や看護師が高圧的な態度で対応してしまった
- 内部での連携ミスで患者に同じ説明を求めてしまった
怪我や病気に不安を抱えて来院した患者が、その気持ちに寄り添った説明・対応を受けられなかった場合、不信感や不満を抱いてしまうことがあります。
ペイハラが起きたときの医療現場での対処法
医療従事者や病院は、実際にペイハラに遭遇した場合に備え、必要な対応を整理しておくことが重要です。ペイハラが起きたときの対処法として、具体的には以下が挙げられます。
ペイハラが起きたときの医療現場での対処法
- 冷静に最後まで話を聞く
- 複数人で対応する
- 毅然とした態度で対応する
- 場所を変えて話を聞く
- 大きな事態が発生した際は警察や弁護士に相談する
- 記録・証拠を保存する
冷静に最後まで話を聞く
患者やその家族から理不尽なクレームを受けた場合でも、途中で反論したり話を遮ったりせず、まずは相手の主張を最後まで聞きましょう。話を遮られることで感情を逆撫でされ、怒りがさらに強まるおそれがあります。
相手の話に耳を傾けることで、不満の具体的な内容が見えてくることもあり、また時間の経過とともに相手が冷静さを取り戻す可能性もあります。
ただし、相手が暴行・脅迫・ひどい暴言・著しく不当な要求などをしている場合は、この限りではありません。
複数人で対応する
ペイハラの対応は、第三者が同席することで、客観的に状況を把握することが可能です。クレームで話を聞く際も、聞き漏れや誤解が生じにくく、互いにフォローもしやすくなるためコミュニケーションの齟齬が防げます。
また、複数人で対応することで、暴力などが発生したときもその場で制止しやすくなり、警察への通報などの対応も迅速に行えます。
毅然とした態度で対応する
理不尽な要求や迷惑行為には、対等な立場を崩さずに毅然とした態度で対応することが重要です。萎縮した対応をすると「強く出れば通る」と誤認されて要求がエスカレートする恐れがあります。
感情的に返すのは避けるべきですが、ルールやモラルに反する要求には明確にノーを伝えることで、さらなるハラスメントの防止につながります。
場所を変えて話を聞く
相手が興奮している場合や、周囲にほかの患者がいる状況では、場所を移して落ち着いて話をすることが有効です。
静かな別室などに移動することで、相手の気持ちが落ち着きやすくなります。プライバシーも確保されるため、相手も本音を話しやすくなり、冷静な対話がしやすくなるでしょう。
また、離れた場所で話を聞くことで、ほかの患者への影響や危害を防ぎ、安全を確保することにもつながります。
大きな事態が発生した際は警察や弁護士に相談する
暴力・脅迫など明らかな犯罪行為に及んでいる場合などは、警察や弁護士などの外部機関に協力を求めることも必要です。医療従事者の安全を最優先に考え、必要と判断した時点ですみやかに相談しましょう。
特に話し合いで解決できない相手には、警察の介入を求めざるを得ないケースもあります。警察と連携体制を築き、事前に相談しておくことで、緊急時にも迅速かつ適切な対応がしやすくなります。
記録・証拠を保存する
ペイハラによるトラブルが警察の介入や法的手続きに発展した際には、被害を裏付ける証拠があるかどうかで状況は大きく変わります。
具体的には、現場の映像やボイスレコーダーの録音データなどが客観的な証拠として有効です。また、会話や状況をメモしておくことも、事実確認の助けになります。
証拠が揃っていれば、病院側が法的措置を含めた対応を取りやすくなり、迅速な解決につながります。
ペイハラへの対策方法
ペイハラに対しては、発生した際に適切に対応するだけでなく、未然に防ぎ、事前に備えるための対策を講じておくことも重要です。医療機関側で取り組める具体的な対策方法は、以下の通りです。
ペイハラへの対策方法
- 病院としての方針をポスターなどで周知する
- スタッフへの教育・研修を実施する
- サポートのための相談窓口を設置する
病院としての方針をポスターなどで周知する
院内掲示のポスターやホームページ、パンフレットなどで、ペイハラへ毅然とした態度で臨む姿勢を周知することで、抑止効果が期待できます。
実際に、多くの医療機関がペイハラへの対応方針を明文化し、周知しています。
スタッフへの教育・研修を実施する
ペイハラが起きやすい場面や傾向、発生時の適切な対応方法をスタッフが理解していれば、いざというときに落ち着いて対応できます。
マニュアルを整備して院内で共有し、定期的に教育・研修を実施することで、組織全体としての対応力が高まります。
サポートのための相談窓口を設置する
ペイハラの対策としては、院内にハラスメント相談窓口を設けるなど、被害が起きた際にすぐ相談できる仕組みを事前に構築しておくことが重要です。
スタッフが精神的な負担を抱え込まずに済むことで心のケアにつながるほか、ペイハラに対して早期に対応しやすくなります。
また、定期的なストレスチェックや上司との面談などの機会を設けることも、ペイハラを含めた職場での問題を早期発見することにつながります。
まとめ
ペイハラとは、患者やその家族が医療従事者に対して行う暴言・暴力・セクハラなどの迷惑行為を指します。
ペイハラが起きたときは、最後まで話を聞く、複数人で対応する、記録・証拠を保存するなどの対処法を実践することで、大きなトラブルを避けられる可能性があります。また、事前の対策として、ポスターなどでの対応方針の周知や、スタッフへの教育・研修なども有効です。
ペイハラの対処法や対策を理解し、院内環境の改善を進めましょう。
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よくある質問
ペイハラの事例は?
ペイハラの事例は、医療従事者への暴言・暴力や謝罪の強要、セクハラやストーカー行為、インターネットでの誹謗中傷などが挙げられます。
詳しくは「ペイハラの事例」をご覧ください。
ペイハラの対策方法は?
ペイハラの対策は、ペイハラへの対応方針を周知する、スタッフへの教育・研修を実施する、サポートのための相談窓口を設置するなどの方法が挙げられます。
詳しくは「ペイハラへの対策方法」をご覧ください。
監修 松浦 絢子弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。
