近年、歯科医院の経営環境は深刻です。

厚生労働省や歯科医師会の調査によると、「経営の見通しが立たない」「閉院を検討している」と回答する歯科医院が増加しており、経営難が深刻化していることがわかります。

本記事では、経営が厳しくなる歯科医院の特徴と、取り組むべき改善策を解説します。経営の安定と成長を実現したい院長先生は、ぜひ最後までご覧ください。

• 歯科医院経営の厳しい現状
• 経営難に陥る歯科医院の特徴
• 患者数が増えない
• 院長が経営に専念できない
• スタッフの採用・定着が進まない
• 黒字倒産のリスクを抱えている
• 歯科医院の経営を成功させる方法
• 集患施策を強化する
• 経営方針を明確にする
• 診療圏調査を定期的に行う
• DX・ITを導入して業務を効率化する
• スタッフが定着する環境を整える
• スタッフを教育して属人化を防ぐ
• 資金繰りを管理し黒字倒産を防ぐ
• 歯科医院の経営に成功した事例
• 1. 明瞭な経営理念でスタッフと団結し自費診療売上10%アップ
• 2. Web集患によって継続的な新規患者獲得に成功
• 3. IT化で作業時間を年間600時間の削減に成功
• まとめ
• よくある質問

2024年度の「歯科会員アンケート」によると、「経営の見通しが立たない」と回答した歯科医院は19.0％と、歯科医院の厳しい経営状況が明らかになりました。

「閉院を検討している」は9.2％にのぼり、2022年度に実施した前回調査（4.3％）の約2倍に増加しています。特に50代で約2割、60代以上では3割を超える院長が経営に行き詰まりを感じており、深刻な傾向がうかがえます。

また、診療報酬改定後も経営改善にはつながらず、85％が再改定を求めている状況です。経費や人件費の上昇に対し報酬改定が追いつかず、多くの歯科医院がリスクを抱えながら診療を続けている現状が浮き彫りとなっています。

歯科医院の経営が厳しくなる背景には、共通する落とし穴があります。どれだけ医療技術に自信があっても、経営の仕組みが整っていなければ、安定した運営は難しくなります。

自院の現状と照らし合わせながら、どこに課題があるのかを確認してみましょう。

歯科医院の競争が激化するなか、新規患者を獲得できなかったり既存患者数の減少が続いたりする歯科医院は、経営悪化に直結するリスクを抱えています。

現代では、患者がGoogleマップの口コミやSNS、ホームページを活用して複数の歯科医院を比較して選ぶのがあたり前になっています。医療技術だけでなく、通いやすさや院内の雰囲気、スタッフ対応なども判断材料とされるため、歯科医院同士の競争が一段と激化しており、患者数を増やすのが難しい状況です。

院長が日々の診療や雑務に追われ、経営戦略の立案・業務の仕組み化・人材育成といった経営の仕事に時間を割けないのも、経営難に陥る歯科医院の特徴です。

この問題は、院長自身が優秀であるがゆえに、あらゆる業務を自分で抱え込んでしまうケースによくみられます。予約管理や会計、カルテ入力などの業務が効率化されていないことも、院長の貴重な時間が奪われてしまう一因です。

優秀な歯科衛生士やスタッフを採用できない、あるいは採用してもすぐに辞めてしまう歯科医院では、医療サービスの質が低下し、患者離れを招くおそれがあります。

スタッフの採用・定着が進まないのは、歯科衛生士の採用競争が激化していることに加え、働き続けたいと思える職場環境が整っていないことも原因です。

明確な評価制度の欠如や福利厚生の不備、院内のコミュニケーション不足などが離職率を高め、結果的に経営の悪化につながってしまいます。

売上が伸びているにもかかわらず、手元の現金が不足して支払いが滞る「黒字倒産」のリスクを抱える歯科医院は少なくありません。これは、経営破綻の典型的なパターンのひとつです。

黒字倒産の多くは、キャッシュフロー（現金の流れ）を正確に把握できていないことが原因です。

高額な医療機器のリース返済や人件費の増加に加え、保険診療の入金までには約2ヶ月のタイムラグがあります。こうした点を考慮せず、売上だけをみて安心していると、資金繰りは急速に悪化してしまいます。

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歯科医院の経営を安定させるには、院長が日々の診療だけでなく経営そのものを戦略的に見直し、仕組み化していくことが重要です。

ここでは、歯科医院の経営を成功させるための主なポイントについて解説します。

歯科医院経営の基盤である患者数を増やすには「新規患者の獲得」と「既存患者のリピート促進」の両輪を回す戦略的な集患施策が欠かせません。

具体的には、新規獲得のためにMEO対策（Googleビジネスプロフィール）の強化が効果的です。「地域名＋歯医者」で上位表示されるよう、写真を充実させたり口コミへ丁寧に返信したりしてみましょう。

また、SNSで院内の雰囲気やスタッフ紹介、専門的な情報を発信するのも集患につながります。

一方、リピート促進のためには、予約管理システムを活用して定期検診のリマインドメールを自動送信するのが有効です。患者満足度アンケートを実施して不満点を改善し、口コミの質を高めることも重要です。

歯科医院の経営を成功に導くためには、「どのような歯科医院を目指すのか」という経営理念やビジョンを明確にし、それに基づいた戦略を立てることが必要です。戦略が曖昧なままでは、日々の業務に追われ、場あたり的な経営に陥ってしまいます。

まずは「地域の予防歯科をリードする」など、自院の存在意義をはっきり言語化しましょう。

次に、現状分析（自院の強みや競合状況）、数値目標（売上・新規患者数など）、行動計画（誰が・いつまでに・何をするか）をまとめた事業計画書を作成します。

院長自身の「理想の歯科医院像」を明確にし、その計画をスタッフ全員と共有することで、組織全体が同じ方向に進める体制を整えましょう。明確で一貫した経営方針こそが、歯科医院の長期的な成長を支える土台になります。

歯科医院の経営を安定させるには、自院の患者がどの範囲から来院しているのかを確認し、そのエリア内の競合状況や地域特性を把握する「診療圏調査」の実施が重要です。開業時に一度調査しただけでは、変化し続ける市場に対応できません。

たとえば、近隣に新しい競合の歯科医院が開業したり、地域の人口構成が変化したり（子育て世帯の増加や高齢化の進行など）すれば、求められる医療サービスも変わっていきます。現状分析を怠ると、自院の経営戦略が市場ニーズとずれてしまうおそれがあります。

定期的な診療圏調査と競合分析は、自院の強みを再定義し、経営戦略を見直すための重要なステップです。自院での実施が難しい場合は、コンサルタントや専門業者のサポートを受けることも検討するとよいでしょう。

歯科医院経営における課題は、カルテ管理・予約調整・会計処理といったアナログ業務に、過剰な時間と人手がかかっていることにも起因しています。これらを自動化・効率化できれば、院長は経営判断に、スタッフは患者対応や診療補助といった「人にしかできない仕事」に集中できるでしょう。

具体的なツールとして、電子カルテは紙カルテ管理や検索の手間を省くのに役立ちます。予約管理システムは24時間オンライン予約を可能にし、患者の利便性を高めると同時に電話対応業務の削減につながります。

すべてのシステムを一度に導入するのは大変ですが、まずは自院の業務のなかで時間がかかっているボトルネックから改善を始めてみましょう。

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優秀なスタッフの離職を防ぎ、定着率を高めることは、安定した歯科医院の経営に必要です。給与面だけでなく、働きがいと働きやすさを両立できる職場環境を整えましょう。

具体的には、院長とスタッフが1対1で話す定期的な面談を設け、業務上の悩みやキャリアプランを丁寧にヒアリングすることがあげられます。また、スタッフの努力を正当に評価し、昇給や賞与に反映させる明確な評価制度を構築して目標を共有することも大切です。

さらに、社会保険の完備はもちろん、研修費用の補助や資格取得の支援、健康診断の実施など福利厚生の充実も欠かせません。スタッフルームを快適に整える、有給休暇の取得を促進するなど、日々の働きやすさを向上させる取り組みも重要です。

まずは院長自身が率先してスタッフとコミュニケーションを取り、一人ひとりの声にしっかり耳を傾けることから始めましょう。

特定のスタッフの経験や勘だけに頼る属人化した業務運営は、そのスタッフが退職した際に歯科医院の機能が麻痺するリスクを抱えています。

こうしたリスクを防ぐには、教育マニュアルの整備や研修を通じて、組織全体のスキルを底上げすることが欠かせません。スタッフが均一なレベルで業務を遂行できる仕組みを整えれば、急な欠員にも対応できる強い組織になります。

具体的な取り組みとしては、受付対応や電話応対、会計業務の手順などを文書化・動画化し、誰でも確認できる業務マニュアルを作成することがあげられます。

また、新しい医療機器の操作方法や接遇マナー、患者への説明の仕方などをテーマに、定期的な勉強会を開催する院内研修も効果的です。

マニュアル作成や教育体制の構築には時間がかかりますが、一度仕組み化してしまえば長期的な人材育成と経営の安定につながります。

黒字倒産を防ぐには、売上だけでなくキャッシュフローを重視した経営管理が重要です。

特に保険診療では、診療から入金までに約2ヶ月のタイムラグが発生します。その間にも人件費・家賃・材料費・リース料などの支払いが先行するため、売上が伸びているときほど資金繰りが厳しくなり、運転資金が必要になるケースも少なくありません。

高額な医療機器を導入する際には、リース返済がキャッシュフローを圧迫しないか、費用対効果を事前にシミュレーションし、慎重に投資計画を立てることが重要です。

ここでは、実際に経営改善に成功した歯科医院の事例を紹介します。

「患者様の10年後の健康を守る予防歯科」という明確な経営理念を策定し、スタッフ全員に徹底して共有したケースを紹介します。

以前、こちらの歯科医院では、院長が自費診療を増やしたいと考えても、スタッフは「押し売りになるのでは」と不安を感じ、保険診療中心の業務に偏っていました。

しかし、院長の想いを理念として言語化したことで、スタッフが「何のために働くのか」という共通の目標を持てるようになり、組織全体に一体感が生まれました。

理念を共有したことで意識が変わり、歯科衛生士が主体となって予防カウンセリング用の資料を作成するといった、積極的な行動もみられるようになったそうです。

スタッフが自信をもって患者に予防の重要性を説明できるようになった結果、患者の信頼を得ることができ、自費診療への移行率が向上しました。

こちらは、競合の多い都市部でWeb集患へ集中的に投資し、継続的な新規患者の獲得に成功した事例です。

この歯科医院は、スマートフォンで「地域名＋歯医者」「地域名＋インプラント」といった具体的なニーズで検索する患者の行動に着目し、さまざまなWeb施策を展開しました。

具体的には、MEO対策として、診療時間の明記や院内写真の充実、口コミへの全件返信を徹底。さらにホームページでは、インプラント専門といった自院の強みを前面に打ち出し、症例紹介や治療に関するコラム記事を定期的に更新しました。

以前はホームページが古く、新規患者の多くが紹介頼みだったこともあり患者数が不安定でしたが、これらの対策を実施した結果、Googleマップ検索での表示順位がエリア内で上位にランクイン。電話問い合わせやWeb予約が増加し、特に自費診療を希望する質の高い患者が増えました。

こちらは、「多忙で患者対応や経営に専念できない」という悩みを、予約管理システム・Web問診・キャッシュレス決済の3つを導入することで解決した事例です。

以前、こちらの歯科医院の予約は電話対応が中心で、聞き間違いや転記ミスが頻発していました。そして来院後に患者が記入した紙の問診票を、スタッフが電子カルテへ手入力していました。

しかし、ITツールを導入したことで、患者自身がオンラインで予約や問診入力を行えるようになり、電話対応・予約の転記・問診票の入力といった業務が削減。キャッシュレス決済によって会計もスムーズになったことで、年間約600時間もの作業時間の削減に成功しました。

受付スタッフは定型業務から解放され、患者対応に集中できるようになり、院長も経営や戦略を考える時間を確保できるようになりました。

近年の調査から、歯科医院の経営環境は厳しさを増しています。競争の激化・人材不足・黒字倒産のリスクなど、多くの課題を抱えるなかで安定した経営を続けるには、明確な経営方針と戦略的な取り組みが欠かせません。

歯科医院の経営にお悩みの院長先生は、本記事で紹介した7つの改善策を実践し、集患の強化・業務効率化・人材育成・資金管理といった経営の基盤を整えることから始めてみてください。

なお、会計管理を効率化したい方は「freee会計」の導入がおすすめです。クラウドでリアルタイムに収支を可視化でき、経営判断をスピーディに行えるようになります。歯科医院の安定経営の第一歩として、ぜひ導入をご検討ください。

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現時点で、歯科医院の廃業率を示すデータは公表されていないようです。

しかし、歯科医院の廃業数に関するデータが公表されているので、こちらを紹介します。

帝国データバンクの調査によると、2024年は1月から10月までに126件の歯科医院が廃業しています。2023年の1年間に廃業した104件を、ハイペースで超える結果になりました。

その背景には、歯科医院数がコンビニエンスストアの店舗数を上回るとも言われるほどの過当競争があります。競合する歯科医院との競争激化や保険診療報酬の変動、人件費・最新機材への投資コストの高騰などが、経営を圧迫する要因となっています。

そのほか、歯科医院が経営難に陥る原因は「経営難に陥る歯科医院の特徴」でご覧ください。

現在、歯科医院の経営は厳しい状況にあります。

2024年度の「歯科会員アンケート」では、「経営の見通しが立たない」と回答した歯科医院が19.0％、「閉院を検討している」と回答した歯科医院が9.2％という結果が得られました。

詳しい歯科医院の経営状況は、「歯科医院経営の厳しい現状」をご覧ください。

個人経営の歯科医院における1日の平均売上は、約18～19万円とされています。

これは厚生労働省の「第24回医療経済実態調査」に基づく年間売上（約4,700万円前後）を、年間の診療日数（約250日）で割って算出した数値です。

ただし、売上は歯科医院の立地や診療内容などによって変動します。

「第24回医療経済実態調査」によると、歯科医院の個人経営の年収は約1,238万円という結果が報告されています。

ただし、設備投資や人件費などの経営コストや、景気や地域による患者数の変動に左右されるものなので、その点は頭に入れておきましょう。