監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
監修 鶏冠井 悠二

「出生後休業支援給付金」とは、夫婦そろって育休を取得し、一定の要件を満たした場合に、従来の育児休業給付金に上乗せで受給できる給付金です。
本制度は、育休中の収入減少を補うためのもので、夫婦そろって育休を取得した場合に、従来の育児休業給付金に上乗せで給付金を受給できる制度です。
創設に伴って育児休業給付金の申請に関する業務フローが変わるため、企業は内容を正しく理解し、準備する必要があります。
本記事では、出生後休業支援給付金の支給額や要件・申請方法・企業が取るべき対応を解説します。
目次
【2025年4月創設】出生後休業支援給付金とは
「出生後休業支援給付金」とは、子の出生直後の一定期間に、両親そろって14日以上の育休を取得した場合に、最大28日間支給される給付金です。
従来の「出生時育児休業給付金」や「育児休業給付金」を受給する人が、一定の要件を満たした場合に上乗せで受給できる給付金として創設されました。
なお、出生後休業支援給付金と同時に創設された「育児時短就業給付金」は、雇用保険の被保険者が2歳未満の子を養育するために、所定労働時間を短縮して就業した場合に支給される給付金です。
出典:厚生労働省「2025年4月から「出生後休業支援給付金」を創設します」
出典:厚生労働省「育児時短就業給付の内容と支給申請手続」
現行の育児休業給付金制度

出生後休業支援給付金は、従来の育児休業給付金に上乗せして支給される給付金であり、単体では受け取れません。
したがって、出生後休業支援給付金を受給するためには、まず前提として、出生時育児休業給付金または育児休業給付金の支給要件を満たしている必要があります。
出生時育児休業給付金
出生時育児休業(産後パパ育休)を取得し、一定の要件を満たすと、出生時育児休業給付金が支給されます。なお、産後パパ育休は、1歳までの育児休業とは別に、子の出生後8週間内に4週間(28日)まで取得できる育休制度です。
出生時育児休業給付金を受給するための主な要件は、以下の通りです。
出生時育児休業給付金の主な支給要件
- 産後パパ育休を取得した被保険者である
- 休業開始日前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の)完全月が12ヶ月以上ある
- 休業期間中の就業日数が最大10日(10日を超える場合は就業した時間数が80時間)以下である
出典:厚生労働省「育児休業等給付の内容と支給申請手続」
育児休業給付金
育児休業給付金とは、雇用保険の被保険者が、原則1歳未満の子を養育するために育休を取得(2回まで分割取得が可能)した場合に支給される給付金です。
主に以下の要件を満たす場合に支給されます。
育児休業給付金の主な支給要件
- 1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した被保険者である
- 休業開始日前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の)完全月が12ヶ月以上ある
- 一支給単位期間中の就業日数が10日(10日を超える場合は就業した時間数が80時間)以下である
出典:厚生労働省「育児休業等給付の内容と支給申請手続」
出生後休業支援給付金の目的
出生後休業支援給付金が創設された主な目的は、男性の育休取得を促進することです。
近年、男性の育休取得率は年々上昇しており、2023年度には過去最高の30.1%となりました。しかし、「収入を減らしたくない」「育休を取得しにくい雰囲気だった」などの理由で、育休を取得しないケースも見られます。
そこで、母親の心身の回復や新生児の育児において、周囲の支援が必要になりがちな出生直後の給付を手厚くし、特に父親の育休取得を促進するために出生後休業支援給付金が創設されました。
出典:厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」
出典:厚生労働省「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」
出生後休業支援給付金の支給額
出生後休業支援給付金の支給額は、育休前の賃金の13%相当です。
支給額 = 休業開始時賃金日額※ × 休業期間の日数(最大28日間)× 13%
※休業開始時賃金日額は、同一の子にかかる最初の出生時育児休業(または育児休業)の開始直前直近6ヶ月間の賃金の総額を180で割った金額です。
現行の出生時育児休業給付金、または育児休業給付金の給付率は67%であるため、出生後休業支援給付金とあわせると、育休前の賃金の80%相当になります。

これらの給付金が非課税である点、また育休中は申出によって社会保険料が免除される点などを考慮すると、支給額は育休前の手取りの10割相当です。
最大28日間の上限はありますが、育休前の給与と同程度の給付金を受け取れるため、男性の育休取得が進むことが期待されます。ただし、休業開始時賃金日額には上限額(1万5690円)が設けられています。
出典:厚生労働省「育児休業等給付について」
出典:厚生労働省「2025年4月から「出生後休業支援給付金」を創設します」
出生後休業支援給付金の支給要件
出生後休業支援給付金は、原則として両親ともに14日以上の育休を取得することを要件としています。具体的には、被保険者・被保険者の配偶者に関してそれぞれ以下の要件を満たさなければなりません。
区分 | 要件 |
---|---|
被保険者 | 「対象期間」に、同一の子について産後パパ育休または育児休業を14日以上取得した |
被保険者の配偶者 | 「子の出生日または出産予定日のうち早い日」~「子の出生日または出産予定日のうち遅い日から起算して8週間を経過する日の翌日」までに14日以上の育児休業を取得した |
「対象期間」とは、それぞれ以下の期間を指します。
区分 | 対象期間 |
---|---|
被保険者が父親の場合または子が養子の場合 | 「子の出生日または出産予定日のうち早い日」~ 「子の出生日または出産予定日のうち遅い日から起算して8週間を経過する日の翌日」までの期間 |
被保険者が母親かつ子が養子でない場合 | 「子の出生日または出産予定日のうち早い日」~ 「子の出生日または出産予定日のうち遅い日から起算して16週間を経過する日の翌日」までの期間 |
簡単にいうと、子どもが生まれてから約2ヶ月(母親の場合は約4ヶ月)の間に、夫婦それぞれが14日以上の育休を取得する必要がある、ということです。
ただし、「配偶者の育児休業を要件としない場合」に該当する場合は、本人のみ育休を取得すれば受給が可能です。
出典:厚生労働省「2025年4月から「出生後休業支援給付金」を創設します」
配偶者の育休取得が要件にならないケース
「配偶者の育児休業を要件としない場合」とは、子の出生日の翌日時点で、①~⑦のいずれかに該当する場合です。
配偶者の育児休業が要件とならないケース
- 配偶者がいない
- 配偶者と被保険者の子が法律上の親子でない
- 被保険者が配偶者から暴力を受けて別居している
- 配偶者が専業主婦(主夫)
- 配偶者が雇用される労働者でない(自営業者やフリーランスなど)
- 配偶者が産後休業中である
- ①~⑥以外の理由で配偶者が育休を取得できない(日雇労働者など)
なお、被保険者が父親の場合、多くの場合は上記のいずれか(主に④~⑥)に該当するため、母親の育休取得は要件になりません(子が養子の場合を除く)。
出典:厚生労働省「2025年4月から「出生後休業支援給付金」を創設します」
出生後休業支援給付金の申請方法
出生後休業支援給付金の申請は、出生時育児休業給付金または育児休業給付金の申請とあわせて、原則として事業主が行います。
支給申請書は、出生時育児休業給付金または育児休業給付金の支給申請書と兼ねているため、別途用意する必要はありません。
ただし、出生時育児休業給付金または育児休業給付金の支給決定後、出生後休業支援給付金の支給申請を単独で行う場合には、別途申請書が必要です。
出生後休業支援給付金の支給要件を満たす場合は、出生時育児休業給付金または育児休業給付金を申請する際の記入項目に加えて、以下のいずれかひとつの項目を記入します。
項目 | 記入するケース |
---|---|
①「配偶者の被保険者番号」欄 | 配偶者が雇用保険の被保険者で、出生時育児休業または育児休業を一定の期間に14日以上取得した場合 |
②「配偶者の育児休業開始年月日」欄 | 配偶者が公務員で、各種法律に基づく育児休業を一定の期間に14日以上取得した場合 |
③「配偶者の状態」欄 | 配偶者が子の出生日の翌日時点で「配偶者の育児休業を要件としない場合」に該当する場合 |
なお、配偶者が母親の場合は一定の期間に育休を取得することはないため、被保険者が父親の場合は③に該当します(子が養子の場合を除く)。
出典:厚生労働省「2025年4月から「出生後休業支援給付金」を創設します」
出生後休業支援給付金の申請期間
出生後休業支援給付金の申請期間は、出生時育児休業給付金と育児休業給付金のどちらを受給するかによって異なります。
区分 | 申請期間 |
---|---|
出生時育児休業給付金と出生後休業支援給付金を受給する場合 | 原則、子の出生日(出産予定日前に出生した場合は出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日※~申請開始日から起算して2ヶ月を経過する日の属する月の末日まで |
育児休業給付金と出生後休業支援給付金を受給する場合 | 被保険者の育児休業開始日から起算して4ヶ月を経過する日の属する月の末日まで |
※①出生時育児休業の取得日数が28日に達した場合は達した日の翌日、②2回目の出生時育児休業をした場合はその休業終了日の翌日
なお、出生後休業支援給付金は原則として出生時育児休業給付金、または育児休業給付金と一体で申請しますが、単独での申請も可能です。
単独で申請する場合は、出生時育児休業給付金または初回の育児休業給付金の支給決定後~被保険者の育児休業開始日から起算して4ヶ月を経過する日の属する月の末日までに申請します。
出典:厚生労働省「育児休業等給付の内容と支給申請手続」
出生後休業支援給付金の創設に伴って企業が取るべき対応
企業は、出生後休業支援給付金の内容や申請を正しく理解し、スムーズに対応できるように体制を整える必要があります。取るべき主な対応は、以下の通りです。
従業員への周知
- 業務フローの見直し
- 従業員への周知
申請書の不備や提出の遅れなどが起きないよう適切に対応しましょう。
業務フローの見直し
出生後休業支援給付金の創設によって支給申請書の記入項目が増えるほか、配偶者の状況確認が必要となるなど、企業の実務に影響が生じます。
また、給付率が上がり、育休を取得する従業員が増えることが期待されるため、申請にかかる業務の負担が大きくなる可能性があります。提出期間内に確実に申請できるよう、業務フローの見直しやマニュアルの更新を行いましょう。
出典:厚生労働省「2025年4月から「出生後休業支援給付金」を創設します」
従業員への周知
企業は、希望する従業員が出生後休業支援給付金を受給できるように周知しなければなりません。主な方法は以下の通りです。
従業員に周知する主な方法
- 社内説明会を実施する
- 社内報やポスターなどで周知する
- 取得事例を紹介する
周知と同時に、研修を実施して制度への理解を深める、業務引き継ぎの体制を整えるなど、育休を取得しやすい職場づくりも求められます。
なお、育児・介護休業法の改正に伴い、2025年10月から「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」が義務付けられます。企業は、以下の時期に、仕事と育児の両立に関して各家庭の事情に応じた従業員の意向を個別に聴取しなければなりません。
まとめ
出生後休業支援給付金は、出生直後に両親がそろって14日以上の育休を取得した場合に、現行の育児休業給付金に上乗せして受給できる給付金です。
育児休業給付金とあわせると給付率が休業開始前の賃金の80%相当(手取りの10割相当)となるため、育休の取得が進むと予想されます。
企業は、従業員が円滑に給付金を受けられるように業務体制やマニュアルなどの見直しを行い、従業員への周知を徹底しましょう。
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よくある質問
出生後休業支援給付金とは?
出生後休業支援給付金とは、子の出生直後の一定期間に、両親が14日以上の育休を取得した場合に、最大28日間支給される給付金です。
詳しくは「【2025年4月創設】出生後休業支援給付金とは」をご覧ください。
出生後休業支援給付金はいつからいつまでに申請する?
出生時育児休業給付金と併用する場合は、子の出生日から8週間経過後の翌日から2ヶ月以内、育児休業給付金と併用する場合は、育休開始から4ヶ月以内が目安です。
なお、出生後休業支援給付金は原則として出生時育児休業給付金または育児休業給付金と一体で申請しますが、単独での申請も可能です。
詳しくは「出生後休業支援給付金の申請期間」をご覧ください。
監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。
HP:有限会社ライフスタッフ

監修 鶏冠井 悠二(かいで ゆうじ)
コンサルタント会社、生命保険会社を経験した後、ファイナンシャルプランナーとして独立。「資産形成を通じて便利で豊かな人生を送って頂く」ことを目指して相談・記事監修・執筆業務を手掛ける。担当分野は資産運用、保険、投資、NISAやiDeCo、仮想通貨、相続、クレジットカードやポイ活など幅広く対応。現在、WEB専門のファイナンシャルプランナーとして活動中。
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