監修 北田 悠策 公認会計士・税理士

100億宣言とは、中小企業が売上高100億円の実現に向けた取り組みを行っていくことを宣言する制度です。
2025年に開始される本制度は、中小企業成長加速化補助金の申請要件のひとつにもなっており、多くの企業から注目を集めています。
経営者ネットワークへ参加できる・ロゴマークが使用できるなどのメリットもあり、自社の取り組みを対外的にアピールする手段として有効です。
本記事では、100億宣言の概要やメリット、注意点をわかりやすく解説します。
目次
中小企業成長加速化補助金の申請要件とされる「100億宣言」
「100億宣言」とは、中小企業が売上高100億円を目指し、実現に向けた取り組みを行っていくことを宣言するものです。
中小企業庁・独立行政法人中小企業基盤整備機構が主体となって実施される、売上高100億円に向けて挑戦する企業・経営者を応援するプロジェクトです。
第1弾は売上高10億円以上100億円未満の中小企業を対象として、2025年5月8日から申請受付が開始されました(2025年6月16日時点では第2弾以降は未公表)。
100億宣言を行うことで、企業の成長を目指す姿勢を対外的にアピールでき、中小企業成長加速化補助金にも申請できます(補助金の詳細は後述します)。
出典:中小企業庁「100億宣言とは」
出典:中小機構 中小企業庁 経済産業省100億企業成長ポータル「100億宣言とは」
100億宣言に関連した施策が実施される理由
中小企業庁「100億宣言とは」の資料によると、100億宣言が目指す方向性として、以下が挙げられています。
100億宣言に関連した施策が実施される背景・趣旨
- 成長型経済への移行の鍵を握る中小企業などを後押しする
- 地域経済で雇用を生み出す、稼ぐ力を伸ばす企業を創り出す
出典:中小企業庁「100億宣言とは(「100億宣言」に込めた想い)」
日本経済は、過去30年間、リーマンショック・大規模自然災害・新型コロナウイルス感染症の流行などの難局に直面してきました。
そのなかで、賃上げと投資が牽引する成長型経済を実現するためには、中小企業・小規模事業者の役割が重要であると述べられています。
また、地域経済に良質な雇用を生み出すためには、国内外の需要の開拓や積極的な投資で稼ぐ力を伸ばす企業が必要であることにも触れられています。
こうした背景があり、政府は100億宣言の施策を実施する方針を打ち出しました。
100億宣言に記載する内容
中小企業庁のウェブサイトに100億宣言のひな形・記載例が公開されています。
ひな形・記載例に沿って、以下の内容を記載します。記載した内容は特設サイトに掲載されるため、公表を前提に作成しましょう。
100億宣言に記載する主な内容
- 企業理念・100億宣言に向けた経営者メッセージ
- 売上高100億円実現の目標と課題
- 売上高100億円実現に向けた具体的措置
- 企業ロゴ、企業の情報(本社所在地、従業員数、現在の売上高など)
1ページ目に書ききれない場合は、2ページ目の自由記載欄に記載します。
自由記載欄には、実施目標のグラフなども掲載可能です。グラフのテンプレートはひな形から確認してください。
出典:中小企業庁 独立行政法人中小企業基盤整備機構「100億宣言申請要領」
100億宣言の提出の流れ
資料を作成したら、PDF形式で100億企業実行事務局へ提出します。提出は、オンライン上で可能です。
提出後は、100億企業実行事務局で確認のうえ100億企業実行事務局が運営するポータルサイトに掲載されます。
100億宣言のメリット
100億宣言を行うと、企業の成長に役立つ各種制度・仕組みが利用できます。
100億宣言のメリット
- 中小企業成長加速化補助金に申請できる
- 「経営者ネットワーク」に参加できる
- 公式ロゴマークで企業の取り組みをアピールできる
100億宣言後は、一定の要件を満たすことで中小企業成長加速化補助金に申請できるようになります。また、経営者同士のつながりがつくれることや、公式ロゴマークを名刺などに利用できるため、取り組みを対外的にアピールできることがメリットです。
100億宣言のメリットを、以下でそれぞれ紹介します。
中小企業成長加速化補助金に申請できる
中小企業成長加速化補助金は、売上高100億円を目指す中小企業の設備投資を支援する補助金制度です。建物費・機械装置費・ソフトウェア費・外注費・専門家経費を対象に、最大5億円が支援されます。
対象者 | 売上高100億円を目指す中小企業 ※売上高が10億円以上100億円未満であることが必要 |
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補助上限額 | 最大5億円(補助率:1/2以内) |
補助対象要件 | ・「100億宣言」を行っていること ・投資額1億円以上(専門家経費・外注費を除く補助対象経費分) ・一定の賃上げ要件を満たす今後5年程度の事業計画の策定(賃上げ実施期間は補助事業終了後3年間) |
補助対象経費 | 建物費・機械装置費・ソフトウェア費・外注費・専門家経費 |
募集期間 | 2025年5月8日から2025年6月9日まで |
中小企業成長加速化補助金では、100億宣言を行い、投資額や事業計画の要件も満たすことで、補助の対象となります。
また、売上高100億円を目指すことで、税制上のメリットが受けられる予定です。2025年夏以降に、売上高100億円を目指す企業への経営強化税制の拡充措置が予定されています。
出典:中小企業庁「100億宣言」
出典:J-Net21「売上高100億円を目指す企業の登録を5月に開始:中小企業庁・中小機構」
「経営者ネットワーク」に参加できる
100億宣言を行うと、100億企業を創出するための経営者ネットワークに参加できます。経営者ネットワークは、地域・業種を超えたネットワークで、高い成長意欲・悩み・解決策を共有できるものです。
また、経営者同士のつながりを強めるイベントとして、ネットワークイベント・交流会などの実施も予定されています。
出典:経済産業省「100億企業を創出するための経営者ネットワーク」
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「公募審査(採択)結果の公表」
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「「100 億企業実行事務局」のうち宣言関連業務に係る仕様書」
公式ロゴマークで企業の取り組みをアピールできる
100億宣言をした企業は、数字の「100」、飛翔する「龍」をモチーフとした公式ロゴマークの使用が可能です。デザインには、人手不足や物価高など多様な課題の解決に向けて挑戦する経営者が表現されています。
名刺などに公式ロゴマークを記載することで、対外的に取り組みをアピールできます。
100億宣言の注意点
100億宣言やその関連施策は、中小企業にとって有用ではあるものの、いくつか注意すべき点があります。
100億宣言の注意点
- 100億宣言の掲載が認められないケースがある
- 中小企業成長加速化補助金の採択率は低いことが予想される
- 100億宣言後のフォローアップと実績報告が必要
100億宣言の掲載が認められないケースがある
100億宣言に申請する企業は、以下の事項の宣誓書を添付のうえ申し込んでください。以下の事項に反すると、掲載が認められない可能性があります。
申請時に宣誓する事項
- 役員に暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者がいないこと
- 暴力団員などが企業の事業活動を支配していないこと
- 風営法第2条各項に定める事業を行っていないこと
- 以下のいずれの行為も行っていないこと
・公序良俗に反する行為
・法令に違反するまたは違反する恐れがある行為
・消費者保護または取引適正化の観点から不適切であると認められる行為
・申請時に虚偽の内容を含む行為
・その他制度趣旨にそぐわない行為 - 上記①~④について申請の際の状況を維持すること
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「100億宣言 公表要領」
宣言企業が、宣誓書で宣誓した内容と異なる状況にあれば、ポータルサイト上への掲載が取りやめとなります。また、宣誓した内容が維持されていることが確認できない場合も同様です。
中小企業成長加速化補助金の採択率は低いことが予想される
独立行政法人中小企業基盤整備機構によると、中小企業成長加速化補助金の公募は2026年度末までに3回程度実施される予定です。累計で600社程度の事業者に対して補助金の交付が想定されています。
補助上限額が5億円(補助率が1/2)と大きな金額であるため、600社を上回る応募が集まることも予想されます。100億宣言を実施しても、必ずしも補助金に採択されるとは限らないことを理解しておきましょう。
また、採択率を高めるために、中小企業診断士などの専門家に相談して、申請時に提出する書面のチェックやアドバイスを受けることも検討しましょう。
出典:中小企業基盤整備機構「「100 億企業実行事務局」のうち中小企業成長加速化補助金(中小企業成長加速化支援事業)を実施する補助事業者の公募要領」
100億宣言後のフォローアップと実績報告が必要
100億宣言とあわせて中小企業成長加速化補助金を受ける場合、補助金の交付を受けた後に、事業化状況報告や知的財産等報告が必要です。
また、100億宣言を機に企業の成長を目指す場合、事業の進捗をウェブサイトなどで随時報告することも重要です。定期的な進捗の報告は、投資家、金融機関、地域、顧客などの利害関係者からの信頼にもつながります。
100億宣言と経営強化税制
売上高100億円を目指す企業は、100億宣言とあわせて、中小企業経営強化税制の拡充措置によるメリットが受けられる予定です。
中小企業経営強化税制は、中小企業の設備投資を支援する制度です。設備投資をして生産性向上や収益力強化、デジタル化推進などを図る場合、その購入費用などの負担を税制優遇措置で軽減できます。
出典:中小企業庁「中小企業経営強化税制」
中小企業経営強化税制の適用期限は2025年3月末まででしたが、税制改正により期間が2年間延長されました。また、2025年度の税制改正において、以下の拡充措置が盛り込まれています。
中小企業経営強化税制の拡充措置
- 対象設備に建物を追加
- 建物に対して特別償却(最大25%)または税額控除(最大2%)を選択適用できる
上記の拡充措置では、売上高100億円を目指す企業が建物を新増設した際に、以下の条件で特別償却または税額控除を選択適用できます。
年度末の雇用者給与支給総額が前年度末と比較して2.5%以上増加した場合 | 特別償却15%または税額控除1%の選択適用が可能 |
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年度末の雇用者給与支給総額が前年度末と比較して5.0%以上増加した場合 | 特別償却25%または税額控除2%の選択適用が可能 |
出典:経済産業省「令和7年度(2025年度)経済産業関係 税制改正について」
年度末の雇用者給与支給総額が前年度末から5.0%以上増加した場合に、最大の特別償却または税額控除の適用が可能です。
売上高100億円を目指す企業への経営強化税制の拡充措置の実施は、2025年夏以降に予定されています。
まとめ
100億宣言とは、中小企業が売上高100億円を目指し、実現に向けた取り組みを行っていくことを宣言するものです。
100億宣言を行った企業は、要件を満たすことで中小企業成長加速化補助金への申請が可能です。ほかにも、経営者ネットワークへの参加や、公式ロゴマークの使用も認められるようになります。
100億宣言の申請は、2025年5月8日から受付を開始しました。ひな形を使用して100億宣言を作成し、100億企業実行事務局へ提出を行います。申請を予定しているなら、中小企業庁のウェブサイトなどを確認し、準備を進めていきましょう。
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よくある質問
100億宣言とは?
「100億宣言」とは、中小企業が自ら「売上高100億円」を目指し、実現への取り組みを行うことを宣言するものです。
詳しくは、記事内「中小企業成長加速化補助金の申請要件とされる「100億宣言」」をご覧ください。
100億宣言を作成・提出することで享受できるメリットとは?
中小企業成長加速化補助金に申請できる、経営者ネットワークに参加できる、公式ロゴマークを使用できるなどのメリットがあります。
詳しくは、記事内「100億宣言のメリット」をご覧ください。
監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。
