赤字とは、事業における支出が収入を上回っている状態のことです。赤字には、営業利益が赤字の場合や経常利益が赤字の場合などの種類がありますが、売上総利益が赤字の場合は事業が成り立っていない証拠でもあるため、特に気をつけなければなりません。
赤字決算は事業難に陥るデメリットだけではなく、税金が免除されたり繰越ができたりといったメリットもあります。
本記事では、赤字について種類とその見方やメリット・デメリット、黒字化するための方法などについて詳しく解説します。
目次
- 赤字とは
- 赤字と資金ショートの違い
- 赤字と債務超過の違い
- 赤字と黒字倒産の違い
- 赤字の種類と見方
- 売上総利益が赤字であるケース
- 営業利益が赤字であるケース
- 経常利益が赤字であるケース
- 当期純利益が赤字であるケース
- 赤字決算となるメリット
- 税金が一部免除される
- 赤字(欠損金)が繰り越せる
- 赤字(欠損金)の繰り戻し還付が受けられる
- 赤字決算となるデメリット
- 信用力が下がり借入や取引に支障が出る
- 税務調査が入る可能性がある
- 従業員のモチベーションに影響がある
- 赤字決算となった場合に支払う税金・免除される税金
- 赤字経営から脱却して黒字化する方法
- 商品やサービスを改善し単価を上げる
- キャッシュフロー計画を見直す
- 費用を見直す
- 過剰な在庫を整理する
- はじめての経理でも、自動化で業務時間を1/2以下にする方法
- まとめ
- よくある質問
赤字とは
赤字とは、事業による支出が収入を上回り、利益がマイナスとなっている状態のことを指します。会計年度の支出と収入をもとに赤字かどうかが決まり、法人の場合は決算月までの1年間、個人事業主の場合は1月〜12月の期間で判断します。
ただし、赤字=倒産というわけではありません。赤字決算となっても資金繰りがしっかりと回っており、手元の資金が十分に確保されていれば赤字でも事業が続けられます。以下で、赤字決算のメリット・デメリットなどについて理解しましょう。
赤字と資金ショートの違い
資金ショートとは、事業を続けるために必要な資金が不足している状態のことです。赤字の場合でも、資本金や資金調達力が十分にあれば仕入れなどは問題なく行えるため、事業は継続できます。
資金ショートが起こる主な理由は、売上金の回収より先に仕入れや人件費などの支払いが発生してしまうことです。これは赤字・黒字にかかわらず起こり得るため、経営において注意しなければなりません。
赤字と債務超過の違い
債務超過とは、財務状況において債務が資産を上回っている状態のことです。資産には、現金以外にも保有している商品や設備などすべてが含まれており、債務超過は資産をすべて現金化してもなお債務の方が多い状況を指します。
債務超過は赤字・黒字にかかわらず陥る可能性があるため、常に資産が債務を上回るように財務状況を確認しましょう。
赤字と黒字倒産の違い
黒字倒産とは、事業において利益が出ているのにもかかわらず、手元の資金が足りずに経営を続けられずに倒産してしまうことです。赤字は資金不足になりやすい状況ではありますが、資本金が潤沢だったり資金調達が十分であったりする場合は、基本的には倒産に追い込まれることはありません。
黒字倒産を回避するには、余裕のあるキャッシュフロー計画を立てることが重要です。
黒字倒産について詳しく知りたい方は、別記事「黒字倒産とは?起こる理由や回避するためのポイントを解説」をご覧ください。
赤字の種類と見方
赤字には、以下のようにさまざまな種類があります。
赤字の種類
- 売上総利益が赤字である
- 営業利益が赤字である
- 当期純利益が赤字である
- 経常利益が赤字である
それぞれの意味と、赤字の見方について以下で解説します。
売上総利益が赤字であるケース
赤字において最も注意しなければならないのが、売上総利益が赤字となっているケースです。売上総利益が赤字では、売上を立てるためにかけた費用が売上を上回っているということになり、事業が成り立っていないことを表しています。
売上総利益の計算方法は、損益計算書の数値を用いて以下の式で行います。
売上総利益=売上高ー売上原価
計算の結果、売上総利益の数値がマイナス、すなわち赤字の状態であった場合事業が成り立っていないことを表します。例えると、1万円で仕入れた商品を仕入額よりも低い8,000円で販売しているような状態です。
売上総利益が赤字であった場合には、早急に経営改善の対応が必要です。
営業利益が赤字であるケース
営業利益が赤字ということは、売上総利益を販管費(販売費及び一般管理費)が上回っている状態を指します。なお、営業利益が赤字になることを「営業損失」と呼びます。
売上総利益が黒字の状態であっても営業利益が赤字であれば、人件費や役員報酬などの販管費がかかりすぎていることを表します。
営業利益を算出する計算式は以下のとおりです。
営業利益=売上総利益ー販管費(販売費及び一般管理費)
営業利益の赤字は、事業を継続していく環境が適切ではないことを表しています。販管費を減らすために、事業内容や環境を見直し、整備する必要があるといえます。
経常利益が赤字であるケース
経常利益とは、会社全体の利益の状態を示すものであり、経常利益が赤字の状態を「経常損失」と呼びます。経常利益は、以下の計算式で算出します。
経常利益=営業利益+営業外利益ー営業外費用
営業外利益とは、本業以外に投資や雑収入等により得た利益のことです。また、営業外費用は、支払利息や手形売却損など本業以外の活動から生じる費用です。
経常利益がマイナスになる場合は、根本的に事業がうまくいっていなかったり、営業外費用の負担が大きすぎたりしていることがわかります。
当期純利益が赤字であるケース
当期純利益とは、会社の事業年度の最終的な成果を示す利益のことです。当期純利益が赤字であることを「当期純損失」と呼びます。
当期純利益を求めるには、以下の計算式を用います。
当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失
特別利益とは、固定資産売却益や保険差益など、本業以外で臨時的に発生した利益のことです。また、特別損失は、自然災害による損失や役員の退職金などを含む臨時的に発生した損失です。
当期純利益は経常利益に対して特別利益を加え、特別損失を差し引いて算出するため、会社における最も正確な業績を確認できます。よって、当期純利益が赤字であるということは、その年度の会社は完全に赤字であったことがわかります。
赤字決算となるメリット
赤字は利益が出ていないことから企業にとっては良くないものだと捉えられがちですが、実は赤字決算となると以下のようなメリットがあります。
赤字決算となるメリット
- 税金が一部免除される
- 赤字(欠損金)が繰り越せる
- 赤字(欠損金)の繰り戻し還付が受けられる
税金が一部免除される
赤字決算となると、税金の一部が免除されます。
たとえば、赤字決算により課税所得が0以下になる場合は、法人税や法人事業税は免除となります。
ただし、企業会計における利益と法人税法における課税所得額は必ず一致するわけではなく、当期利益から税務調整を行った上で課税所得額が確定します。そのため、赤字であっても税務調整の結果によっては法人税・法人事業税の納税が必要になるケースもあるので、ご注意ください。
なお、消費税や法人住民税などは、赤字決算でも納税しなければなりません。これらについて詳しくは、後述する「赤字決算となった場合に支払う税金・免除される税金」をご覧ください。
出典:国税庁「法人税のあらましと申告の手引き」
赤字(欠損金)が繰り越せる
赤字(欠損金)は、翌期から10年間繰り越すことができ、翌年度から10年間の課税所得から繰越控除が受けられます。つまり、翌期以降の課税所得は、今期の赤字分を損金として利益から差し引いた上で決まるため、納税額を抑えられるのです。
資本金1億円を超える企業は、所得金額の50%が繰り越しができる上限です。対して、資本金1億円以下の企業であれば、全額繰越控除することができます。
出典:国税庁「法人税のあらましと申告の手引き」
赤字(欠損金)の繰り戻し還付が受けられる
繰り戻し還付とは、前期に支払った法人税を取り戻すことができる制度です。今期の決算が赤字だったものの前期の決算が黒字である場合は、前期の所得から今期の赤字を差し引けます。
つまり、前期の課税所得が減額するため、前期に納めた法人税が減額となり、払いすぎた分を還付として繰り戻してもらえるのです。
ただし、繰り戻し還付を受けるには、前期・今期ともに青色申告を行っている必要があります。
出典:国税庁「No.5763 欠損金の繰戻しによる還付」
赤字決算となるデメリット
赤字決算のデメリットは、以下のとおりです。
赤字決算となるデメリット
- 信用力が下がり借入や取引に支障が出る
- 税務調査が入る可能性がある
- 従業員のモチベーションに影響がある
信用力が下がり借入や取引に支障が出る
赤字決算であった会社は、取引先や金融機関からの信用力が下がることに注意しましょう。信用力が下がると、取引の減少・打ち切りや、借入の審査に通りにくくなる可能性があります。
赤字決算のうち、設備や固定資産の売却損や自然災害等による特別損失がかさんだことによる赤字や、開業して間もないなど、数年後には黒字化が期待できるような場合では、信用力に影響が及ぶことは少ないでしょう。
税務調査が入る可能性がある
赤字決算が続くと、税務署から目をつけられて税務調査が入る可能性があります。上述したように、赤字決算には法人税や法人事業税が免除されるというメリットがあるため、本来は黒字であるのにもかかわらず赤字に見せかけている可能性を疑われてしまいます。
もちろん、不当な申告などをしていなければ、税務調査でペナルティが課せられることはありません。
税務調査について詳しく知りたい方は、別記事「税務調査とは?調査の流れや時期、必要書類について解説」をご覧ください。
従業員のモチベーションに影響がある
従業員が自分の働いている会社が赤字であることを知ると、人によっては仕事へのモチベーションが下がってしまう可能性があります。中には、赤字により給料が下げられてしまう懸念を抱く従業員もいるかもしれません。
従業員のモチベーションに影響を及ぼすと業務の生産性が低下し、より赤字の勢いが増してしまう恐れもあります。そのため、経営者は常に円滑なコミュニケーションを取るなどして風通しのよい職場環境づくりを意識し、従業員のモチベーション維持に努めましょう。
赤字決算となった場合に支払う税金・免除される税金
赤字決算となった場合、税金の種類によっては免除されることがあります。赤字決算の場合の支払い義務の有無と、該当する税金の種類を下表にまとめました。
赤字決算の場合の支払いの有無 | 税金の種類 |
全額支払い義務がある |
・消費税 ・源泉所得税 ・印紙税 ・登録免許税 ・固定資産税 ・自動車税 |
一部支払い義務がある | ・法人住民税 |
支払いが免除される |
・法人税 ・地方法人税 ・法人事業税 ・特別法人事業税 |
消費税、源泉所得税、印紙税、登録免許税、固定資産税、自動車税は、事業運営にあたってお金や資産の動きが発生していることから、納税の義務が生じます。たとえば、消費税は仕入れなどで支払った消費税額に対して、源泉所得税は従業員の給料に対して発生します。
法人住民税は、法人税割と均等割の2つの計算方法で納税額を決めますが、均等割では最低7万円の納税が義務付けられています。ただし、法人税割では法人税額によって納税額が決まるため、赤字で法人税の納税が免除されている場合は法人税割による法人住民税の納税義務はありません。
また、前述のとおり、一部の税金については赤字決算によって支払いが免除されます。
ただし、課税所得額は税法上における益金ー損金による計算によって算出された金額であるため、会計上では赤字であっても税法上では赤字でない場合があります。会計上は赤字であっても、課税所得額がプラスの場合は、法人税、地方法人税、法人事業税、特別法人事業税が発生する点に注意しましょう。
出典:総務省「法人住民税」
出典:財務省「法人課税に関する基本的な資料」
赤字経営から脱却して黒字化する方法
赤字経営から脱却し事業を黒字化するためには、以下の方法に取り組みましょう。
赤字経営から脱却して黒字化する方法
- 商品やサービスを改善し単価を上げる
- キャッシュフロー計画を見直す
- 費用を見直す
- 過剰な在庫を整理する
商品やサービスを改善し単価を上げる
赤字を脱却するために考えられるシンプルな方法は、売上を上げることです。売上を上げるには、既存の商品やサービスを改善し、単価を上げるという方法があります。
たとえば、既存の商品に付加価値をつけたり、サービスそのものの機能や精度を高めたりすることで単価アップが図れます。まずは既存商品・サービスの品質に対して単価が適正であるかを十分に検討したうえで、単価を上げるための改善に取り組んでみてください。
キャッシュフロー計画を見直す
キャッシュフローとは、事業における支払いや入金などのお金の流れのことです。手元の資金が十分でない場合には、いつまでにいくらの入出金があり、事業を継続させるためには手元資金としていつまでにいくら用意しておく必要があるのかなど、キャッシュフロー計画を見直しましょう。
赤字決算となっていながら手元の資金に余裕がある場合でも、このまま赤字決算が続けば徐々に資金難に陥ってしまいます。経営が立ち行かなくならないよう、資金繰り表などを活用しキャッシュフローを管理しましょう
費用を見直す
赤字になる原因として、売上に対する費用がかかりすぎていることも考えられます。その場合、仕入れ額や広告宣伝費などの販管費の見直しを行うことで、費用を抑えられるかもしれません。事業にかける費用を抑えることは、利益の増加につながります。
過剰な在庫を整理する
商品・資材・材料などの在庫量が過剰である場合は、保管コストがかかってしまいます。在庫量が過剰であればあるほど比例してコストも大きくなってしまうため、在庫を整理して適切な状態にしましょう。
また、在庫の中にほとんど売上につながらない不良在庫がある場合は事業における無駄だと考えられます。不良在庫を抱えないよう、定期的な棚卸しや在庫チェックを行いましょう。
はじめての経理でも、自動化で業務時間を1/2以下にする方法
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まとめ
赤字とは、事業における支出が収入を上回っていて、利益が生まれていない状態を指します。しかし、赤字決算となった場合でも、資金繰りがしっかりとできており手元資金が十分であれば、倒産にはなりません。
また、赤字は信用に影響するなどのデメリットがありますが、一部の税金が免除されたり欠損金の繰り越しができたりといったメリットもあります。そのため、赤字について正しい理解を深め、健全な経営活動に役立ててください。
よくある質問
赤字とはどういう状態?
赤字とは、会社内における支出が収入を上回っている状態のことです。そのため、赤字の状況に陥っている会社には利益がなく、資金繰りにも余裕がない可能性が高いといえます。
詳しくは記事内「赤字とは」をご覧ください。
赤字のメリット・デメリットとは?
赤字決算となることで、その年の税金が免除されたり繰り戻し還付が受けられたりするメリットがあります。ただし、赤字の会社は金融機関や取引先からの信用度が下がってしまうため、取引に支障を来たす恐れがあります。
詳しくは記事内「赤字決算となるメリット」「赤字決算となるデメリット」をご覧ください。