監修 橋爪 祐典 税理士
損益分岐点比率とは、実際の売上高に対して損益分岐点売上高が占める割合を示す財務指標です。損益分岐点比率を把握することで、現在の経営状態が黒字・赤字のどちらに近いかを客観的に判断できます。
損益分岐点比率が低いほど経営の安定性が高く、売上が落ち込んでも赤字になりにくい構造であることを意味します。一般的な目安は、80%以下であれば安全性が高く、90%を超えると危険水準、100%を超えると赤字の状態です。
本記事では、損益分岐点比率の概要や安全余裕率との違い、計算方法、業種別の目安、経営改善に向けた具体的な対策を解説します。
目次
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損益分岐点比率とは売上高に対する損益分岐点売上高の割合
損益分岐点比率(BEP比率)とは、実際の売上高のなかで損益分岐点売上高が占める割合を示す財務指標です。企業の収益構造や経営の安全性を数値で把握するために利用されます。
損益分岐点比率が低いほど、売上が大きく減少しても赤字に転落しにくく、経営が安定していることを示します。反対に比率が高いほど、わずかな売上の落ち込みでも赤字になるリスクが高まります。
なお、損益分岐点比率を理解するうえで欠かせないのが、損益分岐点売上高です。損益分岐点売上高とは、売上高と総費用(固定費+変動費)がちょうど等しくなり、利益がプラスマイナスゼロになる売上金額のことです。実際の売上高が損益分岐点売上高を上回れば黒字、下回れば赤字となるため、経営の安全性を測るうえでの重要な基準となります。
損益分岐点比率と安全余裕率の違い
損益分岐点比率と安全余裕率の主な違いは、着目する視点です。
損益分岐点比率は、現在の売上高がどの程度まで落ち込んだら赤字になるかを示す指標です。経営リスク(危険度)を表しており、数値が低いほど優良とされています。
一方、安全余裕率は、現在の売上高が損益分岐点売上高をどれだけ上回っているかを示す指標です。黒字のゆとり(安定度)を表しており、数値が高いほど経営の安全性が高いといえます。
安全余裕率の計算式は以下のとおりです。
【安全余裕率の計算式】
安全余裕率(%)=(売上高 - 損益分岐点売上高) ÷ 売上高 × 100
損益分岐点比率と安全余裕率を合計すると必ず100%になります。たとえば、損益分岐点比率が75%であれば、安全余裕率は25%です。両指標は表裏一体の関係にあり、セットで確認することで経営状態をより多角的に把握できます。
損益分岐点比率の計算方法
損益分岐点比率を算出するには、いくつかの数値を段階的に計算する必要があります。
損益分岐点比率の計算方法は、以下のとおりです。
損益分岐点比率の計算式
- 限界利益 = 売上高 - 変動費
- 限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高 × 100
- 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
- 損益分岐点比率(%) = 損益分岐点売上高 ÷ 売上高 × 100
▼黒字の場合の計算例
売上高:1,000万円、変動費:400万円、固定費:300万円の場合
限界利益 :1,000万円 - 400万円 = 600万円
限界利益率 :600万円 ÷ 1,000万円 = 0.6(60%)
損益分岐点売上高:300万円 ÷ 0.6 = 500万円
損益分岐点比率 :500万円 ÷ 1,000万円 × 100 = 50%
損益分岐点比率は50%であり、非常に低い水準です。売上が半減しない限り黒字を維持できる、健全な経営状態であることがわかります。
▼赤字の場合の計算例
売上高:500万円、変動費:200万円、固定費:400万円の場合
限界利益 :500万円 - 200万円 = 300万円
限界利益率 :300万円 ÷ 500万円 = 0.6(60%)
損益分岐点売上高:400万円 ÷ 0.6 = 約667万円
損益分岐点比率 :667万円 ÷ 500万円 × 100 ≒ 133.4%
損益分岐点比率が100%を超えており、現在の売上高では損益分岐点売上高に届いていない赤字状態です。固定費が重く、売上が費用を賄えていない構造が数値に表れています。
損益分岐点比率の目安
損益分岐点比率は数値が低いほど経営が安定しており、売上減少に対する耐性があることを示します。一般的な目安は次のとおりです。
| 損益分岐点比率 | 経営状態の評価 |
|---|---|
| 70%以下 | かなり良好(高収益・安定型) |
| 70〜80% | 優良企業 |
| 80〜90% | 健全(通常レベル) |
| 90〜100% | 危険水準(少しの売上減少で赤字) |
| 100%超 | 赤字状態 |
ただし、適切な数値の目安は業種によって異なります。製造業や宿泊業など固定費の割合が高いビジネスモデルでは、構造上、損益分岐点比率が高まる傾向があります。
業種別の損益分岐点比率の平均は以下のとおりです。
| 業種 | 損益分岐点比率の平均 |
|---|---|
| 宿泊業、飲食サービス業 | 97.5% |
| 運輸業、郵便業 | 91.1% |
| 情報通信業 | 88.5% |
| 小売業 | 88.4% |
| 生活関連サービス業、娯楽業 | 85.2% |
| 製造業 | 85.1% |
| 全産業(除く金融保険業) | 85.1% |
| 卸売業 | 80.9% |
| 建設業 | 78.2% |
自社の損益分岐点比率を評価する際は、上記の全産業平均(85.1%)や同業他社の水準と比較することが大切です。同じ比率でも、業種特性を踏まえた判断が求められます。
損益分岐点比率を下げて経営改善する方法
損益分岐点比率を下げるためには、主に次の3つの方法があります。
- 固定費を削減する
- 変動費を削減する
- 売上を増やす
それぞれの方法を正しく理解し、自社の状況に合った施策を組み合わせることで、経営改善につながります。
【関連記事】
損益分岐点を分析する際に気をつけるべきこと
固定費を下げる
固定費の削減は、売上の増減に左右されず、毎月一定額が発生するコストを減らす施策です。損益分岐点売上高そのものを引き下げる効果があるため、比率の改善につながります。
主な固定費削減の取り組みは、以下のとおりです。
固定費削減の取り組み例
- 家賃・賃料の削減:店舗やオフィスの移転・縮小、賃貸契約の見直し
- 人件費の適正化:業務効率化による残業代の削減、適切な人員配置への転換
- 通信費・光熱費の見直し:契約プランの変更やサービスの乗り換え、節電対策
- デジタル化・ペーパーレス化:消耗品費や郵送費などの間接経費の削減
- 不採算事業・店舗の撤退:赤字が続く事業部や拠点の整理・統廃合
ただし、過度な固定費削減はサービス品質の低下や従業員のモチベーション低下を招くリスクがあります。売上への影響が少ない部分から着手し、変動費削減とのバランスを取りながら進めることが必要です。
変動費を下げる
変動費を削減すると、売上に対する変動費の割合(変動費率)が下がり、限界利益率が高まります。限界利益率が上がれば、同じ売上高でも損益分岐点売上高が低くなり、比率の改善につながります。
主な変動費削減の取り組みは、以下のとおりです。
変動費削減の取り組み例
- 仕入れ単価の交渉・見直し:仕入先の変更や、まとめ買いによるボリュームディスカウントの活用
- 材料・外注費の見直し:品質を維持しながら代替品への切り替えや製造工程の改善
- 不良在庫・廃棄の削減:在庫管理を徹底し、仕入れたものを無駄なく販売する仕組みの構築
- 外注費の削減:外部に委託していた業務の内製化による費用の圧縮
- 商品・サービス構成の見直し:変動費率が低く粗利益率の高い商品の販売を強化。利益率の低い商品の見直し
変動費の削減は製品品質や顧客サービスの低下につながるリスクもあります。品質水準を維持しながら効率化できる部分を見極め、慎重に取り組むことが求められます。
売上を増やす
売上高を増やすと、実際の売上が損益分岐点売上高を大きく上回るようになり、相対的に損益分岐点比率を低下させられます。販売単価の引き上げと販売数量の増加の2つの施策を検討することが効果的です。
主な売上拡大の取り組みは、以下のとおりです。
売上拡大の取り組み例
- ブランディング強化:高品質・高付加価値な商品・サービスへの転換で単価アップ
- 付加価値の追加:アフターサービスや保証、特別な体験のセット販売で価格の引き上げ
- マーケティング・広告の強化:Web広告やSNSを活用し、新規顧客への認知拡大
- 販路の拡大:ECサイトの開設や代理店・パートナーチャネルの拡充
- アップセル:より高価格な上位商品・プランへの誘導で顧客単価を引き上げ
- クロスセル:関連商品のセット販売や追加提案で、顧客あたりの購入点数の増加
売上拡大は即効性が出にくい施策も多いですが、固定費・変動費の削減と並行して進めることで、損益分岐点比率の継続的な改善が期待できます。
まとめ
損益分岐点比率は、実際の売上高に対して損益分岐点売上高が占める割合を示す指標で、経営の安全性を客観的に評価するうえで必要です。比率が低いほど経営が安定しており、一般的には80%以下が安全性が高い水準とされています。
損益分岐点比率を下げるためには、固定費の削減・変動費の削減・売上の増加の方法を組み合わせることが大切です。自社の損益分岐点比率を正確に算出し、業種平均と比較しながら継続的に改善を図ることが、健全な経営基盤の構築につながります。
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よくある質問
損益分岐点比率の計算式は?
損益分岐点比率の計算式は「損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高 × 100」です。実際の売上高のうち、何%が赤字・黒字の分岐点(利益ゼロ)となる売上かを測定する指標です。
なお、損益分岐点売上高は「固定費 ÷ 限界利益率」で求められ、限界利益率は「(売上高 - 変動費)÷ 売上高 × 100」で算出できます。段階的に計算を進めることで、正確な損益分岐点比率を導き出せます。
詳しくは、記事内「損益分岐点比率の計算方法」をご覧ください。
損益分岐点比率はどのくらいが安全?
一般的に、損益分岐点比率が90%以下が健全水準の目安とされており、80%以下であれば特に経営の安全性が高い水準です。80〜90%程度であれば健全な範囲内ですが、100%に近づくほど売上のわずかな減少で赤字に転落するリスクが高まります。
損益分岐点比率が低いほど売上が減少しても赤字になりにくく、経営の安定性が高い傾向にあります。ただし、業種によって適切な水準は異なるため、業種別の平均値と比較したうえで自社の状態を評価することが大切です。
詳しくは、記事内「損益分岐点比率の目安」をご覧ください。
監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)
2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。
