監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
監修 岡崎 壮史 社会保険労務士・1級FP技能士・CFP

在職老齢年金制度とは、老齢厚生年金の受給者のうち要件に該当する人が働いて給料を受け取る場合に、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される制度です。
年金で生活している人が働けば給与収入は増えますが、在職老齢年金制度により年金収入が減ってしまう場合があります。
老後、年金を受け取りながら働くなら、在職老齢年金制度の仕組みを理解しておきましょう。
本記事では、在職老齢年金制度の仕組みや支給停止額の計算方法、2025年度の制度見直しの影響について解説します。
目次
在職老齢年金制度とは
在職老齢年金制度とは、老齢厚生年金の額と給与や賞与の額に応じて、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となる制度です。
対象者は、以下に該当する人です。
年齢 | 条件 |
---|---|
60歳以上65歳未満 | 老齢厚生年金を受給しており、厚生年金の被保険者として働き給与を受け取っている人 |
65歳以上 | 老齢厚生年金を受給しており、給与を受け取っている人(被保険者かどうかは問わない) |
70歳以上 | 老齢厚生年金を受給しており、厚生年金適用事業所で働き給与を受け取っている人(過去に被保険者だった人) |
なお、在職老齢年金は60歳以上から65歳未満の在職老齢年金制度である「低在老」と、65歳以上の在職老齢年金制度である「高在老」に分かれていましたが、2022年の改正で基準が統一されました。
厚生労働省が公表している2022年度末時点のデータによれば、65歳以上の在職している年金受給権者のうち16%が支給停止の対象となっています。
出典:日本年金機構「在職老齢年金の支給停止の仕組み」
出典:厚生労働省「[年金制度の仕組みと考え方]第10 在職老齢年金・在職定時改定」
出典:厚生労働省「在職老齢年金制度について」
在職老齢年金の支給停止調整額とは
支給停止調整額とは、年金と給料の両方を受け取っている人において、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される基準となる金額です。
老齢厚生年金の「基本月額」と「総報酬月額相当額」が支給停止調整額を超えると、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になります。
- 基本月額:老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
- 総報酬月額相当額:(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷ 12
支給停止調整額は2024年度50万円、2025年度51万円です。基本月額と総報酬月額相当額の合計額が51万円を超える人は、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になります。
出典:日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
出典:厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします」
年金が支給停止される期間と支給停止額の変更時期
年金が支給停止されるのは、基本月額と総報酬月額相当額の合計額が支給停止調整額(2025年は51万円)を超えている期間です。
支給停止額は、総報酬月額相当額が変わった月または退職日の翌月から変更されます。ただし、退職して1ヶ月以内に再就職して厚生年金保険に加入した場合は除かれます。
出典:日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
在職老齢年金の計算方法
在職老齢年金の計算方法は、「基本月額と総報酬月額相当額との合計が支給停止調整額を超えるかどうか」によって変わります。具体的には以下の通りです。
在職老齢年金の計算方法
- 【基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額以下の場合】
・全額支給(年金の減額なし) - 【基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額を超える場合】
・年金額 = 基本月額 -(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 支給停止調整額) ÷ 2」
在職老齢年金が廃止される?制度改正の内容と見直しの影響
厚生労働省の審議会では、在職老齢年金制度の課題として、年金受給者が働いて給料を得ると年金が減ってしまうことから、高齢者の働く意欲が失われることが指摘されています。
企業に雇用されて給料を得ている人は、在職老齢年金制度の対象になるため年金が減ります。一方で、個人事業主として働いている人は在職老齢年金制度の対象外です。このような制度上の不公平感があることも、問題点として挙げられています。
現行制度の問題点を解決するため、制度の改正が議論されているところです。また、在職老齢年金制度は経済の状況を踏まえて改正が行われることもあります。以下では、2025年度と2026年度、それぞれの在職老齢年金制度の支給停止調整額の変更点を解説します。
出典:厚生労働省「在職老齢年金制度について」
2025年度の変更点
在職老齢年金の支給停止調整額は、名目賃金の変動に応じて毎年度改定されます。
近年の賃金上昇を加味して、支給停止調整額は2023年度48万円から2024年度50万円へ、2025年度には51万円へ引き上げられました。
2026年度の変更点
2026年度からは支給停止調整額を62万円に大幅に引き上げ、年金が支給停止にならず満額受給できる人を増やす方向で検討が進められています。
2024年11月の社会保障審議会にて議論された際には、在職老齢年金制度そのものの廃止についても言及されていましたが、2026年度の制度見直しでは廃止ではなく支給停止調整額の引き上げが行われる見込みです。
まとめ
老齢厚生年金の受給者が働いて給料を受け取ると、在職老齢年金制度によって老齢厚生年金額が減ることがあります。年金が減るのは、基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額を超える場合です。
逆に、支給停止調整額を超えなければ全額を受給できるので、年金の一部または全部の支給停止はありません。
年金受給者が働いて給料を得るケースでは、在職老齢年金の支給停止調整額を超えてしまい年金額が減らないか事前に確認しましょう。
在職老齢年金制度には課題があり、制度の廃止も含めて議論・検討されています。制度に関する最新情報は、厚生労働省や日本年金機構のウェブサイトなどで確認するようにしてください。
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よくある質問
在職老齢年金とはどのような制度?
在職老齢年金とは、老齢厚生年金の額と給与や賞与の額に応じて、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となる制度です。
在職老齢年金について詳しくは「在職老齢年金制度とは」をご覧ください。
2025年度・2026年度の在職老齢年金制度見直し内容は?
2025年度には、支給停止調整額が50万円から51万円に引き上げられました。また、2026年度には62万円に引き上げられる可能性があります。
在職老齢年金制度の見直し内容について詳しくは「在職老齢年金が廃止される?制度改正の内容と見直しの影響」をご覧ください。
監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。

監修 岡崎壮史(おかざき まさふみ) 社会保険労務士・1級FP技能士・CFP
マネーライフワークス代表。現在は、助成金申請代行・活用コンサルとして、企業様の助成金の申請代行や活用に向けたサポート業務、金融系サイトへ多くの記事を執筆・記事監修を担当し、社労士試験の受験指導講師としての活躍の場を全国に展開している。
