監修 松浦 絢子(弁護士)

障害者雇用促進法は、障害のある人の就労機会の拡大に向けて、企業へ法定雇用率の達成などを義務付ける法律です。
改正法が2023年・2024年に施行され、雇用率の引き上げなどの変更や、助成金の新設・拡充などがなされました。障害のある人を雇用する際には、障害者雇用促進法の改正内容を理解しておくことが重要です。
本記事では、障害者雇用促進法の改正について、2023年・2024年施行での変更点をそれぞれ詳しく紹介します。
目次
障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法は、厚生労働省が実施する障害者雇用対策のひとつで、障害者が能力を活かし社会で活躍できる環境をつくるための法律です。
障害者雇用促進法の主な内容としては、以下が挙げられます。
障害者雇用促進法の改正内容|2024年4月施行分
- 法定雇用率が2.5%に引き上げ
- 週20時間未満で働く重度の身体・知的障害者、精神障害者の算定特例
- 障害者雇用調整金・報奨金の支給方法の見直し
- 納付金助成金の新設・拡充等
障害者雇用促進法では、「障害者雇用率」が定められています。従業員が一定数以上いる場合、法定雇用率以上の割合で身体障害者・知的障害者・精神障害者の雇用が必要です。
また、障害者雇用を多く実施する事業主の負担を減らすための「障害者雇用納付金制度」や、障害者への合理的配慮の義務も障害者雇用促進法で定められています。
2022年に障害者雇用促進法の法改正が成立し、2023年4月と2024年4月に順次改正法が施行されました。
【関連記事】
障害者雇用とは? 2023年度以降の障害者雇用促進法の変更点について解説
障害者雇用促進法の改正内容|2023年4月施行分
2023年4月施行分では、「職業能力の開発及び向上に関する措置」が事業主の責務に含まれることが明確化されました。
また、精神障害者である短時間労働者への雇用率算定の特例措置が、当面の間は適用されるものとして期間が延長されています。
障害者雇用促進法の改正内容|2023年4月施行分
- 雇用の質の向上のための事業主の責務の明確化
- 精神障害者である短時間労働者の雇用率算定に係る特例の延長
それぞれの改正内容を詳しく紹介します。
雇用の質向上のための事業主の責務の明確化
事業主の責務として「職業能力の開発及び向上に関する措置」が含まれることが明確化されました。障害者雇用促進法での条文は次の通りです。
第五条 全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであつて、その有する能⼒を正当に評価し、適当な雇⽤の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇⽤の安定を図るように努めなければならない。
精神障害者である短時間労働者の雇用率算定に係る特例の延長
2022年度末まで、精神障害者である短時間労働者について、一定の要件を満たした場合に雇用率の計算でひとり分としてカウントする特例措置が設けられていました。
2023年4月以降も、当分の間は特例措置として、ひとり分としてカウントとする措置が継続されています。
また、改正以前は雇入れまたは精神障害者保健福祉手帳の交付から3年以内などの条件がありましたが、改正後の特例措置では期間に関わらずひとり分としてカウントされます。
出典:厚生労働省「令和4年障害者雇用促進法の改正等について」
出典:厚生労働省「精神障害者の算定特例の延長について」
障害者雇用促進法の改正内容|2024年4月施行分
2024年4月施行分では、障害者雇用の拡大に向けて法定雇用率が引き上げられ、助成金の支援が手厚くなりました。
また、実態を踏まえた障害者雇用調整金・報奨金の減額、特に短い時間で働く重度の身体・知的障害者、精神障害者への算定特例も改正法には含まれています。
障害者雇用促進法の改正内容|2024年4月施行分
- 法定雇用率が2.5%に引き上げ
- 週20時間未満で働く重度の身体・知的障害者、精神障害者の算定特例
- 障害者雇用調整金・報奨金の支給方法の見直し
- 納付金助成金の新設・拡充等
それぞれの改正内容を詳しく見ていきましょう。
法定雇用率の引き上げ
障害者の法定雇用率が段階的に引き上げられる予定です。民間企業の法定雇用率は、2024年4月に2.5%に引き上げられました。
民間企業の法定雇用率 | 対象事業主の範囲 | |
---|---|---|
2023年度 | 2.3% | 従業員43.5人以上 |
2024年4月 | 2.5% | 従業員40.0人以上 |
2026年7月 | 2.7% | 従業員37.5人以上 |
また、国・地方公共団体など、都道府県等の教育委員会でも障害者の法定雇用率は段階的に引き上げられます。
民間企業 | 国・地方公共団体など | 都道府県等の教育委員会 | |
---|---|---|---|
2023年度 | 2.3% | 2.6% | 2.5% |
2024年4月 | 2.5% | 2.8% | 2.7% |
2026年7月 | 2.7% | 3.0% | 2.9% |
週20時間未満で働く重度の身体・知的障害者、精神障害者の算定特例
法改正により、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者も雇用率算定でひとりあたり0.5人分として算入できるようになりました。
雇用率算定での人数のカウントをまとめると、次の通りです。
対象区分 | 週所定労働時間 | ||
---|---|---|---|
30時間以上 | 20時間以上30時間未満 | 10時間以上20時間未満 | |
身体障害者(一般) | 1 | 0.5 | - |
身体障害者(重度) | 2 | 1 | 0.5 |
知的障害者(一般) | 1 | 0.5 | - |
知的障害者(重度) | 2 | 1 | 0.5 |
精神障害者 | 1 | 0.5※ | 0.5 |
※0.5ではなく1とカウントする措置は、当分の間延長されている
出典:厚生労働省「3. 特定短時間労働者の雇用率算定について」
なお、当分の間の特例措置として、精神障害者である短時間労働者について、ひとりあたり1人分としてカウントする措置が継続されています。詳しくは「精神障害者である短時間労働者の雇用率算定に係る特例の延長」をご覧ください。
出典:厚生労働省「令和4年障害者雇用促進法の改正等について」
障害者雇用調整金・報奨金の支給方法の見直し
障害者雇用促進法の改正内容は、次の通りです。支給対象人数が一定数を超える場合、障害者雇用調整金・報奨金の支給額が従来に比べて減額されます。
項目 | 支給額の調整内容 |
---|---|
障害者雇用調整金の支給調整について | 支給対象人数が10人を超える場合には、当該超過人数分への支給額を2万3,000円(本来の額から6,000円を調整)とする |
報奨金の支給調整について | 支給対象人数が35人を超える場合には、当該超過人数分への支給額を1万6,000円(本来の額から5,000円を調整)とする |
一般に障害者の雇用に要する費用は雇用者数が増えるほど低減していく傾向にあることなど、障害者雇用に要する費用の実態に基づき調整が図られています。支給額の調整は、2025年度の実績に基づく、2026年度の調整金・報奨金の支払いから適用されます。
なお、「障害者雇用調整金」は、一定規模以上の事業主が障害者雇用率を超えて障害者を雇用する場合に支給されるものです。「報奨金」は、一定規模以下の事業主が一定以上の障害者雇用をする場合に支給されます。
障害者雇用調整金、報奨金の対象・条件・支給額は次の通りです。
障害者雇用調整金 | 報奨金 | |
---|---|---|
対象となる事業主 | 常時雇用している労働者数が100人を超える事業主 | 常時雇用している労働者の数が100人以下の事業主 |
条件 | 障害者雇用率を超えて障害者を雇用している場合に支給 | 各月の常時雇用している障害者の数の年度間合計数が一定数※1を超えている場合(事業主の申請が必要) |
支給額 | 障害者雇用率を超えて雇用している障害者数に応じて支給(令和7年度からは超過1人につき 月額 2万9,000 円を支給※2) | 一定数を超えて雇用している障害者数に応じて支給(令和7年度からは超過1人につき 月額 2万1,000 円を支給※3) |
※1各月の常時雇用している労働者の数の4%の年度間合計数または72人のいずれか多い数
※2調整金の支給対象人数が10人を超える場合、超過人数分への支給額は本来の額から6,000円調整した2万3,000円となる
※3報奨金の支援対象人数が35人を超える場合、超過人数分への支給額は本来の額から5,000円調整した1万6,000円となる
出典:厚生労働省「2. 障害者雇用調整金·報奨金の支給調整について」
出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金制度の概要」
納付金助成金の新設・拡充等
改正により、新たに「障害者雇用相談援助助成金」の制度が開始されました。この助成金は、労働局に認定された事業者が、障害者雇用の知識・ノウハウが不足している事業主へ障害者の採用・雇用管理の支援を提供したときに支給されるものです。
また一方で、既存の助成金については、整理・拡充が行われています。障害者介助等助成金・職場適応援助者助成金・重度障害者等通勤対策助成金が、整理・拡充の対象となっています。
出典:厚生労働省「助成金の新設及び拡充の具体的な内容」
出典:厚生労働省「障害者雇用相談援助助成金」
出典:独立行政法人高齢·障害·求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金関係助成金のごあんない(令和6年度4月版)」
2025年以降に施行される障害者雇用促進法の改正内容について
2025年、2026年にも障害者雇用促進法の法改正が施行される予定です。
2025年4月には、法定雇用率の計算で一部業種に適用されている「除外率」が引き下げられます。除外率は、障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種について、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度です。
2025年4月以降の除外率は、次の通りです。
除外率設定業種 | 除外率 (2025年4月以降) |
---|---|
非鉄金属第一次製錬・精製業・貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く) | 5% |
建設業・鉄鋼業・道路貨物運送業・郵便業(信書便事業を含む) | 10% |
港湾運送業・警備業 | 15% |
鉄道業・医療業・高等教育機関・介護老人保健施設・介護医療院 | 20% |
林業(狩猟業を除く) | 25% |
金属鉱業・児童福祉事業 | 30% |
特別支援学校(専ら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く) | 35% |
石炭・亜炭鉱業 | 40% |
道路旅客運送業・小学校 | 45% |
幼稚園・幼保連携型認定こども園 | 50% |
船員等による船舶運航等の事業 | 70% |
また、障害者の法定雇用率が段階的に引き上げられます。民間企業での法定雇用率は、2024年4月から2.3%から2.5%に引き上げられており、2026年7月からはさらに2.7%に引き上げられる予定です。
まとめ
障害者雇用率などについて定めた「障害者雇用促進法」は、2022年に改正され、2023年4月・2024年4月に順次改正法が施行されています。
2024年4月以降は、民間企業の法定雇用率が2.5%に引き上げられ、2026年7月にはさらに2.7%まで引き上げられる予定です。また、2025年4月以降は、法定雇用率の計算での除外率が引き下げられます。
障害者雇用促進法の改正内容を知って、正しい知識で障害者雇用を進めていきましょう。
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よくある質問
障害者雇用促進法の改正はいつ?
2022年に障害者雇用促進法の改正が成立し、2023年4月、2024年4月に順次施行されています。また、2025年4月に除外率の引き下げ、2026年7月に法定雇用率のさらなる引き上げが実施されます。
詳しくは「障害者雇用促進法とは」「2025年以降に施行される障害者雇用促進法の改正内容について」をご覧ください。
障害者雇用促進法の改正内容は?
2022年の法改正のうち、2023年4月施行分では、「職業能力の開発及び向上に関する措置」が事業主の責務に含まれることが明確化されたほか、雇用率算定の特例措置が延長されています。
2024年4月施行分では、障害者雇用の拡大に向けて法定雇用率が引き上げられた一方で、助成金の新設・拡充により支援も手厚くなりました。
また、障害者雇用調整金・報奨金の調整や、特に短い時間で働く重度の身体・知的障害者、精神障害者への算定特例も2024年4月施行分の改正に含まれています。
詳しくは「障害者雇用促進法の改正内容|2023年4月施行分」「障害者雇用促進法の改正内容|2024年4月施行分」をご覧ください。
監修 松浦 絢子弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。
